侯爵様と奥様の夫婦喧嘩 エミリアside
夫婦喧嘩しちゃう二人。
傍点がお互いのムカつきポイントです。
その日、帰ってくるなり、リカルドは私に言った。
「来週、夜会があるんだけど、マーガレットをエスコートするから、よろしく。」
・・・と。
はぁ?『よろしく』とは何だ。『よろしく』とは・・・!!!
どーして、リカルドがマーガレットちゃんをエスコートするのよ!!!
だって、リカルドは既婚者じゃない?!私という、それはそれは大変に可愛い奥様がいる訳で・・・。お仕事で参加するのだろうなって事くらい分かるけど・・・なら、第一選択はお兄様じゃない?!!!
「何で?お兄様がエスコートすればいいじゃない・・・。」
思わず、声に嫌な雰囲気が滲み出てしまう。
「ユリウス様は噂が広まっててイメージが悪いから、俺がエスコート役って決まったんだ・・・。仕方ないだろ?女性一人では夜会には参加できないんだ、俺がマーガレットをエスコートするしかない。」
まるで当たり前みたいにリカルドは言うが・・・当たり前なもんか。
こんな可愛らしい新婚の奥さんを差し置いて・・・他の女と夜会などっ・・・!!!
・・・まぁ、他の女っていったって、マーガレットちゃんと仕事でなんだけどさ・・・。
で、でも、元・ヒロインだし!!!すごい美人だし!!!
いや・・・、それより、まず言い方だよ!言い方・・・。
『来週、仕事で仕方なく、夜会でマーガレットをエスコートするようなんだ、ごめんな・・・。』的なね?申し訳なさそう感とか、しぶしぶ感があればね?「そうなんだ・・・。」って言ってあげれたよ?
・・・そりゃあ快くとはいかなかったかも知れないけどさ。・・・だけどさ・・・しょっぱなから、貴方、だいぶ偉そうに『よろしく』ってきたよね・・・。だからさ、『よろしく』何だよって感じじゃん!!!何でもかんでも『よろしく』で済ます気か!って思っちゃうよ!
「・・・ムカつく。」
私が思わずそういうと、リカルドはため息を吐いた。
・・・なんだよ、それ。そのため息はっ!
じゃーさ、考えてみてよ!私がだよ、私がもし別の人とリカルドを差し置いて夜会に参加するってなったら・・・ムカつかないの?!快くOKだせちゃうの?・・・へーきなんですか?リカルドさんはさぁ?!
・・・仕方ないって頭で分かるのと、ちょっとムカつくってのは別じゃん。
いいよ、仕方ないよね、お仕事だもの。もちろん「行かないで!!!」なんて言う気はないよ?だけど・・・不満に思うのは仕方なくない?!だからそこを、なるべく穏便に済む様に言うってのが、思いやりっていうか、マナーってかさ、気遣いっていうかね・・・。
「・・・エミリア、これはお仕事なんだよ?分かるだろ?」
リカルドは諭すようにそう言うが・・・それが余計に私をムカつかせる。
何?その「ヤレヤレ」感。・・・マーガレットちゃんじゃなく・・・リカルド、お前にムカつく。
「ふーん・・・あ、そう。じゃあ、仕方ないデスネ。」
「もう、エミリア・・・可愛くないよ?そういうつまらないヤキモチはさ?そもそも夜会をエスコートするっていったって、会場に入ればユリウス様と三人で回るんだよ?」
・・・はぁぁあ?!・・・何ですって?!
つ、つまらないヤキモチですって・・・。?!私の・・・この私の妬いているヤキモチが・・・つまらないモノなんだと・・・言うのですか?!・・・リカルド・・・お前な・・・ヤキモチすら妬かなくなったらね・・・夫婦は終わってんだよっ!!!わかる?!
そもそも、私はさ「行かないで!」なんて言ってないでしょ?
ちょっと嫌な顔して、嫌な雰囲気出しただけじゃん。・・・そんなの全然可愛いの範疇ですから!!!
お父様なら『監禁』案件ですからーーー!!!
「・・・分かりました!じゃあ可愛くない奥様は、もう知りません!勝手にどうぞ。・・・こっち見んな。」
「何だよ、こっち見んなって・・・。もういいよ。・・・そんな事より、夕飯にしよう?もう食堂に父上もロイド様も行ってるんだろ?」
・・・はぁぁあ?!・・・そんな事?!
そんな事ですって・・・!!!よ、よくもまぁ・・・次から次へと暴言を・・・。リカルド、お前こそ可愛くなーーーい!!!
◇◇◇
「え、何?・・・夫婦喧嘩なの?」
食堂にムスッとして入って行くと、夕食を食べていた、リチャード様が私たち二人を見つめて言った。
「・・・珍しいな。お前ら仲良し夫婦なのに。」
ロイド様もそれに続く。
・・・なんだよ、仲良し夫婦って。私たちいつも、そんなイチャついてないし!
「別に喧嘩なんてしていませんよ?ちょっとエミリアがヤキモチ焼いてるだけで、たいした事じゃないんです。ご心配をおかけしてすいません。」
「・・・は???たいした事じゃない・・・???・・・なにそれ???その言い方。まるで、私が一方的に悪いみたいじゃない?!」
「あのさ・・・仕事なんだから仕方ないって言ってるよね?それを妬いて拗ねてるのはエミリアだろ?・・・一方的に悪いよね?・・・ああっ、もう!・・・こんな話しやめて、さっさと夕飯にしよう。」
リカルドは、そう言うとサッサと自分の席に座る。
私は立ったまま、ムカついて顔を赤くしていた。・・・く、クソがっ!!!確かに妬いたけどっ、妬いたけどさっ、何だよその態度は!!!そこ、そこだよ!私がムカついてんのはそこだからね!!!
「エ、エミリアちゃん?大丈夫?・・・リカルド、ちょっと態度悪くない?・・・そもそも、リカルドがエミリアちゃんにヤキモチ妬かせてしまうような事をしたんだろ?だったらリカルドも悪いんじゃないかい?」
リチャード様が仲裁に入る。
「父上、俺は仕事で夜会に行くのに、マーガレットをエスコートするだけです。悪い事なんてして無いんですよ?・・・それを拗ねられても困ります。」
「う、うーん・・・。それはそうかもだけど・・・。・・・じゃあさ、エミリアちゃんはどうしたいの?」
「別に特には。・・・私は別に『エスコートしないで』とも『夜会に行くな』とも言ってません。・・・確かにヤキモチ妬いて、ちょっと嫌な雰囲気は出しました。だけど、それだけです。」
私がそう言うと、リカルドはムッとした顔で言い返した。
「はぁ?・・・それだけだって?・・・エミリアは俺に、ムカつくとか、こっち見んなとか言ったろ?はぁ。・・・全く・・・ユリウス様の予測通りだよ。下らない事をギャーギャー言うってさ!」
はぁっ?
ナニソレ?・・・お兄様とそんな話ししてんの?!
『マーガレットをエスコートするなんて言ったら、了見の狭いエミリアはギャーギャー言うに違いない』的な?!
な、なんなの・・・ムカムカが止まらないんですけど・・・。
「お、おい。・・・二人とも、少し冷静になろう。な、エミリアはとりあえず座れ。・・・リカルド殿も疲れて少し気が立っているんだ。な?」
とうとう見かねてロイド様まで仲裁に入る。
「そうだよ。エミリアちゃんのヤキモチなんか可愛いだろ?・・・エリオスだったら大惨事だよ?・・・僕なんかさー、エリオスとの約束をすっぽかして、ご婦人方とデートするたびに、エリオスが怒って邪魔しに来たからね?・・・リカルドはさ、別に夜会に行くのを妨害された訳じゃないだろ?もっとさ、エミリアちゃんに優しくしてあげなよ。」
・・・なんだろう。
リチャード様のは、それ、どっちもどっちじゃないか?
約束をすっぽかしてデートに行くのも悪いけど、デートの邪魔に行くって、お父様もどーかと思うわ・・・。
「ですが、俺は悪くありません!」
リカルドは、『くどい』と言わんばかりに、リチャード様を睨む。
「・・・確かに、リカルド殿が悪い訳でもないが・・・。もちろん、エミリアが悪い訳でもないぞ?・・・とにかく、少し落ち着こう?この話は一旦やめだ、な?」
「ロイド様、一旦やめても、マーガレットをエスコートする事実は変わりません。」
リカルドはそう言うと、さっさと夕食を食べ始めた・・・。
感じ悪ぅ・・・!!!
「・・・分かった。リカルドがその気なら、私もリカルド以外の人にエスコートしてもらって、夜会に行く。」
「なんでそうなるんだよ!それはおかしいだろ!!!」
リカルドが食事の手を止め、私を睨む。
「リカルドには私の気持ちが分からないみたいだから、実演してあげるのよ!」
私も席に座って、リカルドに啖呵を切った。
しばらく睨み合っていると、リカルドは不敵に笑い始めた。
「・・・フフッ。まぁ、いいよ。・・・どーせ、エミリアなんて、父上かロイド様にエスコートしてもらうのが関の山だし。・・・あ、それともお父様?お兄様ってのもアリかな?」
・・・!!!
・・・な、何だよそれっ!!!
思わず真っ赤になってリカルドを見つめる事しかできなくなる・・・。
「おい!リカルド!やめなって!・・・エミリアちゃん、リカルドは気が立ってるだけだよ?」
「そうだぞ、エミリア?・・・リカルド殿はその、はずみで言ってるだけだからな?」
リチャード様とロイド様が必死に私にとりなすが、ブワッと涙が溢れてくる。
・・・だって悔しいけど、誰かにエスコートしてもらうって、本当に私にはそんな親族枠しか、居ないのだ。
「・・・ど、どうせ私は・・・モテないわよ・・・。」
「エ、エミリア???」
私の涙に怯んだリカルドが、伺う様に聞いてくるが・・・煩いっ!
・・・そー言えば、美形のリカルドさんは夜会でモテモテだったらしいですもんね!そういえば、沢山のお誘いがあったそーじゃないっ!!!
「ど、どーせ私はモテませんよ!・・・わ、私は・・・小さい頃から、ずーっとリカルドが婚約者で・・・。そんなモンだって思ってたから・・・リ、リカルドからしか、お誘いなんてなかったもの・・・。デートにすら、誰からも・・・一度も・・・誘われた事も、したことも無いわよっ!・・・エスコートだって・・・私は親族枠にしか・・・しかしてもらえませんよ!!!・・・どうせ、私は・・・何もかも、リカルドとしか・・・知らないもんっ!!!全部、リカルドが初めてで、どうせリカルドが最後なんだわ!!!・・・悪かったわね!!!」
私が叫ぶ様にそう言うと、食堂にシン・・・とした空気が広がった。
・・・ん?
あ、れ?
私のモテなさに、みなさんドン引き系ですか・・・?
「・・・なんか、僕もう部屋に帰ろうかな。」
「ああ、夫婦喧嘩に関わっては、ダメだな。」
リチャード様とロイド様はそう言うと、とっとと部屋を出て行ってしまった。
・・・へ?
「・・・エミリア。・・・そうだね。愛してる。・・・ずっとずっと大切にするよ、俺。」
リカルドは突然、隣にやってきて、感極まった様にそう言うと、ひしっと私を抱きしめた。
・・・???
「エスコートの事、ごめんな?・・・仕事で仕方無くなんだよ?俺もだよ・・・。ずっと、俺もエミリアだけだ・・・。」
・・・はい???
どうしてこうなった???
・・・ま、いっか。悪い気しないし。
だから・・・。
「・・・私もリカルドが大好きだよ。ヤキモチ焼いて、酷い事言って、ごめんね・・・。」
そう言って、私もリカルドを抱きしめ返した。
その後、私たちは・・・そりゃーもう、これぞ新婚!って感じのイチャイチャをしたのでした。
◇◇◇
・・・その数日後。
「ところでさ、エミリアちゃん。」
「なんでしょう、リチャード様?」
「あのさ、エミリアちゃんのファーストキスが僕って知ってる?・・・僕、エミリアちゃんが産まれて直ぐに、あまりに可愛くって、ついつい貰っちゃったんだ。だからね、エミリアちゃんのはじめての男はいわば僕・・・なんだよねぇ・・・。」
リチャード様から、衝撃の告白を受ける事になる。
「リチャード様、本当に最っ低っ!まず、言い方がキモい!」
「リチャード、お前、本当にすがすがしく最低だな・・・。」
そうして、ロイド様と私は呆れた様に、リチャード様を睨むのでした。
いますよね、「どりあえず、よろしく」って言って済ます人・・・。
無茶振りメールの後に「以上、よろしくお願いします。」とかね。




