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●頑固おやじの中華料理店

作者: かや博史

多分、私が小説に書いたと知ったら怒られるかもしれない。

たった一度だけ、このおやじは、例外を許した事があるのだ。


●頑固おやじの中華料理店



東京・神田の路地裏に、ある中華料理店がある。


頑固おやじと奥さんだけで営んでいる。




美味しい店なのだが、

テレビが入ることも、雑誌の取材も断っている店で、

出前もしないし、持ち帰りも不可な店だ。



多分、私が小説に書いたと知ったら怒られるかもしれない。



そんなんだから、

奥さんは、「もう少し商売っ気があればねぇ」といつも嘆いでいる。





昔、私が今日は食べる時間が無いけど、持ち帰れないかと頼んだが、やはり断られた.



お得意さんにでもこれなのだ!


奥さんが、「ヒロちゃんゴメンねぇ。持ち帰り不可なん。」とフォロー。



この店もこの奥さんの器量でもっているところもあるのかもしれない。




しかし、私は知っている。



以前に、一度だけ、

ここのお客が餃子を持ち帰りしたことを・・・・・





もう15年も前の夏の日だった。


私が夕食を食べていると、母子が入ってきた。


(後から聞いたのだが、男の子は小学4年生で、母子家庭だそうだ)




その母子が入ってくるなり、店の奥さんが声をかけた。


「いらっしゃい!! いつものでいいの?」



「はい。お願いします。」



私は、いつものって何だろう?


俺もいつも同じもの注文してるのに、

いつものでいいの?って聞かれたことないよなぁって、

思いながらしばらく気になって見ていると、



母子のところに、

ラーメンと餃子とチャーハンが、一人前だけ運ばれてきた。


それとそれぞれに取り皿がついている。


母子はラーメンとチャーハンを半分に分けてあって食べていた。



私はそれを見て思った。


奥さんは、きっと毎回、恥ずかしそうに取り分け皿を頼む母子に気をつかって、

それを言わせないように、「いつものでいいの?」と聞いたんだ。



母子はスープも残さず食べ終わると、


おやじさんの方を向いて、

「とても美味しかったです。ご馳走様。」と言った。



しかし、頑固おやじは、

それを聞いても別に返事をするでもなく、黙ったままで、

もくもくと何か作っている。



無愛想なおやじだぁ!



奥さんがすかさず、

「どうもありがとうございます。またいらして下さいね。」

と店の外まで見送った。



私は思った。


美味しいけど、おやじひとりだったら、つぶれるなこの店。



その後も

この母子を、何度か見かけた。



私よりもこの店のお得意さんのようだった。




しかしある日、

男の子が、ひとりで店に来た。


奥さんが「今日は、お母さんは?」と聞くと、


男の子は、

「母さん、ガンになっちゃって、入院しているんです。


何も食べれなくなっちゃって、

ホンとはここの餃子が大好きで、

来たい。来たいと言ってたんだけど・・・・


もう一度、ここの餃子が食べたいって・・・・」



それを聞いた奥さんも、かける言葉を失っていた。



男の子は、ラーメンと餃子を食べると、

お金を払って何も言わずに出て行こうとした。



その時だ!



あの頑固おやじが、


初めてお客に声をかけたのを見た。



「ぼうず、これもってけ!」っと


出来立ての餃子を袋に入れて差し出した。



「お母さんに匂いだけでも食べさせてやれや!


そして食いたかったら、早く元気になってこいって!」





「それからな、

「お前の母さんから1年分の料金、もらってるから、

 腹空いたら、いつでもここに食べに来いや!」



それだけ言うと、おやじはまた奥の方に引っ込んでいった。



「えっ?・・・ホンとに?」


男の子は、奥さんの方を向いて「ホンとですか?」と聞いた。


奥さんはちょっと不意をつかれたように「えっ!」と言った後、


「ホ・ほんとよ。お腹空いたら、いつでもいらっしゃい」と言った。



男の子は、

「ありがとう。   母さん、きっと喜ぶよぉ」

と餃子が入った袋を握り締めると、

嬉しそうにかけって病院の方に帰っていった。



奥さんが、「そんなお金貰ったの?」と聞くと、


おやじは、





「もらった。
















「オレの味が大好きだと言ってくれた。」


END


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― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿されている四編を通して読みました。 不思議な雰囲気の主人公である占い師の淡々とした口調で、様々な怪異や希望が語られる。 面白いと思いました。 [気になる点] 前二つは良かったのですが、…
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