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#59 淡い空を背に

挿絵(By みてみん)


 詩歌を連れて街に赴き、ギルドに出掛け、味のある絵のギルドカードを作ってもらったり、ドラゴンの文献を漁ったり、ラフェムから貰ったおこづかいで食べ歩きをしたり。

 家で、布団にもぐったままのラフェムと、付きっきりのクアの為に手伝いや掃除をしたり。

 あと……またよくわからない悪夢を一度だけ見たり。


 そうこうして、慌ただしい三日間はあっという間に過ぎ去った。


 そして、太陽が地の底へ沈み、星が遍く夜。



 …………まだたった三日だぞ。三日しか経っていないのに。



 何故、彼の身体は文字通り元通りになっているんだ?



「これは完治だなぁ!」


 パンいちのラフェムが、ベッドの上でぐるぐるとその場で周りながら、ボディービルダーのように体を魅せつける。

 観客は、俺たち三人。ベッドの手前でそれぞれ楽な姿勢で見守っている。


 力を誇示するように、ギラギラと燃え盛る照明の炎。

 部屋を真っ赤に染め上げる業火は、引き締まった体に劇画調の影を落とす。


 まだ動いてほしくないのだが……治ったことは認めなければならない。


 元々あった胸の火傷以外、綺麗さっぱり無くなったのだから。


 あれほど裂けていた皮膚は傷痕もなく、凹凸や色味の違いすらなく、まるで時を戻されたかのように何も無くなっている。


 澄ましたドヤ顔も、決して強がっている訳ではない。素で痛みや辛さが無いらしい。見た目だけではなく内部もきちんと癒えた証明だ。



「あんなに血だらけだったのに。信じられないわ……」


「本当に凄いわラフェム! これでもう心配ないわねっ!」


 うぶなのか、詩歌は恥ずかしいようで頬をかすかに染めて、そっぽを向いている。


 一方のクアは正反対で、一秒でも長く彼の肉体美を網膜に映したいのか、踊るラフェムから刹那たりとも目を離さず追い続けていた。


 しばらく彼は赤い髪をふよふよと振り回しノリノリで踊り続けていたが、あまりにも彼女のガン見が熱心すぎて恥ずかしくなってきたのか、どんどん動きが小さくなり、同時に鈍ってくる。

 そして、急にドスンと尻を落とした。勢いで、マットレスに一瞬、ほんのちょっぴり沈んでいた。

 天井の炎も、披露用の目に悪い強光から、優しい暁光のような明かりに戻っていく。


 むっとして、座禅のようにあぐらの形から動かなくなる。もう踊らないという断固たる決意を態度で示しているが、恥ずかしくなるならやらなきゃいいのに。


 ……まあ。

「よかった取り敢えず、これで一安心だな」


「ええ本当に良かった! まあ、アタシはこのままラフェムの身の回りのことやり続けてもいいわよ〜? いっそのこと住んじゃおうかしら? うふふ!」


 俺の安堵にクアが乗っかり、ついでに冗談に聞こえぬ冗談を述べる。


 普通は、あははと適当に流すような冗談。だけども、ラフェムの様子がどうにもおかしくなる。


「あ……あー、えっと、クア……その、なんだ」


 専門主婦になろうとする勢いの彼女とは正反対に、たじたじと困惑し、適した言葉を見つけられないのか何度も言葉を突っかからせては口籠る。


 忙しない視線変更、顔に滲む汗。まるで、間違えてわさびを食べたかのような焦りよう。

 ……やがて言葉を整理できたのか、落ち着きを取り戻し、わざとらしい咳払いを二回すると、申し訳なさそうに話し出した。


「あの……君には迷惑を凄くかけてしまった。だから、もう休んでくれないか?」


「へ? 何言ってるの? アタシ全く問題ないけど」


「ロネちゃんのこともあるだろう。彼女一人で宿を動かすのは大変だ。それに幾らこの仲とはいえ、四六時中付き合わせて本当に申し訳ないし、君が今度倒れてしまわないか心配なんだ。あと、もう僕はこの通り元気なのに、そんな一方的に尽くされちゃ凄く申し訳なくて気不味いし……」


 つらつらと語られる、帰るべき理由。


 アタシはもっと居たいのに。

 そんな不服を申しているかのような寂しそうな表情を彼女は浮かべるが、それを声にはせず、その通りだとうんうんと赤ベコのように首を振っていた。


 だけど本心を曲げる勇気もなかったらしく、しばらく頷く以外の動作を忘れて沈黙する。


 

 ……理由が尽きかけ、言葉と言葉に間が出来始めたころ、とうとう、彼女は愛する彼の為に己を押し殺した。


「わかったわ!」と、明るい……しかしながら虚しさとやるせなさを滲ませた声で一言だけ告げると、おもむろに立ち上がり、荷物を纏め始めた。


 せめてもの抵抗か、亀のようにのろのろと進めるが、あっという間に帰れる状態になってしまう。そもそも飛び入るようにやってきて、家である宿も近いから、洗濯物などは貯まればそこに置きに行っていたりなどしていた彼女は、それほど荷物を持っていなかったのだから、可哀想だがそうだろう。


 帰ると行ってしまった以上、無意味に立っていることは出来ない。止めてくれとラフェムに目配せしながら、重い足取りで廊下へと向かっていく。

 だが、彼は何も紡がず、告げず、ただ彼女を見つめていた。


「そ、それじゃあ、またね」

「ああ……」


 ラフェムは、ベッドの上に座ったまま、去る背を追う。


 最低限しか開かれなかった扉の狭間の向こうに彼女が消え、寂しげな甲高い金具の音が部屋に響く。どんどん彼女の気配が消えていく。


 物理的に人が減ったのもあるだろうが、少し部屋がひんやり冷たくなった。


 チリリ、チリリ。

 外から、どこに居るのか検討もつかないほど幽かな虫の独奏が聴こえてくるようになった。

 気にも留めてなかった風の音や、我が血の流動、隣の彼女の呼吸まで聴こえ始めた。

 先程までの賑やかさは、嘘だったかのようだ。



 ……どうも彼も、もっと一緒に居たかったようだ。

 しょんぼりと、彼女の座っていた床を眺めている。


「いいのか? 寂しそうだったぞ。今ならまだ、間に合うんじゃないか?」


「いいんだ、これが……正しいんだ」



 彼は目を閉じ、力なく肺の空気を全て外に追いやると、ベッドへと寝転がった。


 そんなに凹むぐらいなら、甘えればいいのに。少しぐらい我が儘言っても、誰も咎めやしないのに。


 呆れつつ、心配しつつ、俺もこれからどうするか考えるために寝っ転がろうと、クアが使っていたマットレスに近付くが……。



「そろそろ、風呂も温まったんじゃないか? 先に入ってきなよ」


 ラフェムが独り言のように、突然呟いた。

 その唐突さは、まるで、俺たちを部屋から追い出したいかのようだった。


 思わず、腰掛けようと曲げていた足を変なところで止めてしまう。


 ……もしかして彼は、一人になりたいから彼女を帰らせたのか?


 こうして落ち込んでまで、一人になりたいのか?


 ……そういう気分は俺にもわかる。


 今は彼の気持ちを尊重しよう。

 推し量れず「まだそんな気分じゃないわ」なんて駄々こねる詩歌を連れ、この部屋を離れ、風呂に入る事とした。


 ────────



 詩歌が先に入ったので、心行くまでゆったりと温まり……湯船からあがると、もう寝る時間になっていた。

 正確な時刻を計る時計はないが、身体を魅せられていたあの時点で、太陽が沈んでから時間が経っていたし、眠気、微妙な空気や熱の違いであらかた判る。それに……あくびが止まらない。三段、階段を登るたびに出てきてしまうぐらいだ。


 ……そうだ、就寝の前に、ラフェムにおやすみを言おう。

 自分の部屋を通り過ぎ、ちょっぴりいつもよりキラキラして見える廊下の灯火で作られた、青い影を踏みつけるように歩く。


 閑静な家に、ペタペタと裸足が床に引っ付いては剥がれる音が響いて、ちょっぴり楽しくなってきた。


 ちょっと自分のリズムに乗って、のろのろタップダンスを奏でながら、鉄のドアノブを掴む。


「ラフェム〜」


 上がったテンションそのままに、部屋の扉を開けた。が……。


 ……やべ。


 もう寝てるじゃん。


 すうすうと寝息をたてて、薄い毛布に包まり転がっている。



 手遅れな気もするが、起こしちゃ悪いから、金具の掠れる音一つしないように静かに扉を閉じて、ペタペタペタペタ鳴らしてた足音も一切合切しないよう、慎重に廊下を泥棒の如く進み、自分の部屋へ帰った。


 あまりにも静かな帰還だったから、詩歌が把握に一歩遅れて、ぎょっとしていた。


 もう、瞼を開けているのが辛い。

 だからベッドに倒れると、天井の火が夏終わりの虫の命のように、儚く、ゆっくりと消えていった。


「詩歌、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」


 穏やかな草のせせらぎと、カーテンの揺らぐ音に身を委ね、目をとじる。



 …………。

 ……ん?


 なんだ?


 なんだ……?


 闇夜に溶け込めない。


 釈然としない。


 なんだ? この違和感は、この胸のわだかまりは?


 正体のわからない不安に、突然心を支配される。


 虫の知らせ?


 …………。

 考えていたって、答えは出ない。だってそもそもの問いがわからないんだもの。


 時間はどんな時でも過ぎる。無情であり、温情である。


 今唸ってたって仕方がない、得られるものは何もないし、それどころか寝る時間が失われるだけだ。


 放っておいて……寝よう。



 だって、俺にはどうしようもないんだもの。




 ────────




 …………悪夢を見てはいないのに、こんなに早く目を覚ましてしまうのは初めてだった。


 まだ薄暗く、鳥も虫も眠っている。かろうじて物の形を理解できるほどの明るさではあるが……行動には適さない。

 普通なら、もう一度目を瞑って、朝までまた眠るのに。



 未だ不吉な予感がする、胸が異常な雰囲気を察して騒いでいる……。



 眠る勇気はない。仕方がないからもう起きよう。

 隣でこの雰囲気と反し平穏な寝顔で、すやすや寝息を立てて眠る詩歌を起こさないように、ゆっくりとな。



 指先に、何かが触れた。

 カサっと、乾いた音がする。



 手に取る。

 丁寧に畳まれた紙であった。


 この紙は、この前俺が暴発させて撒き散らした奴と同じ……ラフェムの部屋にあった、メモ用紙。



 寝る前に、こんなものはなかった。



 あるはずがないもの。


 それがここにある。


「メモだと……?」

 心臓が跳ね上がり、眠気が吹き飛ぶ。



 まさか。


 その紙は開かずベッドに投げ捨てた。

 部屋を飛び出し、ラフェムの部屋へと駆ける。




 不吉な予感は、予感ではなく既に起こっていた現実であった。

 





 ラフェムがいない。


 もぬけの殻。いくつか物をかき集めたようで、棚や机に並べられた物から、何箇所か不自然に抜けていた。

 敷かれ直された布団はマットレスと同じ水平を作る。この部屋に、たちの悪いいたずらが出来るような隠れ場はない。




 ……なんで、俺は気付かなかった?


 あれは寝た振りだった。俺が部屋に戻ってすぐに明かりが消えたじゃないか。

 

 部屋から追い出されたのは、準備の為だった。あのままだったら、いつまでもぐだぐだと俺たちが部屋でくつろいで、何もできなかったから。


 クアを返したのは、彼女に悟られないように、そして引き留められないようにだった。


 どうして、こんな簡単な事に気付かなかった?

 気付くことを拒絶した?


 ……まだ、部屋には人の居た熱が残っている。



 もう考えていたら、間に合わないかもしれない。



 窓を開け、桟を蹴って飛び出した。




 躊躇いなどなかった。……何も考えていなかったのだから。


 まあこの強靭となった身で、二階から飛び降りるなど屁でもない。もし怪我をする可能性があったとしても、自分の行動に変わりはなかっただろう。


 茂る草むらに落ちてすぐ、身を翻し、街の方角へ向かって全力で手足を動かす。

 絡みつく蔦も、足を切る草も、全て振り払って、ただ前へ。



 「……何事だ?」


 玄関で、ラフェムは俺の登場に顔を引き攣らせて立っていた。


 淡い空に溶け込んでしまいそうな真っ白のコート。

 寝っぱなしで変な癖のついていた髪も、きちんと直している。

 鍵を持つ手は、胸ポケットへと運ばれている途中だったことを忘れて浮いたまま。


 ……よかった、間に合った、よかった。



 安堵し、急に足の力が抜けてしまった。

 情けない千鳥足で彼の元へと歩んで、辿り着かぬうちにへたり込む。



「何処に、何処に……一人で行くつもりだ?」


「あ、あははは。買い物だよ、一体そんなに慌ててどうしたんだ?」


「……とぼけないでくれよ……。買い物するのにそんなに荷物が必要か!?」


 足元に置かれた、大きな風呂敷を指差す。


 彼は足をそれとなく動かして、立派な証拠を隠そうと今更試みる訳だが、腰よりデカイ袋が足二本なんかで隠せるわけが無い。



 これ以上虚実が通じるわけがなく、しかし事実を説明する意思もなく、彼はたじろぎ黙り込んだ。


 ……言われなくとも理解している。

 旅に出るつもりだと。


「そもそも、店まだ開いてないだろ! なあ……どうして? どうして嘘をつくんだ……? なんで俺を置いていくんだよ……」


 わかってるんだ。

 あの憎き龍を、かの災禍を終焉に導くが為に、その身を犠牲にしようとしているのだと。

 俺を置いて……一人ぼっちで行こうとしているのだと。


 そんなことぐらい、わかってる。


「俺は……そんなに頼りなかったか?」


 勿論、俺は強くない。誰彼も屈せるようなチートは無いし、頭もそんな良くは無い。漫画の世界のような加護も補正もない。

 一つの街を支える彼と比べたら、あまりにもしょぼっちくて霞んでしまう。


 そうだけど、そうなんだけど。


 何も告げず、何も問わずに置いていこうとされるほど、一人のほうがマシだなんて思われるほど……なのか?


 悔しい、悲しい、辛い。


 友達だと思っていたのに……こうしてなんの相談もされずに置いていこうとされる程度の仲だった事が。そう彼に決意させてしまうぐらい自分が弱い事が。何もかも、心に突き刺さる。


「俺を置いていかないでくれ……」


 勝手に声が震える。気を抜いたら泣いてしまいそうだ。


 眉を顰め、俺に目を合わせようとせず虚空を見ていた彼の唇に、じわりと血が滲む。噛み締めるのと同じ強さで瞼をぐっと閉じると、家の鍵を俺の胸の高さに差し出した。


「頼む、頼むから今見たことは全て忘れて、部屋に戻ってくれ! 僕はもう誰も失いたくない、嫌なんだ……」


 使い古され細かい傷まみれの、鈍く輝く鍵の先は細かく震えている。


 彼は鍵をどんどん近付けてくるが、両拳を強く握り締めて受け取らない意思を示す。


「なんで? なんでだよ……? 僕を行かせてくれよ……。なぁ、死にたくないだろ? 僕だって、君を戦いに巻き込んで苦しめたくないんだ……」


 俺を置いて行こうとしたのは、弱いからではなく、使えないからでなく……本気で、彼は俺の身を心配していたからだったのか。


 ……ああ、俺はまだ死にたくない。

 折角、地獄の世界から解放されて、指差されて揶揄されない、桃源郷のようなこの星へとやって来た。


 まだエンジョイしたい、死にたくない。


 でも……。


 この桃源郷は、友が、君がいるから……皆がいるから成り立つんだ。


「友を、ラフェムを失う方が、死ぬよりも怖い。君を犠牲に得た世界で、生きるなんて苦痛以外の何でもない……」


 かっこつけでもなんでもない、本心だ。

 もう友達を失いたくない。

 あの孤独は御免なんだ。


 俺は友を盾にして後ろに隠れるなんて嫌だ。

 俺は、友だちと隣で共に時を過ごせればそれでいい。

 俺は……その為ならば、なんだって耐えてみせる。


「そんな訳が」


「俺の為なんていうが……それはただの君の思い込みだ。それに、今の俺が弱くても……これから強くなればいいだろ? ほら、俺はなんか皆と違う能力を持ってる……ドラゴンを撹乱出来るかもしれないだろ? いないより……マシだろ?」


「戻ってくれ……」


 ラフェムは苦虫を噛み潰した顔で、声を振り絞る。

 だが、なんと言われようとも、この思いを曲げる気は無い。

 たとえ泣きつかれたって、知るもんか。俺がもっと大声で泣いてやる。

 気合でよろよろ立ち上がり、彼の瞳を見て、真剣に思いを伝える。


「俺は……大切な人を失いたくない……。同じ気持ちなんだ。いなくなってしまうのが、会えなくなるのが、押し付けてしまうのが怖いんだ……」


「でも、僕は君に……う、う……」


 何かを紡ごうとした口は、述語を述べぬうちに閉ざされ、固まってしまった。



 ついに折れたようだった。


 差し出していた腕をゆっくりと戻し、目を伏せ、溜息をつきながら床に転がしていた荷物を重そうに持ち上げる。


 一度、彼は顔を上げ、俺の目を見た。

 緋色の中に浮かぶ瞳孔の闇は、俺の翡翠だけを捉えていた。

 そして再び俯くと、とぼとぼと家の側歩いていき、施錠した戸を開ける。


「わかった……。わかったよ。一旦、家に戻ろう」


 彼はそう告げると、逃げるようにドアの隙間に消えていった。


 

 後ろを振り向き、見上げる。


 閑静な街の上に広がる、まだ色のない空。

 いつの間にか風は止まっていた。聞こえるのは、自分の不安定な呼吸と……家に戻って気が緩んだのだろうか、彼が扉の向こうですすり泣く声だけ。


 だが、太陽は大地の影から脱し、輝きを街中に届け始めていた。

 そのうち、空は色づき、命は目を覚ますだろう。そして、生きる者の音に、この声たちはまぎれて消え去るはずだ。


 冷たい空気を、胸いっぱいに詰め込んだ。

 幽かに、もやのように俺を覆う不安が払われていくように思えた。


「俺は、友の為に奴を討つ」

 黄金の輝きに照らされ宿る、小さな勇気を胸中に秘め、世界に契る。


 そして、振り返り、家のドアを開け……まだ玄関に留まっているラフェムの腕を掴み、部屋へと戻ろうとした。

 のだが、彼は動かない。


「うわ、お前……」


 濡れたまつ毛の中の炎眼が見ているものを、俺も見る。

 廊下に真っ黒の足跡が付いていた。

 自分が靴を履いていなかったことを、ようやく思い出し、うなだれたのだった。


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