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咲いた恋の花の名は。  作者: しっちぃ


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ナンテン―『私の愛は増すばかり』

授業中も、ノートをとってはいるけれど、授業の中身より、邑先生のほうが、ずっとずっと気になってしまう。

今頃、外でお仕事してるんだろうな。

そんなことを考えて、窓際の席にいるせいで、ついその姿を探そうとしてしまう。

でも、そうしたって、邑先生の姿なんて見えないし、先生が私を指してるのにも、気づかなくなっていた。


どうしたんだろう。私が、まるで私じゃないみたいで。

『恋の病』とでも言うようなものが、私の中に巣食っているような。

だって、そうでもないと、私はこんなに普通じゃなくなるなんてありえない。

それだけ私は、邑先生のことばかり思ってしまっている。――まるで、少女漫画の主人公みたいに。


思いつめすぎた私の心には、午前中の授業も全部頭に入らなくて。

後で、誰かに見せてもらおうかな。太刀川さんとか、赤石さんとかに。周りから浮いてしまっている私は、そういうグループに興味のなさそうな人としか話せない。

じゃあ、邑先生は、どういう人だったんだろう。そんな風に、気が付いたら、頭の中は邑先生のことばかりで。

そういえば、もう昼休み。財布とスマホを持って、ポケットの中に入れたものがちゃんとそこにあるか確認して、外へ飛び出すように出た。


広い敷地の周りを一周して、邑先生を探そうとして、……誰かに呼びかけられた。

「どうしたんだ、江川」

その声は、何となく邑先生に似てて。

「い、今ゆ……倉田先生を探してて……」

「私がどうかしたか?」

それが、まさしく本人だって言われて、いきなりのことに心臓が飛び上がりそうになる。

「は、はいっ、この前は、ありがとうございましたっ!」

「この前って……、ああ、あのチョコのことか」

「それですっ、すっごくおいしかったですっ!」

「そうか、それならよかった」

私がこんなにテンパっているのに、邑先生は涼しげな顔のまま、タッパーに入れてあるたくあんをつまんでいて。

邑先生が慌ててる姿なんて想像できないけど、それでもちょっと寂しくなる。……私とおんなじ気持ちを、邑先生は持っていないんだなって。

「それで、あのっ、お礼したくて、……受け取ってくださいっ!」

ポケットに入れてあったものを、邑先生に渡す。それを、片手でもらってくれたのが、手の感覚に伝わる。

邑先生がそのときどんな顔してたかなんて、わかんなかった。

だって、そんなの見れないくらいドキドキしてたし、どんな顔してても、舞い上がったり落ち込んだりしてしまいそうだったから。

「ん、ありがとな」

頭を、ぽんぽんと撫でられる感触。それに、私の心臓が破裂しそうになって。

「し、失礼しました!」

慌てて、そこから逃げるように立ち去る。私の中にある恋心は、初めて邑先生と会ったときのことを思い出してしまう。

寝不足や緊張でフラフラになってた私のことを、優しくいたわってくれたあの手と、さっきされた時のことを、頭の中で勝手に重ねてしまう。

予鈴が遠くで鳴って、急いで教室に戻る。結局、お昼も食べられなかったけど。

邑先生の手の温もりが、私の胸を満たしていった。

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