#68 旅の始まり友との別れ
ぐわんぐわん、幾つも重なり厚みのある低音が、今日で最後の鐘の音が、眠っていた頭を揺さぶる。
ぼやけて何も見えない目は、ゆっくりとあさぼらけの淡い部屋を捉えていく。
ちゃんと敷き詰め、大きな一枚にした敷布団の上に転がっていた友だち達が、もぞもぞ蠢き、のそのそ立ち上がりはじめた。
ラフェム、詩歌、クア、ネルト。四人それぞれが、自分のタイミング、自分のポーズで、ぐぐっと体を伸ばす。俺も、体を起こして胡座をかく。
唯一、エイポンだけは動かない。安らかな顔してすやすや眠っている。
昨日料理も掃除もずっとしてくれてたし、疲れてるんだろう。
寝かせてあげよう。言葉を交わさなくとも、満員一致だ。
「おはよう」
「おはよ〜」
「ねっむい……」
囁き声で、抑揚のないあいさつを交わすと、自分が乗っていた布団を静かに畳み始める。
激闘の傷は、もう面影も無かった。
普通の日々の、とある一日が始まったかのように皆動いている。誰も痛みや疲労の素振りを見せていない。強がって隠しているわけもない。
俺も全く疲れてないし痛くもない。
あまりにも元気すぎて、逆に体調がわからなくなってしまうほどに疲れてるんじゃないかと疑ってしまうほど。
証拠に、布団を運ぶのなんか、ちょちょいのちょいだ。
ティッシュを折るぐらい簡単に、布団を始末した。
それぞれが、片付け、歯磨き、身嗜みのチェック、やるべき事を終わらせた後。
ラフェムがソファに座る。当然のようにクアが隣に座った。
やれやれ、近いなぁ。と彼は言う。わざわざ俺たちの方を見て。でもその顔はまんざらでもなさそう。
そんな調子の想い人を見て、彼女は哀愁のある微笑みを浮かべる。
「ねえ、これからどうするの?」
「朝飯食べたら、出発しようかなぁ」
他のうねりと見分けのつかない、横髪の外ハネを指でつまんで伸ばしながら言う。彼にとって、それは寝癖らしい。
「あら、今日のうちにラスリィまで行くつもり?」
「この辺りの地は慣れているから、あまり知らない地で鍛錬を積まないと。いつ、どこで戦うかわからないからね。それに、一日でも奴の元へ近付かないとさ」
「早く行かなければならないけど、強くなる為には時間がいる……この相反の折衷は難しいわね……」
「そうだな…………」
しんと、部屋が静まり返った。
いつドラゴンが動き出すか、どれ程の月日を重ねればまともにやり合える実力を手に出来るか、どれもわからない。
だから、旅の計画も想像も描けていない状況だ。
正直、俺も皆も不安だ。
先の見えない道途。
踏み出した矢先に不幸と対面するかもしれない、道の終わりは死という深淵のみかもしれない。
……だけど怖気づいてなんかいられない。
背を向けて膝を抱えていたって、得られるものは何もない。立ち直れず閉じ籠っていたから知っている、俺もラフェムも既に。
だからこそ、勇敢に、無謀に、足を前へ踏み出さなければ……。
ぐるると、何かが唸った。
部屋に響き渡る、空気の読めない異音。
これからの未来に向いていた意識が、すっと引き戻された。
皆も同じらしく、犯人探しではないが、出処を見つけようと辺りを見回している。
ネルトだけ、動かずに縮こまっていた。
申し訳なさそうにお腹に手を当て、一番高い背丈が俺たちと同じになるぐらいの中腰になって、はにかんでいた。
「よし。悩んでてもしょうがないよな! 朝飯、僕が作ろうか」
ラフェムはおもむろに立ち上がる。
クアは慌てて飛び上がると、進路を塞ぐように前へ出た。
「食べたら旅に出るんでしょ? こんなとこで体力使わせたくないわ、ワタシたちに任せて」
「別に料理の一回二回どうってことないよ。それに、ずっと食べさせられてばかりだったからね。お返しさ。食材、あるもの使わてもらうよ」
彼女の肩をぽんと叩くと、まっすぐ調理場に向かっていった。
そうだなぁ、ここはラフェムに任せるとするか……。
────────
リズミカルな包丁、弾ける油、漂う香り、渦巻く紅蓮の炎。
テキパキと机に並べられる食事たち。
平皿に乗った、いつもの目玉焼きとソーセージ、瑞々しい葉野菜を添えて。手のひらサイズの丸いパン付きだ。
それが、いち、さん、ご、なな。
あっという間に、彼は朝飯を全員分用意し終えた。
「あらぁ……ラフェムちゃんが作ってくれたの?」
「お姉ちゃ……あっ……」
匂いに釣られたか、熟睡していたエイポンは目を覚まし、二階で寝ていたロネちゃんも、寝ぼけ眼を擦りながらやってくる。
「おはよう、二人とも」
「んもお、起こしてくれればアタシが作ってあげたのにぃ〜」
「こんなの朝飯前さ! さあ、食べようか」
胸を張りながら、椅子を一つ一つ引きながら、ぐるりとテーブルを一周すると、どかっと先導して座った。
クアは当然の権利のようにラフェムの横へ。
ネルトは、多く盛られてる皿の席へ。
俺と詩歌は、皆が座るまで待って、最後に余った席へ。
座り終えてすぐ、皆で声を揃えていただきますを唱えた。
────────
ラフェムが振る舞う最後の料理を味わいたかったか、ビリジワンに残る友たちは、俺たちよりワンテンポ遅れて完食した。
腹も満たしたので、すぐに出発の準備をする。
準備と言っても、ローブに着替えて、用意した荷物を持って、もうおしまい。そりゃあ、昨日こっそり出発する予定だったのだから、時間などかかる訳がない。
玄関で靴を履いていると、ロネちゃんが妙な間を開けて、じっとこちらを見つめていることに気がついた。
あれ。来ないのかな?
「ロネちゃんは来ないのか?」
「ひゃ、あ、そうです、留守番……」
小さな悲鳴をあげると同時に、エビのように後ろへ飛び退いた。
外出るの好きそうじゃないもんな。それも俺たちは姉の友人たち、その程度の関係で、わざわざ嫌な気持ちを押し殺して見送るってほどでもないしな。
「そっかあ、じゃあ留守番よろしくな」
「はい、その……あの……」
彼女は、顔を薄紅に染め、縮こまる。
何か言いたげに、煌めく瞳がずっと俺を見ている。
「どうした?」
「どうかご無事で……頑張ってくださ……」
言い終わる前に声は掠れて消えていき、彼女も壁の向こうに引っ込んでしまった。
……だけど、思いはちゃんと伝わったよ。彼女の精一杯の勇気を振り絞った応援に、応えられるように頑張らなきゃな。
…………まだ感慨の余韻に浸っていないのに。
後ろが、空気も読まずぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
「荷物持つわよ?」
「すぐそこだからいいって」
「少しでも体力を温存しないと!」
「大丈夫だってば」
過保護な三人が、ラフェムの荷物を取ろうとしている。
俺が持つはずだった荷物は、既にエイポンが抱えているし、詩歌は勢いに流されてネルトに渡してしまったようで、ラフェムの反応に渡すべきだったのかわからなくなって、戸惑っている。
ラフェムは意地を張り、荷物をぬいぐるみのように抱き締め、ぶんぶん体を振ってガードしていたが……埒が明かない。これでは夜になってしまう。諦めの悪い三人に折れ、とうとう荷物を渡してしまった。
飯は食べた。荷物も持った。靴も履いた。
もう、進む以外にやることはない。
「……じゃあ、行こうか」
とうとう、か。
ラフェムは扉に手を掛け、外へと一歩踏み出した。俺も、誰も彼も、彼を追って外へ出る。
四面壁に阻まれたここは、まるで灰色の箱の中。
蓋の代わりに満たされた、一面の鮮明な青のコントラストに目が眩む。
まだ曖昧な視界のまま、足元の石畳の感触を頼りに宿の裏口へ入った。
忙しなく変わる明暗に、世界の端がじわじわと黒くなってしまって前が見えない。まるでピンホールカメラみたいだ。
この世界で初めて眠ったクアの宿。
少しひんやりしてて、石鹸の良い香りがかすかに漂ってくる、綺麗な宿。
あの日は本当に慌てたなぁ。
ちょっと重たい、良いバッグを持ってるものだから、当然お金が入っているって思い込んでた。なのに入ってるのは本とペンと消しゴム。この世の終わりかと思ったな。
でも、ラフェムが助けてくれて……。
凍える街、羽織った熱のこもったダウンジャケット。あの日の事が、郷愁の記憶のように蘇る。
実際は、まだ二週間ぐらい前なのに。
先陣を歩くラフェムが、大きな扉を押し開けた。途端に、陽光がこれでもかと網膜に飛び込んで、また視界がまっさらになる。
でも、今度はすぐに景色を取り戻した。柔らかな色の街が、大きな入道雲が、なんの変哲も無い平穏な一日が、見渡す限り広がっている。
がらんどうの道。
大通りと比べたら、人は元々少なかったけど、そうだとしても人がいなさすぎる。
実質貸し切りの直線を進んでいると、のんびり散歩している老夫婦が角から現れた。二人は俺たちに気がつくと、優しく微笑んで軽く会釈してくれた。
彼らは、また別の角へ消えていった。
……心なしか、天を気にしているように見えた。
一刻でも早く、あの災禍を止めないと。
この星、この街の未来と平和は、人間の命運は、俺たちの手にかかっているんだ……。
道を抜け、太陽のような活気を失いつつある大通りに出た。
もうすぐ、街に帰ってきた時のような、ゴーストタウンに戻ってしまいそうだ。
東に向かって、まっすぐ進む。
旅立ちを目前にして、なにを、どんな風に話せばいいのかわからない。
奇妙な緊張感が、首に手を伸ばし、息だけを許す力で絞めていて、声が出ない。
昨日たっぷり話したけれど、まだ何か、何かが足りないような気がして。
でも、頭の中でしっちゃかめっちゃかにわだかまり、文字にならずに散ってしまう。
どうにも、皆そうらしい。
誰かが誰かに目を合わせては、何も無かった風な面で、前を見ていたから。
妙な沈黙のまま、看板をくぐって、翡翠の草原へ。
ゴォと突風が駆け巡り、名も知らぬ草花が頭を垂れる。
何度も通った道なのに、いつもと変わらない風景なのに。
酷い緊張に指先が痺れる。
黄土色の獣道が、魔王の屋敷へと続く崖の回廊みたいに感じる。
「……それじゃあ、頑張ってね」
クアたちから、荷物を受け取った。
……ついに、ついに始まるんだ。
重さなんか感じないはずの風呂敷一つが、ずっしりと重い。まるで、体を地球の頃に戻されて、泥を無理やり詰めたナップサックを持たされたみたいだ。
旅の始まりを、死への道を、未来を託されたのを、改めて……いや、やっと自覚したのは俺だけじゃない。ラフェムも詩歌も、じっと抱いた荷物を見つめている。
「あらら? 元気がないわね?」
クアは戯けてくれたが、彼女もいまいち不安の影を拭いきれていない。
彼女に気を遣わせちゃ駄目だ、俺たちが明るく振る舞わなくちゃ。
彼女たちは、これから不安に過ごすのだから。
「そういうクアも。皆、ちょっと朝飯食べ過ぎたかなぁ、美味かったしな? まあ、俺たちは絶対ドラゴンを討って戻ってくるよ。だから、待っててほしい」
「凱旋祝いの料理は、トカゲステーキで頼む」
強がる俺に寄りかかり、ラフェムがおちゃらける。
俺も彼も、いつも通りの喋り方を精一杯演じた、不安定な声だった。
本当は、帰郷の未来を楽観しつつも、不安で、怖くて。
だけど、クアが笑ってくれた。
一瞬、一寸先の闇を忘れて、いつものような笑顔で。
ちょっぴり不安が飛んでって、勇気に変化して帰ってくる。
この笑顔も、護りたいものの一つ。
怖くても、挑むんだ。
「……さあ、忘れ物はない?」
「あるな」
この気持ちのまま見送りたいのだろう、微笑んだまま聞いた彼女、対してラフェムは、素っ気なく返す。
おいおい、あるって……何を忘れたんだ?
取りに戻るのか? 今更すぎるぞ。
同じように、不思議そうなクア。そりゃそうだ、万全の準備をしてたのに、忘れ物だなんて。
呆れてられたのも束の間。
不意に、彼女の体が傾いた。
「え、ちょっと……?」
「君を待たせる分の、償いを……。そして、会えない分の、ぬくもりを……」
ラフェムは、彼女の背に手を回し、強く抱き寄せていた。
急に胸の中に押し込められたクアは、氷のように硬直していたが、やがて融解しゆっくりと瞼を閉じて身を委ねた。
はー、やれやれやれ。
このリア充どもがよ。
…………。
俺と同い年、たった十三歳の少年少女。
なのに、片や重責と死を背負って、片や、そんな境遇の想い人を、ただじっと待つ。
地球であれば、こんな運命は起こり得なかっただろう。
ただ同じような繰り返す日に、恐怖などない。
袋小路のトウキョウで、なんの心配も無く愛し合えただろうに。
初めて、地球の方がよかったなんて思ってしまった。
……この現実を、覆さねば。
クアは、任せていた自重を戻していく。
傾いていた体がやがて真っ直ぐに戻ると、ラフェムもそっと彼女から腕を離す。
「じゃあ、僕たちは行くよ」
「……うん」
ラフェムは、自身を愛おしそうに見つめる蒼い瞳から、名残惜しそうに背を向けた。
そして、次の街へ向かって歩き出した。
迷いのない、確かな足取り、止まっていたら置いてかれてしまうだろう。
俺も軽く最後の挨拶をして、進むことにした。
ちょっと駆け足で、彼の横についた途端。
「ちょっと、忘れ物あったわよ!」
クアが、声を張り上げた。
駆け寄ってくる足音に、ラフェムは驚いて振り返る。
そりゃそうだ。折角かっこつけたのに、ほんとに忘れて呼び止められるとか、あまりにもダサすぎて……。
クアはラフェムの胸の中へ飛び込んだ。長い水色の髪が、慣性でふわりと二人を包み込む。
その髪のカーテンが展開されているほんの一瞬……。
彼女は唇を、ラフェムの頬へと触れさせた。
え。え、え……?
目を疑ったが、しおらしく目線を誰とも合わせない彼女、頬を押さえたちまち紅潮する彼、熱々のカップルに嫌そうな顔をする詩歌が、事実であることを鮮明に証明している。
「なに、な、なに、何して、んだ……」
「えへへ……これでおあいこよ。一方的に貰ったままじゃモヤモヤしちゃう、返さなきゃ」
照れ隠しに笑うと、街に残る二人の横へと駆け足で戻っていった。
そして、何もなかったかのように、手を振り、俺たちを見送る姿勢へ。
……果たして俺は、先程強がる必要あっただろうか。
エイポンたちは、刹那の口付けに気付いていない。ただ抱きついただけだと思って、これでおあいこね、だなんて笑う。
ラフェムは、顔に手を添えたまま、ぼうっとしたままだ。
コートの模様は、魔力が滾っているのか、うっすら光を発している。
「おいおーい……こりゃだめだ」
全く聞いてくれない。やれやれ。完璧に思考が止まってる。夢の中にでもいるかのようだ。
突っついてやろうか?
なんて悩んでいたら……。
手を振っていたクアが、膝から崩れ落ちる。
エイポンが慌てて彼女の支えになろうと、屈むが彼女は寄りかかる力もなく、そのままへたり込んでしまった。
「ワタシ、最後は笑顔でって……決めてたのに……」
眉が歪み、押し殺しきれなかった声が、咳のように漏れ出す。
大粒の涙が、ボロボロと目から溢れ出て、黄土の地面へと落ちていく。
旅に行くことを認めても、それを見届けようとしても……やはり、彼女の気持ちは、想い人を危険な目に合わせたくない、共に居たい、行かないでほしい、そのままだったんだ。
彼へキスしてしまったから、愛おしさと寂しさが増幅してしまったのだろう。
それでも、彼女は立ち上がろうとした。足に力が入らずとも。
涙が止まらなくとも笑おうとしていた。手を振り続けていた。
笑顔で見送ろう。そんな強い意志が、ありありと伝わってくる。
ラフェムは、ようやく頬から手を離した。
驚きつつも、心を痛めたような、恥じるような、なんとも言えぬ表情で、彼女を眺めたのち、目を逸らすように静かに背を向け……旅路へと向き合う。
「いってきます」
一言だけ、告げる。
その声は、震えていた。
彼も、愛おしく、寂しくなってしまったのは同じだった。
しかし彼は振り返らない。
きっと、今の表情を見せたくないから。
彼女の信念を果たさせてやりたいから。
そして……絆されて歩みを止めようとする事こそが、彼らとの絆を裏切ることになるから。
身を呈して立ち塞がり、信じて諦めてくれた二人。仇を討ちたい気持ちを、安心と平和を取り戻したい願いを応援してくれる親。
ここで惜しむなんて、三人の覚悟と意志を踏みにじると同義。
彼は深呼吸をすると、ゆっくりと、足を前へ進めた。
乾いた砂が、靴底に押し潰された音が、ザク、ザクと、呼吸よりも遅い繰り返しを奏でる。
さて。それじゃあ俺も。
「それじゃあ、改めていってきます! ただいまの日まで、どうかお元気で!」
三人に一礼した後、炎と同じ、アトゥールへの道、未知の街へと向き合った。
「……いってきます」
詩歌も続く。
ラフェムは、足音が二人分増えたのを耳にすると、歩幅とスピードをいつもの間隔に戻した。
「頑張ってね! アタシ、ずっと待ってるから!」
「三人がいない間、この故郷はワタシ達が護るから、安心しなさい! 信じてるわん!」
「絶対ぶっ倒して、生きて戻ってこいよ!」
激烈の応援に、追い風のように背を押される。
温かく、心強いその声は、ますます勇気を奮い起たせた。
奪われてたまるか。ようやく手に入れたこの幸せを、友を、世界を。
一面緑の地を隔てる、押し固められた土をただひたすら、沿って進む。
彼女たちの応援は、どんどん小さくなってぼやけていく。
やがて、風に揺れる草の囁きに混ざり、そして聞こえなくなった。
ああ、ビリジワンが、離れていく。
きっと、振り返れば、聞こえなくなった事に気付いていない、いや、気付いていたとしても、手を振り続け応援を続けている彼女たちが、まだ残っているだろう。
だけど、もう振り返れない。
きっと、空に溶け込んで霞む街を、健気な彼女らを見たら、寂しくなってしまうから。
隣を歩む二人も、また同じだった。
詩歌は、ただ前だけを見据え。
ラフェムなんか、顔を手で覆い隠している。
耳が紅い……あれ、もしかしたら、悲しいだけじゃなくて恥ずかしい……のもあるのか?
ともあれ、とうとう旅が始まったんだ。
色んなハプニングがあるだろう。三人で、乗り越えて、精一杯強くなっていかなくちゃ。
翡翠の丘よ、さようなら。
次にこの草原を歩む際は、胸を張れるように、頑張るから。
だから、どうか。このままでいてください。




