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拗ねた父上 リカルドside

あのあと少しして、マーガレットは自分を落ち着かせると、連絡先を残して帰って行った。


ユリウス様も、ゆっくり考えてみたいと言って、マーガレットが帰って少ししてから、屋敷を去った。


俺とエミリアは、ユリウス様を見送りながら、一つの問題に気付いた。


・・・父上だ。


俺は勢いで、技をかけて拘束した。

その後・・・ロイド様によって、部屋に閉じ込められたのだ・・・確実に拗ねている。


「エミリア、父上だけどさ・・・。」


「拗ねてるよ。きっと。」


「・・・一緒に父上をなだめに行ってくれる?」


「いいけど・・・。」


俺たちは、重い足取りで父上の部屋に向かった。

父上の部屋の前にはロイド様が立っている。


「ロイド様、ありがとうございます。・・・父上は?」


「最初は、ドアを叩いていたが、すぐに大人しくなった。寝たんじゃないか?」


そう言って鍵を開けてくれた。


「ロイド様、お疲れでしょう。今日は先にお休み下さい。エミリアと父上には、俺が付いていますから・・・。」


「リカルド殿・・・。そうだな。たまには早く休ませて貰おうか。・・・とりあえず、私は見回りをしてから、休む。何か有れば、自室にいるから、呼んでくれ。」


ロイド様はそう言うと、見回りに向かった。


・・・きっと父上と俺が揉めると知って、席を外してくれたのだろう。・・・ロイド様はお強いだけでなく、よく周りを見ている方だ。


「エミリア、行こう。」


俺はエミリアを促して、父上の部屋に入った。


・・・父上の部屋は真っ暗だった。

俺が灯りを点けると、部屋には誰も居ない。・・・だが、寝室からガタガタと物音がする。


慌てて寝室のドアを開けると、寝室も真っ暗だ。

・・・父上は決してベッドでは寝ない。俺はいつも父上が眠っている安楽椅子を覗き込む。


安楽椅子には、寝たフリをしている父上がいた。

・・・フリだよな。さっきまで物音がしていた。


「・・・父上、寝てますか。」


「・・・。」


「さっきは、痛くしてすいませんでした。」


「・・・。」


父上は返事もせずに寝返りを打った。


・・・相当、拗ねてるな。俺とエミリアは顔を合わせる。


「リチャード様?・・・リカルドを怒ってるの?」


エミリアが聞くと、父上は小さな声で「怒ってない。」と答えて、また寝返りを打った。寝たフリは継続中だ。・・・返事をした時点でバレバレなのだが。


「では、どうしたと言うのですか?・・・父上?」


「・・・。どうせ・・・また僕、何かやらかすとこだったんだろ?家が傾く様なさ・・・。はぁ。・・・何でこんなにダメなんだろ、僕・・・。」


・・・。落ち込んでいるのか。

確かに、謎の理論と謎の自信で侯爵家を傾けたと、なじったからか・・・。


「リチャード様・・・仕方ないよ。マーガレットちゃんも、ままならないって言ってたしさ、上手く行かない事ばかりなんですって。気に病んでも仕方ないですよ。」


エミリアは、寝椅子の隣に跪き父上に話しかけている。


「・・・それはそうだけど・・・。僕のせいで、エミリアちゃんの魚も無しになりかけたんだろ?リカルド、叫んでたじゃん。『エミリアの魚がっ!!!』ってさ・・・。エミリアちゃんだって、魚が食べられなくなったら、僕を恨むだろ?」


「・・・まぁ、恨みますね。」


「ほ、ほら!」


・・・なんだろう、本当にエミリアと父上は気が合うんだな・・・。さっきから、微妙にズレた二人の世界だ。


「だけど、そうしたらリチャード様にお魚を捕まえてきてもらいます。お魚って川にもいますよ?・・・リチャード様、お魚を取った経験、ありませんか?」


・・・ほらな、どんどんズレてる。


何故、侯爵だった父上が魚など捕まえられると思うのか・・・。


「・・・ある!僕、フライやってた!・・フライフィッシング!・・・確か、田舎に行くと貴族もやるらしいね?!ああっ、そう言えば、社交場で何度かそんな話をきいたよ!・・・よし。そうなったら、僕がエミリアちゃんに、マス!マスを釣ってくるよ!」


・・・え?!


父上は、釣りなど・・・していたのか???


確かに、一部の貴族では釣りを好む者も居るとは聞くが・・・。俺が引き取られて以来、父上が釣りに行くなど聞いた事は無かったが・・・。


「私、マスも大好きです!リチャード様、すごいですね!」


エミリアははしゃいでいる。

父上も機嫌を直して、エミリアに得意げな顔を見せている。


・・・いつも、こうだ。


父上とエミリアの世界は・・・俺たちと微妙にズレている。何故だかは分からない。・・・そんな時に、俺はどうしようもない疎外感を感じるのだ。ロバート殿下やアーノルド殿下に感じた嫉妬とは違う感情・・・どう言葉にすれば良いのか分からない。だが、父上とエミリアの世界に、俺は・・・決して入れない。


「・・・リカルド?どうかしたの?」


エミリアは、俺がボンヤリしているのに気付いて、声をかける。


「あ、いや。・・・エミリアと父上は仲が良いな、と。」


「そりゃ、一応は親子だし?ね、エミリアちゃん!」


「まぁ、軽ーい親子の絆がありますからね?」


・・・。

『一応は親子』・・・『軽ーい親子』ねぇ・・・。

赤の他人のはずなのに、性格的には俺より似てるんだが・・・。


「・・・以前から・・・思っていたのですが・・・父上とエミリアは・・・似てますよね?」


「えー・・・全然違う顔じゃない?エミリアちゃんは、どう見てもエリオスにソックリだよ?・・・僕には微塵も似てないよ。」


「私もそう思います!・・・リカルドこそ、リチャード様にソックリだよね???」


・・・俺が言いたいのは、顔じゃない。

だけど、こうして同じように返してくる所からして、似てるのだ。


「顔じゃないよ!性格?雰囲気?・・・分からないけど、考え方とか、ズレてるトコとかさ、似てるんだよ!・・・双子って言われてるだろ?」


「・・・ええっ???エミリアちゃんと僕・・・似てる???」


「似てないと思います!双子とか不本意すぎる!・・・リカルド、どーしたの?いつもは、私の事をお兄様に似てるって言うじゃない???」


・・・いや、確かにエミリアはユリウス様に似てる所も多いのだが・・・。父上とエミリアのこの空気感は・・・その比じゃないんだ。


「不本意ってさ、エミリアちゃん・・・ひどく無い?」


「えっ、だってさリチャード様はオジサンでしょ?なのに双子って・・・ショックだよ。それを言うならさ、親子でしょ?」


・・・まぁ、確かに年齢的には『親子』だが、いつもつるんで、変なことをやらかしたり、そう思うと妙に張り合ってみたり・・・。どちらかというと『双子』なんだよなぁ。


「・・・あっ!もしかしてっ!」


父上は、驚いた様に跳ね起きる。


「どうしたの?リチャード様?」


「・・・エミリアちゃんて、まさか・・・エリオスと僕の子供・・・?・・・僕が・・・産んだ???」


「はぁっ!?・・・ええっ?・・・私、お母さまから生まれたはずですけど・・・。てか、お父様と、子供が出来る様な何かがあったんですか・・・。だとしたら、引くんですけど・・・。」


「いや!無いよ!自信を持って、無いけど!無いんだけどさ・・・。・・・でも、ユリウス君は顔がユリアで、中身はエリオスだろ?リカルドは顔が僕で、中身はシンシアだ。・・・そしたらさ・・・顔がエリオスで中身が僕なエミリアちゃんはさ・・・僕とエリオスの子供???・・・そういう事にならない?・・・この世界って、不思議な事がたまに起こるのかも?・・・僕もマーガレットも・・・だしさ・・・。ありそうだよね?」


・・・ええっ???


ありそう?無いよ、無い。どうして、そんな事がこの世界で起こると考えたんだ?・・・そんな非現実的な事が、起きるはずないだろ???


「・・・ええっ?そう言われると・・・うーん・・・。・・・そういう事もあるかも知れない・・・???じゃあ・・・私はリチャード様から生まれた・・・???・・・いや、お父様から生まれたのかも・・・???」


エミリアは何故か納得しかける。・・・いや、おかしいだろ!男からは、絶対に子供は生まれない!・・・納得する要素など、無いだろ?


「そっか!・・・エリオスが産んだのか!・・・僕さ、考えてみたんだけど、エミリアちゃんを産んだ記憶が無いからさ、不思議だったんだ。あっ!!!!どうしよう!!!責任とらなきゃだよね・・・。今さらだけど・・・。エリオスぅ・・・言ってよね・・・。」


だからさ、コレだよ、コレ・・・。

いつもこうなんだ・・・二人は俺が理解出来ない共通の認識を持っている。それが・・・多分、双子たる由縁なのだろうが・・・。理由など、二人にも分からないのかも知れないが・・・。


「・・・父上、エミリア。男性は子供を産みません。エミリアは確実にユリア様の産んだ子です!」


二人は驚いた顔で見つめ合う。

・・・何故、驚く。常識だろう。


「・・・そうだよね。あー・・・びっくりした!リカルドが変な事を言うからだよ?・・・良かったね、エミリアちゃん。危うくリカルドと兄と妹になるとこだったよ!」


「あっ!!!確かに!!!・・・夫婦なのに兄妹はまずいですもんね・・・。良かったーーー・・・ん?・・・リチャード様、リカルドと私は兄と妹ではなく、姉と弟ですよ?リカルドの方が生まれた月が遅い・・・って、大変!もうすぐ、リカルドのお誕生日じゃないですかっ!」


エミリアは、驚いて俺を見つめる。


「・・・何もしないぞ。・・・我が家は貧乏だし、俺は忙しいからな。人を呼んだパーティー的な事をする気はないよ。・・・まぁ、少し良い夕食くらいは食べようか?・・・その位のつもりだが?」


「えー!お誕生会しないのー?!」

「なんで?お誕生会しないの?!」


二人が同時に騒ぐが、本当に金がないし、誕生日だからと騒ぐ意味が分からない・・・。


二人の誕生会はいつもスチューデント家で盛大にやっているが・・・。あんなの、我が家では出来ない。


そもそも・・・なぜスチューデント家でやっているのかが、謎なのだ。エミリアは嫁いだ身だし、父上に関しては完全に意味不明だ。だが、二人の誕生会の主催をエリオス様は頑なに譲らない・・・。

以前、俺の誕生日もスチューデント家で主催したいとエリオス様から言われていたが・・・おかしいよな?それ???・・・だから、俺はお断りしている。


「ええっ・・・じゃあ、お金をかけなきゃ、やってもイイの?」


エミリアが食い下がる。


「あのな、侯爵家の体面ってのがあるだろ?パーティーを開催するには、格式ってのが必要なんだ。それなりに金がいるんだよ。分かるな?・・・多忙を理由にすれば、やらなくて良いんだ。・・・だから俺の誕生会なんかしない。良いね?」


俺がそう言うと、エミリアと父上が悲しそうな顔で俺を見つめている。・・・こいつらは、楽しい事が大好きだ。夜会みたいな社交は嫌いでも、内輪でやるパーティーなんかは楽しみにしている。

・・・内輪とは言え、かなりの招待客を呼ぶのでこういったパーティーは、豪勢だ。しかし、雰囲気は砕けたものになる。美味い料理に、愉快な音楽に、気のおけない人たち、沢山のプレゼント・・・そんなの、俺だって楽しいとは思う・・・。


だが、何度でも言う。・・・我が家は金が無い。


今までは父上が侯爵だったから、俺の誕生日も馬鹿みたいに盛大にやっていたが、これからは俺が侯爵だ。

・・・やらなくて済むなら、やらない一択!それが一番のコストダウンになるんだ!!!


「・・・俺はね、エミリアと父上がいてくれたら、いいんだよ。ロイド様と四人で、静かに俺をお祝いして欲しいんだ。」


俺がそう言うと、二人は感極まったように抱きついてきた。・・・よし、かなりの経費を削減できたぞ!


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