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夜会の後で リカルドside

「結局、何も分からなかったな・・・。」


帰りの馬車の中でユリウス様が呟くと、マーガレットは悔し気に項垂れた。


あれから、マーガレットはすごく頑張って、アーノルド殿下と数回踊ったが、話すどころではなく・・・殿下のダンスに付いて行くのに、いっぱいいっぱいだったのだ。


「す、すいません・・・。もう少し、踊れるかと・・・。」


「いや・・・マーガレットは先週までほとんど踊れなかったダンスを、あそこまで頑張って踊ったのだ・・・。立派だったと思うよ。しかし・・・せっかく来たのに、疑問が増えただけ、だな。」


・・・確かに。


そうだ、『離宮』暮らし以外に、慕っていないエミリアを欲しいと言ってきたり・・・謎が増えただけ、だな。理由はともかく、アーノルド殿下がエミリアを欲しているのは確定だ・・・。公言された以上、さすがに大丈夫だとは思うが・・・・無理矢理連れていかれる可能性だって、まだある訳で、状況は悪くなってはいないが・・・良くもなっていない。


「もう少し・・・殿下と親密になれると、探りやすいのだがね・・・。」


馬車の壁にもたれ、ユリウス様がため息をつく。


「・・・そう言えば、アーノルド殿下は、ユリウス様と『気が合いそう』だとおっしゃったのですよね?・・・その、どの辺についてなのでしょう???」


「・・・そうだな。どの辺りで『気が合いそう』だと思われたのかは、おっしゃって無かったな・・・。」


「今まで、その様な素振りは有りましたか?」


マーガレットも俯くのをやめて、ユリウス様に尋ねる。


「いや・・・。昔は、ご自分の支持を願われていたと思うが、最近の私は、アーノルド殿下からは避けられていると思っていたよ。・・・まあ、反対勢力だし、好かれている方がおかしな話だろうな。」


「・・・それにしては、親しげな雰囲気でしたよね?」


二人が、談話室から出てきた様子を思い出す。

随分と打ち解けた雰囲気に見えたが・・・。


「ああ、私もそれには驚いてね。殿下はすごく、くだけた雰囲気で話しかけてきたんだ。・・・とりあえず、合わせてはいたのだが、なぜ急に・・・とは思ったよ。・・・そう言えば、ロバート殿下でなく、私の下に付きたいと言ってきたのも、おかしな話だよな・・・?」


「・・・そうですね。エミリアさんの事が衝撃的すぎて・・・ま、まぁ、その後のリカルドの話もですけど・・・何となく流してしまいましたが、ユリウス様の下に付きたいと強調するのは、何だか変な感じがしますよね?」


・・・マーガレット、俺の話は掘り返さないでくれないか・・・。


それはともかく・・・確かに、変だよな。


ユリウス様に付くというのは・・・王位を諦めるとしても・・・誰が王でも構わないという事だ。目下、ユリウス様はロバート殿下を推しているが・・・ロバート殿下が王位につけないからと言って、ユリウス様が宰相になれないという訳では無い。可能は低くなるが、ユリウス様が選ばれる事は充分に考えられるのだ。


また、逆もしかりだ。ロバート殿下が即位したとて、ユリウス様が宰相にならない可能性だってあるのだ。


王と宰相が同じ勢力では無い王朝などいくらでもあった。・・・同じ方が望ましくはあるが・・・例えば、もう片方の勢力も強く、辛うじて王位に就いた場合などは、もう片方の勢力から、有力者で話の分かる者を宰相に据える事があるのだ。・・・利害が一致すれば、お互いに乗り換える事はやぶさかでは無い。


・・・アーノルド殿下は王位を諦め、誰か別の王子と親しくなり、自分の立場を少しでも良くしたい・・・という訳では無いという事なのだろうか・・・?

わざわざそんな事を言うのは、別の王子に従うのではなく、新たな王の元で宰相になるであろう、ユリウス様に従いたいという事・・・なんだよな?


ううーん・・・何故???


よく分からない。・・・王子達ではなく、ユリウス様に付いて、アーノルド殿下にどんなメリットがあるのだろう???


ユリウス様は表面的には和かだが、高潔で、権力で融通してくれるタイプでは無い。アーノルド殿下が付いた所で、働きに応じたメリットしか与えてくれないタイプ・・・なんだよなぁ。逆に、王子達は異母兄弟だ。王になる手助けをして擦り寄れば、それなりの恩恵を受けられそうだが・・・。


兄弟・・・?

そう言えば、ユリウス様とエミリアも兄妹だ・・・。


「あ、もしかして!!!」


俺が声を上げると、考え込んでいたユリウス様とマーガレットはビクリと顔を上げる。


「リカルド?・・・今日の貴方は冴えてないわ?変な事は言わない方が良いのでは無くて?」


「ああ・・・どう考えても、今日のお前はおかしい。疲れているんだ。アメリア妃の件もひと段落着いたし、夜会も終わった。少し休暇でもやろうか・・・?」


・・・えー・・・ナニコレ。

一度、推理をしくっただけで、二人とも冷たくない???


えーい!とにかく言うぞ!!!


「理由はともかく、アーノルド殿下はスチューデント家に何かメリットを感じているのでは?・・・エミリアとユリウス様は兄妹です。二人にすり寄るというのなら、もしや、スチューデント家に何か狙いがあるのではありませんか?」


俺の意見に、ユリウス様はキョトンとした顔で考え込む。・・・だが、スチューデント兄妹に、後ろ盾以外で擦り寄るなら、家そのものに、何か狙いがあるのでは無いかと考えるのは、順当だろう。


「・・・スチューデント家に?・・・我が家ねぇ?・・・確かに、伯爵家としては成功して力がある部類だが・・・我が家に、隠された秘宝みたいなのは無いぞ???・・・うーん・・・変わってるとすれば・・・領地に変な遺跡が多いくらいだな。」


「遺跡・・・ですか?」


マーガレットが興味深げにユリウス様に尋ねる。


「ああ、マーガレットは知らないかも知れないが、我が家の領地には、いわゆる邪教信仰の名残を残した遺跡が幾つかあるんだ。おどろおどろしい教会とか、他にも何かの神殿?とか、何に使ったのかさえ謎の、やっぱり不気味な遺跡が幾つかあるんだ。・・・父上の方針で、民俗学的遺産として保護管理している。かなり珍しいものらしく、民族学者や考古学者、建築学者なんかが、よく調査に来るんだよ。・・・それもあってか、スチューデント家は悪魔付きの家系だなんて、悪く言われる事もあったらしいが・・・ただの噂だ。」


・・・うーん。


悪魔付き・・・ってか、素が魔王ですけどね、ユリウス様は。あー・・・あの重ったい愛情が暴走したエリオス様も悪魔がかってて怖いよなぁ・・・。


うん、ある意味、言い得て妙かも。


「そうなんですね・・・!・・・アーノルド殿下は、その遺跡に興味をお持ちなのでしょうか?・・・そこは、当主や許された方にしか公開されていない・・・とかなのですか?」


「・・・いや。そんな事は無いんだ。我が家は遺跡を幅広く公開している。古いものなど、危険があるため、一般公開はしていないが、手続きを行えば見学も調査も可能だ。領地に行けば、古文書なども数多くあるが、ほとんどのものが閲覧可能なんだ。・・・一部、劣化の酷いものは閲覧できなくなっているが、他意はない。・・・見たいと言うなら見せる事はできるぞ?秘密なんて何も無いんだ。」


うーん・・・そうなんだよな。


確かに、すごく不気味で、意味深な遺跡だけど、スチューデント家の明るくてオープンな雰囲気とは合わないんだよねぇ・・・。悪魔付きの家系なんて聞くと、秘密の多い暗くて不気味な雰囲気を想像しちゃうけど、そんな事ないし。・・・遺跡に関しても、大切にしてるっていうよりは、不気味だけど貴重な遺跡だし、維持しとかなきゃ仕方ないよねぇ・・・ってスタンスだし。

手続きすれば誰でも入れるのは本当だしなぁ・・・。


「作家としては気になりますが・・・そうなると、なんだか違う気がしますね。・・・当主しか知らない秘密の儀式で死者が蘇る・・・とかあれば、エミリアさんを狙ったり、ユリウス様に取り入るのも頷けますが。」


「・・・残念ながら、そんな馬鹿げたものは無い。スチューデント家は、あの遺跡の保護管理の元締めに過ぎないんだ。確かに、多くの古文書が残されている事から、我が家の祖先とは、関連があったらしいが、だからと言って今やそれらを信仰している訳でも無いしな。・・・それに、これは昔からの事だ。急にアーノルド殿下が私に興味を持った理由にはならないのではないか?」


うーん・・・そうだよなぁ。

じゃあ、スチューデント家に興味がある訳では無いのか・・・。


「なんか、遺跡の話など聞いて、私、混乱してきました。下手に小説なんか書いてると、ドラマチックで非現実的な妄想が入ってしまいますね・・・。そうなると、殿下の狙いって、もっと単純で別の事かも知れませんよね?・・・ユリウス様に親しみを覚えた理由も、エミリアさんを狙う理由も・・・。」


マーガレットが弱った様に笑う。


まぁ、確かに。・・・うーん、俺やっぱり、余計な事を言ってしまったかも?


「まあ、作家として興味があるなら、近いうちに遺跡を案内しようか?・・・私も次期当主として、あの遺跡には詳しいんだ。・・・小説のネタにするのには、充分に雰囲気があるぞ。」


「まぁ!本当ですか!・・・実は次回作には、少しオカルト要素を取り入れたいと思ってましたの!」


「そうか・・・なら、来るといい。あまり女性が好む雰囲気ではないが、苦手で無ければ、なかなか興味深い遺跡なんだよ・・・。」


ユリウス様がそう言うと、マーガレットは嬉しそうに頷いた。まるでデートの約束でもしているみたいな雰囲気に、なんだか居た堪れなくなる。


ん・・・?


あ・・・あれ・・・?


ちょっと待て、俺!!!これは・・・何か良い雰囲気じゃないか???


アーノルド殿下の事は、結局は何にも分からないままだけど・・・ユリウス様とマーガレット推しの俺としては、なかなか良い展開が来てるんじゃないか??


だ、だって、何だっけ・・・???


そう、エミリア曰く『吊り橋効果』!!!それだよ!!!怖い所に行った男女が、ドキドキして恋愛感情に移行しちゃうとかいうヤツ、じゃないですか、コレ!


そこでデートのお約束ですか?・・・くうーっ!・・・やりますね、さすがユリウス様!!!


・・・いいかい、マーガレット、アーノルド殿下なんかより、絶対にユリウス様はお勧めなんだよ!!!

女顔だけど、整った顔立ちだし、ドSだけど、頭いいし、頭髪に不安はあるけど、メッチャ腕が立つし、性格悪いけど、とーーーっても将来有望なんだ!!!


絶対に幸せにしてくれるってーーー!!!俺は女じゃないから、良く分からないけどさーーー!!!


俺はワクワクしながら、二人を見つめる。


ユリウス様は、遺跡についてマーガレットに詳しく説明している様だ。聡いマーガレットは、それに良いタイミングで適度な質問を挟んでいる。


いい!やっぱり、俺はこのカップルを推す!!!


エミリアと父上がいくら、アーノルド殿下とマーガレット推しでも知った事か!!!


絶対、コレがいいって!


俺がそう考え込んでいると、馬車がガタンと音を立てて止まり、マーガレットの家に到着した。



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