ハイスペック前世持ち エミリアside
リチャード様とロイド様が雪崩れ込んできたので、私とマーガレットちゃんは、ヒソヒソと話すしか無かった。
その様子に気づいたロイド様は、気まずそうに「私は入り口で護衛する。失礼した。」とぶっきら棒に言って、そそくさと扉の外に出て行ってしまった。
・・・リチャード様は、ニコニコとキラキラした顔でマーガレットちゃんを眺めていた。
「えっと・・・リチャード様は、気を使って出て行ってくれたり、しないんですか?」
私は、居座る気マンマンだとは分かっているが、とりあえず聞いてみた。
「えー・・・しなーい・・・。」
・・・どうしてくれよう。この中年。
私は軽くどころではなく、イライラした。
「リチャード様、あのね・・・マーガレットちゃんと私は秘密のお話をしてる訳です。とても困ってらっしゃって、相談にみえたの。」
私なりに、言い聞かせるように、優しく言う・・・まあ、イラつきは隠せないが。
すると、今までニコニコとマーガレットちゃんを眺めていたリチャード様は、キキリと表情を変えた。
「では、マーガレット。僕に相談してごらん?・・・僕は人生経験豊富な、ある意味人生のスペシャリストだからね。・・・きっと君の力になれるよ。」
「あ、ありがとうございます。」
マーガレットちゃんは戸惑いながらも、笑顔で答えた。
「・・・さあ!マーガレット!」
何故か腕を広げる。・・・ハグする気か。
相談ではなかったのか。スケベ親父め。
私はマーガレットちゃんの隣から、スッと立ち上がり、リチャード様の隣に行って、広げている腕をペシリと叩いた。
「痛い。」
「悩み相談で、ハグしません。」
「エミリアちゃん・・・ヤキモチ?・・・大丈夫、どんなに僕の心がマーガレットに奪われても、エミリアちゃんは僕の娘だから。・・・リカルドに離婚されない限り、親子の絆は消えないよ。」
・・・なんだ、すげー軽い親子の絆だな。
私が睨むと、リチャード様はニッコリ笑う。
「・・・あの。では、リチャード様、相談させて頂いても良いですか?」
えっ・・・!マーガレットちゃん?!
リチャード様に相談する気っ?!
「もちろんだよ!ハグする?」
「ハグは大丈夫です。・・・あの、実は私・・・前世があるんです。」
・・・は。
マーガレットちゃんは、あっさり言ってしまった。
「えー!奇遇だねー!僕も!」
リチャード様もあっさり言った。
・・・え。そうなの?これって、こんな軽い感じ?
このノリなら、えー・・・。なら、私も言っちゃおーかな・・・。
「僕さ、前世でね、物理化学をやってたの!・・・大学って分かる?それの先生だったんだよ?教授って言うんだけど、それやってた。マーガレットはどんな感じ?」
「ええっ、そうなんですか!どちらの大学で?・・・私はですね、外交官をしてました。・・・なので、今回も前世の知識を活かしたくて、頑張ってなったのですが、性別と身分の壁にぶつかって、活躍出来ずにいます。・・・情けない事です。」
マーガレットちゃんがそう言うと、リチャード様は海外にある、すごく有名な大学の名前を挙げ、そこで教授をしていたと言った。
え。・・・リチャード様って・・・そんな、すごい大学の教授だったのか。浮世離れしちゃってんのは・・・まぁ、ある意味、仕方ないのかも。
マーガレットちゃんも・・・が、外交官ですか。・・・外交官って、どうやってなるの?こっちも・・・すごいな・・・。
ラノベ好きって言ってたから、てっきりお仲間かと思ってたけど・・・そういや、ライトノベルってずっと言ってたし、唯一の趣味って言ってたな・・・。
なんだ・・・こいつら、ハイスペック前世持ちか・・・。
「そうなんですか!!!・・・私も、そちらの大学に留学してたんですよ!1年ちょっとなんですけど・・・あ、でも専攻が違いますから、お会いしてはないでしょうね。では、リチャード様は前世ではその国でご活躍を?」
「そうだよ。僕はその国の人だからねー!・・・そっかー。専攻が違うと会えないだろーねー。人多すぎだし、広いとこだからさー。残念だね!・・・あ、マーガレットは、どこの大学だったの?・・・僕、知ってるかな?」
マーガレットちゃんは、日本で一番有名な大学の名前を挙げる・・・。リチャード様は、「ええっ!知ってるよ!僕の研究室にも、その学校から留学生が来てたよ!」と興奮気味に話している。
・・・なんだろう。
言えない。・・・いや、言いたくないっ!!!
軽いノリで始まった前世のカミングアウトだが・・・この流れで、前世を言いたくない・・・。
前世で、どこの大学だったとか・・・何してたとか・・・こいつらに言いたくない・・・。
まず、私が行っていた四流大学など・・・日本人だと思われるマーガレットちゃんすら、知らないだろう・・・。かくいう私も、受かるから行っただけで、それまで名前とか知らなかった大学だしね・・・。それでも受験は苦労したっけ・・・ははは。
しかも、大学でのお勉強より、アルバイトとサークルと遊びに情熱を燃やしてた私は・・・更に何も言えない。
・・・転生したから残念なのではなく、私は生来残念なんだなぁ・・・。
くそっ、ムカつく!
私は身近にあったリチャード様の足を蹴った。
「あ、ごめん、ごめん。エミリアちゃん。二人で盛り上がっちゃったね!・・・えーっと、マーガレットは、前世で悩んでるんだね?・・・なら、僕と結婚しよう!」
・・・は?
マーガレットちゃんも、ポカンとした顔になる。
「ほら、前世持ち同士、これはご縁じゃない!・・・マーガレット、僕が一生、幸せにします!!!」
立ち上がり、マーガレットちゃんに近づこうとするリチャード様の足を、思わず強く踏んでやる。
・・・軽くプロポーズすんなよ!!!
「痛っ!・・・痛いよ。なんで踏むの?・・・エミリアちゃんは、ヤキモチ焼き屋さんだなー。結婚しても、変わらずに僕は君のパパだよ?エミリアちゃんに、新しいママが出来るんだ!・・・ね、祝ってちょーだい?」
リチャード様は私を抱きしめて、ヨシヨシと撫でる。
・・・。
マーガレットちゃんは、返事もしてないのに私のママにされているけど・・・ま、それもいいかも・・・。
・・・いや、違うだろ!
「リチャード様・・・!マーガレットちゃんには好きな人がいるんです!・・・前世とか、とりあえず良くて、今はその相談してるの!」
私が切れ気味にそう言うと、マーガレットちゃんは真っ赤になって俯いた。
「・・・えっ?そうなの?」
「・・・は、はい。」
「・・・ええ・・・僕・・・失恋したの・・・?」
私の隣にドサリとリチャード様は座り込む。
白々しくため息を吐き、慰めて欲しそうにアピールしてくるので、しかたなく撫でてやると、自ら頭を擦り付けてくる・・・うーん・・・。私の手、あの枕みたいなニオイになったらヤだな・・・。
「リチャード様、すいません。私・・・アーノルド殿下に憧れてて・・・。叶わぬ恋なんですけど。」
マーガレットがそう言うと、リチャード様は、ピクリと反応し、顔を上げた。
「・・・そうなの?」
「はい。私ごとき子爵家の出では、恐れ多い事ですから・・・。」
マーガレットちゃんは、悲しげな顔になる。
「・・・リチャード様、あのね、マーガレットちゃんは、身分差の恋に悩んでるし、アーノルド殿下がフリード殿下に悪い事をさせられちゃわないかも心配なんだって。それで、悪い事をするのだけでも止めたいから、お兄様に相談しようかって、話してたの!」
「・・・え。そんなの・・・僕に言ってよ。・・・マーガレット、僕が解決してあげる!」
・・・は?
私とマーガレットちゃんは、リチャード様を見つめる。
・・・このポンコツ元・侯爵に・・・何ができるというのだろう。
「えっ、何?その目・・・。あのね、僕の愛はさ、エリオスみたく重くないからね?マーガレットに他に好きな人がいるなら、応援するよ?」
・・・確かに、お父様にはできそうもない。・・・監禁される案件だ。私は少しリチャード様を見直した。
「確かにお父様は・・・できませんね。リチャード様、ちょっとカッコいいかも・・・。」
「だろ?!エリオスなら監禁しちゃうよね!僕、カッコいいよね!・・・それはさておき、僕はマーガレットの幸せを願うよ。だから任せて!・・・あのね、この問題は簡単!身分差なんか無くせばいいし、マーガレットがアーノルド殿下の側にいて、悪い事をさせなきゃイイの!」
・・・は?
「・・・あの?意味が・・・。」
マーガレットちゃんは、リチャード様に申し訳なさそうに聞く。そりゃそうだ。私だって意味が分からない!
「んー?・・・マーガレットが、侯爵家に養子に入れば、ギリいける身分になるだろ?・・・僕はもう侯爵辞めちゃってるからさ、養子にしてあげられないし、もしかして、アーノルド殿下に飽きたら、マーガレットは僕と結婚してくれるかもだから、リカルドの養子ってのもダメだけど・・・。だからね、ユリアの実家に頼んであげる!僕さ、昔ユリアに捨てられてるから、ロジスティック家は僕のお願いなら聞いてくれるんだよねー!今はユリアのお姉ちゃんが継いでるんだっけ?・・・大丈夫!ユリアのお姉ちゃんは、僕に感謝してるから。『ユリアを諦めてくれてありがとう。貴方に嫁がせたら傾いた侯爵家で苦労させる所だったわ。』って言ってたし!」
・・・。
うわぁぁ・・・。
クレア伯母様・・・本当の事・・・言っちゃったのか・・・。感謝してるっていうか・・・馬鹿にしてるっていうか・・・。
マーガレットちゃんも、何も言えず複雑な顔をしている。
「そうしたら、マーガレットはアーノルド殿下と結婚して、側にいて見張ってたらいい!ダメって言ってくれる人がいたら、きっと道を踏み外さないよ!愛だねー・・・!プロポーズもさ、マーガレットからしちゃえば?身分差なければ、イケるよ。マーガレットは可愛いからね!・・・もーね、ユリウス君を煩わすまでもない!ズバッと解決!頼れるなー、僕。・・・あれっ?カッコ良すぎて、やっぱり僕と結婚したくなっちゃった?」
・・・。
「あの・・・それは、大丈夫です。」
マーガレットちゃんが、引きつりながら答える。
「あー残念!じゃー、ロジスティック家に頼みに行こうか!・・・あれ?ご両親とか反対されちゃう?エミリアちゃんトコみたく、溺愛されてると、さすがに無理かな?」
「あ。いえ・・・私は・・・前世の事を話してしまって、両親からは気味が悪いと思われてますから・・・。その、仲はそんなに良くないんです。」
「ならさ!なら絶対にロジスティック家はお勧めだよ!ユリアのお姉ちゃんって、僕には冷たいけど、すごーく優しいからね!旦那さんも影が薄いけど、いい人だし、良くしてくれるよ!」
・・・まぁ、クレア伯母様もレイモンド伯父様も、確かに優しいが・・・。
「あの・・・で、でも、ご迷惑をおかけする訳には・・・。それに、こんな大切な事、簡単に決まる話ではないかと・・・。」
「マーガレット、簡単だよ。・・・物事の本質は単純なんだよ!難しく考えるから、難しくなるんだ。大丈夫、大丈夫!思い立ったら直ぐ行動だよ!僕が付いてる!さ、行こう!」
リチャード様はそう言うと立ち上がって、マーガレットちゃんの手を掴み、戸惑うマーガレットちゃんを、引きずる様にしてドアの向こうへ飛び出して行った。
「ちょ、ちょっとリチャード様!」
私が慌てて追いかけて部屋を出ると、行く手を阻まれたリチャード様とマーガレットちゃんが立っていた。
・・・その先には・・・。
やっぱり居ました、リカルドとお兄様。
お兄様は、マーガレットちゃんがアーノルド殿下と親しいのを警戒していた。多分、気になって様子を見に、リカルドと早く帰ってきたのだろう。
「父上!何をしてるんですか?!」
リチャード様は、リカルドの冷たい言葉に・・・そっとマーガレットちゃんの手を離した。




