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九月・とらぬ狸の蕎麦算用

九月。廃墟巡りが趣味だという彼の話に耳を傾けます。美しく朽ちたホテルのツアーで起きた、気になる出来事とは……?


   *


カフェのカウンタ席に壮年の男性が座っている。

深い皺の刻まれた、働く男の顔だ。花に囲まれた店の空気に馴染まないが、こんな時刻からここにいるということは、気まぐれに来たわけでもないのだろう。開店したばかりの早朝。いつも朝一番に訪れるサツキが、扉を開けながら呟いた。

「珍しいですね、先客さん」

私は窓際の椅子に腰を掛けている。軽く手を上げると彼は近くの席についた。店長は厨房の奥で作業をしている様子で、すぐには現れない。サツキは待ちながらノートパソコンで作業をしていたが、時折ちらりと男の方に視線を向けていた。

そんなちらり、が三度目あたりになった頃。

「すまないね、待たせてしまって」

手を拭きながら店長が出てくる。だが、その言葉はサツキではなく、カウンタ席の男に向けられていた。どうやらサツキが来たことにすら気付いていなかったようだ。気さくな口ぶりから察するに、知り合いの客なのだろう。おそらく歳も近い。サツキの姿を視認した店長は、改めてそちらにも「待たせたね」と声を掛けた。

「俺はコーヒーでお願いします」

「いつものモーニングはいいのかい?」

「え、ああ、はい。今日はそれで」

コーヒーメーカは客席から見える位置にある。店長はカウンタ越しに男と話しながら手を動かしていた。流れてくる会話からの推測では、彼らの関係は単なる知人といったところで、昔からの同朋というほどでもない。ただ、とある人物を共通の友人として、以前に仕事で関わったことがあるらしい。

その仕事というのは――

「やっぱり、文芸誌〈天ノ川〉の編集長さんじゃないですか!」

唐突にサツキが立ち上がる。話の断片から男の正体を掴んだようだ。先月にも似たようなことがあったな、などと考えながらも私は口を挟まなかった。先ほどから何度も気にしていたのは、やはり心当たりがあったからなのか。男の方は特に驚く素振りもなく、ゆっくりと振り返る。聞こえるような声量で話していた自覚はあるだろうし、カフェで自らを知る者に出会う可能性も認識していたようだ。

「読書家だな、少年」

にやりと笑う。文芸誌〈天ノ川〉は純文学系作家の短編や連載を集めた季刊誌だが、その編集長の顔や名前まで把握している者は確かに読書家だろう。私もそこまでは知らない。なので彼は私に向かって、

柏木(かしわぎ)葉蔵(ようぞう)というんだがな」

と名乗った。名を聞いてもピンと来ない。作家と違い、編集者という裏方の存在はそんなものだ。男は――柏木は、壁に貼られている雑誌の切り抜きを手で示した。

「俺と店長が知り合った経緯はこれ、な。そっちの少年は知っているかもしれんが」

「如月です」

その壁まで歩み寄りながらサツキが応える。

「大学生です。成人しています」

「おっ、そうか。童顔だな」

雑誌の切り抜きはずっと以前からあった。視界に馴染み過ぎて記憶に残らないほどだ。このカフェの取材を記したタウン誌のような内容だが、特筆すべきは執筆者が著名な小説家であることだろう。なにせこれは、文芸誌の記事なのだから。純文学作家が取材から執筆まで手掛けた記事だ。

「昔の同級生で、後に作家になった人がいてね」

コーヒーを淹れながら店長が話す。

「そのよしみで取材してもらったんだ。編集長の柏木さんにもお世話になって……」

「当時は俺も副編集長だったけどな」

「そうだったかな。まあ、お互い歳をとったよね」

カフェの壁には記事以外にも様々なものが飾られている。ダーツ盤に絵画、海外土産らしき看板、額縁に入った写真。客席側からカウンタ内へ、グラデーションのように個人的な内容へと移ろっていく。コーヒーメーカーの近くに見える写真は、きっと家族の肖像だ。その脇を通ってコーヒーが運ばれ、席に戻ったサツキの前へ置かれた。

「まあ、あの頃に比べりゃ落ち着いた生活になったじゃねえか」

店内を見渡しながら柏木が話す。

「店もちゃんと続けられているようだし。静かな場所で羨ましいこった」

「君の方は、慌ただしそうだね」

「そりゃそうよ、雑誌の編集ばっかりやってるわけじゃないからな。先月だって作家の失踪事件があって――」

「……あ」

私が声を発したから彼は口を噤んだのか。それとも偶然の一致か。私と柏木は互いの方へ視線を遣り、見つめ合うような形になった。それまで関わりのない世間話として聞き流していた会話が、突如こちらに降りかかってきたのだ。そうだ。忘れるところだった。文芸誌〈天ノ川〉の出版元といえば、彼女に最も縁の深いあそこではないか。

「店長、出版社の方に連絡してくれていたのね」

私とサツキが何もできずにうろたえている頃、彼は彼で動いてくれていたのだ。柏木が当たり前のようにその話題を出したのは、他ならぬ店長から情報が回っていたからだろう。でなければ大っぴらにできる話ではない。私の視線が意図することに気付いたのか、彼は声のトーンを落として呟いた。

「もちろん俺だって心配しているわけよ。俺には子供なんざいないけど……娘さんとそれほど変わらん年頃だろ」

私から視線が逸らされ、店長の方へ向く。いや、見ているのは傍らの写真か。黒く長い髪の印象的な女性が、微笑みながら写っている。どことなく目元が店長に似ており、娘と言われれば納得できた。傍らのトレイには小さなピアスがふたつ揃って置かれている。まるで、つい先日まで彼女がここにいて、ふと置き忘れてしまったかのように。

「とはいえ、誰にでも失踪する権利はあると思うんだよ。俺ぁ去る者追わぬ編集者として有名だったしな。だが、頼まれたからにはできる限りのことをやるさ」

「……うん。よろしく頼むよ」

店長が静かに応え、そこで会話が途切れた。サツキもパソコンの作業に戻っている。店内に聞こえるのは、彼のタイピングと車の行き交う音ばかりだ。通勤の時間帯ということもあり、前の道を車が延々と通る。その中を走る大型のトラックが、ゆっくりと車体を回転させて店の駐車場へと入ってきた。

「あんな大きなトラックが何の用かしら」

思わず声に出す。扉も壁もガラス張りなので、そのまま目で追うことができた。駐車場として使っているピロティには乗用車が二台あったが、その隣へと器用に停まる。ドアを開けて降りてきたのは見覚えのある人物だった。青い制服にがっしりとした体躯を包み、短い髪は爽やかな印象を与える。

「鷹志さん!」

このエリアを担当している配達員の青年だ。店長とは付き合いが長いが、名前を知ったのは五月のことだった。彼と、彼の父親を巡る一連の出来事は、まだ記憶に新しい。

「どうも、お届け物です」

荷台から降ろした荷物を抱え、鷹志がやって来る。明朗な笑顔は健在だ。扉を開けた流れで私が受け取ることになったが、もちろん店長宛ての荷物である。何気なしに目に留まった差出人の名前は、女性のものだった。

「すごいトラックだね」

サインをしながら店長が言った。確かにこのトラックはインパクトがある。荷台には配送会社のロゴが大きく記され、安全運転に関する文面と、運転手の氏名を示すプレートが見えた。以前に乗っていた車は、ずっと小さくてシンプルだったのだ。

「ちょっと出世したんすよ」

照れくさそうに彼は言った。

「大型の免許をとったもので。遠距離も任されるようになりました」

「それは喜ばしい。おめでとうございます」

彼の屈託ない様子にこちらまで嬉しくなる。気がかりなことは少しの間だけ忘れよう、と思った。彼は先月この店で起きたことなど何も知らないのだから。店長は荷物の中を確認した後、カウンタから出てこちらまで来た。

「そういえば」

再びトラックの方を見つつ。

「喜ばしいことがもうひとつあるのでは?」

「と、言うと?」

期待するような口ぶりで鷹志は返す。荷物を渡し終えても出ていかないあたり、まるで何かを待っているようだ。もし違っていたなら申し訳ないけれど、と前置いてから店長は続けた。

「ご結婚されたのではないかと」

その言葉を聞いて私も気付いた。トラックに取り付けられたプレートの苗字が、前に会ったときの彼のものとは異なっていたのだ。

摩耶鷹志。

そう記されている。

「良かった、気付いてもらえた」

鷹志は歯を見せて笑った。

「男が改姓するのはまだ珍しいんで、別の事情を推測されるかと思ったんすけど」

「お父様の姓とは違うから、戸籍を移したわけでもないだろうしね。大型の免許をとれたということは、成人している。結婚の可能性が最も高いと思って」

店長の言う通り、摩耶というのは父親の姓と異なるものだ。今まで名乗っていたのは母方の姓なので、家族の誰とも異なる苗字を得たことになる。彼の年齢を踏まえれば結婚と考えるのが妥当だ。

「兄ちゃん、そりゃめでたいじゃねえか」

「おめでとう、鷹志さん」

素直に嬉しく思った。父である沖名も喜んでいることだろう。店長やサツキ、初対面の柏木にも祝福を受け、店内は明るい空気に満ちた。幼い頃に父と生き別れ、母親とも死別した彼であるが、これからはどうか幸多いことを願う。

重要な報告が済んだせいか、鷹志は更に饒舌になり様々なことを語った。遠距離配送の担当になったが、これからもここへ来る機会はあるということ。姓は変わったがまだ馴染みが薄いので、下の名前で呼び続けて欲しいということ。そして話の内容は、彼の妻のことへと差し掛かる。

「それで、俺の奥さん――あ、花音(かのん)っていいます――花音さんの話なんですけど」

手近な椅子を引いて座り、彼が話を続けるのでふと心配になった。仕事は大丈夫なのだろうか、と考えているうちに店長が同じことを尋ねる。

「ここに長居しても良いのかい?」

「次の配送先まで余裕があるんです。少し居させてください」

彼はサイダーを注文し、本格的に腰を据えた。配送業者は着くのが早すぎても問題になると聞くし、時間があるのならば居てくれて構わない。私もその方が楽しい。よほど話し相手を欲していたのか、彼の口は止まらなかった。

「花音さんとは中学生時代の同級生だったんですけど、別にそこでは接点がなくて。普通に卒業して、それきり会っていなかったんすよ。でも五月あたり、このカフェで開催したイベントの後っすね、趣味の場でばったり会いまして」

「ん? 待てよ」

口を挟んだのは柏木だった。彼は祝福こそすれ、部外者として静かにコーヒーを啜っていたのだが、割り込むように大きな声を出したのだ。全員の視線がそちらに集まる。何かに気付いた表情をしていた。

「花音さんって、摩耶花音のことか」

そりゃあ苗字が摩耶なのだからそうだろう、と思ったが。

「摩耶花音って、あのマヤカンか? 小学生にしてコンクール総なめの天才バイオリニストだったが、五年前にきっぱり辞めちまって姿を消した――」

「消してないっすよ。俺の前にいますもん」

「そういう意味じゃねえ! するってえと、アレだ、趣味の場ってのは音楽か?」

「違います」

息荒く問い詰める柏木に圧されることなく、鷹志は暢気に手と首を振った。自分の妻についてこんな反応をされたら、少しは慌てるものだ。随分と肝が据わっている。あるいは、ただ妻をひとりの人間として見ているだけなのか。

天才バイオリニストであった女性ではなく、ただ趣味の合う楽しい相手、だと。

「廃墟っす。廃墟巡りが趣味なんですよ。ふたりとも」

それじゃあ再会した日のことを話しましょうか、と彼は微笑んだ。


   *


メディア露出の少ない人物だったので、私の記憶はおぼろげだ。

摩耶花音というバイオリニストは、十二、三の頃から既にプロとして活動していた。中学校の同級生であった鷹志は知っていたのだろうか。特に接点もなく卒業したと言っていたので、興味を抱くことすら無かったのかもしれない。そんな彼女は将来への期待を受けながら活動を続けていたが、高校を卒業した途端に引退した。事情は明らかにされていないが、怪我や病気ではないとだけ公表されている。

彼女の趣味が廃墟巡りであるなど、今まで聞いたことが無かった。

だが、その片鱗のようなものは見えていた気がする。おそらく廃墟に限らず建築物が好きなのだ。コンサートの会場として、広い屋上のある鉄筋コンクリートのビルや、燦々と陽の差し込む植物園などを選んでいた。

「若葉観光ホテルってご存知ですか」

鷹志の口にした場所もまた、五年前に「現役」を終えてしまった施設だ。

「深い山の中に建っていて、新緑の季節は特に眺めが美しいと評判だったんです。でも古いホテルでしたから。老朽化には勝てなくて、惜しまれつつも廃業しました」

「ああ、それ知っています」

サツキが相槌を打つ。

「現在は廃墟として有名なんですよね」

人の手の入らなくなった建物は、あっという間に朽ちていく。五年前まで観光客で賑わっていたホテルも、今や廃墟と呼ばれる存在だ。それでも若葉観光ホテルは美しかった。私がその名前に覚えがあるのも、そしてサツキが知っているのもきっと、廃墟であるからこそだ。ただの観光地であれば縁のなかった場所が、朽ちたことによって視界に飛び込んできたのだ。

「ええ。廃業してしまいましたけれど、今もボランティア団体が見回りや管理は行っているんです。だから廃墟でありながらも観光できるんですよ」

鷹志が話す傍らで、サツキは手元のパソコンを操作した。何か調べているようだ。目的のサイトがヒットしたのか、画面をこちら側へ向ける。

「これですね。若葉観光ホテル探索ツアー」

「そうそう、それです」

いくら管理されているといっても、一般人が勝手に入って良いわけではない。公式に認められた団体の引率のもと、ツアーとしてのみ入ることができる。事前の申し込みは必須。その募集が市のホームページにて行われている。

「この五月の回ですね。俺と花音さんが会ったのは」

指をさす。既に終了したツアーとして、その日程が記されていた。

「山のふもとの駅で集合。そこから全員でハイキングしてホテルに到着。班ごとに分かれて中を探索したあと、近くの道の駅で食事しました。楽しかったなあ。久しぶりに遠足の気分を味わえましたし」

一度の募集で集まるのは三十人ほど。小規模な学級と同じくらいなので、遠足という表現も適しているだろう。サツキは関連サイトの閲覧を続けており、あるブログを見つけたところで手を止めた。

「これ、鷹志さんたちと同じ回の参加者じゃないですか?」

ポップなデザインのヘッダーには「とらのまきブログ」と書かれている。端に載っているプロフィールを見るに、女子高校生のブログのようだ。普段は美味しいスイーツやお気に入りのコスメ、おすすめの漫画などを綴っているが、五月のページに廃墟ツアーについての記述があった。

「へえ、高校生も廃墟に興味があるのね」

後ろから覗き込む。柏木もやって来て一緒に見ていた。

管理人の名前は「とらのまき」となっている。深く考えずにブログと同じ名前を記入したのだろう。彼女は妹と一緒に申し込みをしたそうだ。班分けでは別になってしまったが、班のメンバと仲良くなれて楽しかった、と書かれている。

「花音さんと鷹志さんは同じ班だったの?」

私が尋ねると、彼は否定した。

「一緒じゃなかったっすね。まあ、班ごとの行動になるのは廃墟探索の間だけですから。駅に集合した時点で、お互いに存在には気付いていたんですよ」

中学校の同級生であったなら、最後に顔を合わせたのは十五の頃だ。風貌で思い出すことのできる範囲だろう。そうして再会した鷹志と花音は、どちらからともなく声を掛けた。班は別だったので探索の間は別れ、その後の食事でまた同席している。

「それから親睦を深めて結婚にまで至ったわけか」

感心したように息をつきながら、柏木が言った。

「天才バイオリン少女、マヤカンとねえ……」

「そのマヤカンっていうの、俺よく分からないんすよね」

背後に立つ柏木の方を振り返り、鷹志は言う。

「俺の知っている花音さんは、綺麗な景色と建物が好きな、趣味の合う楽しい人っすよ。バイオリンを弾いているところ見たことないですもん。そんな話もしませんし」

「もう弾かないのか?」

柏木は目を丸くする。また深く息をついた。

「本人が決めることだから何とも言えねえけどよ。もったいねえなあ。少しでも未練があるのなら復帰してもらいたいところだが」

「さあ、どうっすかね」

良くも悪くも柏木は仕事熱心だ。これからが稼ぎ時であった若きバイオリニストが、事情も明かさないまま身を潜めていることに納得がいかないのだろう。しかし彼の言うとおり決めるのは当人であり、彼女が自ら動き出すまでは何の手出しもできない。決して食い下がることはせず、鷹志の方も軽い返答に留め、話題を元に戻した。

「少なくとも今は楽しそうですよ、花音さん。あ、写真見ます? 若葉観光ホテル、本当に綺麗だったので」

スマホを取り出し、撮影された写真をスクロールしていく。初夏の廃墟は何とも言えない美しさがあり、格子窓の向こうの緑が海のようにも見えた。確かに風化しているが、管理がなければ原型なぞ留めていないはずだ。自然と人工物、そして退廃。絶妙なバランスはまさに芸術と言える。

「ここから先は食事処での写真っすね」

ホテルの中では景色ばかりだった写真に、人物の姿が混じり始める。道の駅での食事風景だ。笑顔でピースをしていたり、片手で髪を避けながら蕎麦を啜ったりしているボブヘアの女性が頻繁に撮られている。おそらく彼女が花音だろう。それ以外にも参加者と思しき人物が写り込んでいた。

「この人は花音さんのお友達?」

彼女と肩を並べて写っている女性を指し、私は尋ねた。年の頃が同じくらいであり、非常に親しいように見えたからだ。しかし返答は否、だった。

「班が一緒になった人らしいです。花音さんも俺もひとりで申し込みましたから。同じ趣味の人ばかりが集まっていますし、すぐ仲良くなれますよ」

あの日からそうなった、という意味では確かに友達ですけどね、と笑う。

「食事のとき俺も一緒でしたけれど、大人びた丁寧な方だったなあ。廃墟で撮った写真をコンテストに出してみようかな、なんて話も真摯に聞いてくれて。別にそれほど本気じゃなかったので、こっちが申し訳なくなるくらいでしたよ」

黒髪をゆるやかに巻いた、綺麗な人だった。上品な化粧を施している。服装は山歩きに適したものだが、その制約の中でもお洒落に気を遣っていることが伝わってきた。耳に着けているのはピアスではなくイヤリングだろう。ふと、その流れで隣の花音の耳元を見たとき、私はある引っ掛かりを覚えた。

「あれ? 鷹志さん」

そのスマホに指を添える。

「さっきの写真、もう一度見せてもらっても?」

カメラロールを遡り、廃墟探索の前の写真へと戻る。ホテルの中。ハイキングの様子。ビデオの早戻しのように景色が移ろうと、最後――いや、時系列としては最初か――に駅で集合した際の写真になった。

「それ、お互いのことに気付いて記念に撮った写真です」

いわゆる自撮りというやつだ。腕を伸ばした鷹志の隣に花音が立っている。彼女は片手で髪をかき上げていた。

「どうかしましたか?」

「この時にはイヤリングがあるのよ」

私は花音の耳元を示す。ワイヤーをループ状に丸めたようなデザインのイヤリングがあった。テグスよりは硬度がありそうだが、金属のようにも見えない。しかし気になったのはイヤリングの形や素材ではなく、後の写真でそれが消えているということだ。

「廃墟探索の間は別の班だったから写っていないけれど……山を下っている最中とか、レストランの写真では何も着けていないの。途中で外したのかしら?」

「……ああ」

私の言葉を聞いた途端、鷹志は分かりやすく悲しげな顔をした。

「花音さん、着けていた耳飾りを失くしちゃったみたいなんです」

話を続けながら写真をスライドしていく。

「たぶんホテルのどこかの部屋で落としたんだと思います。直前まで着けているので」

彼の言う通り、ホテルの外観を眺めている際の写真ではイヤリングが写っている。ホテルから出て山を下りているときには既にない。中で落としたのは確実だろう。

「大したものじゃないから大丈夫、って言ってましたけど。でもなんだか、そう言ったときの花音さんの顔が寂しそうで、ずっと気になっているんすよねぇ」

もう四ヶ月ほど前の話だ。落とした場所にそのまま残っている保証はない。が、無いとも言い切れない。まだホテルの外郭は健在なのだ。雨風にさらわれることなく、どこかの部屋の床に落ちているかもしれないが……。

「ツアーで入ることのできる部屋は、五ヶ所だけですよね」

サツキがホームページの記述を示す。そこには若葉観光ホテルの簡易的な図面があった。引率のもと探索可能なエリアに色がついている。

エントランス。

レストラン。

サロン。

ゲームコーナー。

ホール。

これらがツアーのコースになっている。それぞれ用途の異なる部屋だが、設備が取り払われた今となっては内装に大差はない。ゲームコーナーに古い筐体が残っている程度か。それでは面白みがないと感じるかもしれないが、実際に赴いてみれば、差し込む陽光や窓の切り取る景色が一期一会の物語を作り上げていることに気付くだろう。ホームページの写真を眺めているだけでも息をのむほどで、実際にここへ立てることがどれほど素晴らしい体験か、と想像する。

「落とした場所を特定できれば、管理団体に頼んで探してもらえるかもしれません」

あくまで「もし気付いたら拾ってください」という程度ですけど、と続ける。確かに、広い部屋といえども足の踏み場は定まっている。見回りや次のツアーの際に同じ場所を通るなら、少し足元を気にしてもらうくらいは頼めるかもしれない。

問題は、どうやって特定するのかということだが。

「全然覚えていないって言ってましたよ」

申し訳なさそうに鷹志は応えた。

「落としたタイミングは分かるんですけど、場所はさっぱり覚えていない、って」

「タイミング……?」

サツキが訊き返す。それは私も疑問に思った。アクセサリを失くす瞬間を知っているというのも珍しい。分かっていたのならその場で拾えば良いのだから。

「ホテルの探索をしているとき、地震が起きたんすよ。すぐ収まりましたけどね。避難するほどでもなくて、壁から離れて屈んだくらいなんですけど、たぶんその時に落としたんだろうって。花音さんは耳が良いので、高い位置から落としたなら音で気付けるそうなんです」

参加者である女子高生のブログでも、その件について触れられていた。彼女はホールにいる際に地震に遭ったらしい。ガイドが的確に指示してくれたので安心した、とある。

「それじゃあ、花音さんがどの部屋にいた時に地震が起きたのかを突き止めれば、落とした場所が分かるのね?」

私が尋ねると鷹志は頷いた。しかしまだ情報が足りない。彼自身の記憶と、彼が花音から聞いた内容。そして、同じツアーにいた女子高生のブログから、あらゆるヒントを集める必要があった。まだ時間に余裕があるそうなので、私たちはひとつのテーブルを囲んで話し合うことにする。厨房での作業を終えた店長も興味深そうにやってきた。

「まず、探索の班分けについて詳しく教えてもらえますか」

ノートパソコンのキーに指を置いてサツキが言う。どこか緊張した表情だ。はい、と返す鷹志の声も、それにつられたのか熱がこもっていた。


   *


ホームページの情報から、ツアーの参加者は三十一名であったことが分かった。

その内のひとりは子供。父親と参加した八歳の男の子だ。幼い子供がいたという事実は、鷹志の記憶とも合致する。小学生以下の子供は保護者とセットの扱いになるので、実質的には三十名の参加者ということだ。

これは鷹志の見立てであるが、参加者の年齢に大きな幅はなかった。例の子供を除けば十代後半から三十代あたりまで。山歩きを伴うツアーのため、健脚で体力のある者に限られるからだろうか。女性の数は少なかった。花音と、彼女と親しくなったマキという人物、あとひとりふたりといったところか。

「六人ずつ班分けされました」

子供のいる班は七人ですけど、と続ける。

「だから班は五つですね。それぞれにガイドがつきましたよ」

「班はどういう分け方をされたんだい?」

店長が尋ねる。鷹志はそちらの方を向いて応えた。

「基準はよく分からないっす。ガイドさんが、ひとりずつ名前を訊いて分けていったんです。俺は一班でした。募集が始まってすぐに申し込んだからかな、と思ったんですけど、同じく真っ先に申し込んでいた花音さんとは離れたし……何の基準ですかね?」

「申し込み順ではない、か。お年寄りが混ざっているわけでもないから、年齢で班を決める必要も無さそうだし……」

しばらく考えた後、ぽんと手を打つ。

「ああ、単純に名簿順じゃないか」

店長の言葉に、鷹志も納得したようだ。

「そういえば出席番号の近そうな人ばかりでしたね、俺の班」

「当時は旧姓だったのだろう? 君が一班に入れられ、花音さんと別の班になったことにも辻褄が合う」

おそらく、班の分け方に深い意味などない。ただガイドが管理できる人数に収まっていれば良いのだ。とはいえ参加者に決めさせると余計な時間が掛かるので、分かりやすく名簿順で分けていったのだろう。鷹志はひとりで申し込んだので関係ない話だが、身内同士で参加した場合は多少の調整があるのかもしれない。

「鷹志さんの班に女性はいましたか?」

今度はサツキが問い掛ける。鷹志は首を振った。

「俺のところは男ばっかりでした。何か気になりますか?」

「この女子高生がどの班にいたのか分かれば、ヒントが増えるかなと」

「ああ、そういうことですか。少なくとも俺とは別の班ですよ。地震があったのは、俺がレストランにいた時のことですから。この子はホールでしょう?」

同じ部屋に複数の班が入らないように動いていたらしい。建物の老朽化が進んでおり、安全性を考えると当然のことだろう。

「なるほど。ちなみに、花音さんの方は……?」

「女性は自分とマキさんだけだったそうです。それぞれどんな班だったか後で話したりしましたけれど、女性がふたりに男性四人、ガイドさんがひとり付いていて、特に変わったこともなかったと言っていました」

班分けが氏名の五十音順ならば、摩耶という人物と「マキさん」が同じ班になるのも納得だ。真木、あるいは牧と表記するのだろうか。班の女性がふたりだけということは、女子高生は別の班にいたことになる。

「それじゃあ、消去法でふたつ削れますね」

サツキは表計算ソフトを立ち上げ、部屋の名称を入力した。

エントランス。

レストラン。

サロン。

ゲームコーナー。

ホール。

このうちホールには女子高生、レストランには鷹志がいたのだから、花音がいたのはそれ以外の部屋だ。隣にバツ印を記入する。店長が「紙とペンを貸そうか」と言ったが、この方が慣れているからと断っていた。

「館内の地図を見ると、これらの部屋は正五角形になるような位置関係なんですね。中央の中庭を囲んで一周できるように繋がっています」

ツールで五角形を描き、館内図を見ながら部屋の名前を添えていく。十二時の位置をエントランスとすれば、そこから時計回りにレストラン、サロン、ゲームコーナー、ホールと続いていた。ほとんどの廊下が封鎖されているため、部屋の中を通って一周するという順路しか存在しない。探索というのは名ばかりだ。ツアー客が勝手に動き回るのは危険なので、ガイドも気を張っていたことだろう。

「一班から順番に入っていったということかしら」

同じ部屋に大勢が集まるわけにいかないのだから、そういうことだ。だが話しながらも私は疑問を感じていた。この方法では、最後の班が長く待たなければならない。最初に入った一班も、探索後に待ち時間が発生する。

その疑問は鷹志の言葉ですぐに解消された。

「順番に入ったわけじゃないんですよ」

指がパソコン画面の館内図に触れる。

「この部屋全部、外に繋がる場所があるんです。テラスとか、通用口とか。だから全班が一斉にそれぞれの部屋に入って、せーので時計回りに一周するだけっす」

「なるほどね」

さすがに「せーの」と口に出してはいないだろうが、各班についたガイド同士、連絡を取り合いながら移動したのだろう。この方法ならば同時に探索を終えられる。彼の話によると、一班の「スタート地点」はホールだったそうだ。つまり二マス進んだ時に地震が起きたことになる。そして、後ろの班が前の班を追い越したりはしない。そう考えたとき、ふと思いつくことがあった。

「鷹志さんがレストランにいたとき、後ろの部屋――エントランスにいたのは二班なのでしょう? 名簿順なら摩耶花音さんは四班か五班あたりかしら? 数えていけば部屋の推測ができそうね」

良い考えだと思ったのだが、鷹志の表情は冴えない。少し首を傾げた後、彼は残念そうな顔をして告げた。

「班の番号順に並んでいたわけでもないんですよねえ。スタッフが名簿を見ながら組み分けて、揃った班から配置されました。後ろにいたのが二班だという確証はないです」

「そっか……」

それならば仕方がない。班の順番を鷹志が把握していない以上、こちらで推測する手段は無かった。

「他にヒントはねえのか? 地震以外に何か起きたとか」

柏木が口を挟む。彼はサツキの後ろに立ち、肩越しにパソコンの画面を見ていた。

「そうだ、子供はどうだ? 小学生の子供がいたんだろ? こいつは最後まで問題なく探索できたのか?」

「子供ですか。そういえば……」

柏木の想像は当たっていた。いかほどの退廃美を備えた廃墟であっても、子供にとっては気味悪く感じてしまうものだ。しかも地震まで起きてしまった。

「地震が収まって次の部屋へ移ろうとするとき、ひとりのガイドさんが逆走していったんです。俺のいたレストランを通り抜けて、前から後ろへ。トランシーバのやり取りが聞こえましたけど、どうやらお子さんが地震に驚いてぐずっちゃったんで、ヘルプに向かったみたいです」

「親子だけ誘導して外に出したんだろうな。どの部屋に向かったか分からねえのか?」

「分かりません。通り抜けていっただけなので」

「……いや」

小さく呟いたのはサツキだ。彼は画面上の五角形をマウスカーソルでなぞっている。何か気付いたようだった。

「分かりますよ。どこからどこへ向かったのか」

「そうなんですか? 俺にはさっぱり――」

「ああ、なるほどな」

今度は柏木が呟いた。

「これはそんなに難しい話じゃねえぞ、兄ちゃん」

「柏木さんも分かりましたか」

サツキが微笑む。しかしすぐに、怪訝な表情になった。

「俺のことは〈少年〉で、鷹志さんは〈兄ちゃん〉なんですね」

「おう、どうした。少年よ」

「ええと……まあ良いです。解説しますね」

五角形の頂点のひとつ、レストランのところに赤い印をつける。ここに鷹志がいたことを示しているのだろう。次に向かう部屋はサロン。前にいた部屋はエントランスだ。

「ガイドさんは逆走していましたから、サロンからエントランスへ向かったことになります。そして、出発地点と目的地は、この組み合わせしかあり得ない」

「何故です? もっと前の部屋から来たかもしれませんし、もっと後ろの部屋に行くつもりだったのかも……」

「そうなれば反対側から回った方が早いからです」

サツキは指をくるりと動かした。

「サロンからエントランスまで移動した時点で、二マス戻ったことになります。これより遠い部屋へ行きたい場合は、反対側から回れば良い。レストランを通って鷹志さんの目に留まることもないんです」

「そういうことか! 確かに単純ですね」

つまり親子の班はエントランスにいた。花音の班は女性ふたりに男性が四人だと言っていたので、ここも違う。またひとつ消去法で削ることができた。

「これで二択ね」

残るのはサロンとゲームコーナーだ。ここまで絞れば、花音に「途中でガイドが離脱しなかったか」と尋ねるだけで特定できる。地震発生時にいた場所を覚えていなくとも、そんな出来事があれば記憶に残っているだろう。とはいえ、すぐに電話で確認するわけにもいかないらしく、もどかしい空気が漂った。

あとひと押しで、この場で結論が出そうなのだが――そう、考えたとき。

「ガイドさんがツアー客だけ置いていくわけないわよね……?」

鷹志がガイドの逆走を見たのは「次の部屋へ移ろうとするとき」だ。だが、そんなアクシデントがあっても探索は滞りなく進行した。時計回りに一斉に動いているのだから、どこかの班が止まっていれば全体が止まる。それが無かったということは、ガイドがヘルプに向かっている間も班は動いていたのだ。部屋に入る人数を制限してまで安全を保っていた団体が、ツアー客だけで移動させるはずがない。

「そうか」

サツキが同意する。

「サロンにいた班には、ガイドがふたり付いていたんだ」

この親子のように離脱する者がいないとも限らない。班にひとりずつ、計五名のガイドだけではアクシデントに対応できないだろう。ガイドは六名いた。部屋の中を通って駆けつけたということは、外で待っていたわけでもなさそうだ。どこかの班について行動していたに違いない。

「花音さん、ガイドさんはひとりだったって言ってましたよ」

鷹志が言う。女性ふたりに男性四人、ガイドがひとり。その証言は私の記憶にもあった。ガイドがひとりなのは鷹志の班も同じであり、その合致によって全ての班がそうだと思い込んでいたのだ。

地震発生時に花音がいた部屋は、ゲームコーナー。

これでようやく特定できた。

「論理的に考えると答えが出るものなんですねえ」

ゆっくりと頷きながら鷹志が告げる。彼は人柄も良く誠実だが、こういったパズルのような思考は不得手なようだった。帰ったら花音さんに確認してみますね、と言ってから

「俺、勉強とかあまり得意じゃなくて。もの覚えも悪いし」

とため息をついた。

「ずっと間違えて覚えていたことわざがあるんです。探索後の食事のとき、マキさんと話している中で『とらの狸の皮算用』って言っちゃって。何度も訊き返されたんでおかしいと思って後で調べてみたら、正しくは『とらぬ狸の皮算用』じゃないですか」

撮った写真をコンテストに出してみようか、という話をしたと言っていた。冗談まじりに「受賞したらどうしよう」なんて言ったのかもしれない。確かに少し恥ずかしい間違いだが、気にするほどのことでもないと思う。

「気にすることねえよ、兄ちゃん」

私の考えと同じことを柏木が言った。

「俺だってな、つい最近まで『海千山千』を『海の幸山の幸が並んだ豪華なメシ』のことだと思っていたぜ」

「柏木さんは編集者の立場なのでまずいでしょう」

柄にもなくサツキが冷たく言い放つ。少年と呼ばれ続けたことを根に持っているのかもしれない。鷹志は小さく噴き出した。

「虎って動物を狩って食べるでしょ。だから、仕留めてもいない狸を数えている虎から来たことわざなのかな、と思っていて」

「虎は狸の皮なんざ興味ないだろ。まあ、意味は合っているんだから上出来だ」

顔を見合わせて笑う。気がかりだった謎が解けて安堵したのか、鷹志の腹の虫が大きく鳴いた。私はサツキの左手首を覗き込む。黒い革ベルトの腕時計はまだ朝と呼べる時刻を示していたが、腹が減ることもあるだろう。

「狸といえば……」

店長がカウンタの方へ戻り、鷹志の運んできた荷物を取り出す。

「姉から蕎麦が送られてきたんだ。お昼には早いけれど、食べるかい?」

はい、と元気な声が響いた。


   *


サツキが遠慮したのは意外だったが、私と柏木はご相伴にあずかることにした。九月とはいえまだ暑く、たぬき蕎麦ではなくざる蕎麦だ。冷たい麺が喉を通り過ぎていく感触が心地よく、夢中になって食べてしまう。

私たちが食べている間も、サツキは考え事をしているようだった。

「何かが引っ掛かるんだよね……」

ぽつりと呟く。パソコンの画面は、ツアーのホームページと女子高生のブログを行き来していた。

「どこかで根本的に間違えているような……」

イヤリングを落とした場所について、確証は持てない。ガイドは遠回りを承知の上で逆走したのかもしれないし、地震の際に落としたという前提も記憶違いかもしれない。だがそれを言い出しても詮ないことだ。彼が考えているのは、もっと自明で確実なことだろう。私たちが、うっかり見逃しているだけで。

「ごちそうさまです」

早いながらも丁寧に、鷹志が食事を終える。食器をさげてもらった後、サツキの方へ身を傾けて画面を覗き込んだ。

「色々と写真が載っていますね」

ブログの話だ。廃墟で撮った写真は自由に投稿して良いので、彼女自身の撮影したものが並んでいた。当人含め、人物が写っているものはない。ただ美しい山の景色や、廃墟の中の様子が切り取られていた。

「写真を見るだけだと、どの部屋か分かりづらいですね」

足元を撮った写真を指して鷹志が言う。添えられたコメントからホールの床であることが分かったが、確かに部屋の判別は難しい。既に設備が取り払われているのだから、どこも似ていて当然だ。

しかし。

「やっぱりおかしい」

自らの唇をなぞり、サツキは言った。ブログには全ての部屋の写真が載っており、ホームページとは異なる角度で確認することができた。風化が始まって荒れているのはどこも同じで、調度品も撤去されたので見分けがつかない。だからこそ花音はイヤリングを落とした場所を覚えておらず、推理して探す必要があったのだ。

――そのはずだった。

「これ、ゲームコーナーだけは分かりますよね」

サツキの示す写真には、エアホッケー台がしっかりと収められている。若葉観光ホテルは歴史ある施設だが、門戸は常に庶民へ開かれてきた。この部屋も遊戯室と呼ばれるような類のものではなく、卓球台やクレーンゲーム、懐かしのモグラ叩きまで雑然と並ぶ、親しみやすい空間だ。そして今も、それらの筐体が残っている。調度品とは勝手が違うので、引き取り先が見つからなかったのだろう。

ここで地震に見舞われた者が、場所を覚えていないのは無理がある。

「どういうことっすか?」

慌てた様子で鷹志が言った。

「花音さんが嘘をついたということですか?」

「いえ、そもそも単なる推測ですから」

答えがゲームコーナーだというのも不確かなことです、と続ける。人は必ずしも論理的に動くわけではなく、ヒントに使った情報が正しいとも限らない。実際にイヤリングを発見するまで、証拠はどこにも存在しないのだ。

彼の脳裏に引っ掛かっているのは、きっと花音の言葉ではない。

会ったこともない相手の証言よりも、自分の目で得た情報に違和感がある。その正体に気づけないのがもどかしい、という心情に思えた。パソコンの画面を食い入るように見つめている。ツアーのホームページは簡潔にまとまっていて、おかしな記述は見当たらない。ならばブログの方か。地震発生時にホールにいたという、その前提自体が記憶違いの可能性もあるが――

「そういえば」

一緒に覗き込んでいた鷹志がふと、口にした。

「この子、どうして妹さんと班が分かれちゃったんでしょうね」

――妹と一緒に申し込みをしましたが、なぜか班は分かれてしまいました。でも、同じ班の方と仲良くなれて楽しかったです。

「あっ」

サツキが目を見張り、その部分にカーソルを滑らせて反転表示させた。

「それです、何か引っ掛かっていたことは」

最初に読んだ際には気に留めていなかったが、よく考えるとこれは妙だ。一緒に申し込んだ未成年の姉妹が、名簿順の班分けで別々になる理由が分からない。

「ふたりの間でちょうど班が区切られた、なんて非現実的よね」

スタッフも配慮するはずだ。おそらく彼女らは、姓も住所も同じである。他ならぬ彼女自身が、班が分かれたことを不思議がっているのだから。

「まさか、取り違えられた?」

私の言葉に返事はない。だが、きっと同意を得られると思った。班分けはガイドがひとりずつ名前を確認しながら振り分けていったが、その際に聞き間違いがあれば、そのまま別の班に配置されてしまう。

ただし、相手側も間違えられていなければならない。

どちらかが正しい班に向かえば、取り違いはすぐに分かる。部屋に入る人数を厳密に管理しているのだから、多かったり少なかったりの状態で探索が始まることはない。ふたりが綺麗に入れ替わり、そしてそれに気付く者もいなかったということだ。

「両方とも間違われちゃうのは不思議ですね。よっぽど似た名前だったのかな」

鷹志の言葉に、サツキは首を傾げる。

「姉妹の姓が同じなら、きっとフルネームで名乗りますよね。それが他の誰かと間違えるほど似ているなんて、滅多にないと思うけどなあ……。あ、でも、一緒にいて続けざまに訊かれたのなら、後になった方は下の名前だけ言うかもしれませんね」

「逆に言えば、家族と参加していない人は苗字しか名乗らない場合も多いでしょう。姉妹どちらかの下の名前が、誰かの姓に似ていたということも――」

彼らの会話が止まる。今の発言で分かったのだ。この場にいる全員、姉妹が班を分けられてしまった原因に心当たりがある。

摩耶花音。

それが花音のフルネームだ。つまりスタッフに「マヤさんですか」と尋ねられたなら、彼女は「はい」と応える。彼女は数少ない女性参加者のひとりなので、そのスタッフは推測してしまったのかもしれない。この女性がきっと「マヤさん」だろう、と。花音が自ら名乗るのではなく、スタッフが呼び掛けた名前に返事をする形になった。そして違和感なく会話が成立してしまったのだとしたら。

「マヤという名前の女の子がいたんですね……」

一方本物の「マヤさん」は、姉もしくは妹に続くタイミングでスタッフに氏名の確認をされた。先に片割れが名乗っているのだから下の名前だけで良いと判断し「マヤです」とだけ答えてしまったのか。まさか「摩耶」という別の参加者がいるとは思わずに。

情報を整理するようにぽつぽつと語るサツキは、こう締めくくった。

「おそらく、姉がマキで妹がマヤという名前なのでしょう」

「マキ……えっ、あのマキさんですか?」

マキとマヤ。姉妹の名前としては自然だ。

妹とは分かれたが、同じ班の方と仲良くなれた――その記述の対象こそが、妹のマヤと取り違えられた摩耶花音その人だったのだ。高校生とはいえ、休日に化粧をしたり髪を巻いたりするのは自由だ。ぐっと大人びて見える子供は少なくない。一方の花音は鷹志と同じ歳のはずなので、未成年に間違われてもおかしくない範囲だろう。

「マキさんは下の名前で名乗る習慣があったのか、妹と紛らわしくなることを避けるためか、班のメンバに対してフルネームを告げなかったのでしょうね。だから花音さんもマキというのを苗字だと誤解していた……。ご自身が摩耶という姓なので、思い込みもあったかもしれません」

「なるほど。それが一番しっくり来ます」

根本的に間違えている、とサツキが感じていたのは、マキと女子高生が別人だという前提のことだった。ただ大人びているというだけで決めつけていたが、女性の年齢など外見からたやすく分かるものではない。参加者は男性がほとんどで、女性は片手で数えられるほどだったのだから、同一人物である可能性もあたるべきだ。

花音とマキは同じ班にいた。ブログを書いた女子高生がマキならば、花音が地震に遭った部屋はホールということになる。ゲームコーナーではない。イヤリングの落とし場所を覚えていないことにも納得だ。

「あ、ということはつまり……」

鷹志の表情がやにわに曇る。実際にマキと話した者として、彼女が高校生であるという事実を受け止めきれない様子だ。だが、大人だと思い込んで接した時間は取り返せないのだから、彼には観念してもらうしかない。

「つまり俺は、高校生に向かって間違ったことわざを言っていたんですか」

たとえ、どんなに恥ずかしい会話の記憶があったとしても。

「やっちゃったなあ……。そりゃあ、何度も訊き返されるわけだ」

「大丈夫、マキさんも気にしていないわよ」

「でもきっと変には思っていますよ。えっ、て感じでしたもん」

「それは――」

私の言葉の途中で、くすくすという笑い声が挟まった。見ればサツキがこらえるようにして肩を震わせている。鷹志は眉尻を下げた。

「酷いなあ、サツキさん。何も笑わなくても」

「いえ、これはそういう意味ではなくて」

彼の指がパソコンの画面を指す。ブログサイトのトップページが表示されていた。

「分かったんです。どうして彼女がそんな反応をしたのか」

「俺が、間違ったことわざを言ってしまったから……」

「それだけなら聞き流しちゃいますよ、意味は通じますし。でも彼女にとっては反応せざるを得ないことだったんです。自分の名前が呼ばれたように感じたんでしょうね」

「名前? 俺はあのとき、マキさんだなんて言ってませんよ」

「下の名前じゃなくて、こっちです」

画面を見る。女の子らしいポップなデザインのトップページには、これまた可愛らしい字体でブログタイトルが記されていた。

とらのまきブログ。

とっておきの情報を綴っていく、という意味の名付けだと思っていたが。

「鷹志さんは『とらの狸の皮算用』と言ってしまったんですよね?」

管理人のプロフィールにも「とらのまき」とある。何気なくタイトルと同じ単語を入力したわけではなかったのか。真相に気付いたとき、心の底からの声が出た。

「これ、本名だったんだ!」


   *


さて、落としたイヤリングについての話だが。

実は思いもよらない展開で、あっさりと事態は解決したのだった。そろそろ鷹志が出発の時刻を気にかけ始めた頃、サツキのパソコンを借りてブログを読んでいた店長が、あることに気づいた。

「如月くん、ちょっと」

近くにいた彼を呼び寄せる。視線の先は相変わらず、廃墟ツアーの記録だ。

「これ、追記があるような気がするのだけど……」

「え?」

サツキが頓狂な声を上げた。今まで何度も、全員で読んでいたはずだ。しかし多くの目に晒されていたからこそ、見逃してしまうこともある。人間は無意識に他者へ頼ってしまうものなのだから。

そこには〈続きはこちら〉という薄い色のリンクがあった。

「たしかにブログでは長文を折りたたむことが多いですが……」

既に十分な量の感想が載っており、これで全文だと思うのも無理はない。サツキが店長と代わってパソコンの前につき、リンクをクリックした。

「ああ……」

誰からともなく声が漏れる。そこに記されていた内容こそが、私たちの探した答えそのものだったのだ。

――そういえば、地震が収まってから次の部屋に移ろうとしたとき、足元にイヤリングが落ちているのを見つけました。拾ってガイドさんに届けたので、ちゃんと落とし主さんの元へ返るといいなあ。悪い人が勝手に受け取りに行ったりしないよう、ここに詳しいことは書かないでおきます――

彼女の配慮により、拾ったイヤリングの写真や描写などは無い。だが、ただでさえ少ない女性参加者のうち、イヤリングを着けていた人物は限られてくる。花音のものである可能性は高いだろう。彼女は耳元が隠れる髪型だったので、落とし主であると気付かれなかったのか。

「なあんだ、最初から書いてあったんですね」

朗らかな顔で鷹志が言った。ツアーのホームページの方も確認してみたが、落とし物は期限を設けず保管してあるらしい。ホテルの中で置き去りになっていなくて良かった。今までの推理は何の役にも立たなかったが、それを嘆く者などいない。

ただ、サツキだけが控えめに詫びていた。

「ごめんなさい、俺が見逃していたから……」

「謝ることじゃないっすよ! 持ち掛けたのは俺の方ですし」

何はともあれ、これで問題は解決した。後で花音に確認をとり、ツアーの運営団体に問い合わせれば良い。これで鷹志も心置きなく仕事に戻れるだろうし、私たちの気持ちもすっきりする――

と、思いたいところであるが。

「花音さん、どうしてツアーの間にガイドさんへ尋ねなかったのかしら」

口にするかどうか迷った。この流れで終わっても良いはずだった。それでも話しておかなければ、他ならぬ花音自身の望まない結果になると思ったのだ。

「マキさんがすぐに届けてくれたから、解散までにガイドさんから呼び掛けがあったはずなのよ。落とし物を預かっています、って。鷹志さん、心当たりある?」

「それは……」

鷹志の視線が揺らぐ。思い出そうとしている様子だ。

「うーん、覚えてないなあ。ああいうのって、持ち物を失くした覚えがなければ聞き流してしまいますよね」

「そうね。だから逆に、花音さんは聞いていたはずよ」

着けていたイヤリングを落とし、帰路につくまで気付かないというのはレアケースだ。地震の際に落としたらしい、という推測もできている。おそらく山を下りている頃には把握しており、だとすれば解散前のガイドの言葉にも耳を傾けているはずだ。

「わざと落としてきたんじゃないか、って私は考えているの」

イヤリングの紛失が故意ならば、取り戻すことは花音の意図に反する。鷹志は悪意なく今日の出来事を話すだろうし、厚意から問い合わせを提案するだろう。彼女が断れずに応じてしまう未来が見えた。

だからここで、伝えておかなければならない。

「じゃあ、この話をしたときの花音さんが寂しそうだったのは……」

「イヤリングを失くしたことではなくて、イヤリングをわざと落としてこなければならなかった理由に対して、でしょうね」

「何があったのかな。廃墟に私物を置いてくるのって、本当は駄目じゃないですか。その上でわざと落としてくるなんて、よっぽどの理由っすよ」

そう話しながら、鷹志はスマホを取り出す。カメラロールの中、駅前で撮ったふたりの写真にはイヤリングが写り込んでいた。ワイヤーをループ状に丸めたようなデザインで、幾何学的な形が洒落ている。手作りのようにも見えるので、気軽に捨て去るには惜しいと思えた。これを若葉観光ホテルに落とさなければならない理由とは何か。

「そりゃあ、忘れたい相手からのプレゼントだったとかじゃねえのか」

思案に暮れる私たちに対し、こともなげに告げるのは柏木だった。

「それこそ元カレとか――」

「ちょっと!」

思わず肩を叩く。鷹志の前で何てことを言うのだ。

「大丈夫ですよ。花音さんとは再会して一年も経っていません。その前に誰と付き合っていようと、俺が気にすることじゃないです」

「鷹志さんは優しいわね。怒っても良いのよ」

「でもあり得る話だろ? そいつとデートで来たのが、若葉観光ホテルだったのさ」

別れた男への未練を断ち切るため、思い出の場所に思い出の物を捨てたのか。ホテルは五年前に廃業しているが、デートというのは今回と同じ廃墟ツアーなのかもしれない。それより前から付き合っていたという解釈もできる。しかしどうにも違和感を覚えた。摩耶花音の人柄を語れる立場ではないが、そんな未練がましい人ではない、と思うのだ。

そのとき、私の考えをなぞるような言葉が聞こえた。

「花音さん、人間に対してはそんなに未練がましくないっすよ」

鷹志が渋い表情をしている。元カレの話が出たときより不服そうだった。

「人は人、自分は自分、って考えていますから。恋人と別れたくらいで何かを捨てたりしないと思います」

「人間じゃない場合は?」

疑問を抱いたので尋ねてみた。未練がましくない、という言葉に前置きがあったからだ。鷹志はこちらを向いて穏やかに微笑んだ。

「物とか場所に対しては、それなりに。迷っているうちに売り切れてしまったワンピースとか。遠くから来たのに臨時休館だった水族館とか。他には――」

今は妻でありかつては恋人であった花音との思い出を語る。未練があるのは期待しているからだろう。諦めずにいれば同じワンピースをどこかで見かけるかもしれないし、また水族館へ行く機会を作ることもできる。自分の行動次第で未来は変わるという信念こそが、彼女を未練がましくしているのだ。

それでも、もし、どうにもならないことがあったとしたら。

「……ここで演奏したいと考えていたのに、廃業してしまったホテルとか」

そう呟いた鷹志の声は、とても澄んでいた。

思い出を挙げていくうちに浮かび上がった真相だ。摩耶花音はバイオリンを演奏する施設にこだわりを持っていた。広い屋上のある鉄筋コンクリートのビルだとか。光の降り注ぐ植物園だとか。そういった様々な候補の中でも、どうしても諦めきれない特別な存在が、若葉観光ホテルだったとしたら。

新緑の季節が特に美しいと言われているが、〈彼女〉はいつだって綺麗だ。

まさに女王と呼ぶべき圧倒的スペクタクルを携えて、若葉観光ホテルはそこにある。

「俺、一度だけ花音さんのバイオリンを見たことがあります」

とうに引退していた彼女は、彼の前で弾くことすらなかったと聞くが。

「これって弦ですよね。テグスでもワイヤーでもなく」

イヤリングに使われている、くるりと丸められた糸状の素材。長らく連れ添った相棒の一部を身に着け、花音は未練がましく山を登った。願いは叶わなくなってしまったけれど、もう一度会いたいと思ったから。

そして、バイオリンの弦だけを置いてきた。

「……どうして早く言わなかったんだ!」

鋭い声が響く。柏木が椅子を蹴って立ち上がっていた。

「あそこで弾きたいと言っていれば、すぐに使えてただろ! 天下のマヤカンだぞ? 廃業前だって、いや、廃業してからだって。まだ安全なうちにいくらでも――」

「柏木さん」

鷹志が制する。もう不機嫌な様子は見られなかった。彼も分かっているのだろう。柏木は真剣に花音の幸せを考えているし、その上で関わった者も益を得る方法を提案しているだけだ。彼女がコンサートを開くとなれば、必ずホテルも活気づく。

だが、花音の方にも考えがあった。鷹志はそれを察することができる。

「そういうのじゃないんですよ。そういうことじゃ駄目なんです。花音さんにとって若葉観光ホテルは運命の相手みたいなもので――そうですね、前の恋人、と呼んでも良いのかもしれません。だから強引に詰め寄るつもりは無かったんです」

何度も足を運んで。少しずつふさわしい相手になって。そうして自然と縁ができるまで、彼女は待っていたのだろう。十代そこらの少女が見合うものではない。もっと時間をとるべきだと考えていた矢先に、恋人は惜しまれながらも役目を終えた。

「そうか」

柏木は語気を鎮める。納得した様子だ。そして椅子に座り直すのかと思ったが、鷹志の方へと歩み寄って肩を掴んだ。続けて飛び出したのは、予想もつかない言葉で。

「ところで結婚式は済ませたのか? 今の若い奴は挙げないことが多いって聞くからな。まだ計画もないのなら――いや、二度目でもいい。俺に任せてくれたら、若葉観光ホテルでの挙式を企画できるぞ」

鷹志の口がぽかんと開いている。あまりにも唐突だった。確かに、文芸誌編集長としての権威を持つ彼ならば、そういった人脈もあるかもしれないが。

「まだですけど……柏木さん、俺の話聞いてました?」

「俺はアンタに言っているんだ」

肩に置いた手に力が込められる。ふざけているわけではない。欲に駆られているわけでもない。柏木はただ、目の前の青年に対して話している。

「摩耶花音だからじゃない。金になりそうだから、じゃない。一緒に蕎麦を食った相手が式を挙げていない新婚なら、俺がプロデュースできると考えて話しているんだ。好きなんだろ、廃墟が。今の若葉観光ホテルで結婚式を挙げたいと思わねえか?」

傍らで話を聞きながら、それは素敵なことだろうな、と私は思った。バイオリニストを辞めてしまった花音であるが、愛する人の前で思いのままに弾きたいはずだ。たとえ一日限りの出来事で、観客は僅かしか入れないとしても。

かつての「恋人」は今や廃墟で、ここにいるのは廃墟好きの夫婦である。

これほどふさわしい組み合わせは他にない。

「えっと……花音さんにも相談しないと」

たじろぎながら応える鷹志に、柏木は歯を見せて笑った。

「もちろんだ。夫婦揃わなきゃ意味がねえ」

その両眼が、獲物を見つけた虎のように輝いている。ここから先は彼の狩場だ。真剣に夫婦の幸せを考えた上で、関わった者も益を得られる企画を仕留めるための。

「良い返事を期待していると伝えてくれ。それから……」

愛されながら朽ちていくホテルには、きっと彼女の音色が似合う。

「バイオリンの弦を張り直しておけよ、ってな」


〈九月・とらぬ狸の蕎麦算用 終〉


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