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火葬場のファウスト 絶え間ないピグマリオンに関して  作者: 民間人。
煉獄のナルキッソス
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狂女王ファナと幽閉生活

「世間は女性に厳しい」と言われ続けて久しい。これは永年の、いわば伝統のように続いてしまっているもので、古くはギリシャ・ローマ時代の男色文化に始まり、この男性優遇社会はキリスト教的な女性差別社会へと発展した。これは、ローマ帝国がキリスト教を容認するにあたり、古典的なキリスト教にはなかった文化が融合したのかもしれないし、元からあったのかもしれない。

 我が国では特に平安時代に女性差別が顕著に現れ、武家社会の始まりではある程度なりを潜めていたが、やがて武家社会が広く浸透すると、再び男性中心社会が顕著になった。それ以降も我が国では度々女性差別に対する批判が向けられるが、これは恐らく男性社会にも甚大な悪影響を与えてしまっており、噛み合わない双方向からの一方的なコミュニケーションは、問題を解決することを困難にしているようだ。


 さて、私はこの問題が引き合いに出されるたびに、いくつか思い浮かべる偉人が存在する。


 一人は、政治を裏で操ったとされるイタリアの高級娼婦、ヴェロニカ・フランコ。娼婦とはいうが、当時のコルディジャーナはかなりの教養の持ち主でなければならず、彼女もまたその例に漏れない。

 今一人はイタリアはメディチ家出身にしてフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス。彼女の息子たちは三人、フランス王に即位し、フランスの母后と呼ぶにふさわしい人物である。かの酸鼻極まるサン・バルテルミーの虐殺の首謀者であるという噂もあるが、彼女の優れた政治手腕がフランスの治世に影響を与えたことは疑いない。

 上記二名は仮に「男性であったなら」何らかの歴史的改変が生じたであろう程の人物であり、偉人と呼ぶにふさわしいが、やはり「女性に相続権は無かった」。


 そして、今一人想起させられるのは、異端の残り香を排除し、アラゴン王フェルナンドとカスティリャ女王イザベラの間に生まれたスペイン王国の女王の事である。彼女は、「狂女王ファナ」と呼ばれている。

 中世と近世の何れにも当たる、ルネサンス時代、彼女はブルゴーニュ公にしてハプスブルク家出身のフィリップ美公と婚姻した。政治にも妻にも無関心な様子のフィリップは、ファナのその後の人生を大きく狂わせる事になる。フィリップが何度も彼女を落胆させている間に、ファナは気を病み、読者好きで内気な彼女は徐々に狂女王としての道を歩み始める事になる。

 やがて彼が崩御すると、自らの王位と彼の死骸に執着し、スペインをしたいと共に巡ったり、やがては幽閉される事になる。彼女は手元に置かれた娘を奪われ発狂するなど、政治どころか「人間として」の尊厳を奪われていく事になる。

 それでも彼女は女王であり続け、彼の息子カルロス一世は彼女の崩御を受けて息子フェリペに統治者の座を譲る事となる。


 ファナの事を狂人だと断じた当時の人々から見た時と、書籍の中からしか彼女のことを知ることの出来ない私達とでは、彼女に対する見え方は随分と違って見える。

 私が彼女について学び、感じた第一の印象は「ハプスブルク帝国の一員として相応しい筈の教養に富んだ人物」であった。

 幼少期より読書を好み、多言語に堪能であり、(当時の価値観では重要な事項であった)血統としても申し分なく、内気ではあるが心より夫を案じていた彼女が、夫の崩御を機に「狂人」となってしまった事、それは果たしてそれ程特別な事だったであろうか?或いは、精神を病んだまま娘と共に幽閉生活を送っていた彼女が、愛する娘を奪われて発狂する事は、果たしてそれ程異常な事だっただろうか?


 恐らく、世間的に見れば、やはり彼女は狂女王としての側面を持っていると言わざるを得ないだろう。一方で、彼女の生涯に想いを馳せる時、果たして彼女は「等身大の女性」以上の人であったのだろうか。私には、判断がつかない。何故なら私は、世間体を酷く気にする、卑劣で矮小で無知な「男」なのだから。

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