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第1話 ドワーフに支配された村

前々から書きたかった作品を投稿します。ちなみにオリヴィエは主人公ではありませんw

「ん……」


 早朝に鳴らされる村の真ん中にある巨大な鐘の音は、昨日の疲れから深い眠りの底にいるオリヴィエを起こすのには充分過ぎる程の大きさだった。

炭鉱での作業を始めて半年。長時間の睡眠を取っても身体に溜まった疲労は完全には取れず、朝起きた時には全身が筋肉痛だ。皮肉にもその痛みが

寝ぼけてる頭を覚醒させてくれるのだが。


 華奢な身体に鞭を打っての炭鉱での作業は尋常ではない程過酷だ。そもそも自分の年齢で炭鉱での作業など本来は認められている筈がない。しかし

今更それを言っても何かが変わるわけでもない。自分が住んでいる村は炭鉱によって生計を立てている。が、特段それ自体が珍しいことではない。

だが炭鉱の村だからと言って、まだ十三歳である自分までが労働に駆り出されるのが認められているわけがない。炭鉱での作業は危険が付き纏う上に

極めて重労働だ。そんな作業場に声変わりもしていない少年を送り込むなど正気の沙汰ではない。そんなことは国の法律で禁止されている。


 本来ここデヌーサ村の炭鉱では「奴等」が仕事をしていた。しかしある日を境にして「奴等」はオリヴィエ達村の「人間」を裏切った。自分達は炭鉱によって

得た収入で作り上げた豪邸に住み、毎日豪華な料理の宴会、村の女達を己の慰み者にしての乱交パーティで盛り上がっていた。


 村の人間達は余りにも唐突かつ残酷な裏切りに悲しみと憤りに支配された。当然「奴等」の暴挙に対して黙っていたわけではない。理不尽な仕打ちに怒るのは

当然のことだ。しかし「奴等」の力には敵わず、刃向った村の人間は皆悉く殺された。「奴等」の力を見せつけられ、残る村の人間達はやがて逆らうのを諦め、「奴等」

に服従する道を選んだ。



 自分の父親は一年前に村の広場で公開処刑にされた。あの時の光景は決して忘れない。父は「奴等」の力によって強引に顎を引きはがされ、そのまま出血多量で死亡した。

血を出して地面をのたうち回る父を見て下卑た笑い声を上げる「奴等」を決してオリヴィエは許さない。しかし圧倒的に力が上の連中を倒す術などオリヴィエには

思いつかなかった。


 「父さん……」


 両目から流れ出る涙を拭い、朝食のパンを食べるオリヴィエ。我が家の食卓には自分一人しかいなかった。母は半年前に村の屋敷に情婦として連行された。


 器量の良い村の女達は皆「奴等」の屋敷に連れて行かれ、欲望の捌け口にされていた。母は今どれ程の苦しみに耐えているのだろうか? 「奴等」が母親を

連れて行くのはやめてくれと泣きながら懇願するオリヴィエに突き付けた条件は五年間村の炭鉱で仕事をすることだった。オリヴィエは母が帰ってくることを願い、

その条件を受け入れた。


 そしてようやく一年の半分に達した。これからこんな毎日が後四年と半年も続くのであろうか。


 朝食を食べ終え、寝間着を脱ぎ捨てると、作業着に着替え、家の外に出る。


 今日は快晴で、眩しい朝日ではあるが、憂鬱な気分は拭えなかった。毎日毎日の重労働によって心身共にボロボロの状態なのだ。当然のことながら休日など与えられない。朝から夜までの

労働は母親との再会を願うオリヴィエの心が折れかける程の凄まじいものだった。


 自分の他にも村の炭鉱場に向かう村の男達と自分とさして違わない少年達の姿があった。


 オリヴィエと同じく母親や姉妹を屋敷に連れていかれ、仕方なく炭鉱で労働せざるをえなくなった村の子供達だ。中にはオリヴィエよりも年が下の子供もいた。


 「……あ、オリヴィエおはよう」


 「クラーク、おはよう」


 挨拶をしてきたのはオリヴィエの幼馴染である同い年のクラークだ。茶色の短髪が特徴で、悪ガキのリーダーとも呼べるイタズラ好きの少年だ。

毎日仕事に行く時と帰る時に一緒になる。


 「どうしたのクラーク? 何かいつにも増して元気がないけど」


 どことなく青白い顔色のクラークを不思議に思いオリヴィエが尋ねる。いつもは常時賑やかな奴で、心が折れそうになったオリヴィエは何度もクラークの明るさに

救われていた。


 「ん? 何でもない」


 微かに身体を震わせ、目から涙を浮かべるクラークを見れば「何でもない」などありえないだろう。


 「どうしたのさクラーク。僕でよければ相談に乗るよ?」


 「悪ぃ、ホントに何でもないんだよ……」


 「何でもないわけないだろ!? どうしたんだよクラーク!?」


 「オリヴィエ……、俺どうすればいいんだよぉ……」


 オリヴィエの胸で泣き出すクラーク。こんな姿を見るのは生まれて初めてだった。


 「落ち着いてクラーク。何があったの?」


 泣きじゃくるクラークを優しく抱き留めるオリヴィエ。


 「それは……」


 クラークが言いかけたその時、炭鉱場の方角から野太い怒鳴り声が聞こえてきた。そう、この村を支配している元凶、自分達は贅沢三昧して村の人間達を馬車馬の

ように働かせ、村の女達を手籠めにし、暴君のように村に君臨する存在……。


 「オラ何やってんだオリヴィエ! クラーク! 仕事の時間だぞ! さっさと炭鉱にいきやがれ!!」


 そんな怒声と共にクラークもろとも「そいつ」に蹴り飛ばされるオリヴィエ。


 「痛たた……」


 「立て! 立って作業場まで行けよこのカマ野郎が!!」


 蹴りによって、地面に倒されたオリヴィエは荒ぶる怒声の主の方角に目を向ける。


 そう、目の前にいる存在は背丈は恐らく自分よりも小さい。しかし人間が到底敵わないレベルの膂力と腕力を兼ね備えた存在。


 子供程の背丈に恐るべきパワーを秘めた存在。






 …………ドワーフ族だ。

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