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お母さま攻防戦 エミリアside

「リチャード様、なんですかっ、アレ!」


私は苛立ち紛れに、リチャード様の肘を引っ張った。


「・・・いやね、エミリアちゃん。僕だって、相当ムカついてるんだよ?」


リチャード様も、腕を組んでイライラと指を動かしている。


・・・そう。

ロイド様に仮装の衣装を持って来たお母さまと、それを試着しているロイド様が、イチャついているのだ。

あの白い騎士服もどきは、やたらと飾りが多く、ロイド様は着替えはしたが飾りに戸惑った。・・・で、お母さまがそれをお手伝いしているのだが、まぁロイド様のデレ方ったら酷い。


「ユリア様?このボタンは・・・?」


「これは、こうですわ。あら、首元の飾りが曲がってしまってますわね。」


お母さまは、リアル「ルイド」なロイド様に、もはや夢中だ。甲斐甲斐しく飾りの位置を直し、距離が近い。

ロイド様は、耳まで赤く染まりながらも、ワザとらしくやたらと密着するような位置を、お母さまに直して貰っている。・・・あの、ムッツリめっ!!!


・・・騎士服もどきを着たロイド様は、なかなか見栄えがした。そもそもが騎士様だ。とても似合うのだ。

本当にあの舞台の俳優さんにソックリで・・・いや、俳優さんがロイド様にソックリなのか?・・・とにかく、あの舞台に感動してしまった私としては、ちょっとロイド様が格好良く見えてしまったりしてるのも、ムカつく。


「お父様に言いつけてやりたい・・・!」


「分かる、分かるよ。・・・だけど、僕はそれでユリアが悲しい目に遭うとしたら、言いつけたり出来ないよ。・・・エリオスは、やきもち焼きだからね。ものすごーく。」


「・・・それは、そうですけど・・・。私のお母さまに、あんなに近いっ!!!」


「いや、それを言ったら、僕のユリアでもあるんだよ?・・・もうね、ずーっと小さな頃から一緒にいるんだ。大切なユリアだからこそ、大切なエリオスに任せたんだよ?・・・それを、あのクソなライオン野郎なんかにベタベタ触らせてっ・・・!僕だって、ブチ切れたいよっ!」


私とリチャード様は、イライラしながらその様子を見ているしか無かった。


「あー、早くお兄様たち、帰って来ないかなー!」


「ほんと、そうだよね。・・・あー、もうっ!ユリアも近いけど、どさくさに紛れてロイド、触りすぎじゃない?ね、なんで飾りを直してもらうのに、ユリアに触れるの?意味わかんない!・・・直立不動で立ってろって話だよっ!」


「うわっ、本当だ・・・なんでお母さまの手に触れてんのっ!・・・って、リチャード様っ?!」


お母さまに間違えた振りをして、ちょこちょこ触れるロイド様に、ブチ切れたであろうリチャード様が、無理矢理に二人を引き離しに行った。


「・・・どうしたの、リチャード?」


お母さまは、キョトンとしてリチャード様を見つめた。


「ユリア・・・ロイドと近いよ!」


「仕方ないでしょ?飾りを直して差し上げてたのよ?遠くからでは出来ないわ。・・・それに、今はリチャードの方が近いわ。」


お母さまを背後から抱きかかえる様にして、引き離したリチャード様の方が、確かに近い。


「僕は良いの!いーい?ユリア、異性との距離には気をつけるべきだよ?君は既婚者なんだからね?エリオスが悲しむよ?慎みを持って、ね?」


「なら、リチャードも離して下さる?」


「違うの、僕は良いの?分かる?」


・・・全く、説得力が無い。


「リチャード、ユリア様が嫌がっているぞ?・・・リチャードが良くとも、ユリア様が嫌がっているのだから、離すべきだろう。・・・そもそも、リチャードなどにユリア様を説教する資格などない。お前は異性とは常に『ゼロ距離』なのだろ?・・・ユリア様が飾りを直して下さったくらいで、何を言っているんだ?・・・慎みとか考えている時点で、お前に慎みが無いんだよ。」


リチャード様に慎みが無いのは真実だが、ムッツリでやらしい事を考えてそうなロイド様にも、慎みとか言われたくないな。お前もこの間、つまらない事で「慎み」とか言って、私にゲンコツしたではないかっ!・・・なんて思いながら聞いていると、ロイド様が、リチャード様をお母さまからベリっと引き剥がし、ポイっと捨てた。


・・・ひ弱なリチャード様は、床に打ち捨てられ、顔を赤くして怒っている。


「ユリア!僕、怒るよ!」


「・・・ユリア様は関係ないだろ?お前が急に抱きつくから、私がお守りしただけだ。」


騎士服もどきを着た、憧れの「ルイド」似のロイド様に、「お守りした」などと言われたお母さまは、ポッと赤くなった・・・。お母さまは、ロマンス小説や舞台なんかのロマンチックなお話が大好きだ、感動した顔でロイド様を見つめている。


「・・・ロイド様・・・ありがとうございます。」


「いえ、ユリア様をお守り出来るなど、光栄です。」


ロイドは、お母さまの手を握り、手のひらにキスを・・・。


させるかーっ!!!


私は、二人の間に滑り込んだ。


・・・お母さまを、下らないロマンチックからお守りするのは、私だっ!!!


「お母さま!エミリアもいます!エミリアもお母さまをお守りしますっ!」


「あら、ありがとう・・・エミリア。」


お母さまは、少し驚いた顔をしたが、嬉しそうに微笑んで、私の頭を撫でて下さった。

私はロイド様から引き離すように、お母さまに抱きつく。・・・お母さま・・・ほんと胸・・・デケーな。柔かーい・・・。


私に弾かれたロイド様は、ヨロリと後ろによろめき、不貞腐れて床に座っていたリチャード様の手を・・・踏んでしまった。


「痛っ!痛いよっ!ロイド、僕の手を踏んだよ!」


「はん。そんな所に座って居るのが悪い。・・・リカルド殿からダラシないと聞いていたが、床に座るなど品性が欠けらもないな。」


お母さまといい感じだったのを、私に割って入られたロイド様は、面白くなかったのだろう、リチャード様に嫌みったらしく言った。


「・・・な、な、な。何だって?品性って・・・ぼ、僕は侯爵だぞ?」


「元、侯爵な。今はリカルド殿が侯爵だろ?・・・それに品位と爵位には何の関係もない。まぁ、我が国の侯爵がリチャードの様に下品なのは恥ずべき事だ。さっさと爵位を譲って正解だったな。・・・その点、リカルド殿は素晴らしい侯爵だ。品もマナーも完璧だ。」


「まぁ、リカルドを褒めて下さるの?!・・・リカルドにマナーを教えたのは、私ですのよ!」


それを聞いたお母さまは、嬉しそうに声を上げた。


・・・お母さまは、リカルドが連れて来られて以来、リカルドにマナーや貴族のしきたりを教え、アドバイスをしてきた。いまだにリカルドもマナーやしきたりで迷うとお母さまにアドバイスを求める。

・・・つまり、お母さまとリカルドはマナーの師弟コンビなのだ。弟子であるリカルドを褒められたお母さまは、嬉しそうに微笑んだ。


「リカルドを褒めて頂けるなんて、嬉しいわ。・・・いずれリカルドは侯爵家を継ぐ身。私ごときが教えるので、本当に大丈夫なのかしらと、常に不安でしたの。時には厳しくしてしまう事もありましたのよ・・・良かった、本当に良かったわ・・・。」


お母さまは、感極まった様に言った。


「・・・エミリアのマナーは放置したけどな、母上は。」


冷たい声に振り返ると、イメチェンしてやたらと可愛いくなったお兄様と、お母さまと同じく感極まったリカルドが、立っていた。


「まぁ、ユリウス。酷い言い方ね!」


「リカルドにばかりマナーを仕込んで、エミリアを放置したのは、母上だろ・・・おかげでこんなだ。」


お兄様は、私を見てフンと鼻で笑った。・・・うわぁ、機嫌悪ぅ。


「問題ないわ。・・・だってエミリアはリカルドのお嫁さんになると決まっていたのだもの。それに、窮屈なのは向かないのよね、エミリア?」


お母さまはそう言って私に笑いかけた。・・・確かに、私・・・あんまりお母さまからマナーを厳しく言われた事・・・無かったかも。そうか、元からリカルドに押し付ける気マンマンだったんだな・・・。


「はっ、それでリカルドが苦労している!」


お兄様はそう言い捨てた。

・・・多分だが、この可愛いイメチェンをやらせたのは、お母さまなのだろう。・・・お兄様は荒れている。


「そんな事ないわ。リカルドはそのまんまのエミリアが好きなのよ、ねー、リカルド?」


お母さまは、リカルドに笑いかける。

リカルドは多分あまり聞いてない。感極まった顔のまま、コクコクと頷いている・・・。


「ふん、まあ良い。母上、早く衣装を出して下さい。・・・時間が無駄だ。」


「ほーんと、ユリウスは可愛くないわ。・・・これが衣装よ。細かい飾りが多いから、分からなかったら言って?」


お母さまは衣装が入った箱をお兄様に手渡す。お兄様は、お母さまからそれを奪うように受け取ると、さっさと隣の部屋に着替えに入って行ってしまった。


「ねー・・・エミリアちゃん・・・ユリウス君、めっちゃ可愛くなっちゃってるんだけど。どうしちゃったの、アレ?・・・あの顔、ほぼユリアだよね?似てたのは、子供ん時だけかと思ってたけど、今もなんだねー。・・・今日の髪型だと、女の子みたいだねっ!」


いつの間にか隣にやって来たリチャード様が呟く。

・・・リチャード様、それっ、お兄様の前で言ったら殺されるヤツだから・・・!


ロイド様も、お兄様が着替えに入って行った扉を、呆然と見つめている。


「・・・良いですか?リチャード様、ここからは地雷に気をつけて下さい。『可愛い』『童顔』は危険です!・・・いくら可愛くても、中身はお兄様ですからね!・・・観劇の帰りの馬車のあの空気!思い出して下さいね!」


私は、お兄様が着替えから戻って来る前に、慌ててリチャード様に釘を刺した。


リチャード様は、ハッとした顔になり、素直に頷いた。






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