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第1話 フレデリックの持つ力

 黄金色に輝く夕焼けを眺めながらゆったりとしたペースで王都「オルドヌング」への帰路の道を部下と共に行くフレデリック。


 いや、正確には部下達の他にも炭鉱村で捕えた数名のドワーフ、そして騎士団への入団志願者である村の若者四人と、少年二人だ。


 ドワーフ連中の手足に特注の手枷足枷を付け、檻としての機能を持つ馬車に押し込めている。連中の腕力は侮ることはできない。ドワーフ族専用に誂えた代物だ。生半可な強度の拘束具や鉄格子などいとも容易く壊されるからだ。


 フレデリック自身は亜人の持つ「性質」を軽蔑、侮蔑はしても、連中の持つ力の特性については決して甘く見ているわけではない。


 中でも獣人族は身体能力が高い者達が多い。並みの人間では捻じ伏せることは至難の業なのだ。そしてそれはドワーフに関しても同様。エルフに関しては機知に富み、狡猾な者が多い為、その点は十二分に警戒している。当然前者二つと比較して戦闘力は全く見劣りしない。


 だが寧ろ悪知恵が働くという面で他の二つの種族以上に厄介な存在だ。彼等の持つ奸知は天性のものと言えるだろう。


 そして亜人の人口は決して少なくはない。この国の全体の二割程だ。全部で八百万いる国民の内の百六十万が亜人で占められている。


 亜人の人口は爆発的に増えたのもそうだが、なによりここ五十年の間でこの国の「人間」の人口が減ったのが大きい。


 全てを把握しきれているわけではないが、過去五十年における王国の地方での亜人による人間への虐殺数は相当数に昇るらしい。これを知ったのはつい最近だった。

反亜人派が今日までの勢力にならなければこの情報は手に入れられなかっただろう。


 一説にもよれば数十万にもおよぶ人間達が亜人に消されたという。最もそれはおおよその数であって実際は更に多いらしい。この情報に関して言えば

東の方の隣国の協力もあってできたこと。同じ宗教を信じる者同士のよしみで教えてくれたことだろうか? 何にせよ今は東の隣国の協力が絶対の不可欠なのだ。


 この事実を王国が隠していたということが何よりの衝撃だった。明らかに、誰の目から見ても王宮は亜人連中を庇っているとしか思えない。曾祖母であるオクタヴィアの謳う亜人との共存を謳いあげているつもりだとすれば言語道断もいい所だった。やっていることは単なる「優遇」で「平等」などではない。


 地方貴族がその地の有力な亜人と癒着するなどとは次元が違う。まるで国そのものを亜人の好きなようにさせているような。


 「チッ」


 思わず舌打ちをしてしまうフレデリック。だが亜人のいいようにされてただ黙っている人間達ばかりではない。現に自分の前に乗せているオリヴィエと、後ろの馬車に乗っているクラークも亜人に煮え湯を飲まされ続け、その怒りを亜人にぶつけようとしている者達だ。


 数時間前、オリヴィエに対して「怒りの代行は自分達の役目だ」と言った。しかしオリヴィエは


 「やられたらやり返すのが基本だ!! 直接の当事者である僕達が誰かに頼んで恨みや怒りを晴らすことなんてできない!!」


 と叫び、ドワーフの一人であるドルフの顔面に蹴りを入れた。そう、自分の手で直接裁かねば気が収まらないという主義なのだ。


 無関係な第三者に復讐をさせてあげるなんてことは微塵も考えていない。あくまでも自分達のケジメは自分達でつける。そんなオリヴィエに呼応するかのようにクラークと、村の若者四人が縛られているドワーフ達に暴行を加え始めた。


 そう、フレデリックの欲しかった人材はこんな者達だった。救出した時には死んだ魚よりも生気のない目だった者達だったが、屋敷から解放された自分の家族である女達の姿を見るやいなや、その瞳は憤怒の炎が燃え広がり、救出された時とは見違える程の輝きを放っていた。


 浄化騎士団に関してもオリヴィエ達と似たような境遇の人間が多くいる。いや、そもそもそういう者しかいないのだ。


 王国の民を害する亜人に対して生易しい姿勢で挑むようでは駄目なのだ。亜人に対する怒りや憎悪を無尽蔵のエネルギー、アドバンテージとして活用するのが浄化騎士団の信念だ。勿論、亜人に対する怒り憎しみ嫌悪だけではない、王国や人間に対する誇りや愛がなくてはダメなのだ。王国の「人間」を一人たりとも見捨てず、手を差し伸べる慈愛の精神も同じ位に必要だ。亜人に苦しめられる者達なら猶更。


 「ねぇ、フレデリック」


 「何だ?」


 自分の前に乗るオリヴィエが不意に口を開いた。


 「あ、ありがとう……。僕達の村を助けてくれて」


 「気にするな」


 「え、えっと……、すごく強いんだね」


 「まぁ、それなりにはな」


 「どうやったらドワーフ相手にあそこまで戦えるの? どうやったら勝てるのか教えて……。僕も……フレデリックみたいになりたい……」


 自分の力を間近で見たオリヴィエはフレデリックの力が信じられなかったのだろう。無理もない、腕力でドワーフに勝てる人間などこの世にいないと言っていい。純粋な力で対抗できるのは同じ亜人の獣人族位だろう。


 「騎士団に入って、そこで課せられる訓練をこなせばなれるさ」


 「でも……、あの力はどう見ても訓練だけで得られるものじゃないよ……!」


 「ま、それを説明するにはまだ早いってことさ……」


 オリヴィエの言葉は最もだった。戦闘の訓練を積むだけで戦士族であるドワーフを一方的に嬲れる力が得られるなどありえない。まして単純な力だけで考えれば比較になどなるわけがない。人間がいくら鍛えようと元々の身体の造りからして違いすぎる。


 が、確かにフレデリックはドワーフなど歯牙にもかけぬ程の力を宿している。それは何も単純な身体能力「だけ」ではないのだ。


 それをオリヴィエに言うのはまだ早い。


 「まずは地力を付けろ。そうでなければ俺の持つ力など得られないぞ」


 「うん……」


 フレデリックの言葉にオリヴィエは押し黙る。


 そして順調に帰り道を歩き、二日をかけてついに王都である「オルドヌング」に到着した。


 「すごい、あれが王都……」


 「なんて大きさ……」


 オリヴィエとクラークは間近で見る王都の威容に気後れしているようだった。


 「さて、約束の会う日は今日の昼からだったな。あの女、愚痴を言った所で俺を止められるわけはあるまい……」


 「何の話?」


 「ん? あ、いやこっちの話だ」


 フレデリックは今日の昼にある人物と合う約束をしていた。その人物はフレデリックにとって余り良い人間はない。


 その人物と会うことに苛立ちながらもフレデリックは皆と共に王都の巨大な門を潜った。

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