プロローグ
むかしむかし、ある国にたいへんかわいらしいお姫さまがいました。
お姫さまが16歳のたんじょうびをむかえた日、国中をあげてせいだいなパーティーが開かれました。
みなが楽しんでいるなか、きらわれ者の魔女はパーティーに参加できませんでした。そして、魔女はお姫さまの人気にしっとして、お姫さまをさらってしまいました。
魔女は山おくのドラゴンの住む塔のてっぺんにお姫さま閉じこめてしまいます。ひとりぼっちになったお姫さまは塔の上で泣きつづけました。
国王はお姫さまを助けだしてくれる勇者をぼしゅうしましたが、ドラゴンにたちむかおうとする人はいません。あきらめかけたとき、お姫さまがさらわれたことを耳にした隣国の王子さまがなのりでました。
「わたしが、姫を助けだしてみせましょう」と言ってお姫さまがまつ塔へと、むかいました。
王子さまは塔にたどり着くと、お姫さまのいる塔のてっぺんをめざします。ドラゴンのふく炎をかわし、剣をふりおろし、はげしい戦いのすえ、ついに王子さまはドラゴンをたおしました。
そうして、王子さまはお姫さまを助けだしました。
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埃が舞う中、穂村桃歌は屋根裏部屋の整理をしていた。
両親が離婚することになり、桃歌は母方の祖父母の家に引っ越した。お世話になるからと、昔よく遊んでいた屋根裏部屋を掃除することになったのだ。ずっと使われなかった屋根裏部屋は埃が溜まり、物置状態になっており中々片付かない。少し面倒になりながらも、時折見つける懐かしいおもちゃを手にとっては昔を思い出していた。
「そういえば、昔大好きだった絵本があったな」
ふとそんなことを思い出した桃歌は、本棚を見回す。本棚も埃をかぶっており、並ぶ本はうっすら白くなっていた。ひとつひとつ題名を確認していくと、一番上の右端に目当てのモノを見つける。
「あった!」
桃歌は絵本を手にとって埃を払う。それは、絵本にしては立派な表紙をしている。小さい頃、何度も何度も読み返した絵本。懐かしさに、桃歌はその場に座ると、絵本を開いて読み始めた。
塔に閉じ込められたお姫様を王子様が助け出すお話。今読むとありきたりだが、桃歌はこの物語の王子様に憧れていた。
最後の一ページをめくる。この絵本は王子様が塔に閉じ込められていたお姫様に手を差し伸べる所で終わる。
桃歌は懐かしさに胸をいっぱいに絵本を閉じようとしたとき、背表紙の裏に何か書かれているのを見つける。それは、日本語でも英語でもない。何か文字のようなものが記号が羅列されている。
(あれ?こんな文字あった?)
桃歌は不思議に思いながらその文字を見つめると、頭にある言葉が浮かび上がった。
「......」
まさか、と思いながらも頭に浮かんだ言葉をゆっくりと声に出す。
「お姫様になりたい」
そう言ったとたん、本から眩い光が溢れ出して桃歌を包み込む。真っ白な視界のなか、桃歌は突然床が崩れ落ちていく感覚に包まれる。落ちる、というよりも吸い込まれていくような不思議な感覚に一気に恐怖が膨れ上がる。
「き、きゃあぁぁぁぁぁっ」
悲鳴をあげながら、桃歌は意識を手放した。