18話 練習?
「お願いします」
「お願いします」
「じゃ、始め!」
ルンは一瞬の内に俺の前まで詰めてきた。そして、ノーモーションから最速で移動を最低限にし、突きを放つ、それを紙一重で交わし、刀を斜めに滑らせる。だが、その剣撃は宙を切る。今度はルンが初撃には劣るものの素早い剣撃を連続で放ってくる。
刀は突くよりも斬ることに特化している。だから、ルンは刀を少し変形させている。先の方が尖っているのだ。
其攻撃も俺は受け流す或いは交わしていく。この頃はルンの剣速が上がってきて受け流す事が多くなっているのだが。次は俺が重心を動かし、一気にルンの背後を取る。これはルンの初撃にも使われている技だ。俺がやっているのを見て自分で真似したらしい。だが、これでも、ルンは対応してくる。最初の頃は直ぐに見失っていたのに、凄い成長速度だ。まあ、何回も使っていたので慣れただけかも知れないが。
今度は緩急をつけて、刀を振るうってきた。だが其れに対し、俺は余裕を持って受け流す。ルンは剣撃は早いのだがフェイントなどはあまり上手くないようだ。なので、モーションを見た時点で次の動作がある程度予測出来る。此処でやっと少しルンに隙が出来た。だが、俺にとって其隙はとても大きい。そのまま、俺が喉に剣先を突き付けて、試合は終了した。
「ふー」
「ちょっとは手加減しなさいよね〜」
「俺にそんな余裕ないよ」
「え〜嘘〜」
いやマジでコイツは強くなってる。今では多分手加減したら負けてしまうだろう。
「ルンさんはまだいいじゃないですか!僕なんかまだ完全に遊ばれてるんですよ〜」
コイツはリトだ。
リアルで剣道をしていて、ルンー柊瑠姫亜の後輩だ。
NWOでの技術はリアルの技術に大きく左右される。だが逆にNWOで得た技術もリアルに影響されるのだ。本当にしているわけではないので身体能力的な事は変わらないが技術はリアルでも生きる。
なので俺とゲーム内でも練習し、元から強かったのだが更に強くなった。何しろ、この前の土日に全国大会があったのだが、準優勝したのだ。優勝は出来なかったが十分なのである。1位の奴は八神峻輝という前年度優勝者である。
其処で上位3名まで一言インタビューされたのだが、
「師匠、ありがとうございます!」
と、答えたのだった。
ご飯を食べながら見ていたので、吹き出しそうになったのだが、必死で堪えた。師匠の詳細は有耶無耶にしていたので良かったが。
だが其処にリトー神城陸が目を付けたのだ。柊先輩ー主将は普通に部活なら顧問の先生の事を師匠とは呼ばない。というか、顧問の先生は柊先輩より弱いと思う。
其処で直接聞いて見たのだが、柊先輩は少し迷った後何故か、
「一緒にゲームやらない?」
と、行ってきたのだ。全く別の話に変わり戸惑ったが、幸いそのゲームーNWOは先週やっと手に入れたゲームだったので、話に乗る事にした。
そのゲームでソウさんー師匠を紹介してもらった。
閑話休題。
その後はずっと俺を師匠として勝手に弟子になっていた。
このままでは、もっと連れてくるかもと思い、ルンにあんまり俺を紹介するな。と言ったのだが、しっかり選んでますよ。と返された。
だが試合してみると、分かった。リトも強い。恐らく、最初の頃のルンよりと同じかそれより少し弱いくらいだ。当たり前だがルンは全国ベスト8に入っているのだ。弱いはずはない。しかも1つ年下なのだから十分強いだろう。
後で聞いたが、陸は全国大会でベスト4だったそうだ。強いわけである。
「師匠!今度は僕とやって下さい!」
リトは犬みたいだ。此れが俺が最近リトに抱いている感情だ。最初見た時は、落ち着いていて、クールなイメージだったのに。人は見かけによらないなと思った。
「疲れたから、少し休憩〜俺だって疲れるんだからな!お前らは交代でしてるから大丈夫かも知れないが、俺は朝から何十回も連続だぞ。少しは休ませろ!」
「んーー」
リトは頰を膨らましてこっちを見てくるが、気にしない。
「あ!そういえばお前ら勝手に俺をテレビに出すなよ」
「えーいいじゃない」
「そうですよ。何ならテレビ出たらどうですか?師匠なら全国大会優勝も簡単でしょ」
「其れはダメー!私の順位が下がっちゃう」
「ルンさんはケチですね〜」
「主将に対してそんな事言わない!」
「え〜ゲーム内でリアルの事は持ち出さないって最初に言ったのはルンさんですよ〜」
「んーー」
「ぷっはははは」
「笑わないでよ」
「いや、我慢してたんだけど、あははは」
「全然我慢できてないじゃない!」
今度はルンが頰を膨らませている。面白い。
「師匠〜もう休んだでしょ。やりましょ、俺と」
「え〜もうやるのかよ」
「はい」
「ふー」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「始め!」
リトが詰めて横に凪払ってくる。俺はそれをしゃがみ、そのまま突きを放つ。リトは後ろに飛んでいたが、少し当たっていたようだ。
「あっぶな!」
「詰めが甘いぞ、まだまだ」
「次は当てますよ」
今度は、俺の後ろに回り込んでくる。俺やルンの重心移動よりはぎこちないがそんじゃ其処らの連中には意味が分からないだろう。だが、俺には見えている。軽く交わし面を叩く。
「まだまだだな」
「クッソ〜もう一回もう一回!」
「やだよ。其れ毎回言ってるだろ」
まだまだとは言ったが其れは俺やルンに比べてである。それ以外なら今なら簡単に買ってしまう気がする。リアルでも今なら優勝しそうだ。
「あ!師匠!師匠も明日のトーナメント戦出ますよね」
「ああ。そうだな」
「俺優勝してみせますよ!」
「ほう其れは俺に勝つという事か?」
「はい!この世界にはスキルっていうものもあるんですよ。」
「知ってるよ」
「俺、そっちも結構頑張ったんですから」
「へー楽しみにしてるよ」
「はい、楽しみにしていてください」
「その前に私や他のプレイヤーもいるんだからね」
「そんなもん蹴散らすよ」
「何を〜」
「因みに俺は二刀流だぞ」
「「え!?」」
「今まで本当の意味で本気じゃなかったからな。明日は頑張るか」
その言葉に二人の弟子は口が閉じなかった。