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立派すぎる護衛登場! リカルドside

屋敷に戻ると、エミリアと父上は居なかった。


最近はサロンより、二人でポニーのいる厩に行っている事が多いらしい。


俺たちが厩に向かい、歩いていると、父上のバイオリンが聞こえてきた。・・・父上は、聞いた事が無い美しい曲を良く演奏している。


近くまで行くと、厩の側の開けた場所で父上はバイオリンを演奏し、エミリアはポニーに餌をあげている様だった。


「エミリアちゃん!さっきからアルベルトに人参ばかりあげてない!?・・・ずるいよ!」


演奏をやめた父上が、エミリアに怒っている。


「リチャード様だって、さっき人参あげたじゃ無いですか!私だってアルベルトに好かれたいんです!」


「エミリアちゃんにはリカルドがいるでしょ!人参ならリカルドにあげなよ!」


「リチャード様だって・・・お父様に人参あげたら良いじゃないですか!」


二人は人参が入ったバケツを奪いあっている様だ。二人は睨み合い、バケツの取手を引っ張り合っている。


・・・何をやっているんだ・・・。


「父上!エミリア!何をしているんですか!喧嘩するなら、ポニーは返してしまいますよ!二人で可愛がる約束ですよね!」


俺がそう言って声をかけると、二人は振り向いて、俺に駆け寄ってくる。


「リチャード様がズルイのよ!バイオリンがあるのだから、私がアルベルトに人参をあげたって良いでしょ?リカルドもそう思わない???」

「エミリアちゃんは厩の掃除はしないんだ!ズルイんだよ!だからリカルド、アルベルトに人参あげるのは僕の役目だよね???」


二人が一斉に、自分が正しいと盛んに話しかけてくる。


・・・やかましい。俺はいつから双子の父親になったんだ?・・・お前ら、俺の父親と奥さんだよな?・・・俺、どこから間違えたのだろうか。


「二人とも、いい加減にして下さい!・・・お客様がいらしてるんだよ?」


そう言うと、二人はハッとして俺の背後からやって来た人物に気付く。


「リカルド・・・どなた?」

「リカルド・・・だれ?」


二人は怯えた様に俺に聞いた。


「今日から、二人の護衛と護身術を指導して下さる、ロイド・コーシー様だよ。・・・ロバート殿下の従兄・・・辺境伯の所の二番目のご令息だよ。殿下が実の兄として慕われてきた方をご紹介下さったんだ。・・・二人とも、迷惑かけないように、ロイド様の言う事を聞くんだよ・・・いいね?」


「はじめまして、リチャード殿。エミリア嬢。私は、ロイド・コーシーだ。よろしく。」


ロイド様はそう言って、二人に薄く笑いかけたが、二人は引きつった笑顔を浮かべ、ガチガチに固まってしまっていた。


・・・まぁ、そうだろう。


ロイド様は、かなりイカツイ男だった。


ワイルドながら、容姿の整ったエリオス様とは違い、ロイド様のお顔は鋭く厳めしい。そして、がたいが良く、縦にも横にも大きかった。まぁ、簡単に言うと凶悪な獅子を思わせる風貌だ。その上、騎士特有の隙のないピリピリとした雰囲気を纏っている。


・・・まぁ、俺も初めてお会いした時、ビビったけどさ。


◇◇◇


ロバート殿下に、エミリア達の護衛にロイド様はどうかと、言われた俺は、正直驚いた。・・・なぜならロイド様は、コーシー家がお持ちの騎士団の団長を勤められている方だからだ。


団長と言うだけでなく、ロイド様は辺境での有事の際に大変なご活躍をされ、多くの勲章を授与された英雄と名高いお方で、お会いした事は無かったが、この国で彼の名を知らぬ者などいないだろう。


あまりにも凄い方を紹介したいと言ってきたロバート殿下に、俺だけでなく、ユリウス様までもが言葉を失った。


「ロバート殿下。・・・本当にロイド様にお願いして良いのですか?・・・確かに、エミリア達は狙われてます。ですが・・・屋敷はそこまで危険ではありません。」


英雄にエミリア達の警護や護身術の指導など・・・おそれ多い。ユリウス様は、驚いてロバート殿下に尋ねた。


「ユリウス・・・だけどね、僕はロイド兄さん程、強い人も信用できる人も知らないんだ。・・・僕もアメリアも、エミリアが心配なんだよ。・・・聞くところによると、エミリアはだいぶ不安定なんだろ?・・・下手な人選はできないよ。」


ロバート殿下が苦しげに言う。・・・本当にエミリアを心配しているのだろう。

殿下にはエミリアと父上がアルコールに依存する傾向がある事を話してあった。


しかし・・・あの残念な二人を英雄にお願いするなど、本当に大丈夫なのだろうか・・・。なんだか考えただけで、俺の胃は痛み出した。


「ロ、ロバート殿下。大変ありがたいのですが、あの・・・。恥を忍んで言います。・・・その・・・エミリアと父上は・・・できの悪い双子みたいな感じなんです。嫌だと逃げたり、サボったり・・・。ロバート殿下はエミリアの事はご存知かと思うのですが・・・その・・・父上と組むとさらに・・・ひどくてですね。・・・さすがにロイド様に子守をお願いする訳には・・・。」


俺はおそるおそる、ロバート殿下に現状を打ち明けた。


英雄に、あの残念双子の面倒を見ていただく訳にはいかない。・・・確かにロイド様なら、殿下の言うように信用も腕前も文句ない。・・・エリオス様だって反対できない素晴らしい人選だろう。


だ・・・が。

あの残念な二人が、ロイド様に迷惑を掛けるという、想像しかつかないのだ。


「リカルド、大丈夫だよ。ロイド兄さんは鬼教官としても、うちの騎士団では有名だったからね。きっと二人をビシビシっと導いて下さるよ!生活面でもきっと二人を助けてくれる!」


・・・マジか。


コーシー家の騎士団と言えば、統率が取れた素晴らしい騎士団であると有名だ。・・・その騎士団で団長の他に教官をしていたとは・・・。そんな方に、二人の生活から指導していただけたら、アルコールに対する不安など、すぐに解消できるのではないだろうか?


思わず、ユリウス様と俺は顔を見合わせた。


で・・・でも。ど、どうなんだろ・・・これ???


フリーダム残念双子vs規律正しき英雄鬼教官・・・どちらが勝つのか、全く予測できないのだが・・・???


そ、そもそも、仲良く・・・やれるの・・・かな???


俺がそう思っていると、ノックの音と共に、大きなイカツイ男が入って来た。顔が怖いのもあるが、目つきが鋭く隙を感じさせない男・・・。凶悪なライオンみたい・・・。


・・・怖っ。だ、誰???


「あ、ロイド兄さん!・・・こちらが話していたリカルドだよ。そして、こちらがユリウス。僕が兄さんにお願いしたいのは、リカルドの奥さんエミリアと、お父様のリチャード殿の警護なんだ。」


ロバート殿下は凶悪獅子男にニコニコと話しかけてそう言った。


「貴方がリカルド殿か。そして、貴方がユリウス殿ですか。はじめまして。ロイドと言う。お二方には、ロバートが世話になっていると聞いている。リカルド殿、貴方の奥方と父上は、私がお守りしよう。」


ロイド様は笑顔を浮かべて俺とユリウス様に、そう話しかけてきた。・・・笑顔っていうか、ひきつけを起こしたみたいな顔とも言えるのだが。


「あ・・・はじめまして。リカルドです。あ、あの・・・ロイド様。少し・・・二人は変わってまして・・・子供っぽいと言いますか・・・かなり・・・お手を煩わせるかと・・・。」


俺はピシリとした空気を持つロイド様と、ゆるゆるな二人が仲良くできる気がしなくて、モゴモゴと言い訳がましく呟いた。


「リカルド殿、問題ない。私はどんな問題がある騎士も、騎士団にふさわしい人間へと更生させてきた。君の奥方と父上も問題があるなら、正しく導こう。・・・それだけだ。」


ユリウス様はアルカイックスマイルを浮かべているが、内心の焦りがひしひしと伝わってくる。

・・・うん、ユリウス様も思ってますよね。コレ、合わないんじゃねーの?ってさ。


・・・ごめん。

エミリア、父上。・・・・この護衛、すごく怖いかも。しかも、二人とは相性悪そうなんだよなぁ・・・。


でも・・・まぁ、ちゃんと守ってくれそうだし、良いよ、ね?目的は、二人の護衛なんだもん・・・守ってくれるなら、文句ない、よ、ね???


・・・ロバート殿下からの紹介を断るなんて出来ないし。


俺は、「すいませんが、よろしくお願いします」と頭を下げた。


◇◇◇


ロイド様から挨拶を受けたエミリアは、なんとか笑顔を作ると、おそるおそる握手しようと手を伸ばした。


「はじめまして。ロイド様。私がエミリアです。護衛、よろしくお願いします。」


ロイド様はエミリアの手を握り、握手に応じた。


・・・よし、エミリア。よくやった!俺は心の中でエミリアを褒めた。ロイド様に怯まず、ちゃんと挨拶もした。エミリアは偉い!


しかし父上は、うさんくさげにロイド様を見つめ言った。


「ヤダ。僕、こんな護衛ヤダ。・・・もっと怖くない人が良い。」


・・・ちょっ・・・父上、何言っちゃってんの!?英雄なんだよ?ロバート殿下直々のご紹介だし・・・ご挨拶しなさいよ、ご挨拶!!!


「父上!!!なんて事を!ご挨拶して下さい。」


俺が焦って強く言うと、父上はプイッと顔を背け、屋敷に戻ろうとした。


「だめだ。挨拶をしなさい。リチャード殿。」


ロイド様はそう言うと、父上の腕を掴み、引き戻した。

父上は、ロイド様を睨み付ける。


「・・・僕は、リチャード殿じゃない。・・・リチャード様、だろ?・・・君、年下だよね?えっと・・・ロイド君・・・だっけ?」


そう言って、不敵に笑う。


「ち、父上!ロイド様に失礼ですよ!ロイド様はこの国の英雄で・・・。」


「リカルド、関係ない。・・・僕には国の英雄なんてどーでもいい。関係ないんだよ。僕は嫌なものは嫌だ。・・・離せ、ロイド。」


父上は驚く程に冷たい顔で、ロイド様を見下す様に言った。父上に凄まれ、ロイド様が思わず手を離す。


・・・父上と俺は顔が良く似ていると言われるが、それは似ているだけに過ぎない。父上が本物の宝石だとしたら、俺はガラス玉だ。・・・父上の美貌は・・・凄い。普段はボンヤリとしていて冴えない感じだが、今はゾクリとする程の美しさで、ロイド様を睨んでいる。


「リ、リチャード様!や、やめよ?私たちの護衛さんだよ?仲良くしよう???」


エミリアは慌てて、父上の手を掴む。エミリアに掴まれた父上は、フニャリと顔を緩め、エミリアに笑いかける。


「ごめんねー。僕、こういう偉そうなヤツって大っ嫌いなんだ。行こうエミリアちゃん。アルベルトを厩に戻そう。」


そう言うと、エミリアとポニーを連れて、スタスタと行ってしまった。


「・・・リカルド殿はずいぶん綺麗な顔立ちの方だと思ったが、お父上のリチャード殿が凄いのだな。あれは傾国、もしくは魔性だな。私を怯ませるとは、なかなか面白い。エミリア嬢も、物怖じしないのだな。私は、ご婦人方からは怯えられるのだが、自ら握手を求められるとは思わなかった。」


そう呟くと、二人が去った方角を怖ろしい顔で、ずっと睨み続けていた。


「すいません、二人には言って聞かせますんで・・・。」


俺はまるで保護者の様に、ロイド様に謝る。


「いや、・・・二人とも躾がいがありそうだな。」


そう言うと、ロイド様はニヤリと笑った。

ええ・・・。・・・あの二人を躾るとか、この笑顔とか、この人・・・メッチャ怖いんすけど・・・。


俺にはもう、胃が痛くなりそうな予感しかなかった。




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リチャード・エミリア・ロイドの
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