プレゼントが欲しい エミリアside
私とリチャード様は、仕事に行くリカルドとお兄様にキツく『お酒、ダメ。ゼッタイ。』と言い聞かされた。
寝起きな上に、二日酔いでボンヤリしていたリチャード様は、意味も分からずに頷いていたが、説明しておかないと厄介な事になりそうな為、私はマナー講習のあと、サロンでリチャード様に今朝の事を説明しはじめた。
「・・・つまり、僕たちがアルコールに依存してるって思われちゃったって事?」
「そ、そうなんです!・・・昨日、リチャード様は酔っ払って瓶からお酒を直に飲んだらしいじゃないですか。で、私も今朝、瓶からお酒を直飲みしようとしたのが見つかってしまって・・・。」
リチャード様は、「うーん???」と首を傾げて考え込んだ。
「・・・エミリアちゃん、それ、ヤバくない?・・・僕は仕方ないとしてもさ、何で君がそんな事するの?瓶から直飲みって・・・酔っ払いのオジサンじゃない。仮にも伯爵令嬢として育てられたんでしょ?・・・エリオスが、甘やかしすぎちゃったの???・・・どう育てたらこんな子になっちゃうの???・・・そりゃ、引くわーーー。」
「はぁ?!リチャード様に言われたくないです!!!リチャード様なんか、もーーーっと酷いです!一応は元侯爵様ですよね?」
「ま、まぁ、そうなんだけどさ。・・・てか、何でそんな事をしたんだい?」
「二日酔いには、『迎え酒』が良いと聞いて・・・でも、部屋にはグラスが無かったから、取りに行くのが面倒で・・・つい・・・。」
リチャード様は、呆れた顔になり、フフンと笑った。
「・・・そういうとこ!そういう所なんだよ!・・・エリオスが甘やかして、エミリアちゃんをダメにしたんでしょ?・・・やっぱりさ、僕みたいに、ちょーっと頼りない位の方が、子供はしっかり育つのかも!リカルドなんて見なよ、立派でしょ?」
・・・な、な、何を言ってるんだ。リチャード様の分際でっ!!!・・・リカルドを四六時中、我が家に押し付けて遊び歩いていたくせに!!!リカルドがしっかりしてるのは、リチャード様のお陰ではない!リカルドが、リカルドだからだっ!!!
「違いますー!リカルドはリカルドが偉いだけで、リチャード様の育て方が良かった訳じゃありませんー!・・・そもそも、私だってお父様の育て方が悪かった訳じゃーありませんから!・・・現に、お兄様は立派ですー!・・・私は、私が怠けたから、こんななんですー!」
頭にきて、勢いよく反論すると、リチャード様は爆笑しはじめた。
な、何が可笑しいと言うんだ!
「エミリアちゃん、あまり自分を責めなくて良いと思うよ・・・。」
「はぁ?責めてませんけど?・・・私の怠惰は信頼の証ですから。怠け者は卑下すべき事ではないんです!」
「何それ?」
「絶対に浮気しないって、リカルドから信頼いただいております。浮気は面倒くさいから、私はそんな事はしないと!」
「・・・確かに。エミリアちゃんて、絶対に浮気とかしなそう。・・・ま、本気ならアッサリ裏切りそうだけどさ・・・。・・・僕の事もアッサリと裏切ったしね。」
「は、はい?・・・今朝、リチャード様もここに残れる様にお願いしてあげたのに・・・!あーあ、頼むんじゃなかったなー!」
「えっ!・・・ここに残れるの?!く、詳しく続きを教えてよ!」
リチャード様が目を輝かせ、食い気味に聞いてきたので、私は勿体ぶる事にした。・・・だって、さっきまでのリチャード様の態度は酷い!先に話の腰を折ったのは、リチャード様だ。
「あー、どうしよーかなー?・・・甘やかされて育った私は、安楽椅子に座りたいなー?」
リチャード様は、今日も、もの凄いスピードでサロンに来ると、安楽椅子をキープしていた。・・・そこから、スッと立ち上がり、私に椅子を譲る。
「あたためておきました。エミリア様。」
「うむ。よろしい!」
私は、安楽椅子に座ると、今朝の顛末について、続きを話した。・・・私たちがアルコールに依存する程、不安定になっていると誤解されている事。お兄様とリカルドが立派な護衛を付ける事で、ここに居られる様にしてくれる事。二人でいる方が気が紛れると思われており、リチャード様も残れそうな事・・・そんな事を順番に説明した。・・・まぁ、護衛から護身術を疲れる程やらされそうな事は黙っておいたが。
「良かったー!じゃぁ、その護衛が良い人だと良いね!」
「そうですね!」
私たちは、その話しを終えると、二日酔いの影響もあってか、私は安楽椅子で、リチャード様は長椅子で、そのまま居眠りを始めた。
・・・まぁ、二日酔いでなくても、よくウトウトしちゃうんだけどね。
◇◇◇
私たちがウトウトしていると、いつの間にか夕方近くなっていて、サロンには夕日が差し込んでいた。
「エミリアー!!!父上ー!!!帰りましたよーーー!!!」
珍しく、とても早く帰ってきたリカルドが、大きな声で私たちを探しながらサロンに入ってくる。・・・後ろにはお兄様もいる。・・・な、なんだ?
私たちはノソリと起き上がった。
ヤバい。うたた寝してたのがバレてしまう。
「おかえりなさい。リカルド、お兄様。」
「おかえり。リカルド、ユリウス君。」
私たちは、まるで考え事でもしていたかの様に取り繕い返事をした。
「父上、エミリア。二人ともちゃんと、お酒飲まなかったんだね?・・・えらいぞ!・・・俺とユリウス様でね、二人にプレゼントを用意したんだ!ほら、屋敷にずっといると退屈だろ?だから、ね!」
リカルドは、ニコニコしながら、リチャード様に大きな包みを手渡した。
「リカルド、これは何?」
リチャード様は、包みを受け取ると嬉しそうに尋ねる。
「父上が欲しがっていたバイオリンです!」
「うわ!本当に!」
そう言って、リチャード様は大急ぎで包みを開く。
中には素晴らしく高価そうなバイオリンが入っていた。
リチャード様は、嬉しそうにバイオリンを構えると、かなりの腕前で短めの曲を演奏した。
「リ、リチャード様って、バイオリンが弾けるのですか?」
「うん。まぁ、ね。僕、アインシュタインを敬愛してるから、モーツァルトが好きなんだ。」
リカルドとお兄様は、リチャード様が何を言っているのか分からないのだろう、キョトンとしている・・・。まぁ、この世界には、アインシュタインもモーツァルトも居ないのだから当たり前だ。
「父上、それは・・・どなたですか?」
「んー?・・・僕の想像上の人物???一人は物理学者で、一人は作曲家って設定???」
リチャード様がそう言うと、リカルドはもう諦めたのだろう、ハハハと笑って済ませてしまった。
・・・うん。まぁね、リチャード様だもんね。
「あ、父上、他にもですね。ポニーを買って来たんですよ!・・・父上は、馬を欲しがってましたよね。・・・エリオス様に父上に馬を買ってあげたいと相談したら、馬はスチューデント家にいるから、ポニーが良いのではないかって。可愛いですし、エミリアも喜ぶだろうって!さ、見に行きましょう!」
リカルドはそう言って、私たちを厩に案内した。
「か、可愛い。」
「可愛いね・・・。」
ポニーはすごく可愛らしかった。栗毛でタテガミが白っぽくて、目がクリクリしている。お父様が乗る、ムキムキしたデカイ馬と違い、小さくてものすごーーーく可愛らしい。
「乗る事もできるそうですが・・・遠乗りするなら、スチューデント家の馬を貸すからって、エリオス様はおっしゃってました。まぁ、この子は愛玩用ですかね。・・・父上、ちゃんとお世話できますか?使用人には、世話を言いつけてありますが、お世話しないと好きになって貰えませんよ?」
リチャード様は、ポニーに抱きついて喜んでいる。
「リカルド、ありがとう!!!僕、エリオスに乗馬を教えて貰ってから、馬が欲しかったんだ!馬って、すごく賢くて可愛いって思ったからね!・・・だから、この子は大切にお世話するよ!えっと・・・名前は・・・『アルベルト』!!!・・・『アルベルト』よろしくね?」
そう言うと、アルベルトはブルルっと鳴いた。
・・・か、可愛い!!!
「リチャード様、私もアルベルトに触りたいです。」
「いーよ。優しく触ってあげてね?」
アルベルトは、スベスベしていて、ほのかに暖かかった。撫でてやると、気持ちよさそうに、ブルルっと鳴く。賢くて人懐っこい馬なのだろう。嫌がる様子もなく、大人しく撫でさせてくれている。・・・・いいなぁ、リチャード様。
「あ、あの・・・リ、リカルド、私には?」
私は思わず、リカルドに聞いた。
・・・だってリチャード様には、バイオリンと可愛らしいポニーをあげたのだ。
可愛い奥様の私にも何かあるはず!!!
「蟹と大海老を夕食に手配した!エミリア、楽しみだね!」
・・・え?
「か、蟹と、海老???」
・・・ま、まさか、そ、それだけ?
「エミリアは、大好きだろ?シーフード!」
は、はぁ?
リカルドは満面の笑顔だが、これはあまりにも格差があり過ぎるのではないか。
蟹と海老がバイオリンとポニーと同等とは、あまりにもあんまりだ。
「蟹と海老、だけ?」
「・・・?・・・俺が早く帰ってきたよ?」
・・・。
・・・。
それが、何だというんだ???
リカルドは輝く様な笑顔を見せている。お兄様も隣りでうっすらと笑っているが、意味が分からない。・・・私も何か欲しかった!!!
「リカルド、私も何か欲しかったの!」
思わず、イライラして声が強めになる。何故か、リカルドとお兄様が固まって顔を見合わせる。
・・・だから、意味わかんないし!!!
私もバイオリンやポニーに匹敵するのが、欲しいの!!!何か欲しい!!!リチャードさまばっかりズルい!!!
「・・・エミリアは、何が欲しかったの?」
リカルドは、おそるおそる聞いてくる。
え・・・何って・・・?
「・・・楽器とか???」
「具体的には、何?ピアノ?バイオリン?それともハープ?・・・何か演奏できたり、習いたい楽器でもあったの???」
・・・うーん・・・。そう言われてもなぁ。演奏出来る楽器なんかないし、習うとか・・・面倒だなぁ。
実家でもお母さまが良くピアノを弾いてくれてたけど、習いたいとか思わなかったしなぁ。・・・お兄様はピアノに興味があって、真似して弾いてたみたいだけど・・・まぁ、あれは天才だし、出来ちゃうんだろーなぁ。私がやったら苦労しそうだし・・・聞くんで良いんだよなぁ。バイオリンとかハープとかは、さらに難易度高そうだし要らないなぁ・・・。
「じゃ、じゃあ、ポニー?」
「・・・父上みたいに、お世話できる?」
そー言われると・・・ポニーは可愛いけど、お世話は面倒くさい。・・・リチャード様のアルベルトを時々お世話したり、撫でさせて貰うんで十分かも・・・。
うーん。
動物飼うって、大変だよなぁ・・・。
実家の犬も、お世話してくれるメイドさんと庭師さんにばっかり懐いて、私の事は無視だったしなー。お兄様やお父様の命令は聞くみたいだったけど・・・。それだって、メイドさんと庭師さんが結婚して、それが縁なんですって犬を引き取っちゃったしなー。
やっぱり賢いと、お世話しなきゃ懐いてくれないんだよねー・・・。でも、あんまりおバカじゃ、可愛くないしさぁ・・・。
「ほら、エミリアはシーフードだろ?」
・・・そうかも。そんな気がする。でもなぁ。なんか飼いたいなぁ・・・。
「それに、俺もいる。」
リカルドは、手を広げてハグしようって感じのポーズで微笑んでいる。
ええー?・・・何それ???
私もアルベルトみたいな可愛くて賢いポニーとかそういう生き物が・・・。
「・・・エミリアちゃん、リカルドもなかなか可愛いんじゃない?」
リチャード様はアルベルトを撫でながら、あざ笑う様に言った。
はぁ?!
何それ!
・・・いや、まてよ。
リカルドはお世話不要だな。いや、・・・むしろ私のお世話してくれている。その上、私に・・・とっても懐いてる!!!
し、か、も、リチャード様のアルベルトより、圧倒的に賢いではないか!!!
その上、リカルドはちょいちょい可愛いとこがある!!!
私は、アルベルトにスリスリしているリチャード様を睨んで言った。
「リチャード様、確かにアルベルトなんかよりリカルドの方が、圧倒的に素晴らしいですわ!!!アルベルトより賢くて!可愛いですから!」
そして、アルベルトを嬉しそうに撫で回すリチャード様に対抗し、リカルドを撫で回してやった。
・・・なんとなく、リカルドとお兄様は目から光が消えてるみたいに見えたけど、それはきっと気のせいだよね?




