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ショートショート集

BOOK

作者: Yakumo Sugawara
掲載日:2016/01/03

遠い未来、世界から紙媒体がほとんどなくなってしまった時代。

タブレット形端末ですら懐古主義なものみなされるような世界。

図書館ですら管理する者以外は訪れることがない。

そもそもその数も世界に数えるほどしかない。

人々が持ち歩く端末はフィルムのような極薄で弾力があり曲げても大丈夫なものだ。

それか3D投影機能をもった角砂糖ほどの大きさの代物ばかりだ。

最近は体内に埋め込むタイプも普及し始めている。

しかし、こちらにはまだ抵抗を示す人々も多い。


ある青年が奇しくも端末の不具合に見舞われ道に迷った。

そして、たまたま迷いこんだ路地で奇妙な店に出くわす。


そこには”本屋”の文字。


青年はそれがなんであるかは知っていた。

きちんと歴史の勉強をしていたからだ。

昔のひとたちはあんなに嵩張る上に重量のあるものをよく持ち歩いていたものだ。

だが本の現物は生まれてこのかた見たことも触ったこともなかった。


すると店の引き戸が開いて店主と思しき人が顔を出した。

パッと見には青年と同年代にみえる。

しかし、よく見ると少々年長者のようにも見える。

歳が読めないそんな顔つきだ。

童顔とでもいうのだろう。

店主が口を開く。


興味があるなら見てくかい?


青年は何かに引き寄せられるように店に入る。

独特のにおいに一瞬顔をしかめる。

店内はさほど広くない棚には天井まで本が積まれている。

映像でしか見たことのない景色だ。


みんなそうだ。

ここに来る人はいつもそんな顔になる。


店主が言う。


遠慮はいらない。

手にとって見たければ、お好きにどうぞ。

ただ丁重に扱ってくれ、一応は売り物だから。


青年は店内をぐるっと見て回った。

棚の本には知っているタイトルのものもあった。

もっとも読んだのは電子版だが。


青年はまだ見たことのないタイトルの本を見つけた。

かなり古そうな本だ。

手を伸ばし手に取る。

一瞬どうすればよいのか迷った。


表紙をめくるんだよ。


青年の様子を見ていた店主が言う。


そうだ表紙をめくり、次に項をめくる。

初めての感覚だった。

紙の手触り。

印刷ではなく手書きのようだった。

とても刺激に満ちていた。

だが長続きしなかった。

本を持っていた手が震える。

青年はやっとの思いで開いていた本を閉じる。

そしてそれを棚に戻す。


それを見ていた店主が寂しげに言う。


やっぱり君もか。

みんなそうだ。

開いて見てもすぐに棚に戻してしまう。

今の時代の人々にはもう無理なのかなぁ。

今の端末しか使ったことのない人たちには…。

昔の本は重すぎるのかな。

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