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第2話 モニカ・シュタイン

ドワーフ共を引き回しているせいで、嫌でも道行く人々の視線が集まる。数十年前に王都でこんなことをすればたちまち民衆に包囲され、亜人救出を叫びながら袋叩きにされていただろう。


 だが亜人に対する嫌悪感が爆発的に高まった現在では人々の亜人に対する眼差しは憎しみと怒りと蔑みと嘲笑の四つだけだった。中にはアンドレと

ドルフ達に対して石を投げつける子供達もいる。面白がって投げる子もいれば憎しみが籠った眼でで投げつける子もいる。何にせよ今の王都で亜人に同情的な者、味方をする者は限りなくゼロに近いと思っていいだろう。


 十八年前の王都暴動事件以降、王都でも亜人排斥を叫ぶ声が高まり、王都に住む亜人四万人を西のスラム街に押し込めた。しかも元々そこに住んでいた貧困層の人間達を中級住宅街に移り住ませてだ。


 そうまでしなければ国家転覆にまで発展していただろう。そこまで亜人の横暴と、それに味方する王宮への怒りは高かったのだ。亜人達を隔離することでどうにか怒りを鎮めることはできたが。


 暴動そのものが決定的な引き金となり、王宮の亜人に対する扱いは変わった。しかしそれはあくまでも王都を始めとする大きな都市部での話だ。地方では未だに亜人により人間達が苦しめられている。オリヴィエの村もその内の一つだ。


 「この糞餓鬼共!! やめねぇか!!」


 石をぶつけられたドルフが子供たちに向かって怒声を浴びせる。


 「自業自得だ。お前らはこうされるだけのことをしてきたんだからな」


 「俺達は単に法律に書かれている権利を行使してただけだ!!」


 「その法律とやらを破れる存在が俺達なんだよ」


 「ちきしょう! 俺達亜人の権利を侵害しているお前等人間は屑野郎だ!!」


 フレデリックに対して罵声を浴びせてくるドルフ。するとオリヴィエが馬から降りると、持っていた鞭でドルフの顔面を叩いた。


 「痛ぇ!」


 オリヴィエは何度も何度もドルフの身体に鞭を打ちつける。まるで今まで自分や他の村人達にしてきたことの借りを返すかのように。


 「ふざけるな!! お前等が権利なんて叫ぶのか!! お前等のせいで村の人達がどんな思いでいたか分かるか!?」


 赤くなった目から液体を流しながらオリヴィエが吼える。


 「痛ェ!! いい加減にしやがれ!!」


 ドルフは鞭を打ちつけるオリヴィエに対して自分の身体をぶつけた。手足を鎖につながれているとはいえ、体当たり程度の攻撃は可能なのだ。ドルフにぶつかったオリヴィエはそのまま地面に倒れる。


 「くそ!」


 オリヴィエは勢いよく立ち上がると、落とした鞭を拾い、それを振り上げて再度ドルフに打ち込む。


 「ちきしょう!! やめさせろ!!」


 ドルフはフレデリックの方を見て叫ぶ。だが生憎とフレデリックはドルフを助ける気などなかった。


 「断る。入りたてとはいえどその子は立派な騎士団の一員だ。まだ訓練兵だがな。騎士団の教育の一環として役に立ってもらうぞ」


 「ふざけるなぁ!!」


 ドルフはそう叫ぶと、再びオリヴィエに体当たりを喰らわせる。


 「オリヴィエ! テメェ散々俺達ドワーフの世話になっといて何のつもりだぁ!? この恩知らずが! 恥知らずが!」


 「お前がそれを言うなぁあ!!」


 オリヴィエは倒れた状態でドルフの腹に蹴りを打ち込む。


 そして再度立ち上がり、鞭を打ちつける。


 「もうその辺でやめておけ。早く騎士団の本部に急ぐぞ」


 「……分かった」


 オリヴィエは頷くと、フレデリックの前方に乗る。


 「くそ……、くそ……」


 目から涙を零すオリヴィエの涙をフレデリックはそっと拭う。


 「大丈夫か?」


 「うん、平気」


 「あまり無理をするな」


 フレデリックはオリヴィエの頭を撫で、身体を抱き寄せる。


 「……なんかお父さんみたいだね、フレデリックって」


 「何ならなってもいいぞ?」


 「じょ、冗談だよ……!」


 顔を赤らめながら俯くオリヴィエ。


 そしてようやく騎士団の本部へ到着した。


 スポンサーである反亜人の貴族達やその貴族達に平民達がつぎ込んだありったけの資金で作り上げた本部だ。


 王国内に住む全ての亜人にとっては恐怖の城に映るだろうが、フレデリック自身は王国に住む人民を守る盾であり、人間に害をなす亜人達を駆逐する剣でもある組織、浄化騎士団の本部だ。


 「団長のご帰還だ!!」


 本部の門番である兵士二人が同時に叫ぶ。すると門が開き、中から女、いや、年齢でいえばオリヴィエ達と大差はない少女が出てくる。


 ブロンドの長い髪の毛を纏め、右肩には金属製の肩当をしている。ショートパンを履いた快活そうな少女だ。その笑顔は太陽を思わせる程の天真爛漫な輝きに満ちていた。その愛らしい容姿から、騎士団随一のマスコットであり、同時に「色物」でもあった。


 そう、この少女こそが浄化騎士団五隊長の一人である「モニカ・シュタイン」だ。


 モニカはフレデリック姿を見るや恐るべき速さで迫ってきた。


 「フレデリック~~~~~~~!!!!! おっかえりー!!」


 「うお!?」


 「わぁ!?」


 モニカは馬に乗るフレデリックの胸めがけて飛び込んできた。いきなり少女が飛び乗ってきたせいか、フレデリックの馬は仰天し、大きく嘶いた。しかしフレデリックの前にはオリヴィエがいたせいか、モニカはオリヴィエの胸めがけて飛び込んだ形になった。


 「ん? この娘は誰?」


 「いきなり飛びついてくる奴がいるか!! 早く降りろこのお転婆が!!」


 「うん? よく見ると可愛いじゃない!! この娘誰?」


 モニカはオリヴィエの頬と自分の頬を猫のようにすり合わせている」


 そんなモニカにオリヴィエは困惑している様子だった。


 「ちょ!? 僕は女の子じゃ……、ひゃ!?」


 バランスを崩し、モニカと共に落馬するオリヴィエ。


 モニカはオリヴィエの上に馬乗りになる形で、相変わらずオリヴィエ頬をすりすりしている。


 「お肌スベスベで可愛い~」


 「だ、だから僕は女の子じゃ……!!」


 「いい加減にしろモニカ」


 フレデリックはモニカの首の襟を掴み、そのまま自分の顔の高さまで持ち上げた。


 今のモニカの姿は首根っこを掴まれた猫そのものだった。


 「いきなり飛びついてくるな。それとこいつは男だ、女じゃない」


 「へ?」


 見下ろしてみれば、顔を真っ赤にして涙目でモニカを睨むオリヴィエがいた。


 「あ、いや~、なんか男の子っていうには妙に可愛いモンだからつい……」


 猫のような目で弁解するモニカ。


 「いいから案内しろっ、新しい入団希望者と、お前の大好きな料理の「材料」も捕まえてきたぞ……」


 「!? うっひょ~~~!! それを早く言ってよ!」


 そう叫ぶとモニカは後方にあるドワーフ達を閉じ込めてある馬車に駆け寄り、中にいるドワーフ達を見ながら目を異様なまでに輝かせながら口から涎を垂れ流していた。


 「やれやれ、ドワーフを見るとすぐあれだ」

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