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初仕事

「その武器を見せてくれない?」

 ミレッサが俺の愛剣を睨み付けながら、左手を差し出してくる。

 嫌な予感はしつつも俺は彼女に武器を渡す。

「ちょっと、何よこのなまくらの剣は……」

「父親の形見だぞ? これがあったから俺は今まで生きてこられた」

 俺はミレッサに胸を張る。

「馬鹿にしているの? 強化もしていない剣を使って騎士になるなんて……。どういうつもりよ!」

「強化ってなんだ? この武器はもっともっと強くなるのか?」

「さっきドロップした武器を使って強化できるのよ。お金が必要だから……」

 俺は『導きのランタン』にしまっておいた武器をその場に広げた。

「なによ……この量……」

 十年間貯め込んだドロップアイテムは相当な量。

「どうやるんだ?」

 ミレッサは溜め息一つで気分を切り替えて説明してくれた。

 強化前はプラスの表記はないが、強化するとプラスの表記が付く。

「『ロングソード+三十五』ができた。もうこれ以上レベルが上がらない」

 パンっとミレッサに頭を叩かれた。

「何で★が一つのロングソードを強化しているのよ! 馬鹿なの? 馬鹿なんでしょ?」

「俺は父親の形見の方が大事なんだ。ほら、教えてくれたお礼」

 ミレッサに一万ピスラをあげる。

「あんたに関わってると、一日で疲れたわ……」

「試し斬りに行くぞ」

 俺は上機嫌で敵を探すが、さっきまでそれなりにいたはずのモンスターが見当たらない……。

「おっ! 向こうに()がいるぞ」

「まさか、マナガルム? 危険よ! 逃げるわよ」

「でも、もう気が付かれているぞ。もう目があった。逃げたら後ろからガブリと食われるな」

 俺はまだ三百メール先の狼を見ながら言った。

「それでもよ! 私たちだけじゃ無理よ!」

「逃げたければ一人で逃げろ。俺はもう()()()()って決めたんだ」

「はぁ。こんな事なら、死ぬ前に★が二つの司祭のローブでも買っておけばよかった……」

「ないものは仕方ないだろ。来るぞ」

 遠くでも狼だと視認できただけの事はある。近くで対峙しているとデカイ。

 それでも先制は俺の専売特許。

【シャープスラッシュ】

 スキルにはクールタイム。つまり、再使用までの時間が決まっている。

 俺のジャンプ斬りを待っていたように繰り出される前足のなぎ払い。

 俺はカウンターにも等しい一撃を食らって吹き飛んだ。地面を数メートル転がってやっと止まった。

 強い。今までの敵とは全く違う。

 胸の装甲は一回でベコベコに凹んで次は耐えられないだろう。

【クイックヒール】

 傷はすぐに癒されて俺の体は正常に戻った。

 すぐに立ち上がってミレッサに声をかける。

「どうしてオーバー回復になるのに……」

「よく見なさい。あなたが攻撃した首もと。血がすごい出ているわ。HPも一回で三割ほど削れてる。その武器のおかげね」

 ミレッサの判断は正しい。俺が傷のない万全の状態であったなら、確実に削りきれる。でも動きが少しでも鈍れば……。

 ジャンプ斬りは読まれている。


 スキルなしで戦うのか?


 あの前足は危険だ。

 両腕があったなら、盾で受け止めて、その間に斬りつけることもできたのに……。

「リッテ、前後で挟みましょう」

「でも……」

「私の命はあなたに託すわ」

 ポンっと肩を叩くと、ミレッサは大きく円を描きながら狼の後ろに回る。

 狼の攻撃は足と大きな牙。

 前方のみだ。俺が狼の注意を引き付けていればミレッサが攻撃。

 メイスを狼の背中に叩き入れる。

 狼の意識が背後に向かったところで、今度は俺が通常攻撃で叩き斬る。

「狼さん、次はどうするのかな?」

【シャープスラッシュ】

 にらみ合いの時間で再使用できるようになったスキルを発動。モーションは大きいけど、これが一番効果がある。

 狼はこれを待っていたように動き出すが、背後からミレッサが叩く。一瞬ぶれた体は俺の鎧だけを弾き飛ばした。

「回復は必要なさそうね」

 ミレッサは俺のHPを見て声をかける。

 だが、安心したのも束の間、狼がバックステップで、ミレッサとの距離を一気に縮めた。

「キャアアアアアアア」

 ミレッサは狼の前足をモロに食らって、脇腹を損傷。

「ミレッサ!」

 肺をやられたのか、もう声が出せないようだ。

 吐血して、『来ちゃダメ』と首を振っている。

 そんな事で見殺しにするわけにはいかない。

 俺は急いで狼にかけより、今まさにその(あぎと)でミレッサを食いちぎらんとしている口の中にロングソードを突き刺す。

 クリティカル。

 強化したことで、クリティカルが発生するようになった。

 狼はその一撃絶命。

「ミレッサ大丈夫か? 死ぬなよ!」

 俺は回復アイテムをミレッサに使うが効果が薄い。

【セルフヒール】、【クイックヒール】が使えればいいんだけど、ミレッサの意識がもうなくなった。

 俺は狼のドロップアイテムをランタンにしまうと、ミレッサを肩に担いだ。

 もっと傷口が広がらなさそうな抱き方をしてやりたいが、俺には右腕がない。

 都市まで……。都市まで戻られれば……。



 俺は一生懸命走った。俺のせいでこれ以上、人が死ぬのはもうごめんだ。

 あと少し、城門を見張る門番が見えた。

「避けてくれ!」

 今の俺には門番と話している時間はない。

 門番も俺の状況を見て理解できたのか、すぐに道を開けた。

 都市に入ると、門番の手を借りてミレッサを下ろす。

「あれ? 私……生きてる?」

 自分の体をペタペタ触って確認している。

「良かった……。あのままもうダメかと思った……」

「あなたが担いできてくれたのね。ありがとう」

 この都市にとって、姫は『シンデレラ』だけど、俺にとっての姫は『ミレッサ』になりそうだ。


「私、彼氏いるからね。変な事していないでしょうね!」


 やっぱり姫は『シンデレラ』です。

『クールダウン』→『クールタイム』

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