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侯爵様だって時間を有効に活用したい リカルドside

俺とユリウス様が会合を終え、執務室に戻ろうと歩いていると、階段の下から、エミリアとロバートの話し声が聞こえてきた。


今日、エミリアは月に一度のアメリア妃とのお茶会に来ている。終わったら護衛に俺の執務室まで送る様に言ってあったが、ロバートが代わったのだろう。


・・・ロバートとエミリアは学園の頃から仲が良い。


少し面白くはないが、まぁいい。


今日はエミリアも来ている為、早めに帰れとユリウス様にも言われていた。つまり・・・久しぶりにエミリアとゆっくり過ごせるのだ。・・・だから、つまらない事で『面白くない』なんて思っちゃいけない。


よし!帰ったらエミリアの言う、甘々でラブラブな新婚さんのイチャイチャをしよう・・・!海老は失敗だったが、俺だってあれから色々考えてきた。・・・楽しみにしとけよ、エミリア。


俺はそう思い、エミリアとロバートに合流すべく、階段を降りようとした。

その時、だ。


「うわっ、ちょっと、ロバート?!な、何っ!!?や、やめてよ!」


エミリアの声がハッキリと聞こえてくる。

下を覗き込むと、ロバートはエミリアを抱き上げ、嬉しそうにクルクルと回っているではないか。


・・・え、な・・・なんだ?

思わず、隣を見ると、ユリウス様が盛大に顔を顰めている。

・・・どういう事だ?


ロバートの嬉しそうな声が、階段の上にまで響いてくる。


「エミリア!!!本当なら、僕はすんごく嬉しいよ!!!僕達に赤ちゃんがいるかも知れないなんて、夢みたいだ!!!ああ、どうしよう!早く、医者に、医者に見せなければ!」


「まだ、まだ可能性だからね!喜びすぎだよっ!」


・・・え?


・・・俺は完全に思考が停止してしまった。


『僕たちに赤ちゃん』・・・???

ロバート・・・と・・・エミリアに赤ちゃんが・・・できた、の、か?


ロバートとエミリアは俺たちが見ている事にも気づかず、嬉しそうに笑い合っている。

まるで二人は・・・子供が出来て喜びあう・・・仲睦まじい夫婦にしか・・・見えなかった。


俺は自分の血液が、すうっと下がっていくのを感じた。書類を抱えていた手からは、お気に入りのペンが落ちてゆく。けれども・・・俺は、その様子をボンヤリと見つめるしか出来なかった。


◇◇◇


ユリウス様は手荒く二人を自分の執務室に連れてくると、怒りを隠そうともせず、エミリアに詰め寄った。


「どう言う事だ?エミリア!」


しかし、エミリアが答えるより早く、ロバートがユリウス様に言った。


「ユリウス!聞いてくれ!僕達に赤ちゃんが出来たかも知れないんだ!ねぇ!早く、早く医者を呼んで下さい!」


その口調は、すごく幸せに溢れていて、妻を気遣う夫、そのものだった・・・。

俺は、内臓がグッと締め付けられる感覚に陥る。・・・吐いてしまいそうだ。


・・・本当に、エミリアに・・・ロバートの子が・・・?


な、何故?・・・いつの間に?

そんな馬鹿な事、ある訳が・・・。


・・・いや、分からない!!!


そうだ・・・!

ロバートは・・・『時間を有効に使う』タイプだ・・・!

しかも場所も選ばない、やり手だったではないか・・・!

奴に、『いつの間に?』とか、『どこで?』なんてのは・・・愚問だった!


そうだ、ヤバい奴だったんだよ・・・こいつは・・・!


俺がグルグルと思考に囚われている中でも、話は進んでいる。

ユリウス様は、ロバートには何も答えずに睨み、エミリアにもう一度、問うた。


「エミリア、どう言う事だ。」


「あのね、妊娠したのはーーー。」


ユリウス様を強く見つめ、エミリアは必死に答えようと口を開く。

しかし、その様子を見ていたロバートは二人の間に入り、不機嫌そうに言った。


「ユリウス!何でエミリアにそんな態度を取るんだ?!エミリアは妊娠を教えてくれたんだぞ!」


ユリウス様が驚く程に怒っている。ロバートを射殺さんばかりに睨みつけ、にじりよる。

・・・そうだ、ああ見えてユリウス様はエミリアを大切にしてきた。エミリアに祝福出来ない赤ん坊が出来たのが我慢ならないのだろう。


エミリアはその様子に慌て、二人を止めようとしたのか、ユリウス様に腕を伸ばしたが、思い切り振り払われて、床にへたり込んでしまった。


・・・エミリア!!!


・・・エミリアは、妊娠しているのに・・・!!!

・・・赤ん坊に、エミリアに、何かあったらどうする気なんだ!


俺は、カッとなるのが分かった。

それと同時に、ユリウス様に物凄い怒りが湧き上がってくる。


ユリウス様とロバートは言い合い、睨みあっているが、もうそんなのどうでもいい!


俺は、エミリアの元へ走ると、しゃがみ込むエミリアを抱きしめた。・・・そうだ、ロバートなど、関係ない。エミリアごと愛そう。子供を愛そう。それでいい。


俺の子だ!・・・俺が絶対に守るんだ!!!


「エミリア・・・それは、俺の子だ。・・・エミリアが産んだら・・・全部、俺の子供なんだ!!!だから・・・ユリウス様!やめて下さい!!!エミリアのお腹の子に、何かあったらどうするんですかっ!!!」


俺は、そう言いながらも、涙がボロボロと溢れてしまった。そうして、ユリウス様がエミリアにもう酷い事をしないようにと、思いっきり突き飛ばし、エミリアを抱え後ろに下がった。


エミリアは、何故かポカンとした顔になっている。


・・・大丈夫。どんな子でも、俺が祝福するから。

エミリアを抱きしめる腕に力がこもる。

・・・きっと、俺たちの子供は可愛い。だから、大丈夫だ。


その時、間抜けな声でロバートが


「え?エミリアも妊娠してるの???うわぁ。さらにおめでたいよね。楽しみだねー!」


・・・そう言った。


『エミリアも』・・・『も』????


え?


え?


え???


『も』とは何だ?


・・・使い方としては、そうだな・・・。

『エミリア「も」アメリア「も」妊娠してる。』

うむ。こんな感じだ。しっくり来た。


・・・ん?


ロバートは、エミリアが妊娠してると知らなかった様な言い方だったな・・・?


・・・じゃあ、誰の妊娠を喜んでいたんだ?

ロバートとエミリアが喜ぶ妊娠した女性・・・例えば、アメリア妃が妊娠したら、二人は喜ぶな。うん、何だかしっくり来る。


ん???


誰が妊娠したんだっけ???

そう言えば・・・ロバートは、エミリアが妊娠したと言っていたか???

・・・いや、それは言ってないな・・・。


まさか・・・え???

・・・妊娠してるのは・・・アメリア妃・・・?


よもや、俺の思考回路はぶっ壊れていた。

だから、何度も何度も考えて、やっと真相に辿り着く。


こ、これは・・・まさかの、か、勘違い???


ま、ま、ま、まさか。

妊娠したかも知れないのは、アメリア妃で、それに気づいた二人が喜んでいた・・・だけ、な、のか、な???


え?

・・・マジか。

・・・そ、そうなのか?


周囲を見渡すと、同じく真相に辿り着いたであろう魔王が、気まずそうな顔をしている。エミリアはポカンとしたままだし、ロバートはひたすら浮かれていた。


あ、やっぱり、そういう事・・・ですかね。



やべー、俺・・・泣いちゃったよ。

その上、魔王を突き飛ばしちゃったんですけどーーー!!!


◇◇◇


・・・うん。

まぁ、あれだ・・・安定の勘違い。


どうして・・・エミリアが絡むと、こうもミラクルが起こるんだろう。俺もだが、ユリウス様も・・・エミリアが絡むと、ポンコツ仕様になってしまうのは・・・何故なんだろう。


はぁーーーっとため息を吐く。・・・急ごう。


俺は、ユリウス様に渡されたメモを見ながら、関係者の招集に回わり、護衛を依頼する。ついでに、長い会議になりそうなので、食事の手配なども済ませる。


・・・エミリアとさっき、いい雰囲気になったけど、残念ながらその続きはない。今日どころか、この様子じゃ、いつ家に帰れるかさえ分からない。


残念だけど・・・俺は時間を有効に使えないタイプだし、場所も選んでしまうタイプだから、仕方ない・・・。でも、さっきはキスもしたし、気持ちも伝えた。・・・俺なりには頑張ったつもりだ。だから、待ってて欲しい。俺の事を・・・。


あ、そうだ・・・芝居!


俺はユリウス様に渡されてチケットを握りしめ、エミリアの待つ執務室に戻った。


◇◇◇


執務室に戻ると、長椅子にエミリアがくったりと横たわっていた。・・・うん、安定のエミリア仕様だ。


「あー。リカルドお帰り。」


抱えていたクッションから顔を上げると、少しだけ赤い気がした。


「何か、顔赤くないか?・・・帰ったら、早めに休めよ?」


「ん、んー?・・・そ、そうする。」


なんだかエミリアは、とぼけた返事を返した。

・・・?・・・まぁいい。


俺は、ユリウス様から渡されたチケットをエミリアに渡した。


「ナニコレ?」


「芝居のチケットだ。・・・行こう。確か・・・来週の公演だ。」


「へ?何で?忙しいんだよね???」


「・・・アメリア妃とロバート殿下の馴れ初めが芝居になるのは知ってるか?」


「あ、さっきロバートが言ってたヤツか!」


「それの視察、兼・・・お前の息抜きだ。」


「え?」


「最近・・・俺とユリウス様の都合で、屋敷に閉じ込めてるだろう?・・・親父はたまにフラフラ出歩いているが、エミリアはずっと家にいる。外出できるのは、アメリア妃のお茶会くらいだ。・・・ユリウス様なりに、お前に気を使ってるんだ。」


「えー、いいのに。お家でまったり・・・最高なんですけど。・・・でも、お芝居!気になってたんだ!すっごい嬉しい!行きたい!行きたいです!」


「ああ、行こうな!・・・まだこの芝居は上演が開始されてないから、内容を確認しておく必要があるんだ。・・・ほら、あまりにロバート殿下やアメリア妃のイメージを損なう内容だと、注目度が高い芝居だけにダメージもでかくなるだろ?内容に問題が無いか確認しておかないと。・・・少し仕事もするが、一緒に行ってくれるか?」


「うん。行く!楽しみっ!・・・リカルド、デートだね!」


そう言って、笑ったエミリアはやっぱり可愛いくって・・・。しばらく帰らないのが寂しくなってくる。

俺はちょっとだけ・・・ロバートに『有効な時間の使い方』について聞いておくべきかもな・・・なんて思いなら、同じように笑い返した。


・・・よし、会議頑張ろう。

来週は、エミリアとデート、なのだからっ!!!




時間の有効活用とは:

ロバート殿下の特技。ユリウスも驚きのその活用術は「怠惰な私に素敵悪役令嬢は荷が重い」の「おまけ 苦手な男」で読めます。

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リチャード・エミリア・ロイドの
獣人転生IFストーリーの連載をはじめました!
「怠惰な猫獣人にも勤労と納税の義務はある」
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― 新着の感想 ―
[一言] 連投失礼します。 お兄様もエミリアちゃんがからむとポンコツになるんですね。 いや笑いました。 でもお父様ほど重くない?
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