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第7話 この国の惨状

 一体どこでこの国は道を間違えたというのだろうか?


 何でもかんでも過去のせいにする気などないが、少なくとも今日のロゼッタ王国の民達が苦しんでいるのは先人達の犯した

過ちに原因だとフレデリックは思っていた。


 少なくともその当時はそれが「未来」に繋がる第一歩だという確信があったのだろう。


 しかし未来というのは絶対に分からない。今は殆ど絶滅してはいるものの、かつてこの世界で隆盛を誇った「魔法」でさえ未来の出来事を予知することなど不可能なのだ。


 今更過去を悔やんだ所で何かの変化が生まれるわけではないが、こうも酷い惨状だと過去の先人に対する愚痴の一つも零したくなるものだ。


 いつの時代にも「少数派」なる存在がいる。多数が少数を圧倒し、それを思いのままに出来る状態は決して褒められるべき行いではないが、だからといって少数派を特別優遇すれば後の大多数が不利益を被るだけだ。昔から多数派と少数派の対立程の無理難題はあるまい。大なり小なりの対立は多々あれど、それが悲惨な結果をもたらす場合もある。


 少数派(マイノリティ)の保護尊重は悪いことではない。しかしそれも行き過ぎればやはり問題になる。それに多数派少数派とはいうが、何も両者の差が圧倒的にある時ばかりではない。たった一つの差だけで多数派と少数派に分かれることもある。その方が輪を掛けて酷い事態を起こすことが多い。何にせよ古今東西共通の問題としてマジョリティとマイノリティの問題はあるのだ。


 それはどんな国や文化、人種、風習、宗教、思想も関係ない。自分達人間が生きていれば必ず当たる関門のようなもの。生きている内に両者の対立に

遭わない人生を送る者など恐らく皆無だろう。


 言うなれば自分達人間の持つ性のようなものだ。


 だがこの国の今直面している問題は人間同士の対立からくる多数派と少数派の戦いではない。


 人間と亜人との対立なのだ。



 今からおよそ百三十年前、当時のロゼッタ王国女王、オクタヴィア・ロゼッタが人間と亜人の共存を謳い、王国内に自由に亜人が暮らしても良いという許可を与えた。それと同時に少数派の亜人を保護する為の法律「亜人法」なるものを制定したのだ。


 元々亜人との関係は上手く行っていたロゼッタ王国の民達は喜んで亜人達との共生を受け入れた。


 だが地獄はそこからだった。始めの八十年の間は平和に共生していた。それこそ良き隣人としての顔の亜人がそこにあった。共に汗を流し、共に畑を耕し、共に酒を飲む。そんな親しい存在だったのだ。そう、その時までは。


 しかし後の五十年の間は王国の人間にとってのまさに暗黒時代だった。


 亜人達は自分達を守る法律である亜人法を盾にして、人間達に対して傲慢な態度を取るようになった。そして徐々に人間達を見下し、威圧し始め、横暴の限りを尽くした。それこそ小さな窃盗から、人間達の支配者になるまで多種多様だった。


 しかも亜人による横暴は地方の方がより顕著に目立っていたのだ。地方では亜人の数が人間よりも多い場合も少なくなく、元々多数派の人間達に対して傍若無人な振る舞いをしていたのだから、人間の方が少ない場合は更に悲惨な事態となった。


 しかも何の罪もない村の人間達がエルフ族の狩りの標的にされ、纏めて容赦なく虐殺されたという報告もある。


 しかしそんなものは氷山の一角に過ぎない。徹底的に証拠を隠滅して、村の存在した痕跡すらも消されてしまう場合も最近では増えてきている。


 獣人の多い国の南東にあるグラウベスの森近辺の村々は獣人族により滅ぼされたようだ。一説によれば奴隷にされているとの噂もある。

 


 


 王国内に暮らす亜人には大きく分けて三つの種類がある。


 エルフ族、ドワーフ族、獣人族だ。種族の違いはあれど今では共通して王国の人間に恐怖と絶望を与えている。もう亜人と人間とが平和に共生している場所を探す方が困難だった。そんな場所はフレデリックが王国中を回っている途中でただの一つも見つけられなかったのだ。


 しかしフレデリックには暴君の如く振る舞う亜人と同等かそれ以上に憤りを感じている存在があった。


 言うまでもない、この国を収める王族だ。


 ここまで亜人が人間達を迫害し、苦しめているというのにここ最近まで全くといって言いほどに王族は苦しむ人間達を助けなかったのだ。


 三十年以上前、亜人の暴虐に苦しみ、村人総出で王都まで集団直訴に来た事件があった。


 自分達の村が獣人に支配され、逃亡も兼ねての決死の訴えだった。


 しかしその村人達は全員が処刑された。理由は「亜人を陥れようとする人間の風上にも置けない悪魔共」という理由だった。


 村人の中には幼い子供や老人も含まれていた。


 亜人の脅威はついに王都をも浸食しはじめ、王都に住む亜人達はそこに住む人間達と対立するようになった。亜人に暴力を振るわれたり、殺されても泣き寝入りするしかなかった。逆に亜人が人間から何かされればすぐさま衛兵が駆けつけ、逮捕される。


 まるで国自体が亜人の味方であるかのようだった。そんな状態が続けば民衆の間で怒りが蓄積していくのは目に見えていた。そしてついにその怒りが暴発する事件が起こる。


 十八年前に起きた「王都暴動事件」だ。


 王都の人間達が亜人達を襲いはじめ、家や商店を焼き討ちにした。しかしやられているばかりではなく、亜人達も武器を持って人間達と争った。


 更に亜人を守る為に衛兵まで参戦したため、ロゼッタ王国史上に類を見ない凄惨な事件となった。この時の犠牲者は民衆、亜人、衛兵合わせて数千人にも及んだとされる。


 しかしそれから亜人優遇の王国の政策を変えざるを得なかったのだ。暴動を扇動したリーダーは王国の貴族だったのだ。


 亜人に苦しめられているのは平民ばかりではない。王国にいる貴族達もまた亜人により苦しめられていたのだ。貴族といえども亜人法には逆らえない。亜人により殺される貴族がいても殺された原因は貴族にあるとされ、平民同様泣き寝入りする他なかった。


 平民だけでなく貴族までもが亜人により苦しめられているのが現状だった。しかしあからさまかつ露骨な亜人優遇の法律は反亜人の貴族を増やす結果となり、その勢力は王族ですらも無視できない程にまで強大になっていた。今までに亜人により親しい人間や家族を失った貴族達が団結したのだ。地方の領主個人の力は小さくとも、集まれば強力な力となる。そんな貴族

達に呼応するかのように反亜人を掲げる人間達も急速に増加した。そして貴族と平民達は亜人の犯罪を取り締まる組織の創設を王宮に要請した。そう、傍若無人な振る舞いを続ける亜人達に対抗する存在が必要だったのだ。


 それは亜人法を唯一無視でき、民を蝕む亜人に鉄槌を下す。絶対正義の裁きを悪しき亜人に与える者達。


 その名もフレデリック・ヴァルゲントを筆頭とする『浄化騎士団(ベーレイニガンオルデン)』だ。


 フレデリックは任務で立ち寄ったドワーフの支配する村の住民を解放した。


 そして縛られるドワーフ達に今まさに襲いかからんとする金髪の少年の身体を優しく抱きとめた。


 「それは俺達の役割だ。お前のその怒り、俺達が代行しよう」

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