誤解しないで冷静に リカルドside
「エミリア、ロイド様・・・どう言う事だ?」
ユリウス様は、努めて冷静に二人に尋ねた。
◇◇◇
事の起こりは、こうだ。
久しぶりに早々と屋敷に戻った俺とユリウス様は、中庭からエミリアとロイド様の声が聞こえてきたので、何とは無しに足を向けたのだ。
珍しく、二人はいがみ合わずに仲良くやっている様で、俺たちは少しホッとしていた。
しかし近づくに連れ、ハッキリ聞こえてきたのは・・・ロイド様による、エミリアへの愛の告白?・・・だったのだ。
「・・・お前が欲しい・・・」
「・・・リカルドと別れて・・・」
・・・俺は、全くの理解出来ない事態に、固まるしかなかった。
これも・・・またしても『誤解』なのか???
あからさまな愛の告白にしか聞こえないが・・・???
ユリウス様を思わず見つめる。ユリウス様も微妙な顔つきで首を傾げていた。
・・・そもそも、だ。
ロイド様とエミリアは・・・仲が良いどころか・・・敵同士みたいでは、無かったか?ロイド様だって、エミリアと父上に手を焼き、いつも腹を立てていた筈だ。
この間だって、父上とエミリアをご丁寧に鍵までかけ、サロンに閉じ込めていたではないか・・・これが、愛する女性にする事だろうか?・・・絶対に違うだろう。
では、やはり何か・・・誤解なのだ。
しかし・・・ロイド様は、エミリアを何が欲しいのだ?・・・まさか、旋毛か。エリオス様によると、世界一の可愛さらしいからな・・・。
いや、いや、だからと言って、俺と別れろは酷いだろう。別れろって、別の意味もあったりするのか?・・・別の、意味???・・・思いつかないが。
中庭までやってくると、目を輝かせてエミリアを追い詰めるロイド様と、焦った顔で後退りしているエミリアが目に飛び込んできた。
・・・どう見ても、ロイド様がエミリアに迫っている様にしか、見えない。・・・いやでも、誤解なんだよな???
ロバート殿下の件があった俺たちは、この光景に、ひたすら混乱するばかりだ。
俺とユリウス様に気づいたエミリアは、驚いた顔をした後に、ササっと俺たちの背後に隠れた。
・・・嫌な奴に告白されて、逃げている様にしか・・・やっぱり見えないのだけど。・・・うーん。
でも、ロイド様がエミリアを???
無いよ・・・なぁ???
グルグルと思考を巡らす、俺をよそにユリウス様は冷静に二人に何があったのかを尋ねたのだ。
◇◇◇
「ユリウス殿。エミリアには諜報員としての才に溢れている。・・・だから、どうしても、うちの騎士団に欲しいのだ。」
「はいっ?」
ユリウス様から素っ頓狂な声が出た。
・・・分かる。分かります。エミリアが諜報員に向いているなど・・・あり得なさすぎる。あのウッカリでボンヤリで残念なエミリアに、何が諜報できると思ったのだろうか。
「しかも、暗殺にも長けている。」
「なっ?はぁ?」
冷静なユリウス様が、かなり崩れてきた。
ですよね、エミリアが暗殺って・・・蚊か何かの話か?
確かに、蚊を叩くのは得意だった気がするが、あの鈍いエミリアにみすみす殺される間抜けな人間は、そう居ない。
「すいません、ロイド様。私の認識と、ロイド様の認識に随分と剥離がある様です。・・・エミリア、お前はいつ、誰を暗殺したんだい?」
「お、お兄様。私・・・誰も暗殺なんかしてませんわ!えっと・・・キリ投げが得意なんです。」
・・・キリ投げ???
ユリウス様もとうとう固まってしまった。
なぜ、エミリアはキリを投げるのだ。しかも『得意』とは?!・・・意味不明のエミリアワールドが炸裂だ。
「よし、エミリア、ユリウス様に見せてやれ。」
ロイド様は誇らしげに、エミリアを促す。
そして、屋敷の壁を指差した。
・・・は?
屋敷の壁には丸印が落書きされ、沢山の穴が空いている。
・・・な、な、な、何をしてんだよ!!!
補修にいくら金が掛かると思ってんだ!!!
やめてくれよ。我が家はお金もないけどさ・・・それより、ワイブル家の先祖代々受けつがれた、この白亜の屋敷は薔薇園と並んで有名なんだぞ!!!
「貴族の美しき館」でベスト3に入る、超有名な建物なんですけどーーー!!!それ、分かってやってるー?!
思わず、二人を睨む。
ロイド様は偉そうにエミリアにキリを渡している。
どうやら俺が睨んでいる事には、・・・気づいてくれない様だ。
まあ良い・・・。いや、全く良くないが、とりあえずエミリアのキリ投げを見るしか無さそうだ。
・・・後だ。後でキッチリ精算させよう。
「エミリア、ここに投げろ。」
ロイド様はエミリアに丸を示す。大きさ的にはちょうど人の頭くらいの丸だ。
エミリアは、コクリと頷くと、少し離れた位置からキリを投げ、事もなげに丸の真ん中に突き刺さした。
・・・え。す、凄いな。
「次はこっちだ。」
そうやって、ロイド様の指示通りに、エミリアは丸にキリを当てていく。
「・・・エミリア???お前は、何故そんな事が出来るんだ?・・・いつ、そんな事を覚えた???」
ユリウス様が、エミリアの肩を掴み、詰め寄る。
「うーん。何となく?このキリと相性が良いだけかも?」
エミリアは曖昧に笑う。・・・何となくで変な事をするのは、エミリアの定番だ。
「あ、そうだ!エミリアお前、両利きだろ。左手でもイケるのか?」
ロイド様は興奮気味にエミリアに聞く。
「あー・・・どーでしょ?やってみます。」
そう言って、エミリアはキリを左手に持ち替えて、投げる。・・・左でも、丸のほぼ真ん中にキリは刺さった。
「わぁー・・・出来ちゃうみたいです!」
・・・すごい。左手でもあんなに正確に投げられるとは、確かにすごい。
あまりの事に、俺とユリウス様は顔を見合わせる。これは・・・ロイド様が騒ぐのも分かる。
こういった事がお好きなのだろう、ユリウス様は興奮気味に言った。
「エミリア、これも投げてみてくれ。」
そうして、自分の懐から小さなナイフを取り出し、エミリアに渡す。
・・・あはは。
ユリウス様、色々とお持ちなんですね。あの仕込み杖だけでは、無いのですね。懐にナイフですか・・・。
ホント、この人は逆らったらダメなヤツ・・・。
「お兄様???私は、ナイフは投げられませんよ?キリ専ですから、私。」
そうは言ったが、エミリアはナイフを受けとり、ひょいっと投げた。・・・ナイフでは丸にすら届かず、カチャリと地面に落ちてしまう。
「えっ?ナイフだとダメなのか?!・・・ナイフが投げられないのは惜しいな。・・・やはりエミリアは意味が分からない・・・。」
ユリウス様は首を傾げ、少し考えると、また懐から小さいナイフを出し、壁に投げた。ナイフは丸の中心に、深々と刺さる。・・・それはもう、グッサリと。壁に埋まる勢いだ。
・・・え。
ユ、ユリウス様。
そんな事もお出来になるのですか・・・すごい・・・。
いや、待て。
てか、壁。壁だよ。
壁やめて・・・。ほんと、困るから。あれ、簡単に抜けないヤツでは・・・?
「そうだ!エミリア。私がナイフ投げを教えてやろう!キリより殺傷力が高くて、汎用性が高い!」
ユリウス様は、ニコニコとエミリアの手を取り、また懐からナイフを取り出して渡す。
・・・何本、持っているんだ、あのナイフ。
ユリウス様こそ、諜報員向きじゃないの?それ?
「・・・あ、あの。ユリウス様。エミリアは、俺の奥さんで、ナイフを投げなくても問題無いと思います。あ、あと、俺はエミリアと離縁するつもりもありませんので、ロイド様の騎士団にも渡せません。・・・エミリアは、それで良いよね?」
思わず、エミリアに確認する。
ナイフ投げしたいとか、騎士団に入るとか、俺と離縁したいとか、言わないよね?!
「えっ!も、もちろん!もちろんだよ、リカルド!私は、リカルドと離縁しません!騎士団もナイフ投げも絶対に嫌です!私は、ラブ&ピースに生きるんですっ!」
エミリアは、ロイド様とユリウス様から離れ、俺に腕を絡ませて、二人にビシッと釘を刺すように言った。
「では、エミリア、リカルド殿に捨てられたら、私の所へ来い。」
ロイド様は、未練がましく食い下がった。
「いや、リカルドに捨てられた不肖の妹は、私が面倒を見ますから、ロイド様のご心配には及びません。・・・騎士団にもロイド様にも、私はエミリアをお渡しするつもりは無い。」
何故かユリウス様は、ロイド様に受けて立つ気らしい。
ロイド様を睨みながら、言い捨てる。
「いや、ユリウス殿も嫌気がさす!」
「いいえ。ロイド様こそ、嫌になりますよ。」
・・・二人は口論を始めてしまった。
「・・・何で私がリカルドに捨てられてる前提なのカナ?」
俺の隣で、言い合うロイド様とユリウス様を見ながら、エミリアはポツリと呟いた。
「さあ。・・・そんな予定は無いぞ、俺は。エミリアはあるのか?」
「んー・・・そんなの、私も無いよ?・・・でもなぁ、人生何があるか分からないからなぁ。・・・お兄様もロイド様もキープしといた方が良い?」
「俺は・・・人生何があっても、エミリアを手放さないよ?・・・だから、キープは必要ないと思うな。」
俺がそう言うと、エミリアはギューっと抱きついてきた。それを俺も緩く抱き返す。・・・エミリアでは無いが、俺もラブ&ピースがいい。
あ、そうだ、その前に一言、二人には言っておかなければ・・・。
「・・・ものすごく申し訳ないのですが、我が家は貧乏です。・・・その壁の修理代・・・ロイド様とユリウス様にもご負担いただきますから、よろしくお願いしますね。」
俺はエミリアを抱きしめたまま、言い合う二人を制してそう言った。




