アネモネ―『恋の苦しみ』
『星花女子プロジェクト』に参加させて頂きました。
うちの子の江川智恵と、壊れ始めたラジオ先生の倉田邑さんを使わせてもらってます。
「ねぇ、もっと、ちょうだい、智恵のこと」
「だ、だめですってぇ……」
夢の中にいるってわかってるのに、ドキドキする。
だって、好きな人に、押し倒されてて、もっと、求められてるから。
「嫌なら、やめるけど、いい?」
「嫌じゃないですぅ、もっと、してください……っ」
ああ、もう、ずるい。
顔が近づいて、目を閉じる。
再び目を開けると、一人ベッドの上。
小鳥が歌ってるのが聞こえて、広げてあるカーテンから日の光が眩しいくらい差し込む。
また、同じ夢。何回も何回も勝手に期待して、勝手に失望してる。
想う心は、日を追うごとに膨らんでいく。花のつぼみが、少しずつ綻んでいくように。
その恋が花を咲かすことは、無いのかもしれないけれど。
……邑先生。
心の中でつぶやく。私が、好きになってしてしまった相手。名前で言ったのは、いつかそうやって先生のことを呼びたいって思ってるから。
不愛想なのに、優しくて。
耳が隠れないくらい短い髪も、飾らない格好も、黙々と汗をかいて仕事をしてる姿も、女の人なのにかっこいいと思ってしまう。
生徒と用務員の先生という関係じゃ、頻繁に会うなんてことはない。それでも、出逢った時間は、頭の中で何倍にも引き伸ばされる。
一言挨拶を交わすだけでも、胸の中に幸せのかけらが溜まってく。
授業中、窓の外で仕事をしてる先生を見て、胸が高鳴る。
この気持ちが『恋』だって、分からないほど子供じゃない。
そろそろ、学校に行く準備をしなきゃ。
仮にも生徒会副会長の身で、優秀な生徒が集まる菊花寮の一員として、ちゃんとした理由もないのに遅刻なんてしてはいけない。
トーストと簡単に作れる料理を手早く作って食べて、制服に着替える。
慌てる時間じゃないうちに、家を出る。寮監の人に鍵を預けて、学校までの道を歩く。
その道で、……見かけた姿に、ドキっとする。
「ゆ、……倉田先生!」
自分だけの世界の呼び方になりかけて、慌てて直す。
熱くなった頬。まだ4月だから、暑いからと言い訳もできない。
「どうした、江川」
名前、憶えられてたんだ、……そんなので、胸の奥がドキドキしちゃうから不思議だ。
通路にある木を剪定していたらしく、枝切りばさみを持ってこちらを振り向く。
「あ、あの、おはようございますっ!」
声がひっくり返らないように、思わず声が大きくなっていた。
「ああ、おはよう」
淡々と返されて、先生は背中を向いてしまった。
それに、ちょこっとしょんぼりしてしまうのは、なんでだろう。
最初から、この想いは、私だけのものだって、わかってるはずなのに。
どんよりと沈んだ気持ち、教室の窓の外から見える邑先生の姿で癒される。
邑先生に、こんなにも気持ちが浮き沈みさせられていく。
いつもより、勉強に身が入らない。いつもは大事だと感じたとこも書けるノートも、いまは板書を写すくらいしかできてない。
『恋をする』と、こうなってしまうものなのかな。
いつもより早く鳴る胸に手を当てて、そんなことを考えていた。
いろいろな兼ね合いがあるので遅めの更新になりそうですが、よろしくお願いします。