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お兄様は逃亡中 エミリアside

「・・・つまり、お兄様はお父様から逃げて来たという事なのっ?!」


私が語気荒く尋ねると、お兄様は項垂れてしまった。


ここは、離れのリビングスペース。


先ほど、目覚めたお兄様が、説明したいと私たちをここへ集めたのだ。


豪奢なソファーセットには、私の正面にお兄様とリカルドが座り、私の横にはリチャード様が座っている。私とリチャード様の座るソファーの横にはロイド様が立って控えてくれていた。


・・・正直、旅行先に憔悴しきったお兄様が現れた時、私はアメリアやロバートに何かが起きて、リカルドを呼びに来たのだと思った。だけど、お兄様は「逃げてきた。」と言った・・・。私は目の前が真っ暗になる感じがした。・・・あのお兄様が・・・何もかも放り投げて、逃げてくるなんて・・・。


これは、この国始まって以来の何か悪い事が起きたのだ、と。


例えば、王都の上空に巨大宇宙船が現れて攻撃をしかけてきたとか、王宮に原因不明の感染症ゾンビウイルスが広がり噛まれたら感染してしまうとか、謎の巨大生物が海から現れて王都へ向かって進行し、街も王都も壊滅状態に・・・そこに別の巨大生物が現れて戦闘を開始した・・・とか、そんな事を考えていた私は、お兄様の話を聞いて、気が抜けると同時に怒りが湧いて来たのだ。


「・・・心配させてしまったようで、すまなく思っている。」


「ユリウス様、心配はこちらが勝手にしていた事です。お気になさらず。・・・何も無いに越した事はありません。ですよね、ロイド様。」


「ああ、私達もユリウス殿の話も聞かず、勝手に想像して焦っていただけだからな。ロバート達が息災なら問題は無い。ユリウス殿があまりにお疲れの様だったので、驚いてしまったのだ。」


・・・天使か。

リカルドもロイド様も天使か。


あんだけ人を心配させといて・・・それをスンナリ許してしまうとか、善人過ぎるぞ、おい。


私は、宇宙人なら逆らわずにチップを埋め込まれる覚悟を決めていたし、お兄様がゾンビになったら、私自らの手で頭をカチ割って、サックリと楽にして差し上げようと決心していたし、巨大生物には踏みつぶされ無いように頑張って逃げまどおうと思っていたのだ・・・。


甘いっ、甘すぎるよ、二人とも!!!


「・・・とにかく、お父様から何で逃げて来たのか、何をされたのか・・・ちゃんと説明して下さい!・・・あと遊びまくってる件に関しても、私はお聞きしたいです!」


私は、お兄様を労わるムードをぶち壊す様にそう言い切って、テーブルをバンっと叩いた。


お兄様は私たちを見渡すと、溜息を一つ吐くき、渋々という感じで説明を始めた。


「・・・簡単に言うと、父上がしつこいのだ。母上は友達と南方の別荘に行っているだろう?リチャード様はお前たちと東方の温泉へ来てしまった。それで俺に・・・俺にしつこくし始めたんだ。最初はまぁ、寂しいのだろうな・・・と少し相手にしてやっていた・・・。だが、それがマズかったんだ。父上は・・・分かるだろう?エミリア???・・・あの、俺が子供の頃に変質者に連れ去らた後と・・・同じ状態になっている。」


「えっ!!!・・・お父様に監禁されてるんですか?」


「いや・・・仕事には行かせてくれている。だが、朝は職場まで見送るし、定時になると強制的に連れ帰られる。そしてその後は俺にベッタリだ・・・。父上はなまじガタイが良くて力があるから・・・物理的に可能なんだ。抵抗しても抑え込まれて余計にしつこくされるだけだ・・・。」


・・・成る程。それは・・・ヤバいな。


リカルドとロイド様は変な顔になっている。それはそうだ、あの愛の重さを正面から食らった事が無いからね・・・。

しかも『お兄様、変質者に連れ去られ事件』の後って・・・確か、お父様は確かお兄様を赤ちゃん並みに抱っこして歩いていたはず・・・。あの時期と同じ状態になってるって・・・もはやお兄様は20代半ばになろうという、長身の男で・・・いくら女顔だからって、それは大惨事じゃないですか!!!


「・・・ユリウス君。おつかれ。・・・そうだよ、エリオスには抵抗しないで力を抜いて、もうされるがままになるのが、いちばん被害が少ないんだ・・・。ツレなくしてもダメ。喜ばせてもダメ。一番肝心なのは・・・無になる事だよ。」


リチャード様は優しく微笑んでアドバイスを送る。

さすが、長年の標的。説得力がすごい。


「・・・でも、そんなにお兄様に執着するハメになるなら、なぜお母様をお友達の別荘になんか行かせてあげたんですか???だっていつも、そういうの渋ったり、嫌がって・・・結局はお母様が諦めてしまうでしょ?」


それだけ、お母様はあのBLお芝居への情熱が凄かったのか?それとも、主演の俳優さんに夢中?・・・うーん・・・ますますお父様が許すとは思えないんだよねぇ。


「それは・・・自業自得だからだろ。」


「自業自得?」


・・・な、に、そ、れ。


お兄様に続き、お父様もお母様に隠れて実は遊びまくってたとか?

それでお母様が怒って「お友達の別荘に行かせて頂きます!」的な???


「・・・父上は自分のせいで旅行に行けなくなったんだ。だから、母上に旅行に行きたかったと涙ながらに訴えられて・・・許可するしか無くなったんだ。」


「え・・・。」


「春の夜会を控えたこの時期は、王国軍は忙しくなる。王都に貴族が集まるからな。各地の辺境伯が所持する騎士団との連携も必須な為、合同練習や交流会などの予定も入るし、そのための会議も多い。・・・そんな中、父上が会議をサボったのがバレたんだ。・・・いつも上手いことやっている父上だが、割に重要な会議をサボってしまい、軍の脳筋どもが碌な議事も案も出せず、会議がグダグダになって、迷走した挙句、出席頂いていた辺境伯達に多大なご迷惑をおかけする事になったのだ。」


・・・大丈夫かよ。王国軍・・・。

お父様以外・・・マジで脳筋なんだな。


「お父様は何か罰を受けたの?」


「まさか、会議をサボっただけだから、そこまでは。・・・結局、辺境伯らとの会議を、父上の仕切りで再度行う運びになったんだ。それで今は忙しいらしい。まぁ、有能な父上だ、すぐに落ち着く。」


「ん???でも、お父様って・・・愛は重いですけど、お仕事をサボる方では無いですよね???・・・何故、こんな事に???」


お兄様はリチャード様を見つめて、深いため息を吐いた。


「リチャード様が・・・父上をチョイチョイ呼び出してショーギとやらをやらせていたろ?・・・それでだ。母上は事の経緯を知っているから、父上は頷くしか無かったんだ。」


・・・うーん将棋、恐るべしだな。


「・・・将棋の魅力って、罪作りだね。僕もう、エリオスを突然誘うのはよすよ。」


リチャード様は反省したように答えた。


「・・・まぁ、軍でも『リチャード様は魔性ですから』と一部同情的だったらしいがな・・・。おかげで俺は酷い目に遭った・・・。」


「リチャード様が魔性なの???将棋じゃなくて?」

「魔性は将棋だよね?僕そんな悪い者じゃないよ?」


私とリチャード様がそう答えると、お兄様は「もういい」とばかりに手を振って追い払う様なジェスチャーをした。・・・いきなりやってきて、みんなに心配かけて何だその態度は!


「と、とにかく・・・今夜はユリウス様もこちらに泊まるんです。夕飯もお願いしてあるので、ユリウス様は少しお疲れを癒された方が良いです。それで・・・執務も滞りなく?」


リカルドが気遣って話題を変える。


「ああ。マーガレットが有能で・・・彼女に急ぎのものは任せてきた。父上から機転で逃がしてくれたのもマーガレットだ。」


・・・ん?マーガレット???

なんで、マーガレットちゃんがお兄様と働いているの???


リカルドの顔からスッと表情が抜けるのが分かる・・・あれ・・・?なんか怒っている。


「なるほど・・・そういう魂胆でしたか。ユリウス様はマーガレットを口説く為に、俺を旅行にやったのですね。・・・俺がマーガレットに色々と忠告したり、マーガレットが俺に相談して冷静になる隙を与えない為・・・ですね。ユリウス様は俺が居ないのを良い事に、彼女を言いくるめ、篭絡したのですか!」


「問題ない。彼女は馬鹿ではない。自分の立ち位置を誤る事は無い・・・。リカルドは少し彼女を女性だからと甘く見すぎなのではないか?彼女は大人だし、非常に頭がいい。・・・自身で判断した事だ。友人がとやかく言うべきではない。」


・・・どういう・・・事?

「口説く」?「篭絡」???


・・・リチャード様曰くお兄様は「相当遊んでる」んだよね・・・。


マーガレットちゃんは・・・怖ろしい可愛さだ。アーノルド殿下一筋だけど・・・。

でも性悪・腹黒のお兄様だ・・・。マーガレットちゃんを好きになったら、手段を選ばないかも知れない。そ、それで・・・ま、まさか・・・私たちが旅行に行ってる隙に、マーガレットちゃんを言いくるめて・・・お兄様の毒牙に・・・?!


・・・な、なんて事をっ!!!

それで、アーノルド殿下への恋心を知ってて、友人であるリカルドが怒ってる・・・そういう事?!


「お兄様・・・信じてましたのに、最低です。」


リカルドと睨み合うお兄様に、私は冷たい声で言った。

お兄様が驚いた顔で私を見つめる。


「・・・エミリア?」


「私、リチャード様の戯言なんて、嘘だって思っていました。私のお兄様はそんな方ではないって。腹黒くって、性格も悪くって、ドSですが・・・それでも誠実な方だと。・・・それが、リチャード様と同類の、クズい方だなんて・・・エミリアはお兄様を軽蔑いたします。」


「え・・・僕、クズいの?」


リチャード様が咄嗟に突っ込むが・・・知るか。リチャード様以上にクズい方の方が少ないわ。


「・・・おい???エミリア???」


お兄様は焦って私に手を伸ばそうとするが、私は振り払う。

思い人のいるマーガレットちゃんを言いくるめて、無体を働いた可能性がある手で、触られたくない。


「確かに、リカルドはヘタレです。大正解です!いざって時は、いつも言い出せずに『雰囲気でなんとか分かって感』を出しくるヘタレ感が満載の野郎です!・・・ロイド様がムッツリなのも、納得です!純愛ものが好きなのに、エロシーン満載のロマンス小説も陰でコソコソと読み込んでますからね!・・・でも、お兄様が遊び人なんて・・・そんなの・・・私は信じてなかったのにっ!!!まさか、好きな人がいるマーガレットちゃんに手を出すなんて・・・女の敵!別名リチャード様ではありませんか!!!」


・・・あれ?

何かマズイ事を言ったか???


リカルドは驚いた顔のまま真っ赤になっている。お兄様はニイっとした笑みを深めた。ロイド様も目に手をあてて、赤くなっている。・・・リチャード様は私と同じようにポカンとしている。


「ほう・・・リカルドとロイド様はその様な感じなのか。面白いね。・・・ところで、エミリア。誤解があった様だね?私は別に、マーガレットとは何もないよ?マーガレットには、仕事を手伝ってもらいたくてね。だけど、リカルドは危ないかも知れないからと反対していたんだ。もちろん、そのリスクは説明したし、そうならない様に手も尽くすつもりだよ?それをリカルドのいない間に進めてしまったのは、少々良くなかったかな。反省しかり、だよ。それだけだ。・・・私が遊び人なんて、そんな訳ないだろう?私は女性とは誠意を持ってお付き合いすべきだと思っているからね。」


・・・え。そうだったのか!

マーガレットちゃんがお兄様のお仕事を手伝うとか・・・そういう系の話しだったのか・・・。

でも、そうだよね。やっぱり、私のお兄様がリチャード様みたいに遊び人な訳ない!考えてみたら、お兄様はリチャード様と違って浮名を流していないもん。・・・まぁリカルドとの件はあったけどさ。


「お兄様!・・・誤解してごめんなさい。エミリアのお兄様はやっぱり素敵な方です!」


私は誤解して酷い事を言ってしまったのを近くで謝ろうと席を立とうとした。

しかり、すんでのところでリチャード様に腕を掴まれる。


「エミリアちゃん。ほんとチョロい。君はチョロすぎ。・・・どうして信じちゃうの?ユリウス君は遊んでる。分かんないかもだけど、同性同士なら分かるの!女の子同士でも、そういうの良くあるだろ?『あの子、純情なフリしてるけどメッチャ遊んでんのに、男には分からないのよねー。』ってやつ。」


・・・ええ???

確かにある。確かにあるけど・・・???


私はお兄様とリチャード様を交互に見つめる。お兄様はアルカイックスマイル。リチャード様も同じような笑顔を浮かべている。


・・・ええ・・・どっちが正しいの???


「エミリア、私はリチャード様とは違い、噂なんて聞かないだろ?」


お兄様が言う。・・・確かにそう、そうなんだよね。


でも・・・さっきからお兄様の一人称が『私』になっているのが気にかかる。『私』モードのお兄様は・・・本心を語らないんだよなぁ・・・。うーん・・・???


私がオロオロと二人を見比べていると・・・突然リビングスペースのドアがバンッと大きな音を立てて開き・・・お父様が入ってきた。



やべ、お兄様見つかっちゃった。




お兄様が遊び人なのか否かは・・・ご想像にお任せします。


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