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火葬場のファウスト 絶え間ないピグマリオンに関して  作者: 民間人。
煉獄のナルキッソス
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進捗どうですか〜?-あるいは、水銀の血を流す-

 小説が書けねぇ!書けねぇ!

 全然進まねぇ!

 オラこんな進捗嫌だ!


 と駄々を捏ねてみたものの、体は疲労を覚えている。これが老いかと思いつつ、悶々と、パソコンの前で頭を擡げる日々。

 拙著『イリオンの矢』はすでに書き終えているのだが、次が進まない。仕事が終わると頭に靄がかかったようで、パソコンを開いたまま意識を失うようなことが増えた。


 人類は老いることを長いこと恐れてきた。古くは秦始皇帝、政が不老長寿の霊薬を求めて家臣に探索を命じた。

 インドでは、神話の中にアムリタと言う霊薬について言及がなされている。この霊薬を手に入れた神々は不老不死を得たとされ、盗み飲んだ者もまた不老不死となったが、処罰された後に日食と月食を起こす星となった。やがてアムリタはソーマと呼ばれる飲み物(お粥がイメージに近いだろうか)と同一人視され、人々はこれを儀式や宴会で飲むようになったという。

 日本では、竹取物語が著名な例だ。なよ竹のかぐや姫が帝に慰みとして送った不死の霊薬は、最も高い山で焼き捨てられる。その山の名を「ふじのやま」と呼ぶ初めである。

 さらに、中国から伝来した霊薬は、時の権力者・藤原道長にも齎されたという。

 翻って西洋では、ギリシャの神々が不死であることから、不死とは完全性の象徴のように解釈された。信仰の最中で、人々に火を与えたプロメテウスは永遠の命のために、実に三万年もの長きに渡り、臓器を大鷲に啄まれて苦しむこととなる。

 やがて人々の不朽の夢は錬金術と結びつき、エリクサーと呼ばれる薬を研究する道が開かれていく。


 物語においても、死すべき人が不死を求めるのは必定で、しかしその夢は儚く散っていく。秦王政などは、霊薬の水銀が原因で中毒となり、死因になったと言われる。挙句彼は自らを殺した重金属の川の中で眠る事となったのだから、皮肉というより他はない。


 人間が科学を発展させるに従って、その夢は徐々に冷めていき、むしろ若者は死と友人になった。

 それでも、人間の愚かしさは、死ぬまで若いままでありたいと言う欲望を捨て去ることができず、「アンチエイジング」が大流行している始末である。

 まこと、これほど長い時間が経ってもなお、私たちは愚かしくも永遠の命と、幸福を望んでやまない。

 我々が行き着く先は果たして、どの様であろうか。歳を取ることも老いることも許されぬ牢獄。そのような場所を望んでまで、生涯は楽しいものだろうか。私は、未だ悶々としながら、物語を求めて彷徨っている。

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