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火葬場のファウスト 絶え間ないピグマリオンに関して  作者: 民間人。
夜半の月に添えて
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心にも

『心にも あらで憂き世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな』とは、三条院の歌である。

 藤原道長との政争に敗れ、身も心もボロボロになって退位を余儀なくされた三条院は、退位を決めたその時、強く輝く夜半の月を内裏から見て、こう詠んだという(『後拾遺集 詞書』によれば、「ご病気により位を退くとご決意遊ばされた折に、明るく輝く月をご覧になって(意訳)」ということ)。

 散々に苦しめられた末に、長らく待ち続けた位を追われて、それでも煌々と照る月は美しかった。あまりにも残酷な描写だが、自分などいなくても世の中は『欠けたることもなし』と美しく空を行く。視界が奪われていく三条天皇にとって、その憎らしい月の瞬きはいかように映ったのだろう。


 ちょうどそのように、現代社会は自分をおいて滞りなく進んでいく。憎たらしいほどスムーズに、いない方がかえってスムーズだと言わんばかりに。

 それについて恨み言を言うのが醜い私だが、三条院はそれを名残惜しいのだと詠んだ。


 必要とされたい。その一部に在りたい。それを許してほしい。そう叫ぶ私の心もまた、忘れ得ぬ月を見上げているのかもしれない。それがどうしようもなく眩しく、美しく思えるから。

 だとしたら、恨み言を言うのも憚られる。うまくいかないことがこれほど多いのに、欠くことを知らぬ月を恋しいと思う。書くことを知らぬ人を、羨ましく思う。


 ただそれでも、過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もあって、つまりは私がいては綺麗な円を描く月はそこに在ってくれない。どう組み合わせても月に歪な形を加えてしまう。


 そう思って、三条院の歌が胸に染み渡る、夜更けであることよ。

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