表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/134

追い込まれるのは真面目な奴 エミリアside

「・・・もう、やる気が出ない。手が痛い。」


「分かる・・・単純計算には飽き飽きだよ。」


私がカランとペンを投げ捨てると、向かいに座っているリチャード様も同じようにペンを放った。


「・・・頑張れ。今日のノルマだ。達成しない訳にいかないだろう?」


ロイド様は、私たちを諫めるとサラサラとペンを進めた。今日も今日とて、ロイド様の文字は美しい。あの岩のような手から綴られるとは思えない美文字ぶりを横目で見つつ、ため息を吐く。


はぁ。・・・なんでこーなっちゃうかな。


私とリチャード様は、街へお買い物へ行き、迷子になるという大失態の末、魔王(お兄様)を召喚してしまった。・・・そして今や魔王の奴隷として、魔王の下僕(リカルド)が毎日我が家に運んでくる仕事(計算とか、書き写しとか、清書とか・・・とにかく色々。)のノルマをひたすらこなす毎日だ・・・。


ロイド様は私たちが迷子になった事に責任を感じていて・・・護衛がてら、こうして手伝ってくれている。

ちなみに、私:リチャード様:ロイド様=3:3:4という割合でこなしているというね・・・。


ロイド様は大変勤勉な方なのだ。


「リチャード様は、今日はやる量が少なすぎです。もう少しやれるはずです!」


私はリチャード様が担当する残りの書類を見つめる。・・・なんだかあと少しで終わりそうなんだよね。


「・・・仕方ないだろ、僕は字が下手すぎて、書く仕事はさせられないって、ユリウス君に言われてるんだからさ。・・・今日は、計算が少なめだし、そうなっちゃうのは仕方ないだろ?」


「それがズルいんですよ!・・・計算が多めの時は、私も計算やるのに・・・!!!」


「おい!喧嘩をするな!そんな暇あるなら、手を動かせ。・・・もう昼過ぎなのに、こんなに残っているんだ。リカルド殿が夕食の時間に取りに来ると言っていたろ?・・・やれ、やるんだ・・・。やるしかないんだ・・・。」


真面目な故に、ロイド様が一番追い込まれるのも、もはやデフォルトだ。


「あー・・・そうだ。僕、二人にビッグニュースがあるんだよね?」


「・・・。」

「・・・。」


リチャード様のビッグニュースなんて、嫌な予感しかしない。ロイド様もそう感じているのだろう、粛々とノルマをこなしている。


「ねぇ、ねーってば、聞いてよ!・・・ヤバい事じゃないって。本当に。ただのお知らせだから!」


「お知らせ?」


私がピクリと反応すると、ロイド様も顔を上げた。


「うん。・・・なんと、僕の考えたお話が・・・本になります!!!」


・・・え。


え?


えーーーー?!!!


「ええっ???・・・まさかあの、軍人さんにお話した、お兄様との馴れ初め?が本になるって・・・事?」


「うん。あの話さ、マーガレットがすごーーーーく気に入ったんだって。で、アレンジして本にしたいって言われちゃった。・・・タイトルは『雨の街角で拾った愛』!・・・なんと、本になる際は僕に献辞を入れてくれるんだって!・・・凄くないーーーー?!」


「・・・えええ、すごい・・・。」


「すごいな。・・・あの作り話が・・・本になるのか・・・?」


隠れマシュー先生ファンのロイド様も、思わず手を止め、話に加わる。


「うん!・・・マーガレットが大幅に改定して、僕とエミリアちゃんとか、ユリウス君がモデルって分からなくして、もっともーっとドラマチックに仕上げるって言ってたよ。」


ベストセラー作家の献辞とか、羨ましすぎる・・・しかも、かなり読みたい。リチャード様の作った話の時点で号泣ものだったんだ。それがマーガレットちゃん・・・いやマシュー先生の、あの表現力で本にされたら・・・私は涙で溺れる自信がある。


「あ、・・・でも、マーガレットちゃんそんな時間あるんですか?コレを私達に手伝わせる位だから、相当に忙しいはずですよね・・・???」


「んー?・・・『創作の神が降りてるから、寝なくても平気なんです。』って言ってたよ?」


・・・マーガレットちゃん・・・それ、大丈夫なのだろうか・・・?なんだか、心配になるな・・・。


「・・・よし、なら、マーガレット嬢の睡眠の為に、私達も微力ながらコレを頑張ろう!」


ロイド様はそう言って、書類に目を戻した。私もリチャード様も、頷いてペンを握る。そうだよね、マーガレットちゃん・・・いや、マシュー先生の新刊の為に、私たちも頑張ろうじゃないか!!!


・・・リチャード様の発言で士気が戻る・・・なんて珍しい事も・・・たまにはあるみたいだ。


◇◇◇


怒涛の追い上げで、私たちは今日のノルマをかなりの余裕を持って達成する事が出来た。・・・その為、珍しくゆっくりと、お茶を飲む時間が出来た、私たちはお茶会を始めた。・・・ニンジンは無事に食べ尽くしたので、今はもう、あのクソまずいお茶に戻っている。


「・・・そういえばリチャード、街で買ったプレゼントは皆んなに渡したのか?私はあの日、先に休ませてもらったから、知らないのだが・・・。」


「うーん。・・・それがさ、相当怒られちゃったろ?だからさ、なんか渡しにくくて、まだなんだ。・・・あの日は明け方まで、ずーっとガミガミグチグチ言われててさ・・・。酷い話だよ。すごい頑張って謝ったのにさ。」


リチャード様はそう言って、お茶を飲む。


「・・・それは聞いたぞ。なんだか酷いふざけた謝り方だったらしいな。バケツにも水を入れて遊んでいたとか・・・???・・・まぁ、朝まで怒られても仕方ないだろうな。・・・で、プレゼントはどうするんだ?」


「そうなんだよね・・・。せっかく買ったから渡したいんだけど、渡すとその・・・思い出して、また怒られそうだろ?・・・だから、どーしよーか悩んでる。」


リチャード様は難しい顔でそう言った。


・・・確かに、迷子に始まり、お兄様の身分差の恋人事件、スライディング土下座やらジャンピング土下座、最後はバケツドッキリ・・・やらかしすぎていて、プレゼントした物を見るたびに、なんだかグチグチ言われそうだ・・・。


「そうですね。・・・せっかく忘れているのに、思い出させたくないですよね。」


「・・・だろ?・・・ユリアには、刺繍の本を郵便で送ろうかなって思ってるけど・・・。ユリアは今回の事、あんまり関係ないしね。・・・あと、マーガレットには、実はもうハンカチをプレゼント済みなんだ・・・。僕の考えた話を本にしたいって話をされた時に、渡しちゃった。・・・で、問題はリカルド、エリオス、ユリウス君なんだよ・・・。せっかく買ったけど、どーしよう?・・・もう、渡すのよそうかな・・・。」


「し、しかし・・・良いのか?勿体ないだろ?」


ロイド様は戸惑い気味に尋ねた。

まぁね、せっかく買ったし、すごーく悩んで選んだし・・・リチャード様の初任給だし。


「うーん。それはそうなんだけど・・・もう、ぶり返したくないし・・・。あ!そうだ!僕たちで分けちゃおっか?・・・ちょっと持ってくるね!」


リチャード様はそう言うと、プレゼントを部屋に取りに行った。



「・・・で、どれを誰が貰うかだよね。」


リチャード様はそう言って、テーブルにプレゼントを並べた。

革のブックカバーに、しおり、片方だけのカフスボタンだ。


「リチャード様はどれが欲しいんですか?リチャード様のお金で買ったんですから、好きなのをまず選べば良いのでは?・・・それかもしくは、プレゼントなんですから、リチャード様がどれを私たちに渡すか、決めて下さいよ。」


「・・・うーん・・・。そーだなぁ・・・じゃあ、エミリアちゃんにはブックカバー、ロイドにはカフスボタンをあげる。」


そう言うと、私にブックカバーを、ロイド様にはカフスボタンを渡した。


「だが、これは・・・かなり高価だったろ?」


ロイド様はカフスボタンを見つめて、言う。

そう、これはリチャード様がお父様へと思い切って買ったやつだ・・・。リチャード様とロイド様の目利きによると、かなり高価なものらしい・・・片方しか無いけど。


「だけどさ、それ、見事な品だってロイドも言ってたろ?・・・迷子になって、ロイドにはいっぱい心配かけちゃったし・・・貰ってよ。エリオスに選んだ物だから、嫌かもだけど・・・。でも、ロイドにも似合うと思う。」


「いや・・・。別に嫌な訳では・・・。そもそも、二人を見失ったのは、私の責任も大きいし・・・。」


ロイド様は、カフスボタンをグッと握り、顔を顰める。


・・・そう、ロイド様は私たちが迷子になった事に、とても責任を感じてしまっているのだ。・・・この話になると、こうして曇ってしまう。


リカルドもだが、真面目な人間は、厄介なのだ。


「だから、迷子はロイド様のせいじゃないですって!・・・食堂から馬車までは、ほぼ真っ直ぐ歩くだけでしたし、たいした距離でも無かったです。・・・それなのに、私たちがボンヤリフラフラしちゃったからで・・・。凄く心配かけて、すいませんでした。」


思わず、ロイド様の手を握る。


「そうだよ?・・・ごめんよ。ロイド。街に行く前にロイドから、僕は美人に見惚れるなって言われたのに、美人に見惚れちゃったし、エミリアちゃんは妄想するなって言われたのに、妄想しちゃったろ?・・・言い付けを守らなかった僕たちが悪いんだよ。・・・一生懸命に探してくれて、ありがとう。」


リチャード様も、ロイド様の手を握る私の手に重ねる。

あの日、ロイド様はヘトヘトになるまで、私たちを探してくれた。・・・沢山、迷惑をかけてしまったのは、私たちの方なのだ。


「・・・。」


いきなり、ロイド様にリチャード様ごと、ぎゅっと抱き寄せられる。


「もう、私は二人を見失わない・・・。もし、見失なっても、私が必ず見つける。・・・そして必ず、お前たちを守る。」


ロイド様はそう言って、しばらく私たちを抱きしめていた。


責任感が強くて、真面目な人ほど、自責の念にかられやすい。・・・私とリチャード様は、これで気が済むならと、ロイド様にされるがままになってやった。


だって、私とリチャード様は人生2回目だからね。・・・包容力がハンパないのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リチャード・エミリア・ロイドの
獣人転生IFストーリーの連載をはじめました!
「怠惰な猫獣人にも勤労と納税の義務はある」
よかったら、こちらもよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ