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氾濫するインコーニタ  作者: 栗木下
第2章:第8氾濫区域
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59:第8氾濫区域中枢塔-8

「さて……」

 クライムは死んだ。

 死んだと言っても本体ではなく分体とやらだから、いずれは復活するだろう。

 しかし、死んだ理由が死んだ理由であるし、復活には相当の時間がかかるだろう。


「脱出をしないといけないわね」

「みたいだな」

 そしてダイ・バロンも死に、第8氾濫区域も自殺した以上、現状ではもう脅威は存在しない。

 後はどうやってここから生きて戻るかである。


「と、想像以上に揺れるわね……」

「そりゃあそうだろ。拡張されていた空間が元のサイズにまで戻るんだ。色々と問題が起きる」

 そう、これが問題なのだ。

 俺たちが今いる此処は、位置的にはカロキソラ島近海の海底のさらに下である。

 そして地上では現在第8氾濫区域の崩壊による大規模な破壊現象が発生している。

 で、此処も何時までも安全である保障は無い。

 と言うか、このまま此処にただ留まっていたら、確実に命を落とすだろう。


「で、どうやって生きて脱出するんだ?俺は最悪『月が昇る度に』があるからいいが……」

「そうねぇ……」

 ラルガは工具箱のようなものを腰周辺の包帯に付けると、近くに転がっている様々な物を使って、何かを組み立てていく。

 どうやらラルガにはここから脱出するための方策がきちんとあるらしい。


「これでよし、と」

「おい待て、なんで俺に着ける」

「色々と手段は思いついたけど、これが一番確実な脱出方法だから。私様にはそれ以外の理由なんてないわ」

 尤も、そうして作り上げた金属製の箱のようなものを、何故か俺の体に装着してきた時点で、流石の俺も説明を求めずにはいられなかったが。


「さて、私様のレゲスについて説明しておくわ」

「ラルガのレゲス?」

「私様のレゲスは、手から落ちたものを狙った場所に向けて落とせるというもの。落とすという都合上、本来なら水平方向に飛ばすのが限界であるのだろうけど……」

 ラルガは自身のレゲスについて説明しつつ、自分の体に巻き付いている包帯を使って、俺の体と自分の体が離れないように結び付けていく。

 いや、と言うか、まさかこれは……


「ま、私様にとっての上はフィラになる時に混ぜられたものの都合でイーダが含まれているけれど、他は全て下だから問題ないわ」

「な、なあラルガ……。なんか、俺、すごーく嫌な予感がしてきたというか……これなら俺は適当に自殺して、『月が昇る度に』で安全圏で復活する方が……」

 この時、俺の脳裏には非常に嫌な予感が浮かんでいた。

 その嫌な想像によって、俺は引きつった笑みを浮かべずにはいられなかった。


「駄目。この後まで考えたら、私様とイーダが一緒に脱出するのは決定事項よ。そもそもとして、復活できるからと言って、命を無駄遣いしていい理由は無いと思うわ」

「はは、ははははは……」

 だが、ラルガはそれを許してくれなかった。

 今までに見たことがないくらいに嬉しそうな笑みを浮かべて、阻んできていた。


「そういう訳だからイーダ」

 ラルガの手が俺の腰に伸びてきて、掴み、ほんの少しだけ俺の体を持ち上げる。

 そしてラルガの手から俺の体が離れた瞬間。


「海面までの逆ヘイロー降下と行きましょうか」

 俺の体が通用口とは別に存在している正規ルートと思しき通路に向けて落ち始める。


「やっぱりかあああああぁぁぁぁぁ!!」

「あははははっ!」

 俺の情けない声とラルガの笑い声を周囲に響かせながら、通常ではあり得ない横向きに向かって、俺が身に着けている防具と重りを兼ねた装置による超加速を伴う形で、自由落下を始める。


「さあイーダ!ちゃんと息を止めておきなさい!!」

「あっ、あっ、あああぁぁぁぁぁ!!」

 そこからは生きた心地がしなかった。

 第8氾濫区域の崩壊によって、正規ルートに流れ込んできた大量の海水を切り裂きながら落ち続けた。

 実際の時間は1分もなかったのかもしれないが、体感的には何十分も落ち続けているように感じた。

 核があったエリアから抜け出しても、大量の瓦礫にフィラの死骸と言ったものが防具にぶつかってきていた。

 それでも無事に海面に辿り着いたと思ったら……


「えっ、ちょっ、まっ……」

「ま、当然こうなるわよね」

 それまでの自由落下によって得ていた圧倒的な速度によって、俺とラルガは海面から数十メートルの高さにまで打ち上げられていた。

 そして、ラルガのレゲスの効力が切れたために、重力が働く方向も正常に……海面へと俺たちは向かい始める。

 当然、これほどの高さになれば、落ちる先が海であっても命は無い。


「はい、パラシュート」

「うごっ」

 だが、ラルガはちゃんとこの先も想定していたらしい。

 装置の大半が切り離されると同時にパラシュートが展開され、俺の口から妙な声が漏れはしたものの、安全なレベルにまで速度が抑えられる。


「脱出成功ね」

「みたいだな……」

 後はこのまま地上に降りれば、脱出は成功する。

 しかし、その前に俺たちの視界に入ってくるものがある。


「これが氾濫区域の崩壊……私様がもたらしたもの……」

「ラルガだけじゃなくて、俺がもたらしたものでもあるから……安心しろ」

「ええ、ありがとう」

 それは大規模な破壊が今もなお続いている第8氾濫区域だった地域の姿。

 建物が宙を舞い、フィラも人も挽き潰し、形あるもの全てを瓦礫へと変えていく光景。

 一言で言うならば黙示録とでも称すべきもの。

 そうして俺たちは無事に地上に降り立つ。


「仇は取ったわよ。カーラ、ギーリ」

 赤い紐の無くなった状態で。

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