パンジー―『心の中はあなたで満たされる』
正確にはこういう意味を持っているのは紫のパンジーみたいです(小声)
どうしよう、私。
午後だって、頭の中には邑先生が居座ってて授業なんて頭に入らなかったし、お昼を抜いたせいでお腹もすいてしまった。
お腹が鳴らないことを祈りながら、授業に耳を傾けようとして、……やっぱり無理。まともに物も考えられなくて。ぼうっとした頭の隙間には、いつも邑先生のことばかり。
放課後、慌ててノートを貸してくれる人を探そうとしても、みんな、部活とかですぐいなくなってしまう。
しょうがなく、とぼとぼと寮に戻る。まだ、邑先生から貰ったチョコは残ってるし、それでも食べようかな。そう思った矢先、聞くだけで心臓が飛び上がるような、あの人の声が聞こえた。
「どうしたんだ?腹でも減ったか?」
「はっ、はい……」
「やっぱりな、わざわざあんな時間にくるから、昼食ってないんだろ?」
見透かされて顔中熱くなったとこに、お腹が鳴って、もう何も言えなくなる。
「全く……、これでも食え」
「あ、ありがとうございます……」
邑先生から渡されたおにぎりは、お昼に邑先生に会いに行ったときに食べてたもので。
なんというか、邑先生らしいや。海苔も巻かれてないとこも、具も梅干しだけっていうのも。
「これのお返しは、別にいいからな」
「す、すみません……」
ぽんぽんと頭を撫でられる。その手は、――初めて邑先生にそうされたときと同じで優しい。つっけんどんな言葉や態度からは考えられないくらい。
「ったく……、私の昼飯減っちまったじゃねーか……」
一人心地に呟いた邑先生の吐き捨てたような言葉に、心の奥が冷えてすくむ。でも、そうしてまで私のことを気遣ってくれたことに、それ以上に嬉しいって思ってしまう。
「ごめんなさい、こんなことさせて」
「いや、別にいい」
そう言って、どこかに行ってしまう邑先生。すれ違いざまにもう一回、ぽん、と邑先生の手が私の頭に触れる。
振り返って、その後ろ姿を見ると、私があげた紺色のハンカチが、ちょこっとだけポケットから出ていた。
どうしよう、胸の奥が急に高鳴る。だって、……好きな人に、プレゼントを受け取ってくれたし、いっぱい触ってもらえて、私のことを気にかけてくれたから。それでドキドキしないほど、私の恋心は浅いものじゃない。
鞄に、もらったおにぎりを形を崩さないように入れて。逸る心を抑えながら部屋に戻る。私のいる菊花寮が一人部屋でよかった。もし桜花だったら二人部屋だから、ルームメイトに変だと思われそうだし。
制服を着替えるのももどかしくて、鞄から邑先生のおにぎりを出して、形を崩さないようにそっとラップを取る。もう冷めてしまってるのに、不思議な温かみを感じて。
まるで高級なディナーでも食べるみたいに、ゆっくりとそれを齧る。私が思ったより少ししょっぱくて、でも、けっこうおいしい。
きっと、邑先生が朝早くに起きて作ったんだろうな。そんな姿はあまり想像につかないけど、でも、頭に浮かんだ姿で、また鼓動が早くなる。これが、邑先生がいつも食べてる味なんて考えちゃうと、余計に。
邑先生のことを知っていく度で、胸の奥がドキドキして熱くなる。でも、……もっともっと、邑先生のこと、知りたくなってしまう。誰も知らないとこ、見ていたい。
恋に侵された私は、邑先生のことしか、考えられなくなっているみたいだ。
倉田先生……フラグ建築がしたいです……