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侯爵様は奥様と夜会に行く リカルドside

「なぁ・・・会うなり掴みかかって毟るなよ。」


俺は確認の為に、エミリアに念を押した。


「リカルド、大丈夫だって、まかせて!」


そう言って、意気込むエミリアに、俺は不安しか感じない。


・・・これは、どう考えても余計に面倒な事になってしまった。


◇◇◇


・・・そう俺ことリカルド・ワイブルと、その妻であるエミリアは、アルバート殿下が主催する夜会に来ている。


この夜会は、単純に言うと政治的な他勢力の夜会になる。

だから、本来なら俺だけで来るハズだったのだが・・・『俺たちの噂』のせいで、エミリアを連れて来ることになってしまったのだ。


『俺たちの噂』と言うのは・・・エミリアと俺の結婚はお飾りで、本当は俺とエミリアの兄、ユリウス様が愛し合っている・・・と言う、なんとも不名誉な噂である。


俺はユリウス様の補佐官をしており、確かに一緒に過ごす事は多いのだが・・・だからって、あんまりである。


俺は多くの男性と同じ様に、女性が好きだ。

万が一・・・万が一だが、何か間違いや心境の変化があったとしても、せめて人間がいい。


そう、魔王・・・魔王だけは、ない。


とにかく、この噂を払拭したかった俺は、しばらくは夜会にエミリアを同伴しようと・・・思った・・・の、だが。


薄毛・・・を・・・毟る・・・だと。


どうして、わざわざ魔王を怒らせるんだ?なぜ、戦う一択なんだ?

なんでエミリアは、そんなに好戦的なんだ?

やっぱり、ああ見えて、武官の名家スチューデント家の出だからか???


夜会で俺と仲良く過ごす。これをしばらく続ける・・・それで、良くないか???

それで噂は消えるだろうし、ユリウス様も近寄って来ないだろう。


エミリアの言う、『新婚さんらしいイチャイチャ』をしたっていい。


俺は、ロバートみたく甘い事は言えないかも知れないが、マナーやエスコートは苦手ではないし、エミリアが好きなシーフード料理が出ればすぐに取ってきてやるつもりだ。


・・・海老、蟹なら剥いてやっても良いと思っている。


これは、かなり『新婚さんらしいイチャイチャ』ぶりだろう。きっと、エミリアだって、ウットリだ。・・・大好きな海老・蟹も食えるしな。


それにしても、どうして、あの兄妹は絡むと、事態が斜め上に行ってしまうのだろう。


「はぁ・・・。」


俺は、もう何度目なのか数えられないため息を吐きながら、会場のドアを開けた。


◇◇◇


「リカルド、良く来てくれた。・・・ああ、エミリア!エミリアではないか!久しいな!卒業以来だ。」


主催者であるアーノルド殿下に、初めに挨拶に伺うと、エミリアを見留めたアーノルド殿下が、嬉しそうにエミリアに近づいて来た。


「ア、アーノルド殿下・・・ご、ご無沙汰しております。今夜はお招きいただき、ありがとうございます。」


「エミリア、会えて嬉しいよ。・・・色々な噂があるが、私がいつだって個人的に相談にのるぞ?エミリア、君は私の離宮に来たことがあったか?素晴らしい庭があるのだ、是非、案内させてくれ。」


アーノルド殿下は俺をチラリと見やり、エミリアを口説きにかかった。


嘘だろ・・・これは、完全に失敗だ。


殿下は以前、エミリアの家の後ろ盾を欲しさに彼女を狙っていたが・・・まだ諦めていなかったのか?


しまった。

・・・もう、俺たちは結婚しているのだからと、油断していた。


・・・殿下は格好良い。俺みたいな中性的な顔立ちでなく、キリッとした美形で男らしい。

・・・エミリアの大好きなロマンス小説に出てくるヒーローみたいな風貌だ。

ロバートみたいな甘さはないが、肉食系と言うかガツガツ来る押しの強さがあり、常に女性に囲まれている。


「殿下、お誘いありがとうございます。ですが、ご相談に乗っていただく様な事は何もありませんわ。・・・お庭、素敵なんですね。ですが、さすがに我が家の薔薇園にはかなわないと思いますわ。」


エミリアは、キッパリと断ってくれた。

俺はあからさまにホッとする。


・・・そう、ワイブル家の薔薇園は、美しい事で有名なのだ。・・・まぁ、維持には相当金がかかるので、苦労の種の一つではあるのだが。


「でも、気が向いたら、いつでもおいで?私は待っているよ。」


そう言って、殿下はエミリアに微笑みかける。


しかし・・・なんだよ、これ。

夫の前で、これは酷くないか?


何だ?・・・こいつは、まさか本当に俺とユリウス様がデキているという噂を間に受けているのか???

だから、殿下が直々にエミリアを慰めて下さると?


・・・ふざけるな!!!


「殿下、どの様なおつもりで?エミリアは私の妻、なのですよ?」


「ああ、リカルド。君はだいぶ妻を蔑ろにしているらしいからね・・・おっと、あちらでもご挨拶せねば。では失礼するよ。・・・またね、エミリア。」


アーノルド殿下はそう言うと、エミリアだけに笑いかけ、別の招待客の元へ行ってしまった。


なんだか、不愉快極まりない。


「リカルド・・・アーノルド殿下って、相変わらずキモいのね。」


エミリアが座った目で言う。


「ああ。」


良かった。

やっぱりエミリアはアーノルド殿下が依然として苦手な様だ・・・。こいつは銀髪が、本当にダメなんだな・・・。


しかし・・・何か、何かおかしくないか?

アーノルド殿下は何故、今更エミリアを口説く?

俺とユリウス様の関係を本当に疑って???

・・・殿下は学友であり、学園ではずっと同じクラスだった。この噂が真実でない事くらい、分かるはずだ。


何かがおかしい。


俺が、考え込んでいると・・・。

「リカルド・・・。エミリアを連れてきたのか・・・。」

穏やかな声が聞こえてきた。・・・ユリウス様だ。


俺が顔を上げると、そこには珍しく困惑した顔のユリウス様がいたのだ。


◇◇◇


ユリウス様と合流した俺たちは、深刻な顔をしたユリウス様に言われてすぐに控え室に移動した。

毟る気満々だったエミリアも、その様子に毒気を抜かれて、大人しく従った。


控え室に入ると、ユリウス様はすぐに鍵をかけ、部屋を調べはじめた。


安全だと判断したのだろう。

ユリウス様にソファーに座る様、促される。


「・・・ユリウス様、何か不都合が?」


「ああ。非常にマズい。」


「お兄様・・・?」


「・・・。エミリアもリカルドも落ち着いて聞いてくれ。・・・特にエミリア、お前だ。話を聞いても、絶対に何もするな。短気は起こすなよ。」


「はぁ?私は割といつも冷静ですわ。短気なんて起こしませんわ。」


俺は、思わずマジマジとエミリアを見てしまった。

・・・さっきまで、短気を起こしてユリウス様の毛を毟る気だったのは、誰だ???


エミリアは、ツンと澄ました顔をしている。


「どこから話すべきか・・・。エミリアも、私とリカルドがロバート殿下の陣営なのは分かるね?」


「それは勿論、知ってますわ。」


この国は王政ではあるのだが、次期国王は王位継承権のある者の中から、議会によって選出される。

つまり、各王子は自分の陣営を率いて、多くの支持を集め、次期国王の座を得る事となる。


「ああ。それで・・・今一番、次期国王として有力視されているのが、ロバート殿下だ。・・・その次が誰だか、エミリアは知っているかい?」


「え?・・・第一王子あたり・・・?」


「まぁ、順当ならね。・・・だが、彼はあまり優秀ではない。・・・人柄も微妙だから、支持も薄い。彼では勝てないのは目に見えてるから誰ものらない。第三王子はもっと悪い。優秀でない上にスキャンダルまみれだ。・・・第四王子のアーノルド殿下は優秀だが、彼の母親である第三夫人がダメだ。実家が弱いだけならまだしも、問題まみれの上に権力に固執している。彼にのるとなると、舵取りが難しいだろう。・・・つまり、残るは第二王子のフリード殿下だ。」


「フリード殿下・・・?」


「・・・私もね、ロバート殿下が現れるまでは、彼だと思っていたよ。・・・彼は優秀だし、クリーンだ。少し体が弱いところがあるが、問題にする程ではない。母親も正妃様だ。」


「・・・では、お兄様は何故、ロバート殿下なのですか?」


・・・エミリアのこう言う所は、やはりユリウス様の妹で賢いのだなぁと思う。


ユリウス様は、満足そうにエミリアに笑いかける。


「そうだね。・・・フリード殿下、彼は・・・まぁ・・・人を人と思っていない所があるんだ。・・・表面上はね、穏やかな人物だが・・・彼にとって、人はチェスのコマの様なものだ・・・。私はそれが恐ろしい。・・・私はね、この国は民の努力によって作られていると思っている。そして、私たちは彼らの幸せの為に尽力しなければない。・・・民も私たちもコマではない・・・エミリアもリカルドも幸せな人生を送りたいだろう?それは民も同じだ。」


「はい。」

エミリアは、神妙な顔で頷く。


「だからこそ、その幸せの為に、なによりも国の安寧を願わねばならない。・・・私はね民には和平が何よりであると思っているのだよ。」


「第二王子は、その様なお考えではないと?」


「・・・そこまでは・・・まだ分からない。ただ、情に欠けるお方なのは確かだ。その様な選択をされる可能性は有るだろう。・・・ロバート殿下は辺境の出で争いの悲惨さを良く分かっておいでだ。和平を望むお心が強い。・・・彼は優秀で情も深いが、情に流される方でもない。・・・清濁あわせ呑む寛容さがお有りだ。・・・だからね、私は彼に仕えると決めたのだよ。」


「お兄様・・・。」


「私はね、この国と民を守りたいんだ。もちろん降りかかる火の粉は振り払うが、自ら他国との争いにコマを進めるべきでは無い。この国と皆の幸せの為に・・・私は宰相となるのだと決めている。」


俺は、ユリウス様の思いに深く感じ入った。・・・そう、これがユリウス様を尊敬してやまない所以だ。

時々、意地悪で魔王でも、ユリウス様はいつも高潔だ。


「・・・?でも、冷静に聞いて欲しい事って、この話じゃないですよね???」


「そうだね。・・・少し前置きが長すぎたね。・・・簡単に言うとね、第二王子の陣営は、うちの陣営に内乱を起こさせる気なんだよ。・・・で、うちの陣営でキーマンである、私とリカルドに目を付けた。・・・まぁ、どう考えても、狙うなら私よりリカルドだろう。リカルドは狙われていたのだが・・・分かっていたか?」


え?俺???


俺はユリウス様を驚いた顔で見つめた。

そんな物騒な気配など、あっただろうか???

しばらく考えてみたが、いまいちピンとこない。そう言うの、鈍い方ではないのだが・・・。


「・・・そうか。リカルドは狙われていた事には気付いてすらいなかったのか。・・・狙っていたのは、命ではないぞ?リカルド、君のスキャンダルだ。」


「俺のスキャンダル???」


ユリウス様は、はははっと乾いた笑いをし、さらに続けた。


「夜会で、あれほど誘われていたろ?・・・ハニートラップだよ。・・・堅物で鈍感なリカルドは靡くどこか、気付いてもいなかったとはね・・・ある意味、さすがだよ。・・・私とリカルドは義理の兄弟だ。さすがに君が浮気したら俺たちは険悪になるだろう。確実に足並みが乱れる。・・・それを狙っていたんだ。まぁ、そこまでいかなくとも、君に噂の女性が現れたら、エミリアが怒る。エミリアの事だ、大騒ぎで離婚だ別居だと言い出すだろう?その処理に君は追われる。私が今の時点で信頼しているのは基本はリカルドのみだ。この時期に、君が居なくなるのは、かなりのマイナスになる。・・・だから、仕方なく私とリカルドの噂を流したんだよ。私と一緒にいる事で下手なトラブルも避けられるし・・・私とリカルドなら、エミリアはどうせ私に怒りを向けてくるだけだろうからね。・・・で、怒鳴り込みに来たんだろ?エミリア?」


エミリアは、俯いて小さく「はい・・・。ごめんなさいお兄様・・・。」と呟いた。


「でも、ここからが計算外だ。・・・まだ確信は無いが。」


「計算外・・・ですか?」

ユリウス様の話を聞く限り、事は順調に回避されたと思うのだが。


「リカルド、さっきのアーノルド殿下の態度、あれをどう思う?」


アーノルド殿下の態度・・・。


「エミリアを誘っている様でしたが?」


ユリウス様は、顔を顰めて言った。


「第二王子の陣営は、アーノルド殿下を利用する気なのでは無いだろうか?・・・そして、彼は捨て駒にされるのではなかろうか?・・・アーノルド殿下は、エミリアと不倫の末に駆け落ちするのでは無いだろうか?」


「は?」

「え?」


俺とエミリアは顔を見合わせた。

エミリアも驚いた顔をしている。


「お、お兄様?・・・私、いくら何でも、アーノルド殿下と浮気なんかしてませんし、駆け落ちもしませんよ?」


さすがに俺も、エミリアの不貞を疑われては黙っていられない。


「そうです!ユリウス様。やめて下さい!エミリアは浮気するタイプではありません!・・・浮気は確実に面倒くさいですから!・・・本気なら俺を裏切るかも知れませんが浮気するタイプではありません・・・!」


「え、リカルド。地味に酷い。」


「信頼している。その怠惰さは信頼に値する。」


「・・・。」


エミリアは、なんだか微妙な顔をしているが、信頼している事を伝えたのだ。問題ないだろう。


ユリウス様はクスクスと笑い出した。


「ま、まぁ、信頼関係は大切だよね。夫婦には。・・・リカルド、エミリア、私はね、自分からエミリアが浮気するとも駆け落ちするとも思ってはいないよ?」


「では、何故・・・?」


「リカルド、もしエミリアとアーノルド殿下が消えたら・・・今日の様子を知っていた者はどう思うかな?・・・私と君には噂もある。・・・エミリアは、アーノルド殿下の学友だ。相談しに行くうちに恋仲になった・・・とは考えないか?」


エミリアはサッと青ざめて、俺の手を握り締めた。


「これはイイ作戦だと思わないか?・・・ここに二人の意思など関係ない。見る限り、アーノルド殿下は焚き付けられているのは確実だ・・・。二人が消えれば、アーノルド殿下を廃する事ができるし、エミリアを失ったリカルドと私を混乱させる事もできる。・・・いや、エミリアに関しては、それだけに留まらないだろうな。エミリアを溺愛している父上や・・・ロジスティック家までも混乱に陥れられるだろうね・・・。この考えに確信は無いが、可能性は高い。」


ユリウス様の話を聞きながら、俺もエミリアの手を強く握る。


「エミリア、アーノルド殿下には気をつけろ。リカルドの言いつけをよく守り、ワイブル家から出るな。リカルドもお前の父上であるリチャード様をワイブル家に戻せ。リチャード様でも居ないよりマシだ。」


俺たちは、手を握り合い、ユリウス様の言葉に頷くしかなかった。



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