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第2話:少年との出会い

 「キャー!ルクスワード様よ!」


 王都の中央通りを歩く私に、道行く女性たちは黄色い歓声をあげる。やれやれ困った。買い物に来ただけというのに。私は軽く片手をあげて歓声にこたえながら歩く。

 人類最強の剣士たる私はどこへいっても歓待されていた。18歳で王国剣闘大会を制してからというもの、私に挑むものはいなくなってしまった。あれから14年間、私は魔物を討伐することで剣の腕を上げてきた。今ではドラゴンだって一刀両断だ。自分で言うのもあれだが、私に勝てるものは神くらいのものだろう。いや、神だって切り捨てられる気がする。私は無敵なのだ。私こそが最強なのだ……!



 目の前の景色が変わった。多くの人が行き来する往来から、暗い大きな部屋へと。壁には等間隔に松明が並び、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 ああ、ここは魔王城だ。魔王城の最深部、魔王の居室だ。100mほど前方には魔王の玉座があり、そこには悠然と座している魔王の姿があった。


 『よく来たな、小僧。勇者でもないのにここまで来た人間は初めてだ。だが貴様はここで死ぬ。それは変えようのない運命なのだ』


 遥か前方で魔王の腕が振り下ろされる。すると私の体は為すすべなく地面にたたきつけられる。ご丁寧に指先まできっちり動かせなくなっていた。


 『さらばだ小僧。自身が最強だと勘違いした哀れな人間よ』



 魔王の魔力が眼前に差し迫る。私は目を閉じようとしたが、瞼も動かせなかった。ぐわっとどす黒い魔力が私の視界を覆いつくしたとき、私は夢から覚めた。









 「おい、大丈夫かおっさん」


 うっすらと目を開けるとそこにはまだ幼い少年の顔があった。仰向けに倒れこんでいる私の顔を上からのぞき込んでいるようであった。



 「お、起きたか。いやーびっくりしたよ。牛の世話しに牧場まで来たら、おっさんが倒れてんだもんな~」



 私は体を起こそうとしたが激痛で上体すら起こせなかった。



 「おいおい、無理すんなよおっさん。気づいてないかもしれないけど、おっさん傷だらけで血まみれだぞ。最初見つけた時は死体かと思ったもんな~」



 少年は私の横にしゃがみこみ、私の肩に手をまわして一緒に立ち上がろうとした。私は驚いた。私を最強の剣士だと知る者たちは、畏れ多いといって私に触れようとしなかったのだ。それを、この少年は一切ためらいなく私に触れた。人と触れ合う、何年ぶりの感覚だろうか。


 「重っ!」


 だが少年は私の重量を支え切れずに芝生に倒れこむ。当然の結果だ。防具などは特に身に着けていないが、鍛え抜かれた私の筋肉はそれだけで相当の重量だ。ひ弱な少年には10㎝持ち上げることもかなうまい。



 「仕方ねえなぁ。強化魔法使うか。全身強化!!」


 少年の体が一瞬光った。おどろいた、この10歳にも満たないように見える少年は、もう魔法を扱えるのか。通常、魔法とは15歳を越えてから身に着ける技術である。



 「ふんっ!ぐぐぐぐ……」



 少年はうなりながら私の体をもう一度持ち上げようとした。今度は上半身だけ持ち上がった。私の上体を持ち上げるとは……。

魔法の技術もさることながら、彼の素の肉体も素晴らしい。この少年は年齢に比べて実力がかなり高い。将来が楽しみである。


「おいおい、これでも持ち上がらないのかよ……!おっさん、どんな体してんだ」



 すまないな、少年よ。もうあと1日も寝ていれば動けるようにはなるだろうから、このまま転がしておいてもらって構わない。

 そう言いたいのだが、喉もやられてしまっていて声が思うように出せない。

 何とか声を出そうとしていると、少年は諦めたように力を緩めた。私の上体は少しだけ浮いている状態だ。



 「ごめんな、おっさん。俺の力じゃ持ち上げて運べないや。痛いだろうけど少しの間我慢してね。俺の家すぐそこだから」



 少年はそういうと私の体を引きずり始めた。ずるずると引きずられていく。

 痛い、痛い、痛い、痛い……。魔王に痛めつけられた体が悲鳴を上げる。しかし声が出せない。それに少年は懸命に引きずってくれているのだ。止めようにも止められない。結局私は激痛に悶えながら少年の家まで運ばれた。





 「よし、おっさん、着いたぞ!あれ……大丈夫か?」



 私の顔は苦悶の表情だったらしい。少年が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 私は力なく首を縦に振る。


 「そ、そっか。じゃあとりあえずベッドまで運ぶね。しっかり休んでね」


 さらに引きずられてベッドの前に連れてこられて私は、力を振り絞って痛みに耐えながら、何とかベッドの上に体を引きずり上げた。



 「今お粥つくってくるから待っててな!」


 少年はどたどたと部屋を出ていった。待っててといわれたが、今の移動でだいぶ疲れた。すまない、少年。そう思いながら私は再び夢の世界へと旅立った。

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