噂・いばらの塔
都市に戻ると、リッテの『ロングソード』が話題になる。
そのあと三日ほど『ロングソード』のレベルを三十五に上げて、『青い石』のクエストを受ける者が多発するが……。誰一人、泉のクエストが出現する者はいなかった。
本来はあり得ない出来事に『嘘つきリッテ』と罵られてもおかしくない状況だったが、リッテの他に二人も泉を見た証言があるどころか、リッテの持つ『ロングソード』のレベルが奇跡を証明している。
その泉は後に『リッテの泉』と呼ばれるようになる。
噂が広がっても、所詮は★が一つの武器。すぐに鎮火した。
「『リッテの泉』か……。私も会ってみたいものだな……」
シンデレラは自室で消えかけた噂を口にする。
「世界の『理』を覆す女神。それを引き寄せたリッテ。偶然なのか、必然なのか……」
翌日、急に『いばらの塔』への立ち入りが許可された。
いばら姫が眠る塔。
現在シンデレラ率いる『保守派』と、白雪姫が率いる『改革派』が塔を巡って争いが起きている。
俺には難しい事はよくわからない。
「んじゃさっそく塔に行ってみるか?」
「えっ? 本当に私たちも一緒に行っていいの?」
ミレッサの言葉に無言で首をコクコクさせるカイナ。
「ただの塔だろ?」
「いやいやいや、違うから! 落ち着いて聞きなさい!」
また延々と道端で説教をされた。
「うるさいから、ミレッサは行かなくていいぞ」
「ちょっと『うるさい』とは何よ! 人がせっかく教えてあげているのに……」
「そうですよ……」
カイナまで怒っている。
「日が暮れる前に早く行くには、ミレッサさんを置いて行くしかないです!」
「カイナはどっちの味方よ!」
「リッテさんに決まってるじゃないですか……?」
今さら何を言ってるの? っとカイナが小首を傾げた。
「あ~。もう私が変な人みたいじゃない!」
キレたミレッサがドンドン『いばらの塔』へと歩き出す。
ミレッサの重たい腰を上げるには、怒らせるのが一番。
俺とカイナはこっそりハイタッチをした。
門番には許可証を見せて、俺を先頭にして、一階を探索。
「ゼリルーばっかりだな……」
「拍子抜けもいいところです……」
俺たち二人を他所に、ミレッサが周囲を見渡している。
顔が少し変。しまりのない顔。可愛らしさが半減どころではない。
「何をしているんだ?」
「ゼリルーを探してるのよ!」
「見渡す限りゼリルーだらけだぞ?」
「違う! 金色のゼリルーよ!」
「金色……?」
俺もミレッサに習って塔内を見渡す。
「三匹いるな……」
「どこよ! すぐ倒しなさい!」
金色って事で、多少の予感はあった。
「カイナ、右斜め八十度。天井に一匹いるけど、誘き寄せられるか?」
俺はランタンから取り出した双剣のゴミをカイナに渡した。こういう場面では弓が有効的だが、俺たちには弓を扱える者がいない。
「失敗したらミレッサの蹴りが入るぞ」
俺はカイナに耳打ちをして、ミレッサの顔を見せる。
「ヒィィ!」
うん。いい感じにプレッシャーがかかったな。
距離は約十五メートル。果たして……。
ミス。
ミス。
ミレッサがフルフル震えだした。
自分ではどうすることもできない状況。逃げられたくないと思えば思うほど焦りがミレッサを襲う。
俺は床に武器をドンドン出していく。
投げ武器として使う予定はなかったので、小さいナイフのような物から、長剣まで……。
ミス。
ミス。
ミス。
ミス。
カイナが必死に頑張るが、ほぼ真上に投げると言うのは、かなり難易度が高い事のようだ。
「何で当たらないのよ!」
とうとうミレッサの怒りが爆発して、落ちていた。ナイフを投げる。
ヒット。
「当たった! ねぇ、見た? 一発よ!」
しかし、それを合図に逃げられてしまう。
「しょんなぁ~」
ミレッサが膝をついて凹む。
「お前たちが遊んでいる間に、五匹に増えたぞ?」
「えっ?」
俺は一直線に金色のゼリルーに向かい、一太刀浴びせる。
スパッと斬れた。何の抵抗もなく……。
「んなっ!」
少し離れた位置で、ミレッサが驚きの声を上げるが、所持金を確認して、デレッとした。




