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7 本当の姿

 突如、桃歌たちの目の前に現れた男は、金糸のように細く綺麗なブロンドにの髪に、透き通るほど美しいスカイブルー色の瞳をした男だった。ディールに剣を向けられているにも関わらず釈然と立つその姿は、まるで桃歌が夢に見た王子様のようで――。


「金髪碧眼の王子様……って違う! 不審者!?」


 思わず見とれていたが、すぐに我に返る。鍵のかかった宿に突然現れるなんてどう考えてもおかしい。桃歌はすぐにディールの後ろに隠れて様子を見る。


「違う! 私だ、私!」


 男は桃歌の反応に焦ったように反論する。


「私って誰よ! オレオレ詐欺ならぬ私私詐欺!?」


「桃歌が何のことを言っているのか分からないが……、ディールなら分かるだろ?」


 男は手を広げて得意そうにディールを見た。しかし、親しげに話す男と違い、ディールは剣をおろさず前を見据える。


「悪いがあんたのことなんて知らねーよ。名を名乗れ、名を」


「!!」


 ディールの言葉にショックを男は口を開けたまま固まった。桃歌は「イケメンなんだから早く口を閉じて!」と言いたいのをなんとか抑えて成り行きを見守る。




「……ロロ、今はユーリ=ユスティーノの姿だけど」


 長い沈黙の後、いじけたように呟いた名前にディールはハッとして手を叩く。


「ああ! ユーリ王子か」


「ユーリ王子か、じゃない! 何故ドラゴンのときは私だと見破ったくせに、人間の時の姿では気がつかないんだ!」


「いや、だってあんたずっと女装していたじゃねーか。もう男だったときの姿なんて覚えてねーよ」


「なんて適当な騎士なんだ」とロロは落ち込む。


「え、ロロなの?」


 桃歌はディールの後ろから出てロロの前に行くと、ドラゴンの時とは違って自分より背の高い彼を見上げる。化かされたような気持ちで彼を見た。街の人が別嬪だと言っていた気もするが、こんなに綺麗だとは思っていなかった。


「なんで急に人間の姿に……?」


「もう桃歌に隠し事はしたくなかったから、人間だったときの姿を見せたかったんだ」


「どうやって……」


「魔法で。コーントロールはまだ難しいから、長時間この姿を保つのは難しいけど……少しの間だったら姿を変えられる」


 そう言うと、ロロは桃歌の右手を取って両手で包み込む。桃歌は驚いて手を引こうとするが、優しく触れられた右手は意思に反して動かすことはできない。


「ごめんな、桃歌の右手は治してやりたいけど、やっぱり慣れない魔法で治療する自身はないんだ……」


 消え入りそうな声で謝られ、桃歌の顔は沸騰したように赤くなる。男に免疫のない桃歌はどうしていいか分からず、ロロと目も合わせられず、ただ握られた右手を見ていることしかできなかった。


「……なんか良い雰囲気のところ悪いが、一つハッキリさせたいことがある。」


 ディールの声にロロはやっと桃歌の手を離す。


「ユーリ王子、あんたは半年前に死んで、気が付いたらドラゴンになっていたと言ったな。何故死んだ?」


 桃歌も気になっていたことを、ディールははっきりと告げた。

 塔に引き籠っていた王子が、どうしてドラゴンになってしまったのか。そして、何故自分がこの世界に来てしまったのか――。半年前、絵本に吸いこまれてやって来たこの世界。もしかしたら、ユーリ王子の死が関係しているのかもしれない。


「……殺されたんだ。多分、としか言えないけど。あの時の記憶は酷くあやふやで、覚えているのは誰か女の声がしたことだけ」


「女の声か……。ドラゴンが守っていたあの塔に簡単に近づける者はいないはずだが」


 そう言ったきりディールは深く考え込んでしまった。きっと心当たりがないか探しているのだろう。ユーリ王子は今、ドラゴンとしてここに生きているけど、人間だった彼は殺されてしまった。一国の王子が暗殺されたとなれば大問題になるだろう。

 重い沈黙が部屋を満たす。暗い雰囲気をどうにかしたくて、桃歌はなるべく明るい声でロロに話しかけた。


「そ、そう言えば、さっきからロロって読んじゃってるけど、ユーリ王子って読んだ方がいいのかな?」


「いや、桃歌にはロロって呼んで欲しい。私のために考えてくれた名前だから」


「……そう。じゃあ、ロロって呼ぶね」


 先ほどから、いつもの生意気なドラゴンと違って優しげなロロに、桃歌は調子が狂う。そんな彼女の様子に気がつかずロロはニコニコと笑っていると、突然彼の身体が青白く光りだした。それは徐々に小さくなり、最後には小さなドラゴンがぽつんと立っていた。


「ああ、もう魔法が解けたのか」


 そう言ってパタパタと翼を揺らすロロを見て、桃歌はひっそりと胸を撫でおろした。やはり、見慣れたドラゴンの姿が安心する。




「ユーリ王子!」


 ぶつぶつと呟きながら考え事をしていたディールが、ロロの名を呼びながらいきなり立ち上がった。


「城に戻るぞ、明日の朝ここを出るから仕度しとけ」


 それ告げると、とっと部屋から出ていってしまう。勝手な言動に残された桃歌とロロは茫然とドアを見つめる。


「城ってロロが王子様だったころにいた所だよね?」


 ロロの方を見ると、彼はドラゴンの姿でも分かるほど酷く青ざめているようだった。


「ロロ?」


「嫌だ、あんな場所絶対に戻りたくない!」


「どうして?」


「どうしても何も、お母様は顔を合わせるたびに女装を止めろと言うし、お父様はもっと強くなれと剣の稽古を無理矢理させるし……、弟は私のことを鼻で笑うし……」


「へー弟さん居るんだ」


 王子だから何か深刻な悩みがあるのかもと思ったが、あまりにもどうでもいい悩みごとで呆れる。返す言葉も棒読みになる。


「ああ、5歳下の……ってそんなことはどうでもいいんだ。とにかく、私は城には帰らない」


 さっき、人間の姿をしたロロにときめ居たのが嘘のようにスーッと覚めていく。ユーリ王子が引きこもりだということをすっかり忘れていた。


「大丈夫よ、ドラゴンの姿なんだから誰もユーリ王子だって気がつかないって」


 ディールがどういうつもりで城に連れていくのか知らないため、王子だとばれる可能性もある。しかし、取りあえずこの場をおさめようと適当なことを言う。


「そうか? それなら……いや、でも……」


 尚も悩むロロを眺めていると、大きな欠伸が出る。


「ロローもう遅いから寝ましょう?」


 そう言って、桃歌ははたと気づく。今までドラゴンの姿だったため、元人間といえ何も気にしていなかった。だが、ロロの人だったときの姿を見た今は違う。一緒に寝ることが急に恥ずかしくなる。


――そういえば、今まで普通にロロの前で着替えてた!!


 今までの恥じらいのない行動をしていた自分を殴りたくなる。


「う~ん、う~ん……」


 ロロを見ると、桃歌の言葉が聞こえていないのか未だに悩み続けていた。


「……」


 ロロの態度に気にしていた自分がバカのように思える。もういいや、と桃歌は布団にもぐった。そういえば夕飯を食べていなかったことを思い出すが、疲労からもう目を開くことができない。


「ロロ~、寝るときはちゃんと電気を消してね」


 既に半分眠りながら言う。口が上手く動かせなかったがちゃんと伝わっただろうか。

 そして、桃歌はロロの返事を聞かないまま深い眠りへと落ちた。


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