可愛い人形 エミリアside
アルベルト人形の作成話です。
◇◇◇
アルベルトのブローチを作りたいと言う、リチャード様の為に、私はその日、ロイド様から時間をもらった。
サロンにはリチャード様と、何故かやる気のロイド様が私を待ち受けていた。
・・・ロイド様、どうした?
まぁ、いいけど。
「えーっと、まずはブローチでなく、小さいお人形を作ってみましょう。ブローチにする程小さいのは、なかなか難しいですから、まずは練習ですね。・・・では、紙にデザインを書いてください。」
私はまず初めに、10センチ位のお人形を作ってみる事にした。二人とも針や糸を持った事すらないだろうし、その練習も兼ねてだ。
二人は真剣な顔で頷くと、紙にデザインを起こしていった。・・・良いデザインの方を、みんなで作ろう。
自分のデザインがお人形になったら楽しいが、各自バラバラでは見るのが大変だ。同じ方がやり易い。
「エミリアちゃん!出来た!・・・どうかな?」
そう言って、リチャード様が私に紙を手渡して来た。
・・・えーっと、どれどれ・・・。
・・・。
・・・。
・・・さすが、リチャード画伯。
全く馬に見えない、キリン?ブラキオサウルス?・・・なんだか首の長い生き物の落書きが書かれている。
こ、これは、ない。
「リチャード様・・・全くアルベルトに見えません。」
「え、えー???・・・何がダメ?」
・・・何って・・・。
全体にダメだろ。馬に見えない時点でアウトだ。
まぁ、リチャード様が画伯なのは、落書きの様子から薄々気が付いてましたが・・・酷いなコレ。
「エミリア、私も出来たぞ。」
私が返答に困っていると、すかさずロイド様も紙を渡して来た。
・・・えーっと、こっちはどんなだ・・・?
・・・。
・・・。
・・・ロイド様、凄いな。
そこには紙いっぱいに、力強く疾走する馬の様子がリアルに書かれていた。美しいタテガミが風になびき、しなやかな筋肉の動きまで表現されたその絵は・・・もはや、絵画であった。
・・・しかし。
これをどうやって、人形にしろと???
私たちは縫い物の初心者だ。
刺繍が得意なお母さまなら、刺繍するのは可能そうだが、つくりたいのは人形だ。二次元ではなく三次元。
・・・これを人形にできたら、もはやそれで生計を立てられるレベルだろう。
「・・・ロイド様、すごく素敵な絵ですが、これを人形にするのは、とても難しいです。」
「・・・そうか。私ではアルベルトの美しさを表現しきれなかったか・・・。」
・・・いや、いや、いや。そうではない。
全く違う。
作りたいのは、可愛いアルベルト人形だ。
そもそも、この劇画タッチから言って、なんだか方向性が違うのだ。
「えーっと、じゃあデザインは私がしますね?」
あまり、絵は得意ではないが、リチャード様以上、ロイド様未満の私がやってみよう・・・。
・・・可愛い、お馬さん。
・・・。
ふと、私の頭によぎったのは『ぐんうまたん(仮名)』だ。
北関東にある、G県のご当地キャラクター。
正式名称はここではやめておく。商標的な何かとか、著作権的な何かがあったらまずい。
・・・デザインも、丸パクリはよそう。
リチャード様みたいに、身近に転生者がいたんだ。
G県出身や、『ぐんうまたん(仮名)』の関係者が転生しているかも知れない。・・・何らかを侵害したとかで、賠償問題に発展したら大変だ。
えっと・・・そうだ、尻尾をデカくしよう。アルベルトの尻尾はフサフサだ。
あと、目だな。アルベルトの目はクリクリのキラキラだ。目もデカくしよう。
・・・うん。なかなか可愛いぞ。よし!
「こんなのは、どうでしょう?」
私はデザイン画を見せると、二人は覗き込んできた。
「うわぁ、可愛いー!エミリアちゃん、凄くイイね!」
リチャード様は気に入ってくれたらしい。とても褒めてくれた。
・・・ロイド様は、なぜか「?」と言う顔をしている。
「・・・ロイド様は、イマイチですか?」
「あ、いや。・・・馬、だよな?・・・可愛いが、二足歩行はしなくないか?」
・・・当たり前だ。これはキャラクターだもの。
「・・・ロイド、頭固すぎじゃない?・・・アルベルトは、立ってる方が良いって。これ、可愛いよ!・・・ね?エミリアちゃん。」
「・・・そ、そうだろうか?」
「・・・ロイド様、これはデフォルメされたキャラクターですから、二足歩行でも良くないですか?・・・アルベルトの可愛さが表現できてれば、問題ないと思うんですけど・・・?」
・・・騎士様って、頭が固いんだろうな。可愛いマスコットを作成するのに、あんな劇画タッチな馬を描いちゃうくらいだ。きっと、おじいちゃんみたいな頭の中なんだろう。・・・リチャード様より若いのに、お可哀想。
「???・・・そうなのか?」
「そうだよ!ロイド、くどいよ!・・・これ、可愛いよ?!」
「・・・可愛い・・・???・・・可愛い気も?する???」
なんだか、納得いかなそうだが、これは、なかなかの可愛さだと、自分でデザインしたが思う。
まぁ、元々の『ぐんうまたん(仮名)』が可愛いので、それを軽くいじっただけでは、変になりようがないのだ。
「ロイド様、これはなかなか可愛いくできてると、私も思いますけど・・・?」
「僕もそう思う!すっごく、可愛いよ!!!早く作ろう!」
「ですよねー!リチャード様ー!・・・まあ、お堅い騎士様には理解出来ないかもですが。」
「・・・。」
ロイド様は、デザイン画を見つめて、考え込んでしまった。
「ねー、エミリアちゃん、アルベルト、裸って可哀想じゃない?お洋服着せようよ!」
「あ、そうですね!」
リチャード様に言われ、そう言えばベストを着てる『ぐんうまたん(仮名)』もいたなぁと思い出し、ベストをデザイン画に書き足す。ベストは・・・やっぱり青かな?
「よし、これでどうでしょう!」
「あ、いーね!さらに可愛いー!」
「・・・!!!」
私とリチャード様が納得して、デザイン画を見ている横でロイド様が固まっている。
「え?なに?・・・ロイドは何か不満?」
「・・・何故ベストを着せたんだ?」
「え・・・裸じゃ可哀想じゃないですか?」
「そうだよ!裸じゃ可哀想だよ。・・・え、ロイド大丈夫?」
なんだか、ロイド様は変な顔で固まっている。
・・・え?どこが変なんだろう???
だって、少しアレンジしてるけど、ほぼ『ぐんうまたん(仮名)』だよ???・・・普通に可愛いだろ???
ベストだって色を変えただけだし、可愛く書けてるよね???
「私は・・・服が無い方が良いと思う。」
ロイド様は言いにくそうに、ぽそりと言った。
・・・はぁ???・・・まぁ、裸でも可愛いとは思うけど、なんか、書いたのを、わざわざ脱がせるとか・・・ないわー。
「・・・なんか、服無し希望とか・・・ロイド様・・・きもい・・・。」
「・・・僕もそう思う。・・・ロイドって、お人形を裸にしちゃうタイプなんじゃない?・・・きもいよ!」
「わ、私は!人形など持っていた事がない!!!」
私とリチャード様に、じっとりと睨まれ、ロイド様は真っ赤になった。
「・・・じゃあ、アルベルト人形のお洋服を、脱がせないで下さい!」
「・・・そうだよ!服を脱がすとか、エロいから!僕も絶対に許さないよ。アルベルト人形を、そう言う目で見るとか、ホント無いから!」
「ま、まて!!!何で私がアルベルト人形をそんな目で見ると思われているんだ?!!・・・そもそも普段、アルベルトは裸だろう???」
・・・馬は馬だろ。裸とか、裸じゃないとか、そう考えてる時点で、ロイド様・・・ヤバい。
「・・・ロイド様、アルベルトを裸とか言うの、おかしいですよ?」
「そうだよ、アルベルトはあの姿でアルベルトだよ?馬なんだからさ。裸とか考えてる時点で、ロイドは変態だよ。・・・僕のアルベルトにいかがわしい事したら、許さないからね!」
「待て、本当に待て。・・・アルベルトは可愛いとは思っているが、なぜそうなる!!!」
ロイド様は、必死で取り繕っているが、私とリチャード様は今後、二度とアルベルトとロイド様を二人っきりにはしないと、アイコンタクトで決めたのだった。
◇◇◇
翌日。
「聞いてくださいよー!リチャード様!・・・なんか、リカルドも馬は全裸派とか言って、アルベルト人形の服なしを希望してきました!」
「・・・まじで?・・・僕、育て方間違えちゃった?」
「うーん。・・・もしかすると、一定数、馬は全裸派が存在するのかもですね・・・。ほら、チェスのナイトみたいな感じの、馬モチーフは服を着てないですし。」
「あー、リアルなやつね・・・。そう言えば、あんまりリアルじゃない動物のデザインって見ないかも?リアル嗜好の人が多いなら、全裸派も納得かー・・・。」
・・・あ。
あー!!!
・・・この世界にはデフォルメキャラっていないかも!!!
人形と言うと、ビスク・ドールみたいなのを言うし、動物の人形は、リアルめで、目玉がガラスとかになってる、獣の毛を使った本格的なやつしか見た事ないかも・・・。
・・・なんとなく、昨夜のリカルドの反応や、昨日のロイド様の反応が変だった理由が分かった気がした。
あー・・・。
いないのか、二足歩行の動物キャラや上半身だけ服着てるキャラって・・・。だから変に引っかかるのかー。
リアルな感じの馬が二足歩行で上半身のみ服着てるとか、確かにないわ・・・変態感ハンパないわ。
そっか・・・そういう事ね。
リチャード様の援護射撃のせいで、こっちの常識に気づいてなかったのかー・・・。
やっちゃったかなー・・・。
「・・・でも、まぁ、アルベルト人形は可愛いから、アリですよね?」
「そうだね、アリだよ、アリ。このアルベルト人形、ほんと可愛くできたって、僕も思う!」
私とリチャード様は、そう言って微笑み合った。




