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第2話 処女同衾の奇跡

 オーク君は防御力が非常に高く、盾役に徹していた。

 彼が攻撃を受けているうちに私が剣術と魔法で敵を蹂躙する。

 私達は、非常によいコンビネーションで次々と敵を撃破していった。



 順調に旅を続け、魔王の部下四天王の第二柱を倒すことができた。

 奴の住処(すみか)から街までは距離があったため、今日は野宿だ。

 火を囲い、何気ない話をする。


「で、なんでオーク君は魔王を倒そうとしてるの?」

「魔王は、僕に呪いをかけたんだ。それを解くために、魔王を倒すの」

「酷い話ね。どんな呪いなの?」

「呪われていることだけ覚えていて、それ以外の記憶は全て封じられてるんだ」

「気になるわね。あなたは八歳とか九歳とかそんな年齢だと思うけど、前は何をしていたのかしら」

「僕そんなに幼い感じ?」

「うん。私の半分くらいかな……」


 と、彼の話を聞くものの、私は魔王さえ倒せれば後のことはどうでも良かった。

 上手くいけば、玉の輿に乗れるかも知れない。あの愛しい王子様に……。


「お姉ちゃんはどうして?」


 この子はいつも、お姉ちゃんお姉ちゃんって……ミレーナっていう名前があるんだけど。

 とはいえ、名前を持たない魔物に言っても分からないだろうから、反論はしない。


「そうね、私は、王子様にお願いされたの」

「王子様?」

「うん、すっごくカッコいい人なのよ」

「へぇ。僕も会ってみたいな!」

「それはさすがに無理じゃないかしら……騎士がオークを見つけたら、すぐ狩りに来るわよ?」

「え……僕を狩るの?」


 ビュンとすごい勢いで離れるオーク君。怖がりすぎじゃないかな……。

 

「ほら、狩ったりしないから」

「ほんと!?」

「うん」

「よかった…………眠くなってきたかな……」


 激しい戦いがあったし、さすがに疲れたのか、一転して私に甘えてくる。


「ほら、膝枕」

「わーい」


 オーク君の頬の温もりを、太ももに感じる。あっという間に彼は眠ってしまった。


「ほんと、子供みたいね……」


 彼の頭を撫でる。すると寝ながら、しくしくと泣き出してしまった。


「お母さん……お父さん……どうして……?」


 何か悲しい夢を見ているようだ。

 昔のことでも思い出しているのだろうか? 両親と何かあった?

 オークというのは山奥で暮らしていて人間が住んでいる所にはあまり姿を見せることがない。

 彼の故郷で一体何があったのか……?


「ほら、大丈夫……大丈夫」


 オーク君の涙を拭いつつ、何度も頭を撫でた。


「ありがとう……おね……」

「ふふっ」


 オーク君の故郷に何か問題が起きているのなら、魔王討伐の後に助けてあげてもいいのかもしれない。

 彼の寝息が穏やかになるのを感じたので、私も眠ることにした。

 


「じゃあ、また……明日のお昼にここで集合ね」


 彼は街や村には入れない。そのため、いつも街外れで別れ宿屋に私だけが泊まって、彼は野宿をするという旅をしていた。


「なぁ、騎士さんや。魔物を倒してくれたお礼だ、この宿屋の一番いい部屋に泊まっておくれ」


 温かいお風呂に、美味しい食事に、ふかふかのベッド。

 どこの街でも私は歓迎され、快適な旅を満喫していた。


 しかし、魔物はオーク君と共に戦ったからこそ、楽に倒せていたのも事実なので、だんだん罪悪感が生まれてくる。

 彼はあまり気にしてないようなんだけど、これでいいのだろうか?



 そう思っていた矢先のこと。



「グッ……」


 オーク君の口から、赤い血が漏れ出る。

 四天王の第三柱を倒したとき、彼は瀕死の重傷を負ってしまったのだ。


「大丈夫?」


 オーク君は頷くが……歩くのがやっとだった。

 街の宿屋で泊まらせたいのだけど、どう考えても無理な相談だった。

 せめて、屋根があって柔らかいベッドがあるところで泊まれたら……。


「あの……もしよかったら、納屋でいいので泊めてもらえないでしょうか……?」

「あんた、この辺で魔物を倒してくれている騎士さんだろ? 部屋じゃ無くて良いのかい?」

「はい、ご迷惑になりますので……」


 よかった。街の外で、大きな牧場を営んでいる家に頼み込んだら快諾してくれた。

 納屋は十分な量の藁があり、広さも申し分ない。布まで貸してくれたので、藁の上に敷く。

 私はオーク君を納屋にこっそり連れて入ると、眠ってもらった。

 治癒の魔法を使うが、彼の傷は塞がったものの完全には癒えなかった。何日もかけて、魔法をかけなければいけないようだ。


 私も鎧を脱ぎ肌着だけになって、藁の上に寝転がった。

 布団代わりに彼と私に布を掛ける。


「ぐ……」


 隣のオーク君を見ると胸が静かに上下している。

 誰かと一緒にベッドに入ることなど経験が無く、こんなに近くに誰かがいるのは初めてだ。


 筋肉隆々の体に、太い腕。広い背中。

 その姿を見ていると、なんだかすごくドキドキしてくるのを感じた。

 なんだこれ……?


 彼の背中の中央に、大きな傷がある。よく見ると、あちこちに見える。

 つい、手で触れてしまうが、彼はまったく反応を示さなかった。


「とても広い背中……」


 彼は基本、腰布以外は裸であった。少し腰布がずれていて、お尻の上部に星の形をしたほくろが見える。

 なんだか、それがとてもおかしくて、笑いそうになるのを我慢した。


 彼がまったく反応を示さないことをいいことに、背中に寄り添う。

 互いの体温が心地いい。

 彼が甘えてくるときは、膝枕をしてあげていたのだけど、なんだか今日は逆で……。


「今日だけ、甘えてもいいですか?」


 そう言って、彼に頬を寄せる。

 とても温かくて、触れあう肌が心地よくて。

 私も眠くなって……。




 太陽の陽差しで目が覚めた。

 私は……肌着姿で、一人藁のベッドに寝ていた。


「えっ?」


 思わず飛び起きるが、納屋のどこにもオーク君の姿が無い。

 まだ、自由に動ける怪我では無かったはずだけど……。


「あっ、騎士様。おはようございます。よく眠れましたか?」

「はい、ありがとうございます」


 家の人が声をかけてくれた。

 オーク君がいなくてよかったのだけど……どこに行ってしまったのだろう?

 途端に不安になってくる。


 私を置いていくなんて!

 見つけたら、ただじゃおかないから。

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