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氾濫するインコーニタ  作者: 栗木下
第2章:第8氾濫区域
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58:第8氾濫区域中枢塔-7

「まずは貴様からである!魔女!」

「やれるものならやってみろ!」

 俺がカプセルを噛み砕き、『魔女の裁血』による神憑りに入ると同時に、ダイ・バロンが爪を振りかぶる。

 勿論、マトモに喰らえば、肉どころか骨すらも容易に断たれそうな爪を前に、攻撃を受けるなどと言う選択肢はない。


「ぬんっ!ふんっ!せいっ!これは……!」

「お前如きにやれるものならなぁ!!」

 だから俺はダイ・バロンの攻撃の全てを避ける。

 神憑りによって大幅に増した集中力と観察力を以って、ダイ・バロンの攻撃の軌道を事前に読み取って、紙一重で爪に触れないようにする。

 なにせ、俺のレゲス相手に近接戦を挑んできている以上、今のダイ・バロンが肉体として操っているこのフィラの爪には俺を即死させるだけの何かか、俺のレゲスを無力化するような何かがあると見るべきなのだから。


「ならば……」

「殺してやる」

「来るか」

 ダイ・バロンが攻め続ける中、クライムが俺へ銃口を向ける。

 当然だ。

 クライムも敵で、ラルガと俺が赤い紐で繋がっている以上、より殺しやすそうな俺を殺せばラルガも死ぬのだから。

 そして、『魔女の裁血』の力で十全に動けるようになってはいても、俺の身体能力では銃から銃弾が放たれてから避けるなんてことは出来ない。


「なら、こうするだけだ」

「ぬぐおっ!?クライム!?」

「邪魔すんじゃねえよ!ダイ・バロン!!」

 だから俺はクライムが引き金を引く瞬間にダイ・バロンの陰に隠れる。

 クライムの弾丸を受けたダイ・バロンは明らかに苦悶の声を上げ、僅かにではあるが動きを鈍らせる。


「せいっ」

「殺人罪成り……なんてやっている暇じゃねえ!!」

 俺はその隙に部屋に転がっていた人だったものを手に取ると、唾液を付けた上で投擲。

 クライムの傍でマーキングをして、レゲスによる攻撃を仕掛ける。

 勿論、クライム相手にこんな攻撃はするだけ無駄なのだが……どうしてか避けた。


「何をやっていやがる!マッデストマミイイィィ!!」

 その理由は直ぐに分かった。

 クライムが第8氾濫区域の核を制御するコンソールの前で何かをしているラルガに向けて発砲をする。


「っつ!?ラル……うおっ!」

「貴様の相手は吾輩である!!」

 助けには行けない。

 ダイ・バロンの攻撃が激しさを増し、攻撃を避ける以外の事が出来なくなる。

 いや、それ以前に既に発砲された弾丸を止める手段など俺には無かった。


「心配しなくても大丈夫よ」

「なっ!?」

「うわー……っと」

「まだ余所見をしている余裕があるか!」

 だが、俺の心配は杞憂だった。

 何処からともなく降ってきた複数枚の金属製の盾がクライムの弾丸を残らず防いで見せる。

 恐らくは事前にラルガのレゲスを使って移動させておいたのだろうが……うん、深くは追及しないでおこう。

 ラルガの天才っぷりは今に始まったことではない。


「こ……ぐぎっ!?」

「あら失礼ー。業務上過失致死って奴ねー」

 ラルガの手を離れた何かしらの金属製の工具がクライムの顔に突き刺さって、血と歯を飛び散らせる。


「ふざけんじゃねえ!明確な殺人罪だ!このクソアマああぁぁ!!」

「クライム!少しは落ち着くので……しまっ!?」

「唾液に触れたな。これで後はマーキングするだけだ」

 その光景にダイ・バロンの動きが一瞬止まる。

 だから俺はダイ・バロンの仮面とフィラの両方にはっきりと唾液を付ける。

 これで後はマーキングをすれば、ダイ・バロンは始末できる。


「ぬ、ぬおおおおっ!!」

「1……2……3……」

 故に俺は、クライムが怒り狂って作業を終えたらしいラルガに向けて攻撃を仕掛けるも、難なく捌かれていく光景を横目に、ダイ・バロンの事を指差しつつ、攻撃を避け続ける。

 先の先を読み、人体の構造上どうやってもダイ・バロンの攻撃が届かない位置を活用し、10秒という限られた時間の中で焦るダイ・バロンの攻撃を冷静に避けていく。


「10!」

「おのれ魔女がああぁぁ!!」

 そして10秒が経過して今回のダイ・バロンの本体である仮面も、操っていたフィラも黒い液体と化して崩れ落ちる。

 肉体であるフィラだけを失ったならば復活も容易だろうが、本体が落ちたならばそう容易く復活する事は出来ないだろう。


「クソが!クソが!どうして!こっちの攻撃が!!決まらねえ!!」

「どんどん、口が悪くなっていくわね。それじゃあ犯罪者は犯罪者でも、大物の犯罪者じゃなくて、路地裏のチンピラよ」

「黙れ!クソアマ!お前ら人間は!俺の舞台を彩る人形に!黙ってなっていりゃあいいんだよ!!」

「もう、私様は人間じゃないわ。そんな事も分からないのね」

 クライムとラルガの戦闘は……一方的なことになっている。

 攻めているのはクライムだ。

 次から次へと得物を変えてはラルガに攻撃を仕掛け、危ういところだって幾つもあった。

 だが、どの攻撃も決まらない。

 紙一重でラルガは攻撃を避けていく。

 それどころかクライムの武器を奪い取っては、何か手を加えてから粗雑に捨て……捨てたそれらは真下ではない方向に落ちていく。

 その戦闘は激しく、二人の攻撃の中には俺の体を掠めていくものもあり、俺は巻き込まれないようにするだけで精一杯だった。


「何が!どうなって!いるんだ……ぐぎっ!?」

「さて、ここからね」

 そうして戦いが続く中、ラルガの手から落ちた何かがクライムの腰にあるものを打ち砕く。

 すると不意にクライムの動きが止まり、ラルガが俺のことを手招きで呼ぶ。


「クソアマ……何を……した……」

「私様は大したことはしてないわ。ただ……この場にあった本来はペアの相手に向かうはずだった殺意を無力化するべく、殺意を蓄えるマテリア。アレを基点として、ちょっとした細工を第8氾濫区域の核に施してあげただけ」

「細工……だと……」

「ええそうよ。核に人格を持たせ、一個の生物として振舞えるようにしてあげたの。貴方をペアの相手としてね。その為に、今の貴方のペアの相手になっていたマテリアだって壊したんだから」

「なっ……」

「は?」

 ラルガの言葉にクライムは唖然とし、俺は理解できなかった。

 ラルガは一体何を言っているんだ、頭がおかしくなったのではないか、それが俺の率直な意見だった。

 だが、一つだけ確かなことがある。


「ローカルレゲス:ペアの相手に強い殺意を抱く。グロバルレゲス:自我あるものは赤い紐で繋がれ、繋がっていない生物は死に至る。さて、殺しても死なない相手に対して第8氾濫区域はどんな結論を出すでしょうか?」

「待て……おい待て!なんだそれは!そんな事が出来るなんて!可能だなんて俺は知らないぞ!!なんで第8撮影区域の管理者でもないお前が!?あぎっ!?な、なんだ、この痛みは……」

 クライム=コンプレークスも第8氾濫区域も終わりが約束されたのだと。


「限られた手札から望まれた答えを導き出す。それが私様の得意技なの。そういう訳で……」

「ま、待て……止めろ……勝手に死ぬんじゃ……この痛みを保たれたまま死んだら……」

「第8氾濫区域は自殺した。クライム=コンプレークス、あなたを道連れにするべくね」

「止めろおおおおおぉぉぉ!!」

 そして第8氾濫区域の核が自らの意思で活動を停止。

 その20秒後、クライムは断末魔の叫び声を上げつつ絶命した。

03/09誤字訂正

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