侯爵様はの天使の家系? リカルドside
エミリア・・・お前が悪魔の家系ならば、あえて言おう。俺は多分・・・天使の家系だっ!!!
俺はな、絶対にユリウス様とマーガレットをハッピーエンドに導くんだ・・・!この際、全裸で弓を弾く事さえやぶさかではないっ!
しかし・・・エミリアと父上がユリウス様のデートに乱入とか・・・なんだか上手く行かないな。当たり前だが、ロイド様までやって来ているし・・・。
しかも、これはどう考えてもデートてはなく、研修旅行もしくは取材旅行だ。
さっきまでのユリウス様の話なんて・・・スチューデント家の成り立ちと歴史とか、この土地の民俗学に始まり悪魔や邪教信仰とは・・・と、全く持って、授業の一環・・・講義としか思えない内容だった。
まぁ、最後に父上とエミリアがぶち壊したけど。
今のところ、デート感はまるでない。
ユリウス様は完全に引率の先生・・・もしくは現地ガイドだ。マーガレットも取材一色。目をキラキラさせてはいるが、ユリウス様にではなく、この不気味な建物や伝承にだ。
・・・ラブがない、微塵もない。甘さも皆無の、無味無臭だ。
・・・だが・・・本番はこれからだ!!!
俺たちは、『呪いの教会』の前に今、立っている。
・・・俺の考えではこうだ。
ユリウス様は、この教会に詳しい。なのでマーガレットと二人でこの教会を巡る。
昔、エミリアやユリウス様と来たことがある俺は、この中が外観よりもさらにおどろおどろしい事を知っている!・・・つまり、マーガレットは怖くなって、ユリウス様にしがみつく。・・・マーガレットは美人だ。最低だと思われる覚悟で言うと、なかなか胸もある。・・・きっとグッとくる!いや!絶対にグッとくるのだ!!!
グッと来て、グラッと来て、fall in love。これで決まりだ。
「中は狭いので、二手に分かれよう。エミリアは、リカルドとリチャード様を案内してやれ。二人にはたいして解説もいらないだろう。・・・私はマーガレットとロイド様を案内する。・・・エミリア、危険な場所は覚えているよな?下手をすると、崩れてくる恐れがある所は避けて案内するんだ、分かるな?」
「・・・は、はい・・・?」
エミリアはやたらと小さな声で答える。
・・・おい、大丈夫かよ!?しかも「?」ってナンだよ?!すごーく怖いんですけど?!物理的に!
「あ、あのっ!・・・ユリウス様、危険箇所のマップとかあれば、俺にも教えてくれませんか?・・・子供の頃に何度か来ているし、エミリアだけじゃ不安なんで。」
思わず、ユリウス様に確認に行く。
エミリアに命は預けられん・・・!!!
「ああ、そうだよな・・・エミリアだけじゃな・・・。ではちょっと待ってくれ。」
ユリウス様はそう言うと、マップに細かく印を書き込んでいく。
「・・・危険箇所は補修具合によって変わるんだ。・・・ここは昔は入れなかったが、いまは補修が終わり入れるし、逆にこちらは昔は通れたが、昨年の嵐で少し崩れてしまっていて危ない。珍しい石像や、独特な建築様式が見られるのは、このあたりだから、こういうルートで回るのが良いだろうな。」
ユリウス様はスラスラとペンでルートと記載する。
うん、地図通りに進むなら、俺でも出来そうだ。
「では、お前たちから先に入れ。もし何かあっても私が回収する。」
・・・うわぁ。溢れ出る引率の先生感・・・。
違う・・・俺が出して欲しいのは、それじゃない!!!
あ、しかも待てよ?
ユリウス様はマーガレットとロイド様を案内する・・・???
え。
邪魔じゃない。ロイド様。
あの人、無駄にデカいし、頼れそうだよね?
ユリウス様が淡々と引率の先生をやる横で、マーガレットがロイド様にしがみ付き・・・あるな。あるよ、ある!
・・・ロイド様・・・クソ邪魔です。
「ロイド様?あのー・・・俺たちと先に行きません?エミリアと父上もいますし。」
「うーん、そうだな・・・。」
ロイド様はどちらでも良いのだろう、こちらを見つめ考え込む。
「いや。中は狭いし、三人で進む方がいい。それにエミリアではロクな説明ができんだろ。・・・ロイド様がご興味を持たれた石像は、この修繕が行われている当たりにあり、少し見づらいのですよ。ですが、私は工事の進捗を把握していますから、近くまでご案内できます。」
「おお!そうか!なら、やはり後からユリウス殿と見学させてもらうよ。」
・・・ユリウス様を囲み、マーガレットとロイド様は真面目に見たい箇所について話しはじめる。
・・・えええ・・・。違うんだけど?!
そうじゃないよね?この『呪いの教会』ってさ、何?もっとロマンチックなドキドキ怪談スポットじゃないの?!・・・ねぇ!何でそんなに視察っぽい雰囲気なのさーーー!!!
◇◇◇
久しぶりに足を踏み入れた『呪いの教会』はまさに呪いだ・・・。
何だかよく分からない不気味な石像やら、化け物?モンスター?地獄の様子?が描かれているステンドグラスに、崩れそうな壁。柱は、何とも言えない複雑な形を取り、歪んで見えるよう配置されていて、建築自体がかなり変わっている。
「えええ・・・こんなだったっけ・・・ここ。」
真っ先に父上が弱音を吐き、しがみついて来た。
「ええ・・・こんな感じでした・・・呪いですから。」
解説すべきはずのエミリアも、俺にしがみつく。エミリア・・・「呪いですから」って何だよそれ。お前の実家の遺跡だろ?それで済ますなって・・・。
「えっとさ、エミリアはさスチューデント家の子なんだから何か解説してよ。」
「え、えええ???・・・呪いの教会。悪魔とか邪教?信仰?・・・たぶん悪魔は金儲けが得意?で、悪魔が好きっぽい感じで祀ってやって・・・我が家は安泰。うぇーーーい、的な???」
うう・・・ん。酷いな、コレ。
確かに興味を持たれていたロイド様にこの解説は酷い。
「エミリアちゃん・・・酷すぎない?その解説。」
「だって怖いんですよ!真剣に聞くわけないでしょ?・・・先祖が何してたって、知ったこっちゃありません。私は無罪ですぅ・・・。はぁぁぁ・・・怖いぃぃ・・・。・・・柱の陰からスパイダーウォークの悪魔が出てきそう・・・。」
エミリアは俺にガシッと捕まり、目を閉じる。
・・・うん・・・絶対に悪魔の家系ではないな、これ。この恐怖耐性のなさと、適当さ・・・。さっき父上が言ってたように、この遺跡は賢い→残念→賢い→残念の勘違いスパイラルの結果にしか思えない・・・。
しかし、スパイダーウォークって、何だ???
「僕、できるよ?『エクソシスト』だろ?・・・昔、練習したんだよねー!」
・・・はぁ????エクソシスト???
「え!リチャード様・・・すごい!!!やって!やって!」
怖がってたはずのエミリアが、興奮して父上に詰め寄る。
「うーん・・・やってもいいんだけどさ・・・。・・・せっかくなら、ユリウス君たちをビビらせない?!」
「!!!いい!!!いいですね!!!・・・お兄様が慌てふためくトコ、見たい!あとロイド様とマーガレットちゃんも!!!・・・私、『貞子』やります。リチャード様、『貞子』知ってる?」
「・・・知ってる。僕ね・・・結構ホラー好きだったの。ギャーって泣きながら観るのが、最高なんだよねぇ・・・。怖いけど観たい・・・けど怖い・・・ジレンマだよ。」
またしても二人は、二人のヘンテコな世界に入ってしまった。
だから・・・サダコって・・・何???
「では!配役を発表します!・・・スパイダーウォーク担当・・・僕。そして、貞子・・・エミリアちゃん。・・・リカルドはとりあえず死んだふりで。」
父上がドヤ顔で仕切る。・・・おい、やるって言ってないし!
「待って下さい!・・・俺はやるって言ってません!こんな所でふざけたら危ないです。いいですか、確かにここは不気味ですが、歴史的な価値のある建造物なんです。その上、とても古い為に危険な場所もあります・・・つまり、ダメです。」
「リカルド・・・ノリ悪ぅ・・・。」
「友達少ないの・・・納得ですね。」
・・・おい!
何だよ、その態度!!!
「とにかく、ダメです!!!」
「・・・リカルド・・・吊り橋効果、狙ってたよね?」
エミリアがそう言って俺を見つめる。
「ああ・・・そうだけど?」
「でも、あの様子で・・・お兄様もマーガレットちゃんも・・・まぁロイド様はオマケだけど・・・ドキドキなんかすると思う?・・・どう見ても、ガイドさんと熱心な見学者って感じしかないよね?・・・きっとさ、お兄様が淡々と説明して、マーガレットちゃんやロイド様は『ふむふむ』って関心して・・・私とリチャード様みたいにビビったりしてないわよ、きっと。」
・・・た、確かに。
ここへ来る前に閲覧した古文書も、だいぶ気味の悪い挿絵などあったが・・・マーガレットもロイド様も『ふむふむ』って感じだったな・・・。父上と、一応はスチューデント家の出なはずのエミリアが、怖いー!!!とか不気味ー!!!とか・・・ギャーギャー騒いでただけで・・・。
「・・・そ、それはそう・・・だけど・・・。」
「だから、三人で驚かすのよ!!!ビクー!!!ドキー!!!で、fall in loveだわ!!!」
ええー?
何だよそれ、雑くないか???・・・そんな簡単か???・・・俺は顔を顰めた。
「あー、もう!リカルドは分かってないよ?恋は落ちるものだって!ねー、エミリアちゃん。」
「そうですよ、恋は理屈じゃないんです!・・・まとめて、恋の穴にブチ込んできましょー!・・・と、そう言う事で、えーっと、そうしたら、リカルドはそのベンチで死んだフリします。で、私がこの石像の後ろから這い出ます。最後にリチャード様があの柱の影からスパイダーウォークで登場します。」
・・・ん?
ん???
「おい、エミリア・・・今なんて言った?」
「?・・・スパイダーウォークで登場します?」
「もっと前だ!」
「這い出ます?」
「・・・いいか、侯爵夫人は這い出ない。・・・絶対にダメだ。そんなの、怖がるより前にユリウス様に怒られるからな。・・・エミリアは俺の隣で一緒に死んだフリだ。」
這い出るとかさ・・・エミリアは、なんでそんなに床に寝たいんだ・・・。全く意味が分からん。
エミリアは不満そうにしていたが、睨んでやると大人しく俺の隣にやって来た。父上はジャケットを俺に渡すと、そそくさと柱の陰に隠れた。
「リカルド、ベンチに座ってるって、寝てるって思われるだけじゃないかな?」
隣に座るエミリアがハッとしたように俺に聞く。
・・・ま、まぁ。確かに・・・そうとしか見えない、かも?
「でも、こんな所で寝ていたらさ・・・ビックリはしない?」
「そっか・・・。」
エミリアは俺の肩にもたれかかって来た。
あ・・・あれ?・・・なんか・・・これ、雰囲気・・・良くない?
・・・俺はエミリアの腰に、そっと手を回した。
「エミリア・・・。」
エミリアは顔を上げる。・・・察してくれたのか、真っ赤になっていて・・・可愛い。
手前の部屋からはユリウス様たちが、もうすぐ来るのだろう、声と足音が聞こえてくる。
でも、ちょっとだけ・・・。
エミリアはそっと瞳を閉じた。俺はそのままエミリアの唇に・・・。
「ひっ・・・・・!!!」
突如、柱の陰から、悲痛な父上の声が聞こえ、俺たちは驚いて振り返る。
柱が邪魔で、父上の様子は見えない・・・。
え???
・・・な、何があったんだ???
俺たちは顔を見合わせ、柱の向こうへ急いだ。
・・・。
・・・。
・・・え?
柱の陰ではブリッジした父上が、真っ青な顔でボロボロと涙を溢していた。
・・・な、何・・・この・・・状況?
「・・・助けて・・・リカルド・・・腰・・・やっちゃった・・・。う、動け・・・ない・・・。」
◇◇◇
その後、俺が父上を抱き起こすと、父上は断末魔のような叫び声を上げ、驚いたユリウス様たちが駆けつける事になる。父上の壮絶な悲鳴に、マーガレットもロイド様も、ユリウス様ですら青ざめており・・・ある意味、どっきり大成功ではあったのだが・・・。それが甘い雰囲気になど、繋がる訳もなく・・・。
その後一週間、父上はこちらの領地で、お世話になる事になってしまった・・・。
つまりは・・・『ぎっくり腰』の療養の為に・・・。
ちなみに、ユリウス様たち三人には「柱を見上げるのに反り返ったら『ぎっくり腰』になった。」と言ってある。俺も死んだ振りをしたのだから同罪だ、ブリッジの事は絶対に言うなと、二人に脅された為である・・・。
何故、父上がブリッジをしたのかは、謎のままだが・・・多分、スパイダーウォークとやらに関連があるのだろう。・・・俺は、二人に聞く気にもなれなかった。




