第5話「見切り」
「はあ...」
講義が終わり、お昼休みの最中、私はため息を吐きながら
大学の中庭のベンチに座っていた。
ため息の理由はもう一つしかない。
まさか由紀も香織もやる気がなかったとは..
てか、私だってみんなが残ると思ったから
本気でやりたいですって書いたのに、まさか本当に
ガチ勢しか残ってないとは..
「あ、有紗、おはよう」
「あ、おはよう..ございます?」
「なんで丁寧口調なの?」
そう言ってほほ笑みながら、私の隣に座ってきた舞川さんは
やけに上機嫌だ。てかこの人も残るんだよね..
「その..舞川さん」
「だから、何でそんな丁寧語なの?名前で呼んでよ、みんなみたいに」
「ええ..えーと..あの」
やばい..下の名前知りません、キャハ!って言えば許してくれるかな。
本当に知らないんだもん、だって舞川さん、自己紹介の時も
名前、名乗らなかったし。てか自己紹介で名乗らないとかなんなん。
「もしかして私の下の名前わからない?」
「え...あ、いやその..」
困惑している私を不思議そうに見つめる舞川さん。
いやそんな面白い者じゃないよ、私。
今、この空気どうすればいいか必死なのよ、私。
すると舞川さんはまた微笑んで口を開いた。
「正直だね、有紗は」
「へ?」
「いや、わからないから適当な名前とか言うかなーって
思ったけど正直にわからない様子だったから
安心した」
隣でフフっと笑う舞川さんは見てただただ唖然とするしかなかった。
つかこんなキャラだっけ、この人。
「舞川未樹。未来の未に樹木の樹で未樹」
「あ、どうも..えーと..多井有紗です」
「知ってるよ」
ふとお互い顔を見合わせて笑ってしまった。
なんだ、思った以上に新しい部活も
楽しくなるかもしれない。
意外な人のこんな一面見れたのならば。
でも、まだ納得はできないかな。
私はやっぱりあんな形でみんなを追い出したのは
許せないし、認めたくはない。
少なくとも鏑木君と前芝君だけは許さない。
× × ×
「おはよー」
「おはよーございます..」
放課後になり、指定の教室へ入ると
すでに私以外のメンバーほとんどが
出揃っていた。
一年生は新メンバー同士で和気藹々と話し、
二年は個人個人、本を読んだり、携帯をいじっている。
そんな中、唯一挨拶してくれた舞川さん..いやもう
未樹でいいよね、未樹は私の顔を見ると、ニコっと
笑ってくれた。
「ねえ、今日って何するの?」
「あー今後の方針の説明って聞いてる。
何でも夏にある学生映画祭に向けての
作品の打ち合わせがあるらしいよ」
「打ち合わせ?でもそういうのって
撮影チームだけでやるもんじゃないの?」
「ううん、もう撮影チームとか関係なしに
部活のことだからみんなに言うんだって」
ほえー、えいけんっぽくなってきたもんだ。
そんな中、扉を開けて鏑木君、地引君、前芝君が
入ってきた。
「お疲れー、んじゃミーティング始めるけど
その前に一つお知らせがあります」
鏑木君はみんなの顔を見渡すと、息を飲んで口を開いた。
「..映画研究会は次の映画祭で入賞逃したら
部活からサークルへの格下げが決定した」
ざわめき始める教室の中、私は何かもう
呆れを通り越してむしろ平然だった。
すでにあんなにたくさんの人数が辞めて、
今更部活からサークルと言われても
あんまり驚きはしない。
「まあ、これは学校からの方針だから
逆らうことはできない。
とりあえず何としてでも入賞しないと、今後の撮影が
できなくなるかもしれんからみんな、気合い入れるように」
鏑木君は言い終わると、「じゃあ前芝よろしく」と
バトンタッチのごとく席に座った。
「はい、じゃあ改めて今後の活動についてですが
まず今年の夏にある関東学生映画祭。
これは年に2回、夏と冬にある映画祭で
関東の各大学から色んな作品が応募される
いわば全国大会の予選とも言える大会です。
当然、これで最優秀賞を受賞すれば
全国映画祭への出場が決定します」
みんなが期待の声をあげて盛り上がる。
まあ映画祭と言えば野球でいう甲子園みたいな
ものだから、テンションは上がるに違いない。
しかし甲子園は甘くない。
前芝君がコホンと咳払いをする。
「けど、関東のレベルは高い。
全国にたくさんある映画研究会がある大学でも
毎年全国大会出場の常連ばっかが
この関東大会に出場するからな」
一気にみんながため息を吐き出す。
まあ夢を見るのは自由でも
現実は夢の通りにならないからね。
「まあ今回ばかりはさすがに
うちも今までみたいな作品は出せない。
よって今まで以上の作品を作ろうと思う。
で、現状今のえいけんの人数で
撮影チーム分けても意味がないと思うので
全員参加で作る方向でいいですか?」
前芝君の問いに私達は揃って頷く。
撮影チームは最大で10人以上、最低5人以上で
編成されるがこの人数では多くても2チームしか
できないし、人数少なければその分撮影の幅は狭くなる。
なら全員でやったほうがちょうどいいだろう。
「さて..それじゃあ各自に課題なんだけど..
まずは各役割を決めたい。
なので、次の部活までに自分がやりたい役割を
決めること。あと各自脚本を書いてきてほしい。
今回は全員で作るので得意、不得意関係なく
いい脚本で撮影をしたいと思う」
不満の声が上がるが拍手する人もいる。
何だがまとまってるんだがまとまってないんだが..
すでに私の中ではこの部活に見切りをつけているような
ものなので、とりあえずまた裏方やれればいいか。
脚本も適当にやろう。
遅れました、
二次創作と合同で書くと中々書く時間がないので
遅れてすみません..
しばらく今後の展開をプロットとして
あげるので次の更新は12月になるかな。
こんな作者ですが
温かい目で見守って頂ければ幸いです!