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ベルガモット―『身を焦がす恋』

 恋の病に侵された私は、ただ邑先生のことばかりを考えてしまう。

 休みの日なんだから、ゆっくり休みたいのに、全然眠れないし、食欲も全然沸かない。……私が、初めてあの人と出会った時みたいに。

 どうしたらいいんだろう、私。堂々巡りになった考えは、私一人ではずっと当てのない道をさまようだけで、何も思いつかない。でも、当てになりそうな人なら、一人だけ。

 もう夜も九時も回ってるけど、まだ起きてるかな。通話のボタンを叩いて、祈るように応答を待つ。

 コール音だけが、無機質に耳に触れて、もう駄目だな、と切ろうとした途端に、その音が途切れる。


『もしもし、ちえちゃん?』

「あ、かおりちゃん、今話いい?」

『うん、大丈夫だよ?おんなじ部屋の子、今お風呂入ってるから』


 相変わらず、甘ったるい声で、子猫みたいにかわいい姿を思い出す。私も、邑先生って存在がいなかったら、好きになってしまうかもしれないくらい。


「かおりちゃんはさ……、水藤さんとは、お付き合い、してるんだよね……?」

『うんっ、そうだよ?』


 この前は水藤さんの部屋に泊まりに行ってたし、そうなのかな、って訊いてみたらやっぱりそうで。恋人と結ばれるのって、どうすればいいのかな。どうしても、訊きたいって気持ちを、抑えられなくなる。


「水藤さんと、どうしてお付き合いすることになったの?」

『んーっとねぇ……、最初、わたしが迷子になって困ってたときに、かなみちゃんが助けてくれたの』


 私と邑先生の関係と、ちょっとだけ似てる。今かおりちゃんが中等部の二年で、水藤さんが私と同じ高等部二年だから、接点もそんなに無いってとこも。


「また、猫ちゃんでも見つけて追っかけてたの?」

『もー、なんで分かるのー?』


 やっぱり図星で、自然に笑い声が漏れる。最近、ずっと思い詰めてばっかりだから、笑ったのも、久々かもしれない。


『もー、笑わないでよーっ』

「わかった、ごめんって」

『そんな意地悪するなら、わたしとかなみちゃんのこと、教えてあげないよ?』

「そ、それだけはやめてよ……」

『わかってるよ、冗談だって』


 かおりちゃんが子猫みたいって思ったの、あながち間違いじゃないかも。かわいいだけかと思ったら、突然爪で引っかかれるみたいにさらりと痛いことを言う。


『それでね、なんでか分からなかったけど、かなみちゃんの事ばっかり頭に浮かんで、そのたびに胸がきゅうってなって、なんもできなくなっちゃった』

「私も、……わかるよ、その気持ち」


 だって、今の私と、その時のかおりちゃんは、きっとおんなじ気持ちだったから。


『へへ、そっか、……それで、絵のコンクールが近かったから、かなみちゃんと一緒に書くものを探しに動物園に行ったんだけど、……そのとき、かなみちゃんの隣にいたいって気持ちに気づいちゃったの、……恋してるっていうのかな、こういうの』

「うん、……そうだね」

『だから、その後にね、かなみちゃんに好きって伝えたの、……伝えるの、すっごく勇気がいったから、半月くらいかかっちゃったんだけどね』

「どうして、伝えようと思えたの?」


 訊きたい、だってそれは、私が想いを邑先生に伝える勇気をくれるかもしれないから。

 

『かなみちゃんが、わたしのこと、大事にしてくれてるってわかったもん』

「そ、そうなんだ」

『わたしのこと、全部受け入れて好きでいてくれるから、……わたしも、かなみちゃんのこと、全部受け入れて好きでいたいって思ったんだ』

「そう……、かおりちゃんは、今幸せ?」

『うん、すっごく!』


 いいなぁ、かおりちゃんは。好きな人と結ばれて。僻む気持ちが、心の中に芽生える。私は、まだそこまで達していない。邑先生が私をどう思ってくれているかなんて、どうやってもつかめない。優しくしてくれたことも、私が邑先生にとって特別だからなのかか、ただ邑先生が優しいだけなのかも。


『ちえちゃんは、好きな人、……いるの?』

「うん、……でも、自信ないよ、その人のこと、まだ全然わかんないもん」

『ちえちゃんなら、大丈夫だよ』

「そうかなぁ……」


 どんなに邑先生に優しくされたって、自信なんて持てない。でも、かおりちゃんは、優しく背中を押してくれる。


『だって、ちえちゃんは、かっこよくて、すてきだもん、その人も、きっと、ちえちゃんのこと好きだよ』

「そう、かな……」

『そうだよ……だから、もっと自信もっていいんだよ?』

「うん、……ありがとね」


 心の中が、ちょこっとだけ軽くなる。想いを伝える勇気は、まだ出てこないけれど。

 かおりちゃんのふわふわとした声に、自然と、こわばってた顔も柔らかくなっていく。


『ちえちゃんも、がんばってね』

「ありがと、かおりちゃん、……幸せにね」

『うんっ、じゃあそろそろおんなじ部屋の子かえってくるから切るね?』

「わかった、じゃあ、おやすみ」

『うん、おやすみ、ちえちゃん』


 電話を切って、自然と漏れたため息。

 邑先生の気持ちは、まだわからない。会うこと自体、最近はちょっと増えたけど多いわけじゃないし、感情がほとんど現れない人だから、何を考えてるかをつかめない。

 優しくされたことはいっぱいある。初めて会ったときもそうだし、直近だと、私がお昼を食べてないだろうっておにぎりを渡してくれた。でも、それが「もっと深い関係」に繋がるかは、教えてくれない。邑先生の気持ちを知るには、まだ知らないことが多すぎる。

 とりあえず、学校が始まったら、うちのクラスの楓さんに聞いてみようかな。本人に直接訊くのは、この関係から大きく踏み越えてるような気がするから。

『恋は芽吹いて百合が咲く』で登場したかおりちゃんをまたこっちにコラボさせてみた。

あのままだといつまで経ってもこじらせてそうだしね、仕方ないね

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