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火葬場のファウスト 絶え間ないピグマリオンに関して  作者: 民間人。
火葬場のファウスト
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蝙蝠と呼ばれた国

 かつて、ヴェネツィア共和国は蝙蝠外交と呼ばれる様々な立場の国に鞍替えしながら国益を最大化させる外交を行ってきた。例えば、東ローマ、ビザンツ帝国との蜜月の関係、身を翻して第四次十字軍ではフランスや諸国と協力し、コンスタンティノープルを蹂躙した。キリスト教世界にとどまらず、モンゴル系国家やイスラームなどの異教徒との関係を深めながら、黒海の商業路を常に確保しようと画策した。地中海世界では勿論、イギリスやフランス方面、そして自国の飛び地を経由する黒海方面への交易をおこない、莫大な利益を得た。


 そんな狡猾なヴェネツィア共和国が滅んだのは、18世紀のナポレオンの台頭による。当時、ヴェネツィアの国力は相当消耗していた。例えば、16世紀末から17世紀にかけてのオスマン帝国との長い戦いによって失った数多くの「飛び地」、13世紀に獲得したクレタ島、15世紀終わりに獲得したキプロス島などのギリシャの肥沃な土地も失っていた(一応、17世紀末の戦争によって、ギリシャの土地をいくらか奪還したことは付言しておく)。

 本土の土地に大土地を所有する者達によって経営された農園も、ナポレオンの占領と共に苦境に立たされることになる。オーストリアと対立していたナポレオンは、当然ヴェネツィアへの協力を強要する。そこで時間を稼ごうとしたヴェネツィアは、結果的にナポレオン戦争に巻き込まれ、最終的にはオーストリア領ヴェネツィアとなり、長い共和制国家の幕を下ろした。


 長く語ればいくらでも物語の書くことが出来そうなヴェネツィアという土地だが、中でもその生き残りのための情報共有・収集の迅速さには驚かされることがとても多い。大航海時代の後に歴史の表舞台に出る機会は余り多くなくなってしまうが、物量で圧し潰す大国の世紀までよく言えば器用に、悪く言えば狡猾に生き抜いたこの国は、歴史の主役である時代は多くはなくとも、「美しすぎない、生々しさのある」独特の魅力を持った国であったといえるだろう。


 かつて地中海の覇権を争い、黒海までその裾野を広げた「蝙蝠と呼ばれた国」は、現在では、その美しい景観と様々な観光資源を生かした観光地となっている。かつて聖地巡礼の為にも利用されたこの地は、いつの間にかこの土地自体の魅力までをも自身の利益に結びつけていった。彼らの蝙蝠のような生き方は、今まさに観光資源を生かして生きようとする日本の、漸減的な衰退をも、暗示的に示しているように思われる。

 オーストリアに次いで、ヴェネツィアの事はもっと知りたいと思いました。

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