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侯爵様は楽しい夕食がしたかった リカルドside

夕食の時間になり、俺たちは食堂へと移動した。


席に座り、談笑しながら食事をしていると、エミリアに連れられて、父上が遅れてやってきた。


父上は、やや着崩れた寝巻きにローブを羽織っており、病み上がりのせいか、ものすごい色気を醸し出していた。寝乱れた髪も、熱でまだ上気した肌も、気怠げな様子すら、生々しくエロい。


ユリウス様は、意識的に目を逸らす。ロイド様とエリオス様は、顔を赤くしたまま、父上をガン見している。


・・・男でも、あれは見ちゃうよな。息子の俺だって、気になってしまう。


なのにエミリアは、まるでお爺さんを介助するような感じで、父上を席に誘導している。・・・うん、エミリアはエミリアだ。やっぱり感覚がおかしいらしい。


「父上。・・・起きて大丈夫なのですか?」


「あ、うん。ごめんね、こんな格好で。・・・ちょっとだけ食べようかなって。」


父上は、だいぶ良くなった顔色で席につき、儚げに笑う。・・・破壊力がすごいな、これ。


エリオス様は赤い顔で、心配そうに見つめている。


「・・・なに?エリオス。大丈夫だよ。」


「いや・・・リチャード、あまり無理は・・・。それに、そんな格好で人前に出るな・・・。」


「もう!お父様!せっかくリチャード様が、お食事したいって言ったんですよ?・・・病み上がりだもの、寝巻きでも構わないじゃないですか。家族しか居ないのだし。ちゃんとローブも着せてきたし、冷えないですよ?」


エミリアが、エリオス様に言い返す。


・・・多分、エリオス様が気にしてるのは、そういう事じゃない。この、やたらと色っぽい父上が居た堪れないのだ。はだけた胸元からは、父上の白い肌がチラチラと覗き、とてつもなく艶かしい。


「今日の夕食はお魚なんですよ!って言ったら、少し食べたいなーって!・・・食欲がわいて良かったですよね、リチャード様!」


「うん。僕もお魚なら食べられそう。」


エミリアと父上は無邪気に夕食のメニューについて、ニコニコと話しているが・・・エリオス様もロイド様も父上の胸元に視線が行っている。


・・・わかる。わかるが、二人は見過ぎだ。


ユリウス様は、もはやそちらは見ないと決めたのだろう、黙々と食事に集中している。


「リチャード様、あんまり、脂っこいものは、胃がビックリしちゃうから避けて・・・よーく噛んで下さいね?」


「うん。・・・これは?」


「生野菜も消化に良くないから、少しにしましょうか。この、お野菜のスープは大丈夫ですよ?」


エミリアは甲斐甲斐しく、父上に消化の良いメニューを勧める。父上は少しずつエミリアが勧めた料理を食べている。


意識しはじめると、咀嚼するたびに動く父上の白く細い喉元が・・・なんともセクシーだ。

ロイド様は、もはやフォークを止め、父上が食べる様子に見惚れている。


「・・・リチャード、駄目だ!」


エリオス様は、カトラリーを置き、バンっとテーブルに手をついた。


「何?何がダメ?・・・え、これ、食べちゃ、ダメなの???」


父上は、付け合わせの茹でたニンジンを刺したフォークを見つめ、戸惑う。


「ニンジンは茹でてあるし、その位なら平気だと思いますよ?・・・お父様、何がダメなんです???」


「そ、そうではなくて・・・リチャードの、その格好だっ!・・・ローブだけでは寒そうなんだ!」


エリオス様は、立ち上がると自分のジャケットを脱いで、父上にかける。


「そんなに寒くないけど・・・???・・・ありがとね、エリオス。」


父上はエリオス様に礼を言いと、エリオス様のジャケットを羽織る。体格の良いエリオス様のジャケットは、細身の父上にはダボダボのブカブカで・・・これは、これで・・・なんだかヤバい感じになってしまった。


「・・・俺のジャケットを着るリチャードってのは、なかなか良いな・・・。俺のもの感がすごい。」


エリオス様は満足気に言った。・・・なんか、聞きたくなかったな、これ。


「?・・・そう?ダブダブだよ?」


「袖、汚さないように捲りましょう?」


何も分かっていないエミリアは、やはり何も分かっていない父上に袖を捲るようにジェスチャーを交えて言った。


・・・こうして、楽しく盛り上がるはずの夕食会は、父上の色気に当てられて、終わった。


エミリアと父上は呑気に会話していたが、エリオス様とロイド様は父上から目が逸らせない様で、ずっと父上を舐める様に見つめていたし、ユリウス様は一言も発せず、淡々と手本になる様なマナーで食事をし、俺はひたすらソワソワとその様子を眺めていた。


つまり、気分転換になる様な楽しい会話などは・・・まるで無かったのだ・・・。


父上は、だいぶ体調が良くなったのか、食後に一緒にサロンに行きたがったが、「まだ良くなっていないのだから、リチャードはもう寝るんだ。」と言われ、エリオス様に抱えられる様にして、寝室に連れて行かれてしまった。


・・・また、ぶり返してしまったら大変だからな。

そう思いつつも、念のため、今夜はもう父上の寝室に近づかないでおこうと、心に決めた。


◇◇◇


サロンでお茶を飲んでいると、ユリウス様があの芝居の件について話し始めた。


「あの芝居を見に行こうと思うのだが、エミリアとリチャード様も行きたいのだろう?・・・ロイド様にもお願いして、5人で観に行かないか?・・・ロイド様、不快かと思いますが、お願いできますか?」


「ああ、大丈夫だ。」


「行く!行きたいです、お兄様!・・・きっとリチャード様も喜びます!あ、まだ寝てないよね?話して来ます!」


俺はサロンを飛び出して、父上の部屋に行こうとするエミリアの手首をガッチリと掴んだ。


・・・いや、待て。まずいだろ。何かが起こってたらどーする気だ。


「エミリア、もう父上は寝たんじゃないかな?」


「そうかなー?昼間寝てたし、まだじゃない?」


・・・察しろっ!!!俺はブラックボックスは開けない派だし、そのあたりは自己責任だから!俺は笑顔のまま、エミリアの手首をさらに強く握る。


「エミリア、明日にしろ。・・・まだお前には話があるんだ。」


・・・ナイス、ユリウス様。

そう言われると、エミリアは素直にソファーに座った。


「なぁに、お兄様?」


「リカルドから、仮装で優勝を狙っていると聞いた。・・・本気で優勝を狙って欲しい。私もあの脚本家は突き止めておきたい・・・。これは、ロバート殿下の為にもなる。ロイド様も、ご協力頂きたい。」


「・・・不本意だか、ロバートの為だ。仕方ない。」


ロイド様が思いの外、あっさりと承諾した。

・・・まさか、まさかだけど、あのお色気の父上に絆されてないですよね???・・・めっちゃ父上を見てましたが。


エリオス様は仕方ない。

・・・だけど、ロイド様・・・さすがに息子としては、貴方に父上はお渡しできませんから!


俺がロイド様をジト目で見ていると、ふいにエミリアが言った。


「・・・あー・・・それなんですが・・・リチャード様じゃ無理かなって・・・。」


「まぁ・・・確かに、リチャード様のあの美貌では・・・な。」


ユリウス様はエミリアに同意する。


「美貌???・・・違いますって、お兄様。リチャード様じゃ、お爺さんすぎるんですよ。だってロバートっぽい役って、騎士団の新人って設定なんですよね?あんなお爺さんが新人って、ないですって。」


思わず、俺を含む三人で、エミリアを見つめる。いや、そう言う事じゃ無い。あの、男ですら見惚れる美貌の話だ。あの夕食がギクシャクする程のお色気っぷり見たろ???


・・・あ、エミリアは分かって無かったな。


「エ、エミリア?」


「いやー、リチャード様って、お爺さん臭いじゃないですか、物理的にも!あははは・・・!物理的にって、ほんと物理!!!あの枕、すごすぎた・・・!!!」


エミリアはブフォっと吹き出すと、ケタケタと笑った。


「ま、枕って?」


「あのね、リカルド・・・リチャード様の枕・・・ヤバイくらい臭かったの。超お爺さんの臭いなのっ!ぷはは。リチャード様、めっちゃ凹んでたしっ。・・・あの臭いで新人とか無いって。・・・むしろ仙人?あはは。」


エミリアはどうやらツボに入っているらしく、笑いが止まらないらしい。夕食前に水差しを持って行った時にでも嗅いできたのか。・・・何やってんだろ、父上とエミリアはさぁ・・・。

・・・枕の臭いを嗅がせる父上も父上だが、嗅いだエミリアもエミリアだ。・・・意味が分からない。


「わ、分かった。では、優勝は諦めてしまうのか?」


もう、エミリアには何を突っ込んでも無駄だと思ったのだろう、ユリウス様は話を切り上げ、エミリアに聞いた。


「うーん、そうね、リチャード様で勝つのは厳しいけど・・・お兄様が頑張れば優勝できるのでは?」


「は?・・・私が?・・・私が何を頑張ると言うのだ。」


「・・・そんなの、お兄様がロバート役をやるに決まっているじゃない。ロバートとお兄様は身長も同じくらいだし、体型も似ているわ。・・・お兄様って女顔で童顔だし、髪型でかなりお若く見えてよ?」


「・・・ほう。」


ユリウス様の冷たい笑顔に、俺は思わずビクリと身を固くする。ロイド様も、わずかにだが後退った。


「・・・お兄様の演技力を持ってすれば、ロバートの真似なんて余裕よね?嘘とかハッタリはお得意でしょ?その可愛らしいお顔なら、新人団員イケるわ。・・・お母様の一押しコンビ、爆誕よ!・・・で、予備でお父様とリチャード様を出したら良いわ。加齢臭バージョンだけど、細身の男と筋肉男のペアなら良いんじゃなくて?」


「・・・なるほど。それは思いつかなかったな。」


ユリウス様は、笑顔っぽい顔を作る。

この顔の意味は、エミリアには分かる筈だが、ユリウス様の顔も見ずに話を続ける。


「最初に言い出したのはお母さまよ。・・・衣装とか協力して下さるらしいわ。・・・あ、そうだ!ご不満ならお兄様の枕も嗅いで差し上げましょうか?新人でいけるか確認してあげる!・・・って、お兄様は匂いより、抜け毛が気になるところかしら・・・。ぷはっ。あはは。」


ロイド様はソロリと後ろへ下がり、俺は目を伏せる。もはやユリウス様を直視など出来ない。

ユリウス様には『女顔』や『童顔』は禁句だ。その上『抜け毛』まで・・・エミリア、死ぬ気か。


ユリウス様は、エミリアのヘラヘラした顔をグイッと持ち上げ、目を合わせると素晴らしい笑顔で言った。


「では、やろう。エミリア、楽しみにしておけ。優勝は俺たちのモノだ・・・。」


エミリアは、声にならない悲鳴を上げた。





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