奥様の親友は王子様とお妃様 エミリアside
「それは、流石に私も呆れてしまいますわ・・・。」
この間、お父様とお兄様に、リチャード様と一緒に怒らせた事を話すと、アメリアにまで呆れた顔でそう言われてしまい、私はうなだれた。
・・・そう私は、珍しく外出を許可され、お茶会に来ている。
リカルドとお兄様によって、狙われている事を異様に心配された私は、リチャード様と毎日毎日、お屋敷でマナーのお勉強をさせられ、半ば監禁状態だ。
・・・まぁ、もともと私は出歩くのも好きじゃないし、緩いリチャード様とのんびり過ごすのは悪くない。・・・マナー講習は嫌だけどさ。
だけど、リカルド達にも、絶対にお断り出来ないお茶会がある!
それが、アメリアとのお茶会だ。
・・・アメリアは、ロバート殿下のお妃様で、私の親友でもある。そして、ロバート殿下・・・いや、ロバートも私の親友なのだ。
・・・王子様とそのお妃様と親友って、すごくない???
まぁ、それはさておき、アメリアとのこのお茶会は、リカルドとお兄様にも邪魔出来ないのだ。
・・・ま、アメリアだけのお願いなら、あの非道なお兄様はお断りしちゃうだろう。だけどね、このお茶会は、ロバートからのお願いでもあるんだよね。
アメリアは、ロバートの初恋の人で、それはそれは大切にされている。
・・・とは言え、いずれロバートが王様になったら、アメリアは正妃様だ。だから、私のマナー講習なんてレベルじゃなく、大変厳しいお妃様教育を毎日受けているのだ。
アメリアは、上級貴族の生まれで無かった事もあって、血の滲む様な努力を強いられている。
・・・そうは言っても、明るく頑張り屋で、負けん気の強いアメリアだ。ロバートともラブラブだし、あまり悲壮感は無いけどね。
でも、アメリアを気遣うロバートは、こうして月に一度くらいは、親友である私とのお茶会を開いて、息抜きをさせてあげてるって訳だ。・・・まぁ、私のストレス解消にもなって居るんだけど。
「それにしても、エミリアと話してると、私の失敗なんて大した事じゃなく感じますわ。ここのところ、色々と失敗続きで落ち込んでましたのよ。・・・私の失敗なんて、可愛いものでしてね。」
「何それ、酷いっ。」
「だって普通、床で寝まして?」
「あー、まあ、それは・・・。」
私が気まずそうに答えると、アメリアはクスクスと笑った。
「エミリアって、昔から突飛でしたわよね。」
「そ、そうかな?」
「だって、学園の時はあんなに、リカルド様から逃げ回ってましたのに、まさか卒業されて直ぐにご結婚なさるだなんて、思いませんでしたわ。・・・いつも、『アメリアー!ロバートー!かくまってー!』って。クラスの大半の方は、嫌がるエミリアをリカルド様がストーキングしていると、思ってましたのよ?」
「そ、それはさ、勉強しろって言うから。」
そう、私はさんざん学園でリカルドに追い回されて、勉強を強要されてきたのだ。
・・・だからさー、そうそう頑張ったところで、落ちこぼれのCクラスにいる私が、エリート揃いのAクラスに行ける訳ないってーのにっ!!!
「えっ?エミリア、まさか本気でそう思ってらしたの?」
「?違うの?・・・違わないよ、ね?」
「・・・リカルド様って、お可哀想だわ。」
「な、なんで?リカルドがお可哀想なの?大事な青春時代に、お勉強、お勉強って追い回された私の方が、お可哀想だよ?・・・はぁーっ、私もアメリアとロバートみたいに、イチャイチャ甘ーい学園生活を過ごしたかったわぁ。」
「・・・リカルド様って、不憫ですわね。」
アメリアはそう言うと、優雅に香り高いお茶を飲んだ。
なんだ?なんでリカルドが不憫なんだ?
「不憫???」
私がそう呟くと、アメリアはクスクスと笑い
「口実ってご存知?・・・ねぇ、エミリア、お茶が冷めてしまいますわ。この茶葉、東方から取り寄せましたのよ?」
そう言って、私にお茶を勧めてくれた。
・・・ほう。それは是非、頂かなくては!
東方には、確かお茶の名産地があったはず。お茶からは良い香りが立ち込めている。
・・・私はお茶が大好きなのだか、ワイブル家は立て直し中のため、無駄遣いは禁止だ。いつも安いお茶で我慢している。・・・こういった日常品で贅沢するのは良くない。贅沢は特別な時にするものだ。でないと、ジワジワと財政を圧迫してしまう!
・・・癒し担当で、役立たずな私は、お茶を飲めるだけありがたいと思わねばならない。
アメリアは良く気が付くから、それを察してかお茶会では、珍しい茶葉や、高価な茶葉を振る舞ってくれる。・・・ありがたい。
私は頷いて、お茶を飲んだ。
・・・こ、これは、うまい!
「アメリア、このお茶、すごい美味しいわ。」
「良かったわ!エミリアのお気に召して。・・・こちらのお菓子も珍しい物なんですのよ。エミリアとお茶会に合わせて用意して貰いましたの。」
私はアメリアに勧められて、タルトみたいなお菓子もいただいた。
「うわぁ。美味しいっ!さすが、アメリアのセレクトだわ!・・・あれっ?アメリアは食べないの?」
「ええ最近ちょっと、受け付けませんの。・・・ダイエット、ですわ。」
アメリアはそう言って、私がタルトにがっつくのを、嬉しそうに眺めていた。
コンコン。
部屋をノックする音が聞こえたと思うと、ひょっこりとロバートが顔を出した。
「あ!ロバート!」
「やぁ、エミリア!こんにちは。今日はお茶会の日だろ?顔を見に来たんだ。・・・ああ、アメリア、会いたかったよ。僕の愛しいお妃様。」
そう言って、ロバートはアメリアに近づくと、抱き寄せて頬にキスをする。・・・うん、安定の甘々ロバートだ。
「ちょっと、ロバート・・・恥ずかしいわ。」
アメリアはそう言ってるけど・・・まぁ、嬉しそうなんだよね。いっつも。
・・・いーなぁ。こういうのだよ、こういうのがイチャイチャだよ。海老を剥くは・・・絶対におかしいからね!!!・・・リカルド!!!
「二人は・・・相変わらずラブラブだね。」
二人がイチャつく様子を生暖かい目で見ながら、私は言った。
「うん。だって、すごくアメリアには助けられてるし!・・・僕の陣営が有利なのは、アメリアのお陰でもあるんだよ?そんなの、愛してやまない、でしょ?」
「へぇ・・・アメリア、すごいのね!」
「違うわよ。私は何もしてないわ。・・・人気があるだけなのよ、私。・・・ほら、学園のイベントで狙われたロバートを庇ったじゃない?・・・そう言うお話ってウケるから。それだけよ!」
「何言ってるんだい、アメリア。もちろん、それもあるけれど、アメリアが学園でCクラスからAクラスに登り詰めたってのも、大きいんだよ?それは、アメリアの頑張りだからね!・・・勇敢で努力家のお妃様。人気が出るのは当たり前だよ!」
そう、アメリアは私とは違って、物凄ーーーく頑張った。そして、落ちこぼれクラスからエリートクラスまで上り詰めてしまったのだ!ロバートを暴漢から庇ったのだって、すごく勇敢な事だ。私なら竦んでしまったかも知れない・・・。
それにだ、二人には幼い頃に出会って、ロバートはアメリアに初恋を捧げている。これもロマンス小説好きにはたまらない設定だ!・・・みんなが騒ぐのも分かる。
「それを言ったら、ロバートだって、幼い頃からの初恋を貫く一途な王子様よね!お似合いだし、素敵だわ。」
「ありがとう、エミリア。・・・なんかね、人気が出すぎて僕たちの事がお芝居になっちゃうらしいよ?嬉しいけど、恥ずかしいよね。・・・とにかく、僕の陣営はアメリアとの結婚でかなり有利になったんだ。内助の功、だよ。」
「・・・私、ロバートを庇って、ただお勉強を頑張ったと言うだけですわ。当たり前の事をしただけです。・・・実家だってたかだか子爵家ですし。」
「違うよ!アメリア。頑張るって、すごい事だよ!」
私は思わず、強く否定する。
だって、アメリアの頑張りは、『当たり前』なんかじゃない。だからこそ、みんながこの話に惹かれるのだ。・・・でも、こうやって謙遜するところもアメリアの素敵な所ではあるのだけどね。
「そうだよね、エミリア。アメリアはすごいよ!・・・それに、アメリアの実家はたかだかの子爵家なんかじゃないだろ?あの国内有数の観光地であるビーチリゾートを所有しているお家だ。国政には疎いかも知れないけど、クリーンで羽振りが良い事で有名だよ?・・・お父様もお母様も素敵ですごく明るい方だし、僕は大好きだよ、君の実家。」
「ロバート、褒めすぎだわ・・・。」
アメリアは照れて赤くなりながら、ロバートを軽く睨む。なんか可愛い・・・。・・・今度、私もやってみようかな?
「いや、言わせてよ。僕がアメリアみたいな素敵で人気者のお妃様を貰った事で、一気に僕の陣営に支持が傾いたんだ!・・・ほら、他の王子は未婚だろ?どんなお妃様を迎えるか未確定だ。浪費家とか、残酷なお妃様を貰ってしまうかも知れないからね。・・・まぁ、普通のお妃様だとしても、アメリアより素敵なお妃様なんて、貰えないだろうけど!だって、アメリアは世界一素敵な女性だもの!」
ロバートはそう言うと、アメリアを抱き上げて、クルクルと回り始めた。
・・・ありがとう、バカップル。本当にご馳走様だ。
「あ!だからロバートは結婚を早めたの???」
もしかして、それで卒業と同時に結婚したのかな?
確か最初の予定では8月くらいだったのに、急に3月になって、驚いたっけ。それで、リカルドとお兄様は大忙しだったのよねぇ・・。
しかし、私の言葉に何故かロバートとアメリアは固まった。
クルクル回るのをやめ、ロバートはアメリアを下に降ろした。
「あ、いや・・・それは・・・。」
「い、いろいろ、ありましたのよ。」
なんだか、二人とも急に歯切れが悪くなる。
「ふーん???」
えっ・・・どうしたんだろう?何かマズイ事・・・聞いた?
「あ、ロバート、そろそろ戻らなくては、ユリウス様に叱られましてよ!」
はぐらかす様に、アメリアが戻るよう促した。なんだか、珍しく焦っている様に見える。
「!・・・だね。あの時みたいに『切り落とす。』って言われちゃう!・・・戻ろうかな。」
ロバートは苦笑いしながら、答え、二人は意味深に笑い合った。
え・・・。お兄様、ロバートにもそんな事を言ったの?!
なにそれ、怖い!・・・お兄様、洒落にならないわ!・・・王子様を『切り落とす』なんて、完全に魔王じゃない!
・・・私は、この間、リチャード様と脅された時から思っているのだけれど、お兄様の『切り落とす』って、絶対に『前頭葉』の事を言ってると思うのよね。前世で見た映画か何かで、確か・・・前頭葉を切除して意思を奪うっていうのを見た気がするんだよね。何だっけ・・・最初は精神病の治療か何かで・・・えっと、ロボトミー手術だっけ。やると意思が薄弱になって、お人形みたいになっちゃうやつ!
・・・お兄様なら、気に入らない奴を「傀儡にしてやる」くらいの勢いで脅してきそうだもの。
・・・マジで怖いわ、あの魔王。
「それじゃ、僕は執務に戻るね。・・・あっそうだ、エミリアも一緒に行く?・・・今日はリカルドと一緒に帰るんだろ?・・・うん、ユリウスに用事もあるし、そうしようよ?」
「そうね・・・護衛に送らせるより、ロバートが一緒の方が良いわ。狙われているかもなんでしょ?・・・ねぇ、エミリア、そうなさい。」
「えっ、でも・・・。」
ロバートとアメリアにそう提案されたが、私はもう少しアメリアといたくて渋る。
「エミリア、来月もお茶会しましょう?・・・その為には安全に、リカルド様の元におかえししないとなのよ?ロバートも心配で言っているの・・・だから、そうして?」
アメリアは、諭す様にそう言って私に笑いかけた。
私は親友二人の気遣いが嬉しくて、素直に頷いた。