第1話:最強剣士の敗北
ゆっくり書いていこうと思います。初心者・初投稿で拙い文章ですが、よろしくお願いします!
敗れた。これ以上ないほどの完敗だった。
これまでの人生で一度も負けたことのないこの私が、ただの虫けらのように魔王城の冷たい床に転がっている。あってはならないことだった。だがそれほどまでにこの相手は強かった。
数多の魔物を使役して世界を恐怖に陥れる悪の権化、魔王。通常勇者しか討伐はできないとされているが、私にはできると思っていた。私は世界最強の剣士。敗北は許されない存在であった。その私が今、魔王の足元に転がっている。
『小僧、ここまでこれたことは称賛に値する。だがな、我を倒そうとするのに、勇者もおらぬ、聖剣もない。そんなただの人間ごときが単騎で突撃。無謀にもほどがあるぞ』
魔王にたしなめられる始末だ。確かに単騎突撃は無謀だったと思う。だが現在の人間側勢力に、私と釣りあう戦力がいないのだ。皆私の足を引っ張る実力しか持ち合わせていない。要するに、使えないのだ。勇者でもいれば話は別だったかもしれないが、生憎まだ勇者はこの世に生をうけていない。結局言い伝え通り、勇者でなければ魔王は倒せないのだろう。
『勇者でなければ我を脅かすこともないとは思うが、手練れの魔物どもをあっさりと倒すその実力、放っておくわけにはいかんのだ。すまないがここで死んでもらうぞ。なに、安心せい。死体はアンデットとして我がしもべにしてくれようぞ』
私は悔しい。悔しかった。人類最強、などと驕って自分の限界を勝手に決めていた。もっと修業すればよかった。もしもっと強ければ、勇者でない私でも魔王を倒すことができたかもしれない。
いや、それはないな……。圧倒的な実力差の前に私は負けたのだ。何度生まれ変わっても勝つことはできないだろう。最期くらい、潔く死ぬとしよう。
魔王が私の頭上にゆっくりと手刀をかかげた。あの手で私の首を切り落とすのだろう。私はもう動けない。静かに目を閉じた。
ビュッ
手刀が振り落とされる音がした。魔王の手刀はそのまま私の首を切り落と……
すことができなかった。というよりもさせなかった。
死にたくない。まだ死にたくない。こんなに悔しいのに、死んでたまるか。
火事場の馬鹿力というのだろうか。さっきまで全く力が入らなかった体に、一気に力が戻った。
私は魔王の手刀が高速で振り落とされているわずかな時間の間に、跳び起きて走り出して魔王のもとから離れることができた。完全に人間の限界を超えた動きである。
『小僧!貴様まだそんなに動けたのか!?』
「すまない、魔王よ。私はまだ死ぬわけにはいかない!いずれまた来る。次は必ず勝つからな!」
私はそれだけ言い残すと、脱兎のごとく駆け出した。私の捨て台詞を聞いた魔王の口元にはかすかに笑みが浮かんでいたようだったが、気のせいだっただろう。
死に物狂いで走った私は、道中の魔物を弾き飛ばしながら魔王城を突破した。
無事に魔王城を抜けた後もひたすらに走った。目的地も何も考えず、ただひたすらに走った。
野を越え森を抜け川を渡り、とにかく走り続けた。全身の筋肉、肺、戦闘による傷、すべてが悲鳴を上げるなか走り続けた。
そして、魔王城を出た時には頭上にあった月が太陽と入れ替わるころ、私は小さな村のそばの牧場で力尽きて、芝生に倒れこんだ。
近くにいた牛が興味深げに近づいてきて私の顔を舐めたが、私はすでに夢の世界へと旅立ちつつあった。
もう動きたくない。とりあえず休ませてくれ……。
こうして人類最強の剣士、ルクスワードは静かな眠りについたのだった。