酒は飲んでも飲まれるな エミリアside
・・・頭がガンガンする。
・・・しかもなんだか、カラダもグラグラしてる???不安定な所にいるみたい。
なんだか、落ちそう。
・・・落ちる?・・・どこに落ちるのかな?
ドッシーン!!!
「え、痛い・・・。」
落ちたのは、床。
・・・そうか、私はベッドから落ちたのか。
「うう、頭も痛いのに、腰ぶった・・・。」
ヨロヨロと体勢を立て直し、ベッドに這い上がる。
這い上がった先には、見慣れた金髪。・・・なる程、そういう事か。
私はリカルドを押しのけ、ベッドに潜り込んだ。
・・・そう。
リカルドは、寝相が悪い。・・・と言うか、絶対にど真ん中で大の字で眠る。もし、こいつに前世があるなら、王様か何かだろう。
リカルドは、夜中に帰ってきた時は、私を起こさない様にそおっとベッドに入ってくる。だが、意識を手放すと、その気遣いは消え、グイグイと私を端に追いやり、ど真ん中でグッスリと眠るのだ。
つまり、ベッドから落ちるほど端に追いやられたという事は、リカルドが帰ってきたと言う事なのだ。
私はベッドの中に自分の陣地をキープすると、痛む頭で昨日の事を思い出そうとした。・・・えっと確か、リチャード様とお酒を飲んだ・・・そうか、それで頭が痛いのか。
えーと、それでリカルドとお兄様が帰って来て・・・。
ああ、だめだ。このあたりから記憶がモヤがかかっている。・・・リカルドめ。私たちに恐れをなして、魔王を連れ帰ったのか。
・・・しっかし、頭が痛いな。
これは・・・二日酔いと言うヤツか。
ふと、横で眠るリカルドを見つめる。
安定のダラシないお顔だ。・・・人の事を良く残念だと言うが、リカルドだって結構残念だ・・・。まぁ、私はこのダラシないお顔が・・・たまらなく好きなんだけどね。
・・・ん???
あれ?・・・リカルド、かなりお酒臭い???
昨日???飲んだの???・・・全然、覚えてないけど、リカルドは昨日、飲んだ・・・みたいだな。
あれ???
これは、チャンスなのでは?!
飲んでた私が分かる程、リカルドはお酒臭い。つまり、当初の計画通りに、ベロベロだったのではないだろうか???・・・多分、これはまだお酒が残ってそうだ。
しかも・・・寝起きなら、ボンヤリしてるのではないだろうか?
こ、これはやっぱり、問い詰める、チャンスだっ!!!
あ・・・っ・・・う。
・・・あ、頭痛いな。
まずはこの二日酔いを、何とかしないと・・・。
・・・二日酔いって、どうしたら良くなるんだっけ?
えーと・・・確か・・・前世でサークルの先輩が言ってたな・・・。
確か、二日酔いには・・・。
そうだ!!!『迎え酒』だっ!!!
たしか、ベッドの横の棚にリカルドがお酒を置いていたな・・・。結婚のお祝いに貰った、なんだか高価なやつ。それを少しだけいただこう。きっとスッキリするに違いない。
私はノソリと起き上がり、棚を開けた。
・・・あった。
あ。でも、グラスないな。・・・取りに行くのも面倒だなぁ・・・。
んー?
・・・ま、いっか。
・・・直接いっちゃお。
ほんのちょっとだし、誰も見てない。
私がそう思って、お酒の瓶に口をつけたその時、ベッドで眠っていたはずのリカルドと、バッチリ目が合った。
「エ、エ、エミリア、な、な、何をしてるのー!!!」
リカルドの絶叫が、まだ明け方の屋敷に響き渡った。
◇◇◇
「・・・どういう事だ、エミリア。」
まだ寝巻きで、着替えていないお兄様が、私を思いっきり睨んでいる。
そう、あまりにもリカルドがデカい声で叫んだ為、近くの客間で休んでいたお兄様が、何事かと飛び込んで来たのだ。
そして、酒瓶からラッパ飲みしようとしていた私は、お兄様によって現行犯逮捕されてしまった。
や、やってしまった。
・・・前世では、ペットボトルから飲み物を飲むのは普通で、決して下品な行為では無かった。・・・まぁ普通は、お酒にはしないが・・・。
だから、ついついやってしまった。
今世の私は・・・侯爵夫人なんでしたーーー。
「ご、ごめんなさい。ど、どうしても飲みたくて・・・。」
ちょっと苦しいが、言い訳するしかない。
私がしどろもどろにそう言うと、リカルドはなぜか不安そうな顔で私を覗き込んだ。
「エミリア・・・ユリウス様も、怒っている訳じゃないんだよ?」
リカルドが優しげに言う。
・・・いや、お兄様はどー見ても怒ってますが。
私から取り上げた酒瓶を持ち、もう片方の手は腰に当て、私をジッと見ている。
これは、『怒ってるぞ俺は』のポーズではないか。
「そんな事ないって、お兄様は怒ってる・・・よ。」
「・・・エミリア、俺は怒っていない。どういう事なのかを聞きたいだけだ。」
お兄様が低い声で凄んでくる。・・・ええー?カンペキ怒ってるじゃん。一人称も、あの取り繕った『私』じゃなくて、魔王モードの『俺』になってますやん。・・・それで怒ってないなど、いくら私でも騙されないからね!
「・・・いつから、飲んでいるんだ?」
さらに低い声でお兄様が聞いてくる。
「・・・?」
「エミリア、ユリウス様も俺も、エミリアの力になりたいんだ。こんな事は、もうやめよう?・・・たしかに、エミリアは、寂しい思いをさせすぎたり、屋敷に閉じ込めたり、挙句には誘拐までされて、ストレスが溜まり過ぎたのかも知れない。・・・だけど、たいして飲めないお酒を飲んで現実から逃げても、体を壊すだけだよ?・・・わかるよね?・・・スチューデント家に帰るのが嫌なら、護衛を探すから・・・俺が、ここに居られる様にしてあげるから、エミリア・・・こんな事はやめるんだ。」
リカルドは、そう言って私の両肩に手を置き、しっかりと目を合わせ、優しく説得するように言った。
「そうだ。エミリア、リカルドが言う通りだ。・・・だから、こんな事はよすんだ。・・・な?・・・兄様が父上から守ってやるから、もう酒なんか飲むんじゃない。・・・こんな・・・瓶に口をつけて飲むなど・・・どうしたのだ・・・そんなにも・・・依存・・・してるのか???・・・兄様が、エミリアを守るから、もう酒なんかに頼るな、な?」
お兄様も、屈んで私と目を合わせると、そう言って珍しく優しげに微笑む。
・・・はい?
・・・???
ん・・・???
「昨日、酔った父上も瓶から直接お酒を飲んでいた・・・。・・・エミリアも、父上もアルコールに依存しているのか?・・・グラスに注ぐのを厭う程、飲まずにはいられないのか・・・?・・・そこまで、二人を追い詰めていたなんて・・・俺は・・・。」
リカルドはそう言うと、俯いてポロポロと泣き始めた。
ま・・・まさか。
こ、これは。
前世の記憶があり、軽い気持ちでやったラッパ飲みが、病気で飲まずにいられない・・・アルコール依存症だと・・・思われている???
そ、そうだ!!!
私たちはお貴族様なのだ!!!
ラッパ飲みなんか、病んでなきゃやらない事だ!!!
リチャード様も酔っ払って、昨晩、何気なくやったのだろう。・・・それを見て、酔っ払いつつも、モヤモヤした気持ちで眠ったリカルドは、起き掛けに私が酒瓶からラッパ飲みするのを見て、確信してしまったのだろう・・・。
『こいつら、アルコールに依存している!』・・・と。
お兄様が、痛ましそうに私を見ている。
お兄様も、酒瓶をくわえた私を見て、それを悟ったのだろう。自分の事を「兄様」なんて言うくらいだ、そうとう私を心配してる・・・。
ど、どうしよう。本当の事を・・・。
・・・いや、待て。
これは、二人から秘密を探るより簡単なのではないか?
さっき、リカルドもお兄様も、お父様の所に帰らなくて良いと言ってくれた。護衛はつけられてしまいそうだが、ここに残れそうな流れではないか。
・・・下手に『迎え酒したかった。グラスを取りに行くのが面倒だったから、直飲みしちゃった。』なんて言わない方が良いのではないだろうか。
そうだ。床に寝てるだけで『切り落とす』とまで脅されたのだ。面倒くさかったは・・・まずい。
と、とりあえず、しょんぼりしておこう!
そう決めた私は、うな垂れて言った。
「リカルド、お兄様・・・ごめんなさい。」
「・・・良いんだ。大丈夫だよ、エミリア。・・・もう飲まないって、俺とユリウス様に誓って?・・・ね?」
リカルドが懸命に説き伏せる様に言う。お兄様も、その隣で頷いている。
「私、ここに、いてもいい・・・?」
「勿論だよ!ここにいて?・・・だから、ね?エミリアは、お酒やめられる?」
「そうだ。エミリア、ここにいて大丈夫だ。兄様にまかせておくんだ。・・・だから、屋敷から酒を全部無くしても良いよな???」
「うん・・・。それって・・・リチャード様も一緒?」
昨日、裏切ってしまったが、リチャード様の事も頼んでおいてやろう。・・・まぁ、後で恩着せがましくリチャード様には言うつもりだが・・・。
「勿論だって!二人が酒を我慢できるなら、ここにいて?・・・エミリアも父上も、一人でいるより、二人で過ごす方が気が紛れるかも知れないな。」
「ああ、そうだな。それに、ここに居て、二人が楽しめるようにしよう!・・・護衛が決まれば、少しなら外出だって出来るぞ?だから、エミリアは、兄様たちを信じて、何か辛くなったら相談するんだ。お酒はもう、よすんだ。・・・な?」
・・・ニヤリ。
こ、これは、完全勝利ではないかー!!!
リカルドとお兄様は心配そうに、俯く私に優しく声を掛け続ける。
・・・チョロい。チョロすぎるぜ。
所詮、人生一回目の奴らよのう・・・!!!
私とリチャード様の人生二回目組の、完全勝利だーーー!!!
「・・・そうだな、護衛には気分転換も兼ねて、二人に護身術でも教えて貰おう!・・・二人は屋敷に篭ってばかりだから、気が滅入ってしまうのだろう。・・・体を動かせば、スッキリするぞ。な、リカルド!」
「そうですね、ユリウス様。二人には運動が必要ですね!!!それも込みでお願いしましょう!!!」
・・・え?
・・・はい?
「そうだな、午前中はマナーだから、午後からは二人に護身術をやらせよう!疲れるほど体を動かせば、余計な事など考えずに済むだろう!」
お兄様がそう言って、リカルドと穏やかな笑顔で頷き合っている。
・・・え?
・・・ええ?
私とリチャード様の・・・まったりタイムは?
え???
それが、護身術になっちゃうの???
えっ???
ひ、酷くない?それ???
しかも、疲れさせるって言って無かった?今???
・・・まぁ、お父様に監禁されるよりは・・・マシかもだけどさー・・・。
なんか、思ってたのと違うんですけど・・・。
あれ?・・・完全勝利、どこいった???




