呪いの人形 リカルドside
今回は少し短め。新婚夫婦の夜の寝室でのお話。
今日はいつにも増して、仕事が忙しかった・・・。
少し遅くなって、屋敷に戻るとエミリア達はもう就寝したと言われた。
・・・この時間だ、仕方がない。
・・・食事を済ませてシャワーを浴び、寝室に向かう。
あーだるい・・・。
エミリアを起こさないように、そおっとベッドに入り目を閉じる。
・・・ああ、すげー疲れた・・・。長椅子で寝るより、やっぱベッドは気持ちいいな・・・。
そう思って、静かに体を横たえると、まるで溶けていきそうだった。
「リカルド・・お帰り。」
エミリアに声を掛けられ、ハッと目を開ける。
・・・速攻で、寝落ちしそうだった。
「ただいま。」
そう言って隣にいるエミリアを見つめると、目が合う。エミリアはすこしくすぐったそうに笑った。
・・・可愛い。
・・・今夜も、うちの奥さんは、とっても可愛い。
あー・・・寝ようと思ってたけど・・・どうしようかな・・・。
・・・エミリア・・・。
思わず抱き寄せようと手を伸ばす。
なのに、エミリアは俺の手をヒラリとかわして、ベッドから降りてしまった。
・・・え???
おれが、呆気にとられていると、エミリアは、ベッドの横のテーブルから何かを取り出した。
「じゃーん!見て!コレ、今日ねリチャード様とロイド様と作ったの!リカルドにあげるね!」
そう言って、俺にエミリアは『呪いの人形?』を手渡した。
・・・えええ・・・何コレ。怖いんですけど・・・。
その人形は、茶色の肌で上半身に青い服を着ており、手足が5本もあって異様に目が大きく、真ん中にだけ白い髪が生えていた。
「・・・こ、これは?」
「アルベルトだよ?」
・・・???
・・・アルベルトはポニーだよな?
何で・・・上だけ服を着ているんだ???この5本の手足だと思っていたのは、前足と後足と尻尾なのか・・・???
ええ・・・何で馬が二足歩行っぽくなってんの???
人・・・みたいだよね、これ?ええ・・・こ、こわいんだけど・・・!
「な、なんでアルベルトは服を着ているんだ?」
「え・・・裸とか・・・エッチじゃない?」
「・・・アルベルトは・・・いつも裸だろ?・・・エミリアはアルベルトをそんな目で見てるのか?」
・・・ええ・・・だとしたら、ひくんだけど。
馬って常時裸だよね?鞍ぐらいはつけるけど・・・。
それがエッチって、どんな見方してんだよ・・・!?
・・・俺の奥さん、大丈夫か???
「えええ・・・なんでリカルドまで、そうなるの?アルベルトは馬だから服を着てないのは当たり前でしょ?どうして裸とか言うのかな?・・・でも、お人形は・・・お洋服着せたくない?裸じゃ可哀想じゃない?」
「いや、人ならな???・・・アルベルトは馬だし、しかも・・・上半身だけ服を着せるとか、どういう趣味だよ?!」
「え・・・・?・・・いや、上半身だけでも、おかしくないよね???」
「いや、変だろ。俺やお前が上半身しか服着てなかったら、大問題だろ?」
・・・おかしいよな?!人形に・・・馬だけど・・・上半身しか服着せないとか、変態だろ?売られている人形はみんなお洋服をちゃんと着てるだろ???・・・えー・・・何でそんな事思い付いた???
ええっ???・・・まさか・・・エミリアって実は、そんなマニアックな趣向なの???
・・・俺は無理だぞ、それ??
「!!!・・・リカルドの変態!どうしてそうなるの?」
・・・はい?
・・・どう考えてもド変態はエミリアだろ???なんで・・・俺???・・・何で怒られてんの?
あ。・・・あの格好に深い意味は無いって事か???・・・いやー、それはそれで問題なんじゃ・・・?だって、この格好・・・どう見てもヤバいだろ???
・・・これが変じゃないと思うなら、・・・エミリアの感性が相当な変態なんじゃ・・・???
「・・・いや、いや。コレ作ったの、エミリアだろ?・・・相当な変態はお前だろ?」
「だーかーらー!そういうのだよ!!!何で私が変態になるのかな?変な目で見るからそうなるんだって!!!・・・もう、リカルドまで、アルベルト人形をいやらしい目で見るなんて、許せない!!!」
そういうと、俺の手から『呪いの人形?(アルベルト?)』を取り上げ、プンスカと布団にくるまってしまった。
・・・えー・・・だからさ・・・何で・・・。
仕方ないので、俺もベッドに横になる。
エミリアの背中からは、ものすごい近寄んなオーラが滲み出ていた。
「・・・エミリア・・・なんかゴメン。」
声をかけてみるが、無視だ。
・・・まぁ一生懸命に作ってくれたのだろう。なんか気持ち悪い人形だったが。それをけなされたのだ・・・面白くなかったのかも知れない。・・・全く持って、エミリアのセンスは理解できないが、良いと思って作ったんだろうしな・・・あれでも。
「もう・・・いい・・・リカルドになんか・・・あげない。・・・お兄様にあげるわ・・・。」
エミリアは少し籠った声でそう言った。
・・・え。
ま、じ、で。
あの、不気味で卑猥な人形をユリウス様にあげる気だと???
「・・・いやぁ・・・ユリウス様もさすがに・・・。」
俺は必死で、自分の仕える魔王に被害が及ばないようにしようと、取りなそうとした。
エミリアは俺の方を振り返り、俺を睨む。目には涙が溜まっている。
・・・えええ・・・泣かしちゃったんですけど・・・俺。
「お・・・お兄様もいらないって言うって事?」
「・・・そ、それは知らないけど・・・。」
・・・どうしよう。エミリアが可愛い。
でも、相当に怒ってるから、抱きしめたりしたら、さらに怒ってしまうだろうな。
けど・・・ウルウルとした目で睨まれると・・・これは・・・たまらない。
でもなぁ・・・あの人形は無い。・・・無いよな。
気持ち悪いし、変態ぶりがハンパない。
「だって・・・リカルドは・・・要らないのでしょう?」
・・・正直、要らない。・・・確実に、ユリウス様だっていらない。・・・欲しいと言う人が思いつかない。
でも、エミリアは抱きしめたい。
・・・もはや俺は眠くない。・・・問題は、エミリアのご機嫌だけだ。
・・・。
仕方ない・・・。
「嬉しかったんだけどさ・・・俺、馬は全裸派だから・・・。」
俺がそう言うと、エミリアは嬉しそうに、にっこりと笑った。
こ、これは・・・いい感じにご機嫌がなおった?
・・・で、では、早速・・・。
そう思って、俺がエミリアに手を伸ばそうとすると、エミリアはまたしてもヒラリと俺の手をかわし、ベッドから飛び降りてしまった。
・・・はい???
エミリアは、『呪いの人形?(アルベルト?)』を握りしめ、俺に笑顔で言った。
「朝までに、服は脱がしておくね!!!先に寝てて!おやすみなさい、リカルド!!!」
そう言って、寝室の手前にあるソファーや机などが置かれている部屋に、いそいそと行ってしまった。
・・・。
・・・ええ???
えーっ!!!
その日、とても残念な気持ちで眠りについた俺は、翌朝、枕元に置かれた『呪いの人形?(アルベルト?)・改』を手に入れることになる。上半身のみの服が無くなった事で、変態度は下がったが、二足歩行しそうな馬?は非常に気味が悪かった。
そして、仕方なくそれを持って出勤した俺は、魔王にその人形について愚痴り、面白がった魔王によって、その人形は俺の執務室の棚に飾られる事になる。
・・・いつの間にかその人形が『魔除の人形』だと噂される様になり、祈願に人が訪れるまでになったのは・・・また別のお話。
そして、その気持ち悪くて変態な人形を、父上とロイド様も持っていると知るのは・・・まだ少し先の話。
二人のすれ違いの解説?ネタバレ?は次話にて!・・・まぁ、ご想像どおりです。




