『お小遣い』で得るもの リカルドside
ちょっとだけ、怖い(ヤンデレ?な感じ?)ユリウスとリカルドの無駄話回です。たいしてストーリーは進みませんので、苦手な方は飛ばしても大丈夫だと思います。
午後の、ややまったりとした時間の中、俺とユリウス様は次の議会へ向けての資料作りの為に、資料室で昔の書類や本を探していた。
「リカルド、うちの父上と喧嘩したのか?」
ユリウス様に言われ、俺は思わず首を振る。
「いえ・・・。エリオス様と喧嘩など・・・。ただ、あまり父上を甘やかさない様にお願いしただけです。」
「父上がリチャード様を甘やかしているなど、いつもの事だろう?リカルドに怒られたと、父上がだいぶ落ち込んでいたぞ?・・・何があったのだ???」
「あの・・・父上が・・・エリオス様から『お小遣い』を頂いていたのです。しかも毎月、かなりの金額を・・・。それで、エリオス様に『そんな事はやめて下さい』と、お願いしたまでです。」
ユリウス様の手元の書類がバサバサと音を立てて落ちる。
・・・分かります。ビックリですよね。
まさか、あの年で『お小遣い』をせびるなど・・・ありえないですよね。すいません、うちの父上・・・あんなんで。
ユリウス様は、驚いた顔で俺におそるおそる聞いた。
「・・・リチャード様は・・・とうとう・・・父上の愛人になったのか・・・?」
・・・は???
えっ?
・・・そっち???
貴族の中には『お小遣い』という名で金銭援助を行い、愛人契約を結んでいる者がいると聞く。どうやら、ユリウス様はそれと勘違いした様だ。
「いえ、違います!父上はその・・・エミリアの代わりに娘になってやったから、お小遣いを寄越せと、エリオス様にたかっていたらしいんです。」
俺がそう言うと、ユリウス様は首を傾げる。
・・・ん?何だ?俺、何か変な事を言ったか???
いや・・・充分に変な話だな。エミリアの代わりに父上が娘になるとか、いい年のオジさんが『お小遣い寄越せ』とか・・・。
「・・・なら、問題無いだろう?」
「へっ?」
驚いてユリウス様を見つめると、ユリウス様も驚いた顔で俺を見ている。
「・・・ん?リチャード様は父上の娘になったのだろ?なら小遣いくらいやって然るべきだ・・・。リチャード様が愛人になった訳じゃないなら、リカルドは何も困る事ないだろ???・・・私はてっきり、父上がとうとうリチャード様を金で買ったのかと焦ったよ。・・・なら、何も問題無いな。」
「・・・そう・・・ですか???」
・・・そ、そうだろうか?
エリオス様に金をせびるなど、問題しかない気がするが・・・。
「そうだろう?・・・父上は馬鹿じゃない。自分が困らない、リチャード様がハメを外しすぎない、そんな範囲で金を渡してるんだ。好きにさせたら良い。・・・しかも、リチャード様は『エミリアの代わりの娘』だと釘を刺してるんだろ?なら、手出しもできまい。さすが、父上の扱いには慣れているな・・・。あれだけしつこくしているんだ、『小遣い』などリチャード様の迷惑料だろ?」
「えぇっ???・・・いや、その・・・だからって、お金を友人にたかるのは良く無いと思うんです!・・・それに、父上はそのお金も下らない事に使ってしまいましたし・・・そういうの、良く無いなって、俺は思うんですよ。」
・・・そう。
父上は、エリオス様からたかったお金を・・・ニンジン畑に投資していた。ポニーの為に、甘くて美味しい品種の人参を無農薬で作らせていたのだ・・・。
近々、山のようにニンジンは届くらしいが・・・一匹のポニーのおやつだ・・・ほとんどは俺たちで消費する事になるのだろう。考えただけで頭が痛い・・・。
「うーん・・・。しかしな・・・父上はもう、リチャード様が趣味みたいなものだからな・・・。手も出していない様だし、舞台俳優に入れ込んで花を送るのと変わらんだろ???・・・まあ、許してやれ。それに、リチャード様も、無駄遣いしたとはいえ、お小遣いの中でやり繰りしていたのだろ?・・・なら、リカルドが困る事など何も無いよな???」
・・・うーん。
何故だろう、珍しくユリウス様と微妙に噛み合わない。
父上は舞台俳優じゃないし・・・エリオス様から貰っていたのは花じゃなく、お金だ。確かに俺が困る訳ではないが、無駄遣いだって・・・良く無いよな?
「それは・・・そう・・・ですが・・・。・・・では、ユリウス様は、俺がユリウス様の娘になりたい、そしてお小遣いが欲しいと言ったらどう思います???受け入れられますか?」
「・・・リカルドは・・・娘では無いよな?男だろ?」
「それは、そうなんですが、例えばです!別に、息子でも構いません!」
「・・・リカルドが息子か。それで、お前に小遣いを渡すのか・・・。」
「そうです!どう思います!?」
俺がそう言うと、ユリウス様はしばらく考え込んだ。
「幾らだ?父上は、リチャード様に幾ら渡していた?」
ユリウス様に鋭く聞かれ、俺はおそるおそる父上がエリオス様から頂いていた『お小遣い』の金額を打ち明ける。庶民の若い青年が頑張って働いて得る1ヶ月の給金くらいの額だ。決して少ない金額ではない。
金額を聞いたユリウス様は、唸った。
・・・そうなんですよ。おかしいでしょ?
俺が息子でお小遣い頂戴って!しかもかなりの大金!
どー考えても・・・イラっとくるし、変ですよね???
「・・・歓迎しよう。どうやら私は結婚に向かないらしいから、養子を取らねばと考えていたんだよ。お前なら、真面目で努力家で賢いし、性格がいいのも分かっている・・・いいな。とてもいい。お前があの程度の小遣い程度で息子になってくれるなら、私は嬉しいよ。・・・できたら、エミリア付きが望ましい。エミリアにも、別途小遣いをやろう。・・・それで、二人の子供は私の孫になるのだろう?・・・エミリアは馬鹿ではないし、私と同じ血が流れている・・・二人の子供なら期待できそうだ・・・。とてもいい話だな、それは。・・・孫には、スチューデント家を継がせても良いが、宰相を目指させるのも一興だ。いや、軍や司法を牛耳らせるのも面白そうだな・・・。できるだけ、子沢山で頼むよ。沢山お前らを増やしたい。・・・うん、私は大歓迎だな!」
・・・え?
ユリウス様???・・・ブリーダー???
軽いユリウス様の、ブリーダーみたいな発言に、俺は少し引く。
「・・・そ、そうなんですか???」
「そうだろう?・・・では、お前はどうだ?俺がお前の息子になると言ったら?」
・・・ユリウス様が、俺の息子???
ユリウス様が・・・息子ねぇ・・・。
確かに、ユリウス様が息子なら、ワイブル家の立て直しも百人力だ。いや、一気に我が家の威光が取り戻せるかも知れない・・・。エミリアに毎日魚を食わせてやる事だって、すぐに叶いそうだ。
その上、あれだけ腕の立つユリウス様が居れば、ロイド様が辺境にお戻りになっても、我が家のセキュリティはバッチリだ。父上やエミリアの扱いにも慣れてるから、あの二人の暴走を物理的にも精神的にも、阻止してくれるだろう。
確かに、ユリウス様は魔王だし、少し怖い所もあるが、俺の良き理解者でもある。・・・あの程度のお小遣いで、すごく頼れる息子が持てるのか・・・。・・・いい事しか無い気がする。
「・・・確かに、良い気がします。」
「だろう?・・・だから、父上とリチャード様もそんな感じなのだろう。・・・だから、あまり怒るな。」
・・・ん?
そうだろうか???
「ちょっと待って下さい、ユリウス様。・・・父上は・・・あまり役に立ちません。」
「だが、美人だ。リチャード様を好きに連れ回して、父上は自慢げだろう?・・・メリットは充分にある。」
「・・・無駄遣いも良くありません。」
「・・・リカルド、お前は分かっていない。・・・父上は無駄遣いさせたいんじゃないのか?」
「え・・・?」
ユリウス様は・・・突然、表情を無くして、俺を見つめる。
「なぁ、リカルド。有能な父上が常に側に付いていながら、なぜリチャード様はワイブル家をあんなに傾けたのだと思う?・・・そして、あれだけの名家を簡単に傾けておいて・・・なぜ、没落には至らない?なぜ、お前の代まで辛うじて残っていたんだ?・・・お前は疑問に思わなかったか?」
・・・どういう・・・意味だ?
「ユリウス、様?」
「私はね、ずっと不思議だったよ。・・・父上なんじゃないか?・・・父上が裏で手を回しているとは、思わないか?」
「・・・え・・・?」
「父上のリチャード様への執着は異常だ。・・・父上が、リチャード様が困って自分を頼る様に、わざと仕向けているのではないか?・・・だが、ワイブル家を潰す気はないんだ。・・・お前が居るし、エミリアを嫁にやる気だったからな。・・・だから、ワイブル家を時々助けて、ギリギリ立て直せる程度の低空飛行を維持させてきた・・・そうは思えないか?」
「・・・まさか、そんなエリオス様が・・・。」
ユリウス様はそう言って、俺の目をジッと見つめる。
俺は、少しだけ後退りしてユリウス様から離れる。
・・・そんな馬鹿な事・・・エリオス様は、そんな方では無い・・・よな。父上に執着しているフシは・・・あるが・・・でも・・・。そんな事は・・・。
「・・・お前の母上が逃げたのは・・・父上の異常さに気づいたからじゃないのか?お前の母上は、大変に聡い方だったと聞いたぞ。・・・だからこそ、お前を身籠もったと気づいて逃げたんだ・・・。」
「え・・・?」
「なぁ、リカルド。・・・あれだけ遊び歩いて、好き勝手にやっている、リチャード様の隠し子がお前だけなのは・・・おかしいと思わないか?」
「・・・。」
「・・・他は、父上が始末をつけているんじゃないか?だから、お前しか隠し子なんか現れ無かったんだ。お前の母上は・・・唯一、父上に勝ったんだよ。・・・自分が死ぬまで、上手いことリカルドを隠し通した。・・自分の名前がリチャード様と同じなのを、不思議だとは思わなかったか?・・・お前の母上が、リチャード様を嫌になって離れたからでは無いからだ。・・・愛しい男にソックリな赤ん坊に、離れ難かった愛しい男の名を付けたんじゃないか・・・?」
・・・俺は何も言えずにユリウス様の、水色の目を見つめる。その目からは、何も読み取る事ができない。
背中にゾクリとしたものを感じる。
そんな事・・・え・・・本当に・・・???
俺がさらに後退りすると、ユリウス様は、俺の強張った顔を掴み、ニィッと笑った。
「・・・まぁ、冗談だがな。」
はっ?・・・ええっ???
じょ・・・冗談?!?
「ユリウス様?!」
ユリウス様は俺からスッと離れると、集めた資料を丁寧に揃えはじめる。
「ユリウス様???えっ・・・冗談って、酷いですよ!・・・やめて下さい!そんな冗談はっ!本気にしてしまう所でしたよっ!」
俺がそう言うと、ユリウス様は手を止めて、笑いながら俺に言った。
「・・・リカルドは、全部が冗談だと思うのか?」
その笑顔は・・・何とでも取れる、魔王の笑い方だった・・・。
「ええっ?!」
思わず、声が大きくなりユリウス様を見つめる。
「・・・まぁ、それも冗談だ。」
ユリウス様はそう言うと、資料を抱えてクツクツと笑いながら、さっさと部屋から出て行ってしまった・・・。
一人、資料室に残された俺は、ボソリと呟いた。
「・・・本当に・・・冗談、だよ、な?」
真相は闇の中・・・。




