ブーゲンビリア―『あなたは魅力に満ちている』
かおりちゃんと電話してから、私に潜む恋の病は少しはおとなしくなった。
でも、邑先生を想う気持ちは消えないどころか、ずっと深くなっていく。
水藤さんのことを話すかおりちゃんの声は、すっごく明るくて、……恋が叶うって、どんなにうれしいことなんだろうって想像する。……でも、私が、邑先生と結ばれる想像なんてできない。愛されるときのことは考えたことはあるけど、あくまで何の脈絡もない夢の中だけの話。
「邑先生のこと、知りたいな」
自然と漏れた声は、私の中に溢れてる想い。
私よりもちょっとだけ背が高くて、少し細身で、甘いものが苦手で、不愛想だけど優しい人で、私がかおりちゃんに初めて会った日に学園に現れた不審者も一人で追い払ったっていうから、きっと力強い人なんだろうな。邑先生について私が知ってるのは、せいぜいこのくらい。邑先生のこと、私はきっと、まだ一パーセントもわかってない。
明日は、久々に学校があるから、同じクラスの楓さんに、邑先生のこと聞けたりしないかな。そしたら、もっともっと邑先生のこと、わかるのかな。
今日は、この頃よりは眠れそう。一歩でも、ここから前に進もうと決意できたから、なのかな。
頭までベッドに被って、何もかもを頭の中に閉じ込める。そうしないと、また、邑先生のことばかり、頭に浮かんで眠れなくなりそうだから。
どこか遠くに、邑先生の姿。どこか遠くを見つめて、じっと佇んでいる。それだけで、かっこよくて、きれいだからずるい。
いくら近づこうと足を踏み出しても、いっこうに近づく気配すらない。もしかしたら、進んでいるていうのも、錯覚なのかもしれない。今の、私と邑先生の関係とおんなじで。
もっともっと近づきたい。手を伸ばしても、邑先生の姿は、どんどん離れていく。
「んぅ……ゆう、せんせぇ……」
自分の声に、目が覚めてしまう。時計を見ると、まだ普段起きる時間よりは早い。あれは夢だったっていうのに、背中にかいた汗も、乱れた息もなかなか収まらない。
私にとって、邑先生が離れていくのは、自分が死ぬのと同じくらい辛い。だから、今までずっと、前に進む勇気なんて持てなかったと気づいて、腰が引ける。
でも、かおりちゃんが背中を押してくれるから、頑張れるかも。3つも下のかおりちゃんが好きな人と結ばれることができたんだから、きっと、私だって。
両手で、軽く頬を叩くと、パシン、と鋭い音が鳴る。
もう、駄目だったらどうしようっていうのは、考えないって決めた。かおりちゃんの手が、背中を押してくれるし、邑先生のやさしさに、私は引かれていったから。
部屋についているシャワー室で、汗と一緒に、今までこもってた雑念も流す。
一歩ずつだけど、邑先生に近づきたい。私の中にあった恋心は、ちょっとずつ、近づいていく勇気に代わっていった。
エタ寸前で何とか書き続けられてます。