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侯爵様は酔っ払い エミリアside

ある、お休みの前の日。


・・・珍しくお酒を飲んで、お兄様とリカルドが帰ってきた。

リカルドは、グデグデになって潰れており、ロイド様が受け取ってくれた。


そして、酔っ払いリカルドを手放し、一息ついたお兄様は、私たちに言った。


「明日は一日、リカルドを見張っておけ。」と。


どうやら、明日はマーガレットちゃんがアーノルド殿下とデートをするらしいのだが、心配だからついて行きたいとリカルドが言い出してしまったらしい。

お兄様が説き伏せて、一時的には納得したようだが、しばらくすると、心配が復活してきたそうで、「グチャグチャ言って、面倒になったから、飲みに連れて行って潰した。」と言っていた。明日は二日酔いで動けないだろうが、イマイチ不安だから、デートを邪魔しないよう、見ておけって事らしい。


お兄様は、賢いマーガレットちゃんが、アーノルド殿下とのデートで、良い雰囲気になって、何か聞き出して来てくれるんじゃないかって、期待しているんだって。それに殿下とデートしたいっていう、マーガレットちゃんの気持ちも尊重したいらしい・・・。


まあ、デートに同伴者がいるなんて、邪魔でしかないよね、正直言ってさ。だから、私たちは素直に頷いた。


・・・リカルドはさ、見かけによらず、案外駄々っ子なんだよね。ある意味、リチャード様にとってもよく似ている。特に心配が拗れると、そうなっちゃう感じ。・・・頭が良いので、ちゃんと大丈夫なんだよって、説明すれば一時的には分かってくれるんだけど・・・「でも不安」とか「だって心配」とかいって、結局は、やっぱり駄々をこねるんだよな・・・。


「泊まるなら、お兄様が明日、見張ればいいじゃない?」


私がそう言うと、お兄様は首を振った。


「明日、俺も早くに出かけるんだ。友人と約束がある。たまには顔を出して、あいつらも繋いでおかないと。・・・お前ら、たまの休みくらい、相手にしてやれ・・・。」


そう、面倒くさそうに言うと、サッサと客間に行ってしまった。言葉遣いも態度も悪いし、お兄様も結構酔ってるんだろう。


私たちがリカルドを疎かにしてるみたいな言い方も、なんだかイラつくが、まあ、いいや。


ロイド様とリチャード様と三人でリカルドを部屋に運び、シワになると困る洋服をベロンと剥いで、ベッドに放り込んだ。リカルドはモゾモゾ動いてはいるが、されるがままだ。


「・・・ううう、このジャケット高かったのに、酒場の嫌なニオイがする・・・。」


リカルドの脱いだジャケットをハンガーに掛けながら、思わず愚痴が溢れる。


・・・だってさ、この世界にはファブ◯ーズも無いし、ドライクリーニング屋さんも無い。頼めば使用人さんが、丁寧に洗ってはくれるけど、確実にジャケットは悪くなるんだよね。


リチャード様が寄ってきて、スンスンと臭いを嗅ぐ。


「・・・うわ。ひどいね、これ。風に通すしかないんだろうけど・・・このニオイは、落ちないかもね。」


うーん・・・。こんな時に転生チート?いや、知識があればファブ◯ーズの代替え品とか思いつくんだろうが、そんな知識はない。あれはドラッグストアに売ってる物だ。・・・作ろうと思った事さえない。


ロイド様も気になったのか、やって来てジャケットを臭う。


「確かに酷いな。うーん・・・ブラシをかけて干すと、少しだがマシになるぞ?」


ロイド様はそう言って、リカルドのジャケットに丁寧にブラシをかけていく。


「ロイド様、何でブラシをかけるの?」


覗きこんで聞いてみる。


「髪も梳かすと、ホコリや汚れが少しだが、取れるだろ?それと同じだ。こんな事でも少しマシになるんだ。」


「ロイド、詳しいねー。」


リチャード様も感心した様に言う。


「まあな。騎士の制服は何着もないのに、ずっと着てるし、動くから汗もかくだろ、結構臭うんだ。訓練用の服もあるが、見回りなんかは制服でするしな。洗うと形崩れするから、そう洗えないし・・・。だから、こうしてブラッシングして干しとくんだ。下着も重要で、汗を良く吸うのじゃないと、制服が凄いニオイになってくる。・・・集団で集まると、そんなの気にしてない奴も多いから、かなり臭いんだぞ。・・・もちろん、正装用のは滅多に着ないで保管してるから、臭わないけどな。」


・・・騎士団って、なんかカッコいいって思ってたけど・・・臭いのか。思わず、リチャード様と顔を見合わせる。


「じゃーさ、エリオスの軍服も臭いの?」


「どうだろうな。・・・軍でどうしているかは知らん。エリオス様は、行き帰りに軍服を着てらっしゃらないし、確認しようが無いな・・・。」


確かに、お父様はお仕事に行くときは軍服を着ない。

・・・そういえば、お父様の軍服姿って、式典の時の正装バージョンしか知らないかも・・・?

軍になんて、用事ないから普段は行ったことないし、軍のお祭りなんかで遊びに行った時は、お父様は結構偉いから、正装用の軍服着てるしな・・・。


「あ!でも、リチャード様って、ちょいちょいお父様を呼び出してますよね?その時は、軍服を着てるんじゃないんですか???」


「うーん・・・なんかさ、エリオスって着替えて来るよ?・・・僕、エリオスの軍服姿って、式典の時の格好しか知らないかも・・・?」


ふーん。リチャード様も知らないんだ。

そう言えば、『将棋』に呼び出してた時も、会議をサボったってハズなのに、軍服じゃ無かったな・・・。


ロイド様は苦笑いする。


「・・・じゃあ、相当臭いんだろうな。自覚してて、お前に呼び出されると、慌てて着替えてるんじゃないか?リチャードに『臭い!』って言われたくなくて。」


ロイド様はそう言うと、ブラシをかけ終えたリカルドのジャケットをバサバサと払い、カタチを整えてハンガーに掛け、風通しの良い場所に吊るした。


「えーっ・・・。なんか、エリオスの軍服のニオイ、気になるー・・・。」


リチャード様が興味津々とばかりに私たちに言う。


・・・うーん???


・・・どちらかというと、いや間違いなく全く気にならない。すでに、お父様本体が、加齢臭で結構コウバシイ感じの仕上がりだ。なら軍服だって、どうせ臭いに決まっている。


「リチャード様、私はお父様の軍服のニオイなんて、どーでも良いです。だって、確認するまでも無く臭いに決まってますからね!」


リチャード様が『エリオスの軍服姿を見に行って、臭いを確認しようよ!』などという、下らない事を言い出す前に、先手を打つ。


「おい、エミリア。真面目に働いてらっしゃるんだ。エリオス様を臭いとか言うな。・・・結構な、それ傷つくんだぞ?皆を守るのに、汗水たらして働いていているのに、『ロイド臭は癖になる!』とか言って、あちこち嗅がれると、悲しくなるんだ。」


ん???


・・・『ロイド臭は癖になる』???

あちこち嗅がれる???


「え・・・。君に、誰がそんな事言うの?」


リチャード様も、同じ様な事を思ったのだろう、すかさず突っ込む。


「・・・例の双子だ。あいつら、人を捕まえて、『ロイド臭、ロイド臭』と言って、あちこち嗅ぐんだ。やめろって言っても満足するまでやるから、たちが悪いんだ。・・・それもあって、私は汗を吸う下着に代えたり、こうやって服のケアをしたりする様になったんだ。それでも、ずーっとあいつらは、臭いを嗅いできたから・・・私は相当臭いんだろうな・・・。」


ロイド様はそう言うと、フッと笑って遠い目になってしまった。


・・・。

・・・。


「えーっと・・・ロイドは臭くないよ?」


リチャード様が、ロイド様に言う。


・・・そう、ロイド様は臭くない。


ロイド様は、ニオイに気を遣ってるのもあるのか、凶悪なライオン顔のくせに、護身術の指導の後もあまり汗臭くもないし、加齢臭を感じた事もない。


ただ、なんだろう・・・独特な『匂い』がある。


ある意味、いい匂い?・・・臭いってのとは違う、よく分からないけど、なんだか落ち着くいい匂いがするのだ。


「・・・私も、ロイド様は、臭くないと思います。」


「そうか?!・・・じゃあ、何であんなに臭うと言われたんだろう???」


「うーん。・・・あのさ、臭く無いんだけどさ。確かに『ロイド臭』はあるんだよね。・・・香水?なんだろ?なんかつけてるの?君ってさ、なんか、いい匂いがするんだよね?・・・『洗った香木』???みたいなさ。」


リチャード様はロイド様をスンスンしながら、そう言う。


「分かる!分かります!うん、『洗った香木』・・・まさに、そんな感じの独特な、いい匂いがします!」


私もロイド様の側により、ニオイを嗅ぐ。うん・・・分かるー・・・。なんか癖になるな、ロイド臭。双子ちゃんたちの気持ち、何だか分かるわー・・・。


「いや?香水なんか、付けてないぞ?・・・つまりは、私が臭いって事なんだろ???」


「うーん・・・臭くはないんだよ。いい匂い。」

「まさに、ロイド臭なんですよね?癖になる。」


私たちがそう言うと、ロイド様は疲れた様な溜息を吐いた。


「・・・お前ら、あの双子と本当に同じだな。全く、意味が分からん。いい匂いなんか、私からする訳無いだろ?」


いや、するんだよな・・・。


ロイド様は自分の腕をクンクンと嗅いでみているが・・・自分で自分のニオイって、なぜか分からないよね・・・。


「あ!僕さ、聞いたことあるんだけど・・・!いい匂いだなーって感じる人とは、とっても相性が良いらしいよ!・・・つまり、僕たちとも、その双子ちゃんたちとも、相性がバッチリって事じゃないかな?・・・僕さ、ロイド臭、かなり好きだもん。なんか癖になる感じ・・・。」


へー・・・そうなんだ。


相性が良い人からは、いい匂いがするんだ・・・。

私も自分の腕を嗅いでみるが・・・やっぱり、自分のニオイは、よくわからない。


「お、おい!リチャードやめろ、変なとこを嗅ぐな!」


「えー・・・。だってさ首んとこ、ロイド臭が濃いんだよ。」


リチャード様に首筋をスンスンされて、ロイド様はくすぐったいのか、首をすくめ、嫌そうにリチャード様を押す。・・・おっと、またイチャついてるよ。


「や、やめろって!・・・お前な。そんな事を言ったら、お前らからも双子からも、妙ないい匂いがするんだぞ?・・・なんか変態っぽいから、言いたくなかったが!」


「だからそれが、相性バッチリって事なんだって!・・・なあ、嗅いでいいから、嗅がせろよ。なんか落ち着く系で、たまんない。」


「絶対に嫌だ!離れろ、リチャード!・・・嗅ぎ合うとか、頭がおかしいぞ!」


じゃれ合う二人を横目に、私はリカルドのズボンやらタイにも丁寧にブラシをかけていく。・・・うん、このブラシをかけるっていうの、だいぶ嫌なニオイがマシになるな・・・。


二人はまだギャーギャーと戯れている・・・。アホだ。・・・リチャード様とロイド様は、運命だから、相性バッチリは仕方ない。だって、ヒーローとヒロインなんだもの。そりゃ、お互いに大好きなニオイになってるんじゃないかな?


私は、ふと気になって、ベッドに放り込んだリカルドに近づく。そして、ちょっとだけ匂いを嗅いでやろうと横に座る。


私の愛しのヒーロー様・・・。


眠ると、ダラシない緩んだお顔になるのが、これまた、たまんないのです・・・。ふふふ、可愛いー・・・。


ね?・・・きっと、私たちも運命だよね?


そっと撫でると、リカルドはちょっとだけ笑った様な顔になった。私は嬉しくなって、そっと、その頬に口づけを落とす。


が・・・。


リカルドからは・・・驚くほど、強烈な酒のニオイしかしなかった。


どんだけ、飲ませたんだよ!あのクソ兄っ!!!

リカルド、マジで酒くせー!!!





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