ジンギスカンの偏屈愛
※キチガイです。
丘を催した様な特殊な形をしている鉄板の上で僕はジュウジュウと焼かれていた。
焼く毎に私は匂いを発し、周囲の人間への嗅覚を弄り色々な意味での求愛活動を行っていた。
「誰か……私を食べて」
私はそんな事を言いながら鉄板の上でダンスを踊っていた。
羊の肉を薄くロースして、醤油とスパイスで着飾った私の体は火照っていた。
早く人間に私のことを食べてもらいたい。
出来る限りかっこいい人に出会いたい。
そんな誰にでもあるような恋愛感情で心の中は満腹だった。
「届け、私のラブストーリー」
弱火で徐々に焼かれていたため、何時の間にか可笑しなテンションになっていた。
「これから私は、私の人生で一番の瞬間を迎える……そう、これが私の最初で最後のディナータイム」
まだ私の体は焼けてなく赤みが綺麗に残っていた。
さぁ、私を見て!
とでも言わんばかりで私は全身を露にして、食欲をすする様なポーズをとった。
そのような事をしていたらふと、過去の記憶がフラッシュバックしてきた。
その中には共に居た仲間や、今までに味わったものなど、多数の記憶が蘇った。
その記憶の中に私の初恋の思い出があった。
その相手は骨だった。
私は骨の周りにまとわりつく肉であって、いつも骨と楽しくおしゃべりをしていた。
しかし、調理されるとなって、骨と私は離れ離れになってしまい、今日に至るまで、会うことができていなかった。
「うっううう」
私は泣き出してしまった。
「会いたいよぉ、会いたいよぉ」
しかし私の声は届かない。
届くはずも無い私の声は何時しか消えてなくなっていた。
どうせもう会えないんだ。
ならばいっそ……と考えた時、私の頭上から声が聞こえた。
「大丈夫、ここにいるよ」
どこ!と思い、上を見ると出汁の入ったお湯が私のほうへ落ちてきた。
「おーい、ロースまた会えたね」
「うっうわぁぁぁぁぁぁん」
私は思わず泣いてしまった。
感動の再開。
これを泣かずしてどうするというのだ。
私はどうする事もできず、出汁になった骨と一緒になるのであった。
その頃には私の体もいい感じに焼き上がり、美味しくいただけるようになっていた。
木製の二つの棒が私を摘みあげた。
「あっ」
私はそう言いながら連れて行かれた。
しかし、私には安心感があった。
だって骨が私と一緒にいてくれるから。
私は私を食べようとしている人間を見た。
顔はスラッとしていて輪郭も良く、好みのタイプだった。
「うほっ、良い男」
私と骨はその男の体の中で形はどうであれ、末永く暮らしていくのであった。
久しぶりに短編小説を投稿しました。
やはり長編小説を書くよりもキチガイな短編小説を書いた方が楽しいですね。